アトリビューションでより効率的に需要を喚起できるのはなぜか?
アトリビューション分析をしても、コンバージョンが増えないと意味がない。アトリビューションを分析しマネージメントすることによって、より効率的に需要を喚起し、コンバージョン性向を高め、その結果、コンバージョンの増加につながるのだ。ある意味で、「アトリビューションとは態度変容をマネージメントするものだ」と表現した方がいいかもしれない。
アトリビューション分析だけではダメ、
アトリビューションマネージメントが必要
先日、あるクライアントにアトリビューション分析の基本についてプレゼンテーションをした際に、「貢献度を分析してもコンバージョンが増えないと意味ないよね」というコメントをいただいた。もっともなご意見だ。
せっかくコンバージョンパスデータを取得してアトリビューション分析をしても、それだけではあまり意味がない。アトリビューション分析の結果に基づいて、クリエイティブを変更したり、フリークエンシーをコントロールしたり、出稿枠を変更したり、出稿媒体を変えたりしなければならない。あるいは、媒体ごとの予算配分を変更するなどして、より効率的に需要を喚起させることによってコンバージョンが増加するようにマネージメント(管理)していかなければ意味がない。つまり、アトリビューション「分析」だけで終わってはダメ。アトリビューション「マネージメント」までおこうことが大事なのだ。
このクライアントの場合は、同じ商材のマーケティング施策をおこなう際、純広告などのバナー広告を担当する宣伝部とSEMなどを担当する販促部が別部隊になっていて、予算も別々に管理している。そのためアトリビューション分析をやったとしても、アトリビューションマネージメントをするには部署間の調整が必要になり、すぐにはできそうにないのだ。そのように組織的な課題が背景にあり、先のコメントにつながった訳だ。アトリビューション分析はしたいけれど、アトリビューションマネージメントができるかな。できないと意味ないよね、と。
では、アトリビューションマネージメントまでできればコンバージョンは増加するのか?
必ず増えるという保証はない。しかし、いくつかのクライアントをコンサルティングした経験からいえば、コンバージョンが増えるのは事実である。
それはなぜか? ここには明確な理由がある。アトリビューション分析をすることで、これまで隠れていたものが見える化し、その結果、より効率的に需要を喚起できる方法が見つかるからだ。
今回は、アトリビューション分析とアトリビューションマネージメントを連動させることによってより効率的に需要を喚起し、その結果、コンバージョンの増加につながる理由について解説していく。
解説に入る前に、確認事項がある。
確認事項1前提条件
ここで「コンバージョンが増える」という場合は、広告出稿金額は一定で、かつ、クライアントサイトのコンバージョンレート(CVR)もほぼ一定だという条件下での話だ。
出稿金額を増やしてコンバージョンを増やすという話ではないし、クライアントサイトのリニューアルなどをしてCVRが上がった結果、コンバージョンが増えるという話でもない。もちろん、季節変動やイベントなどの影響でCVRが上昇するという話でもない。
確認事項2アトリビューション即コンバージョン増ではない
もう1つ確認したい。アトリビューション分析やアトリビューションマネージメントによって、即コンバージョンが増える訳ではない。そうではなくて、より効率的に需要を喚起できるようになり、その結果として、コンバージョンが増加する可能性が高まるのである。
前回の投稿「アトリビューション分析は認知や態度変容も対象にしているのか?」でコンバージョン性向(Propensity to Convert)という概念を紹介したが、これも同じ理由からだ。コンバージョンそのものは、広告以外の要因でも大きく変動するため、コンバージョンの増減を直接的に広告の効果だと判断するのはリスクがある。広告はコンバージョンを生み出す構成要素の1つに過ぎない。
さらに言えば、広告だけでコンバージョンを増やせると信じてはいけない。どんなに広告が良くても、商品やサービスが魅力的でなければコンバージョンしないことはよくある。そのため、より厳密に書けば、アトリビューション分析とアトリビューションマネージメントによって、より効率的に需要を喚起できるようになる。その結果として、コンバージョン性向を効率的に上げることができるのである。
本筋から離れるが、ここには私なりにこだわりがある。ある意味、需要がなければコンバージョンは増やせない。もし、広告でコンバージョンを増やせるとすれば、需要を喚起できてコンバージョン性向が高まるからだと考えている。
リスティング広告はコンバージョンを"創出"するか
オーバーチュアやグーグルに在籍していた頃、リスティング広告の営業に携わっていた。その経験を通じて、次のようなことを考えるようになった。
リスティング広告はコンバージョンを“創出”するか?
