ソーシャル分析やマーケ最適化に「定石」なんてない | Adobe Omniture Summit 2011レポート


オンラインマーケティングをテーマとした大規模イベント「Adobe Omniture Summit 2011 [1]」が2011年3月8日~11日に米国ユタ州ソルトレイクシティで開催された。オムニチュアがアドビ システムズ社になって2回目となる今回のサミットには、同社のオンラインマーケティングスイート製品の顧客企業やWeb分析などのエキスパートら約2600名が参加した。
アドビ システムズ社はこれまでの30年間、コンテンツの「制作」を支援してきた。これからは「制作」に加えて、「管理」「配信」「解析」「最適化」が容易になるような製品・サービスを提供していきたい。
アドビ システムズ社のCEOであるシャンタヌ氏がオープニングキーノートの冒頭でそう語ったように、サミット期間中に開催されたセッションの内容は、「コンテンツ管理」「コンテンツ配信」「データの計測」「自動化」「クリエイティブの最適化」など多岐にわたっていた。
ここでは、サミット参加を通じ、興味深く感じた点を次の3つに整理してご紹介したい。
- ソーシャルメディア: ビジネスゴールに対する効果測定はまさに始まったばかり [2]
- クロスチャンネル: オンラインとオフラインのチャンネル統合分析 [3]
- 定石やセオリーは存在しない: 試行錯誤を通じて新しいモデルを作り上げていく [4]
ソーシャルメディア
ビジネスゴールに対する効果測定はまさに始まったばかり
基調講演でアドビ システムズ社 オムニチュアビジネスユニットのシニアバイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーであるレンチャー氏は、現在の顧客行動の大きな潮流として、ソーシャルとモバイルの台頭を挙げた。
レンチャー氏によると、ソーシャルとモバイルは個々の異なる動向ではなく、「モバイルでソーシャルメディアを利用する」という1つの大きな潮流なのだという。その一例として、オンラインが当然の世界で育ちモバイルでFacebookやTwitterなどを使いこなす新しい世代を主要ターゲットとするアパレル企業PACSUN [5]社における取り組みを紹介した。
PACSUNの主な顧客層は高校生や大学生であり、彼らはモバイルを利用して、メールをし、Facebookで交流し、Twitterで情報発信をする。このあたりは利用するSNSが異なるだけで日本と相違はない。また、日本のECサイトと同様に最も収益に貢献するのはメールであることは認めながらも、その一方で顧客のロイヤルティ醸成の上ではFacebookが最適であるなど、それぞれのメディアの特性を活かしつつ、メール、Facebook、Twitterといったソーシャルメディアを統合的に活用することが重要だという。
オープニング基調講演がこうしたテーマであることからわかるようにソーシャルメディアに関する参加社の注目は非常に高かった。ソーシャルメディアに関するセッションのなかには、人気のあまり席が足りず急遽会場を広い場所に移したものもあった。また、テクノロジーラボのセッションではソーシャルメディアとWeb上のコンバージョンを結びつけてAdobe SiteCatalystで測定する具体的な実装方法が紹介されたが、こちらもほぼ満席になっていた。
テクノロジーラボの最後には、VAIL Resort [7]社のソーシャルメディアマネージャーであるテイラー氏が壇上に上がり、自身の苦い経験から、ソーシャルメディアの測定における重要なポイントとして、以下の2点を強調した。
- さまざまなデータを取得しようとせず、ビジネスゴールと結びつけ必要な指標に絞る。
- 複数の異なるツールを利用せず、1つのツールにデータを集約する。
同社ではこれまで、FacebookやTwitter、YouTubeなどのメディアごとに異なるツールを用いてさまざまなデータを取得しようとしていたため、複数部署の調整に手間がかかり、測定・データ抽出業務の工数が週40時間にも上り、問題となっていたという。しかし、測定する指標を絞り込んだうえでデータをSiteCatalystに集約したところ、データ分析にかかる時間を週に4時間へと大幅に削減できただけでなく、各メディアの評価を同一の指標で行えることができるようになったと話す。
