アドネットワーク複数回接触で売上単価117%に。初回接触とクローザーの役割を見抜け――朝日広告社アトリビューション評価テスト
朝日広告社は2010年10月26日に、国内初のアトリビューション評価テストの取り組みを開始すると発表した。明らかになってきたその結果をAttribution.jpに寄稿いただいたので、こちらでもお伝えしよう。
最終クリックだけで評価する時代は終わった
~アトリビューション評価実践編~
朝日広告社では、2010年10月26日にアトリビューション評価テストの開始を発表した。今回は、この評価テストで行った検証と得られた結果についてまとめた。
まず、アトリビューション評価の技術的な基盤としてMediaMind社の有する第三者配信プラットフォームと、アドビシステムズ社の提供するAdobe SiteCatalyst®, powered by Omnitureを使用し、媒体間のコンバージョンパスからサイト訪問後の遷移状況まで検証を行った。アトリビューションの計測方法については様々な議論があるが、今回のケースではビュースルーも含む純粋な接触を評価対象とし、各媒体の貢献度については配点による重み付けは行わない事とした。投下予算の最適配分や施策としての運用は、配点のみで判断できる程にシンプルな構造にはないものと捉えたためだ。尚、本テストケースではアドネットワークとリスティング広告を対象とし、アトリビューション評価を行った。
媒体接触回数とコンバージョンの関係性
まず、アトリビューションマネジメントの検証に取り組むに当り、検証対象となる生活者がコンバージョンに至るまでに広告へ接触する回数の確認を行った。検証対象となるサンプル数において複数回広告へ接触したコンバージョンが極端に少ない場合、アトリビューションマネジメントの検証意義が薄れてしまう事から、はじめにサンプルについて確認した。
結果は図1の通り、複数回接触が63.8%と全体の6割以上が複数回広告へ接触していた。一方で、媒体へ1回のみ接触したコンバージョンは36.2%にとどまり、従来検証の対象とされてきた「直接コンバージョン」が全体の4割に満たない事が分かる(※図1参照)。つまり、「直接コンバージョン」の分析のみでは、適切な投下予算や媒体間の予算配分の判断材料としては不十分であると言える。生活者がコンバージョンに至るまでに接触したチャネルを紐解き、その貢献度を推し量るという行為は検証に値する命題である事が分かる。
それでは、複数回広告へ接触したユーザーに、質的な変化はあるのだろうか。質の評価指標として、今回のテストモデルであるリテールの業種では一回購入当りの売上単価を妥当と考え、媒体接触回数別に売上単価の比較を行った。その結果、広告へ複数回接触したグループは、1回接触のグループに比べ売上単価が高くなる傾向にあり、接触回数が増える程、売上単価に上昇が見られた(※図2参照)。本傾向から、売上単価の高いコンバージョンを更に増やすためには、広告による接触回数を増やす事で理解や共感を促し、ユーザーのモチベーションを上げていく事も重要な要素と考えられる。
広告接触回数とコンバージョンの関係性 (媒体別)
次に、広告への接触回数とコンバージョンの関係性について、媒体ごとに検証を行った。ディスプレイ広告とリスティング広告では接触者の属性、広告接触時のモチベーションも異なる事から、その関係性に差異があると考えたためである。結果、リスティングのコンバージョンは1回接触と複数回接触の構成比が半々程度であった事に対し、アドネットワークは複数回接触時のコンバージョン数、売上単価が大きくなる傾向にあった(図3、図4、図5、図6参照)。この傾向から、前述の「広告により複数回接触し、理解や共感を促してモチベーションを上げていく」効果は、ディスプレイ広告の役割が大きい事が分かると同時に、生活者へ複数回接触する事で生まれる広告としてのアシスト効果の重要性が高いと考えられる。
コンバージョンまでの広告接触状況
ここまでは広告への接触回数とコンバージョンの関係性について俯瞰的な確認を行った。ここからはより具体的にアトリビューションの本筋となる媒体間のコンバージョンパスについて検証を行っていく。図7は、広告へ複数回接触したグループのみを抽出し、ファーストタッチからラストタッチまでの媒体間のコンバージョンパスを集計した結果だ。このグラフでは、複数回接触したコンバージョンデータのみを検証の対象としているため、ファーストタッチに計上される数と、ラストタッチに計上される数は同一となる(広告への接触回数が2回以上のデータのみを抽出しているため)。
