ライオンでアドビのCMSを導入! 導入の背景や活用方法を聞いた
「製品情報や画像を取得したいが、どこにあるか分からない」「販促用に使って良い画像はどれか」といった課題を解決するのが、DAM(デジタルアセットマネジメント)と呼ばれるツールだ。ライオン株式会社(以下、ライオン)は、DAMとCMSの機能も持つAdobe Experience Manager(以下、AEM)を採用し、自社の製品にかかわる情報を一元管理する「製品情報ポータルサイト」を構築した。AEM導入の背景や活用方法、システム構築でこだわった点などを、同社ビジネス開発センター エクスペリエンスデザイン戦略開発グループ マネジャー 榎本裕美子氏に聞いた。
AEM導入前の社内の課題
――AEM導入前は、どのような課題があったのですか?
榎本: ライオンには多数のブランドや商品がありますが、製品の画像や情報を、自分が使いたいタイミングで取り出すシステムがなく、さまざまな部署にデータが散在してしまっている状態でした。
必要なときに「それは○○さんに言えば入手できるよ」という属人的なデータ管理でも業務は滞りなく進むこともありますが、人が介在しないとデータが手に入らないという状態では不都合も多数発生していました。
例えば、製品画像やWebサイト上で使っているバナーの元画像をマーケティング担当者がすぐには入手できないなどです。どこにあるのか、広報やWebサイトを作っている部署は分かっていますが、営業のメンバーが流通の方との取引の際に素材が必要になることもあり、そのようなときに分断されていることで、情報の取得に時間がかかってしまうことが課題でした。
いよいよこの課題の解決に本腰を入れようということになったときは、コロナ禍によるリモートワークの真っ只中。この、デジタルアセット管理ツールの導入を強く要望していた部門の一つが、お客様センターでした。
お客様センターのコールスタッフは社内でお客様からの電話を受けますが、その場ですぐに答えられないものについては、質問のあった商品の実物を手元に置きながら、お客様の問い合わせにお答えしていました。
しかし、コロナ禍による在宅勤務では手元に当該商品がないので、お客様が持っている商品と同じものを手に取り、適切な回答がすぐにできないという事態が発生したのです。
もちろん、もともとの製品情報データベースはありました。しかしそれは、商取引で必要なデータが社内コードに紐付いて登録されている状態であり、お客様のお困りごとに対して、満足いただける情報がすべて揃っているわけではありません。
お客様センターからの要望はお客様が悩まれている状況を理解するために、「まるで手に取っているかのように、表面、裏面、側面に何が印字されているのか、液体ならば透明なのか乳白色なのかなど、より詳細な情報が必要」でした。
私たちとしても、もともとデジタルデータの管理に課題があることは分かっていましたが、コロナ禍によって、こうした課題も解決すべく、きちんとリソースを投下してツールを導入しよう、という動きは加速したと思います。
――もともと、画像は、各部署のファイルサーバーやPCで管理していたのでしょうか?
榎本: 一般の商品は、画像を管理するファイルサーバーのような仕組みはあったのですが、期間限定の企画商品などは、一時的な利用にとどまるため、その仕組みから外れてしまうこともありました。
ただ、期間限定の企画商品が、すでに終売しているといっても、お客様のお自宅では、まだ利用されている場合もあります。そうしたお客様からの問い合わせにお答えできるよう、使っているお客様がいる限りは、その商品のデータを保存していかなくてはいけないのです。
――それが顧客体験につながってくるわけですね。
榎本: そうです。顧客体験を考える際には、広告、Webサイト、店頭など、認知から購買までが意識されがちですが、製品を購入し、使用している間の顧客体験、とりわけお客様の不安を解消するお客様センターも重要な要素だと捉えています。直接お客様に向き合い、コミュニケーションをする場で、適切な情報を迅速に取り出して回答することが、エクスペリエンスデザインの観点で、とても大切なポイントなのです。
ツールの選定条件と導入の流れ
――導入するデータ管理システムには、どのような機能が求められましたか?