サミットの目玉の1つとして、新製品Adobe SocialAnalytics [9](アドビ ソーシャルアナリティクス)があった。このツールは、まさにこのようなFacebook、Twitter、YouTubeやブログといったソーシャルメディアの利用動向とビジネスゴールへの貢献度を結びつけた分析を可能とするものであり、単にソーシャルメディア上の会話を細かく分類し反響をデータで可視化することよりも、どのメディアが、どのインフルエンサーが、いかに企業収益に貢献しているのかを把握する点に主眼が置かれているものだ。
サミット期間中、朝食やランチなどの際に米国の参加者らと話をしていても、FacebookやTwitterなどは日常生活で欠かせないコミニュケーションインフラであることが感じられた。日本でもマーケティング上での活用に関してはすでに事例がいくつか出ているが、それに対して、ソーシャルメディアの効果測定、とりわけビジネスゴールへの貢献に関する測定に関しては、一部の先進的な企業を除けば、こちらでも今まさに始まったばかりという印象を受けた。
また補足だが、日本ではサイト来訪者をユーザー、ビジターと表現することが多いが、サミットでは「訪問者」という表現はしていなかったことを紹介しておこう。サイト来訪者は「people(人々)」であり、あえて「Customer(顧客)」と呼んでいるケースが一般的だった。アクセス解析というものは、日本ではまだ技術面から語られることがあるが、米国ではアクセス解析はマーケティング活動の一環として捉えており、その意識が「訪問者」ではなく「顧客」という表現に表れているのだろう。
- クロスチャンネル: オンラインとオフラインのチャンネル統合分析
- 定石やセオリーは存在しない: 試行錯誤を通じて新しいモデルを作り上げていく
- 製品の機能拡張とともにますます進む製品間の連携
クロスチャンネル
オンラインとオフラインのチャンネル統合分析
サミットの参加者らと話をしている中で出てくるキーワードとして次に多かったのが、「クロスチャンネル」(またはマルチチャンネル)だった。「チャンネル」とは、顧客との接触ポイントを意味し、Facebook、Twitter、YouTube、メール、ウェブなどのオンラインチャンネルや、コールセンター、店舗、DM、カタログといったオフラインチャンネルを指す。
「Adobe Insightでクロスチャンネルのデータを活用してビジネスパフォーマンスをドライブする」と題したセッションでは、USAA [10]社のクレイン氏(Research & Analytics Executive Director)が、同社におけるチャンネルデータ統合への取り組みを紹介した。
1922年に設立されたUSAA社は、米国軍人とその家族を対象にした会員制の金融サービスを展開。今では770万の会員を抱えFortune100にも選ばれている米国有数の金融企業である。
同社では事業の拡大とともに保有するデータが増大してきただけでなく、顧客がオンラインやオフラインを横断的に利用してコミュニケーションを行う一方、モバイルやWebサイト、コールセンターなどの個々のチャンネルのデータが分断されているために、顧客の行動が見えにくくなっていたと話す。

図中の解説は、左から順に次のとおり
- 顧客がダイレクトメールを受け取る
- 顧客がサイトにログインする
- 顧客がオンラインで見積もりを入手し、申し込みの作業を始める
- しかし、申し込みを完了する前に止めてしまう
- 顧客は申し込む前にもっとアドバイスが欲しいために、コールセンターに電話する(担当につながるまでの順番待ち)
- コールセンターで担当に電話がつながるまでの間に、顧客は銀行の残高をチェックする
- 結局、担当者に相談する必要があると決断する
そのような状況を打開するために、同社では4年前から徐々に各チャンネルのデータ統合に着手。その際に導入したのが、Adobe Insight [12]というチャンネルデータの統合分析ツールである。
ツール導入の目的は極めて明確で、どのチャンネルへの投資が効果的なのか(ビジネスゴールを達成する牽引役となっているチャンネルは何か)を把握し、適切なリソース配分(チャンネルシフト)を行い、ビジネスのパフォーマンスを向上させること。そう、データを分析したり、顧客行動を把握したりすることは、あくまで手段に過ぎないのだ。