このデータを紐解くと、リスティングは2回目~4回目の減衰率が高く、広告接触が急激に減少する傾向にある一方で、アドネットワークへの接触は2回目~4回目の減衰率が低く、複数回接触による態度変容が最終的なコンバージョンに繋がっている事が分かる。媒体の特性としてリスティングは、ラストタッチとファーストタッチがいずれも多く、初回接触と最終的な刈り取りの両方の役割を果たしている。一方で、アドネットワークはラストタッチの数に比べファーストタッチが多く、初回接触への貢献度が高い媒体であった。
一般的に、リスティングは目的意識が明確になった検索層を最終的に刈り取るための、クローザーの役割を担うと考えられがちだが、このテストケースではファーストタッチに対してもラストタッチに対しても効果を発揮するオールラウンダーとして機能している事が分かる。
一方で、検索エンジンでキーワードが日々検索される回数は、外的要素に依存する「急上昇キーワード」以外は限られており、ある日突然一般キーワードの検索回数が急増する事はない。つまり、キーワードの検索回数は有限の資源であると同時に、競合ひしめく検索結果では、限られた数のクリックモチベーションを持ったユーザーを競合各社で分け合っているに過ぎないのだ。
この事実を踏まえると、検索結果から集める「初回接触」を劇的に増加させる事は、リスティング単体の施策では至難の業だと言える。新規ユーザーへの接触を継続的に増やさなければ、未来のコンバージョンが芽吹かない事を考慮すると、アドネットワークを始めとするディスプレイ広告の重要性が高くなってくると言えるのではないだろうか。将来的なコンバージョンの母数を確保するためには、リスティング以外の施策においても、初回接触の種を蒔かなければならない。
コンバージョンまでの広告接触状況 (アドネットワーク)
より実践的に運用手法を見出すには、媒体ごとの要素の検証を行う必要性があるため、アドネットワークではバナーサイズとクリエイティブのパターンについてコンバージョンパス集計を行った(図9、図10参照)。
結果、728×90サイズのスーパーバナーは2回目以降の接触において減少幅が大きく、最終的なコンバージョンに対し複数回のフリークエンシーを要するサイズと言える。一方で、ファーストタッチの数は多い傾向にある事から、コンバージョンしたユーザーは初回のきっかけとして728x90サイズに接触している傾向が見受けられる。また、300x250サイズのレクタングルは2回目以降の接触で減少幅が小さく、ラストタッチまで持続的なアシスト効果が期待できるバナーサイズであった。同様に、クリエイティブについてもコンバージョンパスを確認したところ、パターンcが最も持続的なアシスト効果を発揮し、最終的な刈り取りにも有効な訴求である事が分かった。
コンバージョンと最適フリークエンシー (アドネットワーク)
それでは、最終的なコンバージョンに至るまでにフリークエンシーはどの程度必要なのだろうか。図11では、フリークエンシー別のコンバージョン率を算出し、1ユーザー当りの最適投下量について確認を行った。その結果、フリークエンシーは20回で最もコンバージョン率が上昇する傾向が見られた。
ディスプレイ広告の最適配信
ここまでのアドネットワークの検証結果では、ファーストタッチとラストタッチそれぞれに効果的なバナーサイズ、クリエイティブから、コンバージョンに最適なフリークエンシーの傾向値を掴む事ができた。ディスプレイ広告単体の最適化手法としては、DSPをはじめとする広告配信環境が整った際、この傾向値を元に「何回目の接触時にどのクリエイティブをどのサイズで訴求すべきか」シナリオを設計する事ができる。この配信環境が変化した時こそ、コンバージョンパスの最適化が見えてくる。
コンバージョンまでの広告接触状況 (リスティング)
次に、リスティングのコンバージョンパスについて指名キーワードと一般キーワードに分類し、検証を行った(図12、図13)。検索キーワードにおいて、いわゆるブランドワードを検索している指名検索層と、漠然とした一般キーワードを検索している層ではコンバージョンへのモチベーションも全く異なる事から、ここでは分けて検証を行う事とした。