榎本: まずは、誰でも、マニュアルを使わなくてもデータを取り出せる、感覚的に使えること。もうひとつは、お客様センターからの要望にあった、まるで手に取って見ているかのようなビジュアライズ表示。選定条件では、この2点のプライオリティを上げました。
あとは、Webサイトとの連動性も考えました。コーポレートサイト以外にブランドサイトやオウンドメディアの「Lidea」など、多数のWebサイトがあるので、将来的には商品情報の管理はデータベース側で、そこからデータを引き出して常に最新の情報を各Webサイトに表示するという世界観を作りたいと考えています。また、全社で使うシステムとして、営業担当者が営業資料にデータを使うことなども考慮しました。
私たちが求めている要件に一番ヒットしたのが、Adobe Experience Manager(AEM)でした。また、私が前職でAEMを使っていたので、使い勝手や大規模で運用した場合のパフォーマンスも理解できていたことも選定理由としては大きいです。
外部のパートナーに丸投げするのではなく、ある程度自社で構築・運用したいと考えていたので、直接アドビのコンサルタントに相談できるアドビプロフェッショナルサービスを利用しています。これも導入の決め手になりました。
――導入の流れをざっくり教えてください。
榎本: 検討には1年くらいかけました。AEMに決まったのは2021年12月で、2022年1月から要件定義、基本設計、開発と進めて、最初のローンチが2022年10月でした。スピードとしては想定どおり、わりと早かったと思います。エクスペリエンスデザイン部のエンジニアと、製品を熟知した製品ベンダーのコンサルタントが直接プロジェクトを進められたことにより、円滑に進みました。
最初のローンチ後にさまざまな部署の社員に使ってもらって、改良や追加が必要な点を数ヵ月間ヒアリングして、改修ローンチをしたのが2023年10月です。
商品データ閲覧用の「製品情報ポータルサイト」とは
――構築した「製品情報ポータルサイト」はどのようなものでしょうか?
榎本: データベースに蓄積されたデータを自分で取り出して見てもらうのはハードルが高いので、社員向けのWebインタフェースを作りました。GUIで、カテゴリや商品名をプルダウンで選択すると、その商品に関する情報がずらっとWebページ上で取得できます。
画像にカーソルを合わせると拡大表示されるので、例えば商品裏面ラベルの細かい文字などもしっかり読めます。
この画像データは写真ももちろんあるのですが、写真を使うと光が反射し、白飛びして文字が見にくくなってしまうことがあるので、パッケージ印刷用の平面のデータを3Dの製品の状態に組み立てて、画像として組み立てなおすなどの工夫を行っているものもあります。
――これは閲覧専用のポータルですね。
榎本: そうです。どの部署の人でも、ここにログインすれば商品情報が参照できて、画像データなども入手できます。
データの登録や修正は、別の登録用画面から、特定のシステム部門や私たちの部門のライブラリアンが一元管理する方式にしています。
――導入後の成果や社内の評判はいかがですか?
榎本: 先日、営業部門にアンケートしましたが、「自分の業務において改善の兆しが出てきた」という回答が90%を超えていました。成果としては、良いものになったと思います。
また、今までなかったものができたことで、自分が何のデータを知らなかったのかが分かったし、このデータがあるならこちらのデータも入れた方がいいとか、自分が持っているこのデータを入れたいとか、そういう会話が活性化しました。データを社内全体に開示して共有したいという気持ちが生まれたのが、大きな成果だと思います。
――社内コミュニケーションの活性化という感じで、いいですね。お客様センターからの評価はいかがですか?
榎本: 手作業でデータを集めてExcelで管理していたのが、データベースをポータルで参照すればよくなったので、オペレーターとしても使いやすくなったという声はいただいています。
ただ、正直言うと、情報がまだまだ足りないとは言われています。データを溜めるフレームはできたけれど、足りないデータは作らなければいけないので、それをフレームに入れ込む作業が今の課題です。
一貫性のあるコミュニケーションで顧客体験の向上へ
――Adobe Experience Managerについて、活用計画をお聞かせください。
榎本: これから先、取り組みたいと思っているのが、一般に公開しているWebサイトにもAdobe Experience Managerの活用を展開することです。数が膨大なのですぐには難しいのですが、順次対応を強化したいと思っています。
顧客体験については、商品のタグラインが定期的に刷新されるブランドもあれば、不定期に変わるブランドもあります。宣伝部門以外が、現時点のタグラインが何なのかを完璧に認識するのは難しいと思います。例えばEC販促用にどのタグラインや画像を使っていいのか、販売の担当者ではすぐに判断することはできません。
ですが、今後Adobe Experience Manager による製品データベースを参照すれば、「今はこのタグラインの掲出期間だから販促用ページに載せていい」ということがきちんと分かるようになります。顧客体験としては、どこでライオンに接触しても、一貫性のあるメッセージがきちんとユーザーに伝わるようになります。そこがゴールだと考えています。
ソーシャルもやってます!