Personalization at Scale|一人ひとりに最適なパーソナライゼーションを提供する|アドビが考える顧客体験のあるべき姿とは
コロナ禍の3年間で急速にデジタル体験が浸透した今求められるのは、オンライン、オフライン、Web、アプリなど複数のタッチポイントを通して、一貫した整合性のあるコミュニケーションによる顧客体験を実現することだ。
「Web担当者Forumミーティング 2022 秋」のセッションに登壇したアドビの昇塚淑子氏と萩原未来氏が、顧客体験のあるべき姿とそれを支えるコンテンツ管理のあり方およびテクノロジーについて解説した。
デジタルだからできる特別な体験を提供する“パーソナライゼーション”
パンデミックの3年間で急速にデジタル利用が浸透した。このパンデミックが収束したとしてもデジタル利用の状況が3年前に戻ることは考えづらい。デジタルが利用できる場所が拡大し、利用者の使いこなす能力が上がり、ビジネスでも生活でもデジタルが浸透した世の中になった。
そうした状況において次にとるべきアクションを、アドビCEOのシャンタヌ・ナラヤンは、『Make the Digital Economy Personal』と表現しています。“デジタルを個人にとって親密で特別な体験にしていく”ということです。デジタルは効率、早い、手軽といった点が強調されがちですが、デジタルだからこそできる価値を使って特別な体験を作っていかなくてはなりません(昇塚氏)
その方法としてあげられるのがパーソナライゼーションだ。講演のタイトルにもある「Personalization at Scale」を日本語に訳すと、「大規模なパーソナライゼーション」となる。従来のパーソナライゼーションでは、企業やブランドが選択したチャネルで、特定のセグメントに対してコンテンツを配信していたが、タッチポイントが広がったことで、顧客が選んだタッチポイントで顧客の都合や好みにあわせてコミュニケーションを行う、一歩先のパーソナライゼーションが求められるようになっている。
タッチポイントを選ぶのはお客様の側であり、企業はお客様の選択したタッチポイントを介して適切なコミュニケーションをしなければいけません。たとえば、お客様はキャンペーンのメールで商材を知ってから、モバイルやアプリで商品を見たり、クチコミをチェックしたりします。オンラインで購入し、受け取りは店舗かもしれません。オンライン、オフライン、Web、アプリなど複数のタッチポイントを通して一貫した整合性のあるコミュニケーションによる顧客体験を作ることが重要です(昇塚氏)
膨大なコンテンツ需要に対応するにはコンテンツの再利用が鍵に
Personalization at Scaleを実現するには、顧客を知るための「データ」、顧客が目にする「コンテンツ」、最適なタイミングでの「配信」の3つの要素が必要になる。今回の講演では「コンテンツ」にフォーカスし、大規模なコンテンツ配信をどう実現するかが解説された。
デジタルが浸透し、コンテンツの流通量が膨大となり、同時にコンテンツが短いサイクルで大量に消費される時代になっています。コンテンツの大量需要に応えるためには、いかにすでにあるコンテンツの再利用を効果的に行えるかがキーになります(昇塚氏)
コンテンツの再利用により大規模なコンテンツ需要に対応するには、次の3つが必要となる。
- コンテンツを組織横断で一元管理する
- タグ、メタデータを使って管理する
- 素材単位で管理するだけでなく、意味のあるまとまりでモジュール化して管理する
ここで昇塚氏は、この3つを具体的に実践している事例を紹介した。
事例 ① デル:15万件のコンテンツをDAMに集約
ITテクノロジー企業のデルでは、全世界の従業員、マーケティングパートナーがコンテンツにアクセスできるように、DAM(Digital Asset Management:デジタルアセット基盤)で管理している。日々利用される約15万件のコンテンツがDAMに集約されており、約2万人が利用している。専任のライブラリアンがコンテンツのメタデータの設計、管理を行うほか、関係者の教育・サポート、ステークホルダーへの啓蒙活動、メタデータがビジネスの目的に応じて正しく設計され、運用されているかなどのガバナンス管理も行っている。
Webページやキャンペーンメールを構成するさまざまな画像、テキストはすべて部品のレベルに分解されており、それぞれに100件を超えるメタデータが付与されています。それらの部品をいろいろな観点から抽出し、組み立てることができ、キャンペーン実施時にダイナミックにコンテンツを効率よく作り上げる体制が整っています(昇塚氏)