結果、指名キーワードは、最終的なコンバージョンに直接的に貢献するクローザーの役割が大きい傾向にあった。一方で、一般キーワードがファーストタッチとなる件数は母数としても多く、リスティング運用の一環として一般キーワードの露出を絞ると、初回接触の入口を閉ざしてしまい最終的なコンバージョンの減少が予想される。この傾向を踏まえると、リスティングの効果指標はCPAやROAS以外に初回接触への貢献度を検証し、運用を行う必要性が高いと言える。
コンバージョンまでの広告接触状況 (リスティング キャンペーン別)
前項では指名キーワードと一般キーワードの傾向を検証し、一般キーワードが初回接触の入口として機能している事を確認した。一般キーワード全体の傾向値を踏まえた上で、キャンペーンごとのコンバージョンパスの検証を行い、データサンプルと運用の方向性を次に示した。指名キーワードが混ざると比較にならないため、用意した2つのサンプルは、いずれも一般キーワードを運用するキャンペーンとしている。
初回接触の多いキャンペーン
このキャンペーンは、露出を絞ってしまうと最終的なコンバージョンの母数が減少する可能性が高い。初回接触の数が多いキャンペーンに関しては、CPAやROASに併せて露出の余力を確認しインプレッション数を確保する事で、初回接触の入口としての機能を保つ必要がある(図14、図15参照)。
今回のテストケースでは初回接触の割合が非常に高く、複数回の接触を要するキャンペーンは、高単価の商材であった。単価が高い商品は一回の接触ではコンバージョンまで至る事は少なく、ユーザーは比較検討を繰り返しながらコンバージョンまで至っている事が読み取れる。このケースでは、最終コンバージョンだけで評価してしまうとせっかくのコンバージョンの機会を失ってしまう可能性がある。
最終接触の多いキャンペーン
このキャンペーンは、コンバージョンに直結するクローザーの意味を持つため、積極的な露出の必要性がある。ユーザーが検索した際、上位に出稿されていなければクローザーとして取りこぼしを生む可能性があるため、上位掲載の確保が命題と言える(図16、図17参照)。
アドネットワークとリスティング 複数媒体を用いた横断型施策の可能性
ここまでは、媒体ごとにコンバージョンパスを確認し、検証結果から導き出す事ができる運用の方向性を提示してきた。一方で、媒体間のコンバージョンパスを確認した中で、当然媒体を横断して接触するユーザーもいる事が分かってきている。最後に、複数媒体を用いた横断型施策としての運用について、その可能性を検証した。
まず、リスティングが最終接触媒体となるコンバージョンの中から、アドネットワークへ接触したコンバージョンのみを抽出し、その重複率を確認した。その結果、重複は10.8%と低い数値となっており、このテストケースにおいてはアドネットワーク単体として効果を発揮している事が分かった(図18参照)。この数値に関しては、今回のテスト要件に依存する部分もあり、一般的にはもう少し高い水準にあるものと考えられる。
ディスプレイ広告とリスティング広告の横断型施策をシナリオとして設計する場合、一つ描く事ができるのは「ディスプレイ広告のアシスト効果を利用し、指名検索キーワードに最終的な刈り取りの役割を担わせる」というパターンだ。今回のテストケースではアドネットワークとリスティングの重複は低いが、この重複分のうち4割以上が指名検索キーワードでコンバージョンしている事はデータから読み取る事ができた。つまり、シナリオの課題は指名検索の想起をアシストするクリエイティブやバナーサイズにあると言える。テストで使用したクリエイティブは、いずれも企業名やブランド名を前面には押し出していないものであったため、よりブランド訴求を強めたクリエイティブ等を今後検証していく必要がある。
図19のように今回のテストケースでは1~3三つのシナリオが見て取れた。
1のケースは、ディスプレイ広告だけで完結するパターン。前述の通り、初回接触に効くバナーサイズ、クリエイティブ、中間段階でモチベーションを上げていくクリエイティブ、クローザーとして効くクリエイティブ、コンバージョンまでに必要なフリークエンシー数はパスパターンを紐解く事である程度分かる。今後考えられる施策としては、クリエイティブシナリオの設計、DSPや第三者配信によるフリークエンシーコントロールにあり、接触回数ごとにクリエイティブを変える配信コントロールにより最適化を図る事ができる。また、コンバージョンに必要なフリークエンシー数を把握できるため、逆算のシミュレーションにより必要なインプレッション数を判断する事ができ、メディアバイイングが容易になる。