次のスライドは、コールセンターとオンラインの見積からそれぞれの申込への誘導パスを示したものである。オンラインの見積(左下)を起点とした申し込みの数を見ると、コールセンター(右上)とオンライン(右下)にほぼ同数の誘導をしていることがわかる。
Insight導入前はオンライン見積の評価をオンライン上での申込に至るコンバージョン率で測るしかなかったが、コールセンターへの誘導数も含めると実際には当初の2倍のコンバージョン率であり、その効果を具体的な数値で把握できるようになったのだという。
このような考え方自体は別段新しいものではなく、日本でも「オンラインの一部はオフラインに流れているだろうし、その反対もあるだろう」という「想定」は各企業ともしているはずだ。しかし、それが具体的にどの程度なのかを数値化している点がUSAA社の強みであるといえる。
オンラインとオフラインの統合については、SiteCatalystのエキスパート5名が参加者の質問に回答する別のセッションでも質問が相次ぎ、関心の高さを物語っていた。
- 定石やセオリーは存在しない: 試行錯誤を通じて新しいモデルを作り上げていく
- 製品の機能拡張とともにますます進む製品間の連携
定石やセオリーは存在しない
試行錯誤を通じて新しいモデルを作り上げていく
先に紹介したレンチャー氏が、キーノートの中で「There is No Playbook」(定石なんてものはない)と強調していた点も非常に興味深かった。
ソーシャルとモバイルという大きな流れのなかで、顧客行動を測定して企業収益と結びつけ、チャンネルへの投資を最適化すること。この一連の流れには、決して「こうすればOK」というセオリーがあるわけではなく、各社が自社のビジネス状態と顧客にあわせて試行錯誤しながら実践していくしかない。この点は、日本でも米国でも変わらないのだろう。
その点を象徴していたのが、間接効果測定のセッションだ。講師による一方通行のプレゼンテーションは行わず、各テーブルに参加者が10名程度ずつ集まり、それぞれの考える間接効果測定(アトリビューション)の定義や現状の自社の課題を語り合い、お互いにアドバイスする形式がとられていた。
製品の機能拡張とともにますます進む製品間の連携
ジェネラルセッションの最後では、アドビ システムズ社 オムニチュアビジネスユニットのチーフテクノロジストであるエラー氏が、SiteCatalyst、Test&Target、Discover、SearchCenter、Recommendationsなどの各製品の次バージョンについて紹介した。
製品それぞれについて機能を強化したり拡張したりしていくことはもちろんだが、
SiteCatalystやDiscover、Insightで設定したセグメントをTest&Targetで利用することで、特定セグメントに対するクリエイティブテストを簡易に実施できるようにする。
Adobe Survey(サイト内アンケートツール)で得た回答者のうち指定したセグメントデータからDiscoverを起動することで、アンケートの回答結果とサイト上での行動を結びつけた形で把握できるようにする。
といったように、とりわけデータのセグメントという軸で製品間の連携がより一層進化を遂げていくようだ。
日本ではSiteCatalyst単体での利用もまだまだ見られるが、米国ではDiscover(上位分析ツール)、Test&Target(サイトコンテンツの自動テスト&最適化ツール)、SearchCenter(リスティング広告の自動入札・最適化ツール)や、Genesisを利用した他ベンダー製品とのデータ連携が当たり前のように行われている。
筆者の感覚では、国内でも、Omnitureテクノロジー利用者のニーズは計測そのものからクリエイティブのテストによるコンバージョン向上に少しずつ移っている印象がある。そのため、Test&TargetやRecommendationsなどに今後さらに関心が高まり、事例も増えてくるのではないかと思われる。
サミットのセッションで紹介された内容は必ずしもすぐに日々の業務に活用できるハウツーものではないが、こちらでの取り組みを肌で感じられるだけでなく、日本からの参加者との交流の機会にもなる。マーケティング最適化に興味がある方は、来年開催のサミットへの参加を検討してみてはいかがだろうか。
ソーシャルもやってます!