CGM
大きな効果とリスクを持つ、企業にとっては諸刃の剣。
マスコミからクチコミへのコミュニケーションシフト。
ネット業界で毎日のように登場する新語には、重要なトレンドを生み出すものや、単なるから騒ぎで消えていくものがある。
ここでは、一歩先行くウェブ担当者ならぜひとも覚えておきたい注目のキーワードを紹介しよう。
植田 鉄也
Consumer Generated Media(消費者によって作られたメディア)の略語。Consumerの代わりにUserを使ってUGMとも呼ばれる。インターネットを活用して消費者(一般ユーザー)がコンテンツを生成していくメディア。一般の消費者が、直接自ら情報発信を行い、それをデータベース化、メディア化したウェブサイトなどを指す。特にコンテンツ自体を指す場合には「CGC」(消費者によって作られたコンテンツ)や「UGC」と呼ぶ。
最近、さまざまなメディアで取り上げられている「CGM」という用語。「消費者によって作られたメディア」という意味の略語だが、具体的にはどのようなものだろうか。
ブログ、SNS、Q&Aサイトなど多くの種類が存在するCGM
実はその正体は、すでにネットユーザーには馴染み深いものばかりだ。たとえば、世界的にも定着した「ブログ」もその1つ。日本にも「ココログ」「livedoorブログ」をはじめ多くのブログサービスがある(図1)。
また、SNS(ソーシャルネットワークサービス)の「mixi」(図2)や「GREE」、動画共有サイトの「YouTube」、オンライン百科事典の「ウィキペディア」、旅行のクチコミサイトの「4travel.jp」、さらには「人力検索はてな」「OK Wave」「教えて!goo」といったQ&Aコミュニティ、「関心空間」「ベネッセウィメンズパーク」「みんなの就職活動日記」など共通の趣味や関心についてまとめられたウェブサイトなどがCGMである。
さらに、これら最近登場してきたものだけでなく、巨大掲示板の「2ちゃんねる」(図3)もCGMだと言っていいだろう。これらが抱えるコンテンツは、どれも一般ユーザーの手によって自由に作られたものだ。
また、既存のマスメディアが一方通行の情報発信であるのに対し、CGMはインターネットを活かした双方向コミュニケーションの機能を備えるものが多い。ブログのトラックバックやコメント、SNSにおける足跡や友人の日記更新通知、YouTubeのShare Video(友人にも教える)機能など、情報発信者の話題が多くのユーザーによって繰り返し取り上げられて伝播していくような仕組みなどだ。
大きな効果とリスクを持つ企業にとっては諸刃の剣
では、このCGMというものについて、企業の活動とはどのような接点が考えられるだろうか。
CGMに集約される情報は、それぞれのユーザーのプライベートやビジネスシーンでの日常が日記として投稿されたものなどが多い。そのなかには、企業が提供する製品やサービスに対する感想、評価といったものも少なくない。検索エンジンの高性能化とあいまって、企業が自社の製品に関するユーザーの声を、CGMのなかから簡単に拾い上げられるようになっている。もちろん、製品への文句、悪い評価についてもチェックできるので、マーケティングにも利用できる。
また、CGMのなかでコンテンツを作るユーザーの根底にあるのは、「自分が何かに共感したことを他人と共有したい」という「結び付き」の精神である。特に共感を誘うコンテンツは、複数のユーザーからのアクセスを集め、先述のように情報の広がりを促進する機能によってさらなる“つながり”が生まれる。さらに、多くの読者を持つような人気コンテンツの作者になると、個人であっても特定のグループに大きな影響を与える「インフルエンサー」となり得る。
特定企業などと利害関係のない個人による「自由な情報発信=クチコミ」がベースにあるため、そこで製品が取り上げられておもしろい感想や好評価が得られると、高い宣伝効果となるケースもある。CGMを製品の販促に使いたい場合は、企業のウェブサイトで製品やサービスの機能価値、情報価値の説明に加えてユーザーの興味関心を引きやすいコンテクストをつくる必要があるだろう。
また、CGMのなかから商品が生まれるケースもある。具体的な例としては、人気ブログの内容を書籍化したものが数多くある。また、商業的に成功した例としては、掲示板の2ちゃんねるから登場した「電車男」がある。掲示板の書き込みのなかで育まれながら展開するラブストーリー。「オタク」からメジャー化した「アキバ系」カルチャーとCGMがタイミング良く融合し、一気に話題となり、書籍、ドラマ、映画として商品化されヒットした。
同じく2ちゃんねるで人気になったネコ型Flashアニメは、複数の匿名クリエーターたちによってセリフやストーリーに手が加えられていった。その過程で「モナー」や「ギコ猫」とネーミングされるが、そのキャラクタに目をつけたエイベックスは勝手に「のまネコ」と名前を付けて、そのFlashアニメをCDの特典として収録して販売した。その結果、2ちゃんねるのユーザーたちから、自分たちが育てたキャラクタを独占的に利用し利益を上げようとしたとして訴えられてしまった。
この事例は、CGM、特に「不特定多数」のユーザーの手によって作られたコンテンツ(キャラクタ)の場合、著作権の所在が明確でないために企業が勝手に利用しようとすると生じ得るリスクを示している。さらにここには、企業が商業行為にからめて接する際の難しさもある。CGMを作り出しているユーザー同士はある種のコミュニティだともいえる。企業が外部からアプローチする場合には、そこにあるルールのようなものを理解していないと、ユーザーの反感を買ってしまう可能性がある。
CGMは、ユーザー自身がコントロールするメディアであり、それは逆にいうと企業がコントロールすることが難しいということでもある。おまけに、いったん火が点いたら、あっという間に伝播する。ネガティブな取り上げられ方をしてしまうと、エイベックスの例のようにネットの中の出来事だけでは済まされない事態にもなりかねない。CGMは、企業にとって可能性とともにリスクもはらんでいる点を理解し、その接し方には十分気をつけるということを肝に銘じておく必要がある。
次に、CGMを広告や市場調査といったマーケティングに利用する際の、メリットとデメリットを以下にまとめておく。
- 企業にとってのCGMのメリット
- ターゲットと思われる情報発信者の趣味志向や消費者履歴が獲得できる。
- 見えなかった販路や新しいキーワードの発見ができる。
- 時間やコストの制約なく、商品への思い入れ、こだわりを情報発信できる。
- ブランドを背負うことのないさり気ないスタンスでコミュニケーションできる。
- 伝えたい人の気持ちを形にしてつなげていく仕組みで、高価なコンテンツ作りは不要。
- 企業にとってのCGMのデメリット
- 匿名ユーザーが多く情報発信者の身元やコンテンツ権利の所在が特定しづらい。
- 内容の信用度が低いことがある。
- コントロールが困難。
- 情報の露出機会や量を集約させにくい。
マスコミからクチコミのマーケティングへシフト
マスコミへの露出の次は、CGMを使ったクチコミプロモーションの展開で露出拡大を目指す企業が増えている。そういった手法でプロモーションを提案する広告代理店も多くなった。大手が連合してCGMマーケティングに特化した新会社を設立する動きもある。たとえばデジタルガレージは、電通、サイバー・コミュニケーションズ、アサツーディー・ケイと共同で株式会社CGMマーケティングを8月に設立し、新たなCGMの広告分野でWeb 2.0時代にマッチしたマーケティングサービスを開始した。
コミュニケーション手法は劇的に変わりつつある。CGMの台頭が意味するのは、マスコミからクチコミへのコミュニケーションシフトだと言えよう。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ vol.3』 掲載の記事です。
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