とくに、最大手のアパレルメーカーのアカウントマネジャーとして約2年間担当していたのだが、そのときの経験が与えた影響は大きい。当時、リスティング広告はコンバージョン効果が高いと言われていたし、自分もそう考えていた。あたかも、リスティング広告がコンバージョンを“創出”しているような錯覚に陥っていたのだ。
だが、このクライアントのアカウントマネージメントを通じて、そのような考え方は必ずしも正しくないと思うようになった。それには、ある事件があったのだ。
このクライアントの場合、最適化をやり尽くし、目標CPAを達成した後は安定的に運用できていた。顧客満足度も上がっているのは明らかだった。
しかし、人間とは欲深いものだ。効果がよくても、さらに上を目指したくなる。そして、クライアントは「もっとコンバージョンを増やせないか
」と求めてきた。目標のCPA以下で運用できれば、青天井で出稿金額を使ってよいことになっていたので、もちろん青天井で予算を増やしたが、もはや消化できない。こちらの回答としては「目標CPAの上限を緩くしないとできません
」としか言えなかった。
最適化をほとんどやり尽くした後は、リスティング広告の改善施策によってCTRが急に上がることはないし、CVRが伸びる訳でもない。リスティング広告でできることは限界まできていた。正直に言えば他力本願な話になるかもしれないが、「クライアントのサイトをリニューアルして、もっとCVRが上がるようにしてほしい
」というのが本音だった。
ちょうどその頃、ある事件が起こった。それは何か? 劇的にCVRが上がったのだ。ある特定の日に約2倍のCVRをたたき出した。他の条件が同じであれば、コンバージョン数も約2倍になることになる。ある特定の日とは、1月1日、初売りキャンペーンの日だった。
おそらく、冬物のジャケットが欲しいとかコートが欲しいとか、潜在的な需要はあったはずだ。新聞の折り込みチラシなどで初売りキャンペーンが認知され、一気に需要が喚起されて1月1日にサイトに殺到したのだろう。いや、正確に言えば、殺到したという表現は少し違うかもしれない。年末年始の検索ボリュームは落ちるので、アクセスが殺到したというほどではない。そうではなくて、購買意向の高いユーザーが集中し、CVRが高くなったというのが正しかった。つまり、初売りキャンペーンという仕掛けによって、需要が喚起された購買意向の高いユーザーが数多くアクセスしてきたのだ。
そして、コンバージョンは約2倍になった …… リスティング広告的には、とくに何もしていないにもかかわらず。
ショックだった。自分は何もしていないのに、コンバージョンがこんなに増えたのだから。もちろん、初売りキャンペーンでコンバージョンは増えるとみていたが、これほど変わるとは想定外だった。
リスティング広告は何なのか? 果たして、コンバージョン効果とは何なのか? 考えが変わった瞬間だ。リスティング広告でコンバージョンを創出していると言えるのか? CPAが見合っているとか、獲得効率が高いとか、そういうことが、コンバージョン効果が高いということになるのだろうか?
生活雑貨や日用品などの業界では「棚をとる」という言葉がある。コンビニやスーパーなどの量販店で、他社より多く自社商品を棚に並べてもらう、あるいは、より目立つ場所の目に付きやすい棚に置いてもらうというような意味だと思う。あるいは、駅近に店舗を出すという立地の話に近いかもしれない。交通量があり人の往来が多い場所に店舗を構えた方が来店者数は増える。
リスティング広告で上位に表示するのはこれに似ている。いい場所に出せば、もちろん、アクセス数は伸びる。しかし、その場所の交通量が上限だ。やり尽くしてしまえば、それ以上は伸びない。
さきほどの、アパレルメーカー最大手のリスティング広告のケースもこれに似ている。レストランでいえば、良い場所に店舗を出してしまったということだ。そして、看板の表現を最適化し、店舗内の動線やレイアウト、メニューなど、回転数を向上するための施策はすべてやり尽くした。
リスティング広告は、ほとんどのキーワードでCVRのよい表示順位に掲載し、広告文もA/Bテストなどで効率化した。アクセス数やCVRの改善など、リスティング広告でできることはやり尽くす。この状態までくると、もはや、そう簡単にはコンバージョン数を増やせない。
ソーシャルもやってます!