2のケースは、リスティング広告だけで完結するパターン。この場合は、クローザーとしてのキャンペーン(キーワード群)、初回接触や複数回接触が必要なキャンペーン(キーワード群)が分かるため、クローザーとして機能するキャンペーンは例えば常に1位表示させる、初回接触に有効なキャンペーンは最終コンバージョンのみの評価で露出を絞らずに、必要なコンバージョン数に応じて入札を行う等の施策が挙げられる。
3のケースは、ディスプレイ広告からリスティング広告へ遷移するパターン。この場合は、前述の通りいかにディスプレイ広告接触後の検索を想起させるかがキーとなり、検索想起させるクリエイティブ開発に注力する、ディスプレイ広告で複数回接触し、中間段階で商品訴求を強め商品やブランドを想起させた上で、最終的には商品・ブランドキーワードでコンバージョンさせる、といったシナリオ設計ができる。
このように、大きく分けて3パターンの分岐(業種や製品によっては分岐パターンが更に細かくなる)を想定した場合、各々のパターンごとの比率を算出することで、ある程度予算の最適投下割合が見えてくる。
おわりに
業界で俄かに盛り上がりを見せているアトリビューションではあるが、当社が導き出した結果が必ずしも正しいということはない。同時に、業界としてのスタンダードもまだない状態と言える。業種や広告主によっても様々な考え方や評価の手法はあるが、一つ言えることは従来の分析手法のようにクリックや、最終コンバージョン、CPAのみで判断していては当然ながら最適化には限界があり、本来的な広告の役割である「最終アクションだけでない役割」が見えなくなる。
つまり、この最終アクションだけに依存しない広告としての役割を明確にし、広告主にもっとも適した方法で、正当に評価していくことこそがアトリビューションなのではないだろうか。そのためには、媒体社や広告代理店から広告主までが、クリックやコンバージョンのみならず、ビュースルーやインタラクションといった要素を正当に評価していかなければならない。媒体社のスタンスとしてもクリックレポートのみではなく、例えば第三者配信を受け入れる事でビュースルーを正当に評価する姿勢で販売する必要があり、広告代理店もクリック率の高さやCPCの安さといった表面的な数字のみで販売してはならない。広告主は表面的に提示された指標だけで購入してはならないのだ。この姿勢を業界のスタンダードに是非して欲しい、していきたいと考える。
最後に、今回のテストケースで用いた分析手法はそれほど難解なものではない。一方で、学問的な評論を繰り返していても実践に結びつかないため、皆さんもまずは是非実践してみてほしい。今回のケースのように、実際にやってみる事で面白い結果は自ずと見えてくる。まずは実践。このスタンスが最も重要であると考える。
また、今回のテストケースでは、アドネットワークとリスティング広告をテスト対象とし評価を行ったが、当然ながらプレミアム広告、リッチアド等を含むと、ディスプレイ広告接触後の検索想起はアドネットワークとは違った結果になってくるはずである。朝日広告社では、今後もアトリビューションマネジメントのテストケースを継続的に増やす事でチャレンジを続けると同時に、サービスとしてより最適化されたデジタルマーケティングを提供していく。次回以降はプレミアム広告、リッチアドのケースでもテスト結果を発表していく予定だ。
ダウンロード用PDFファイルはこちら(朝日広告社_アトリビューション評価_2011-0228.pdf、Attribution.jpサーバーよりダウンロード)
インタラクティブコミュニケーション局
インタラクティブコミュニケーション部
前田 初
アトリくんの視点まずは日本初の本格的なアトリビューション解析を行った事例ということで、朝日広告社さんの取り組みはすばらしいと思います。
アトリくんが言いたいことはすべて「おわりに」に含まれてますね。媒体社、広告代理店、広告主がどういう意識で広告、アトリビューションと向き合うべきか、という点。あと、今回はあくまでも一つの見方を提示したわけであるが、大事なのは「まずやってみること」。試行錯誤は必須。継続も必須。
この記事のオリジナルはこちら
→特別寄稿:朝日広告社のアトリビューション評価テスト結果報告(2011年2月28日)
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