アテンションエコノミー&ファインダビリティ
渡辺 聡(渡辺聡事務所)
ネット業界で毎日のように登場する新語には、重要なトレンドを生み出すものや、単なるから騒ぎで消えていくものがある。
ここでは、一歩先行くウェブ担当者ならぜひとも覚えておきたい注目のキーワードを紹介しよう。
情報過多の中で、人々が“意識的に払う注目(アテンション)”の限界やその争奪戦が起きているという状態。企業にとっては、顧客や社員などの注目をいかに集めるかがビジネスの成功を左右する。
情報の見つけやすさ。期待する受け手に確実かつ効率的に“見つけもらえる”方法を選ぶ必要がある。ネットビジネスにおいては、ウェブサイトの作りや情報(広告など)の出し方が重要となる。両キーワードを理解するために、『アテンション!』と『アンビエント・ファインダビリティ』の2冊も参考になるだろう。
アテンションエコノミー、さらにファインダビリティ。なんだか物々しいタイトルが付いていて、またネット業界は魔法のような言葉を発明したのかと反射的にげんなりしている読者もいるかもしれないが、根っこの部分はさほど難しくない。
両者を一言でまとめてしまうと、「時間も無いし、あれこれ見て回るのも疲れて面倒だから楽をしたいユーザーとどう向き合うか」ということになる。
アンバランスな状態にある情報の需要量と供給量
21世紀にさしかかってしばらくの私たちは、情報に満ち溢れた世に生きている。どこまで増えるか分からないインターネットのページはもちろん、街中の案内や広告メッセージ。携帯からカーナビから何から何まで。媒体やメディア、ツールも山のようにある。
それでもなお情報は増え続ける。デジタル化されたデータを作るコストは相変わらず下がり続けており、増える速度はむしろ以前より速まっている。すでにお腹一杯なのにまだ皿には盛られようとしている。
しかし、情報がいくら増えようとも、一方で増えないものもある。情報を利用するユーザーの時間、もう少し狭くみると「集中して情報に注意を向けられる時間」となる。アテンションをそのまま訳すと注意力というくらいの意味になる。
2000年くらいにネット業界で「ユーザーの数は限られている、ユーザーの視線、アイボールをいくつ押さえているかが大事である」という言い方がされていた。基本はこの考え方と同じで情報をいくら作ろうが見てもらえないと意味がないとなったところで、さてその総量は実際のところどうやってイメージすればいいのだろう、という議論から生まれてきた言葉だ。
アイボールとアテンションの議論で違うのは、ぼんやり見ているのと意識して見ているのとでは、同じ見ているのでも(広告的に)全然意味が違うということに着目している点だ。その昔、テレビは正座して姿勢を正して見るものだったが、1人1台になりネットも携帯もと増えていく中でぼんやりとザッピングされるようになってしまった。残念ながら途中素通りされてしまった番組は厳密には、視線は行っているものの見られてないわけだ。
実際の広告効果を測るには、(1) 「1人のユーザーのメディア接触時間の総量×全体人数」ではなく、(2) 「1人のユーザーがまじめに注意を向けてメディアに接触した時間の総量×全体人数」となる。当然、時間だけ見ると(1)より(2)の方が少なくなる。
今のユーザー行動の1つの特徴は、いくらそこにあろうが、メディアやコンテンツを見ずに完全にシャットアウトしてしまうことである。目の前にいくら盛られてようと満腹で気持ち悪くなってしまったら、料理の方には視線さえ向けなくなるだろう。また、溢れた選択肢の中から自分にフィットするのが何なのかを探すのさえ一苦労なので、探す作業もなるべく手短に済ませようと知恵を絞ることになる。
その結果、ユーザーが使うようになったのが、検索サービスのようにたくさんの情報の中からピンポイントで自分にマッチしたものを提示してくれるサービスだ。この種類には、Q&Aサービスを含めてもいいかもしれない。あるいは、見て回るのが面倒なので、最小限自分に関連した必要な情報だけを知らせてくれるパーソナライズドサービスやRSSリーダーのような通知サービスなど、探すのではなく、必要なものをあらかじめ決めておいて、新しく出たらこちらに知らせてもらうサービスとなる。
これらを上手く使い分けると、ユーザーは情報を理解し、コンテンツを楽しむことに集中できて、アテンションの無駄遣いをしなくて済む。ふと気づいたらmixiで何時間も遊んでしまっていたり、ブログを山のように読んでしまったりという日常の罠にはまりやすい昨今、必要最小限を実現するサービスは地味ではあるが、着実に理解され普及もしている。
マスユーザーにとって無駄足をなるべく踏まない方法としては、Yahoo!を使うというものがある。日常生活の普通のニーズを満たすのに、何もあえて変わったところに行く必要はなく、サイト内をぐるっと見回ればほとんどの用事は片付いてしまう。先端のユーザーからすると見逃されがちな視点だが、影響のボリュームを考えると決して小さくないポイントとなる。
選択肢がますます増える情報の出し方と伝え方
さて、情報を必要最小限に絞ろうとしているユーザーに対して、読んでほしいと思っている情報の出し手、特に広告出稿者や企業のPR情報などは、何をどうしたら無事にユーザーにたどり着けるのか。情報をいかに見つけやすくしておくか、という発想で物事を考えていくのがファインダビリティのアプローチとなる。
リアルの世界では、人通りの多い目抜き通りに店を出す、目立つところに看板を出すといったことが大事だったが、ネットの世界の今では、人通りの多い目立つところとは何を意味しているのか。
まず、ページビューの多いサイトに広告を出す、多くの予算をかけてなるべく目に触れるようにしていくという方法があるだろう。ややもするとこの方法は古いなどといわれてしまうが、決して無効になったわけではない。効率が落ちた面はあるかもしれないが、手法の1つとして今でも有効であることに違いはない。
次に、ユーザーが検索や情報を整理するサービスを多く使うようになると、該当サービス上で目立つところに出てくるように工夫するというアプローチが出てくる。これが検索上位を狙うSEOや、Googleのアドワーズ広告のような検索連動型広告を活用するSEMだ。つまり、さまざまなツールを使うことを前提として受け入れ理解し、ユーザーが情報を見つけやすい形に整えておくこととなる。
ファインダビリティの考え方は、情報の中身の伝わりやすさも含まれる。タイトルや要約、アウトラインなどは目を引くことだけを目指すのではなく、端的にどのような情報なのか、サービスなのかを伝えることが鍵になる。いくら格好のいいフレーズを重ねていても、一目見て分からないと感じたらさっさと次に行ってしまうのが今のユーザーだ。見つけられない情報、見つかっても読めない情報はもはや存在しないに等しい扱いを受けている。
また、もし無事にユーザーの手元に辿り着いたとしても、ユーザーが疲れてアテンションが切れていた場合、「あとで読む」とメモフォルダもしくはメモ代わりのブックマークの中に放り込まれることになる。本当に読まれるかは、「あとで読む」に放り込まれた今日の情報と、明日以降また膨大に見つかる情報を全部並べた上で、改めて読んでみる選択をユーザーが下すかにかかっている。
そして、そんなややこしい判断を下すのもまた面倒であるとユーザーは考えているのも事実だ。元々の情報もしくはコンテンツの質ではなく、周辺情報や周辺サービスが鍵を握りつつある。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ vol.1』掲載の記事です。
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