たとえば、グローバルに向けて同じキャンペーンメールを配信するとする。メールの上部(下図の赤枠部分)はグローバルで共通のマスタとして設定されており、リージョンにあわせてローカライズされる。メールの下部(下図の青枠部分)は、リージョンや顧客セグメントにあわせてダイナミックにカスタマイズされる。
メールやランディングページのデバイスのスクリーンに貼られている画像も、クリスマスシーズンならツリーの画像になるなど、キャンペーンの対象や季節などにあわせて配置される。きめ細かいパーソナライゼーションによって、コンバージョン向上にも貢献しているという。
事例 ② T-Mobile:プロファイルに基づくパーソナライゼーションを実現
通信企業のT-Mobileでは、以前はコンテンツの管理環境が複雑で、柔軟なパーソナライゼーションができず、AndroidユーザーにiPhoneの最新機種を紹介するなど非効率な配信を行うこともあった。そこで、顧客中心のキャンペーン実施をゴールに部門横断で開発体制を見直し、コンテンツを意味ある組み合わせでモジュール化して管理すると同時に、プロファイルに基づいてチャネルをまたいだ一貫性のある配信を実現できる体制を整えた。
ちなみに、アドビ自身もコンテンツのモジュール化をしてユーザーとのタッチポイントを作っています。アドビではWeb、アプリ、モバイルなど40カ所以上のタッチポイントにコンテンツを配信しています。Photoshop、Illustratorなどのクリエイティブ製品自体もタッチポイントの一つです。
たとえば、Illustratorを起動すると、チュートリアルコンテンツが配信され、起動画面内で使い方動画などを閲覧できますが、これは使い方の画像とテキストをチュートリアルのひとつのトピックとしてモジュール化して実現されています。トピック単位での閲覧状況等を見てコンテンツを改善も可能です(昇塚氏)
ダイナミックなパーソナライゼーションを実現する「Adobe Experience Manager」
続いて萩原氏から、こうしたダイナミックなパーソナライゼーションを支えるプラットフォームである「Adobe Experience Manager」が紹介された。同製品には、大きく5つの機能がある。今回は「Webコンテンツ管理」と「デジタルアセット管理」の2つが詳しく紹介された。
- Webコンテンツ管理
- デジタルアセット管理
- オンラインの申し込みとWebフォーム
- デジタルサイネージ
- 学習管理システム
クロスチャネルに向けにパーソナライズされた体験を提供
「Adobe Experience Manager Sites」は、エンタープライズCMSというポジションに位置するCMSで、複数のサイトを一つの環境で集約管理できる。サイト横断でテンプレートやデジタルアセット、コンポーネントを共有し、さらにインフラの集約やワークフローの共通化などにより、業務効率化とコストダウンをはかり、市場への迅速なコンテンツ投入を可能にする。
例えば、翻訳フレームワークを使えば、一つのマスターページを更新すると、他のリージョンのサイトや他の言語サイトにも更新が自動で展開される。複数のページに掲載された画像も一括で更新できる。レスポンシブデザインに対応しているので、PC、スマホ、タブレットに自動で展開できるのも特徴だ。
パーソナライズを迅速に行えるエクスペリエンスフラグメント機能では、Adobe Experience Managerに保存したテキスト、画像などのコンポーネントをレイアウトと共に保存して、パーツとしてさまざまなサイトやページにドラッグ&ドロップで配置したり、パーソナライズソリューションの一つであるAdobe Targetと連携して、オファーコンテンツとして配信できる。
前述したT-Mobileの事例では、顧客情報から購入した製品や住まいの地域のネットワーク回線などの情報を見て、その人にあわせたオファーコンテンツを組み合わせて配信しているという。
デジタルアセットをメタデータで管理する
DAMである「Adobe Experience Manager Assets」は、画像、動画、3Dデータ、PDFなどデジタルアセットを集約管理し、関係者はいつでもどこでもリアルタイムで最新データにアクセスできる。
通常であれば、マーケティング担当者やWeb編集者は、コンテンツ制作者から完成したデータを受け取った後で作業ができるようになるが、Adobe Experience Manager Assetsを活用すれば、作成途中のデータを見て仮ページを作成したり、マーケティング施策を考えたりすることができ、デジタルマーケティングのライフサイクルを効率的に回すことができる。Adobe Experience Managerは、デジタルアセット管理とWebコンテンツ管理が同じプラットフォームで稼働するため、連携のための手間も不要だ。
もし、Webサイトを管理するソリューションとパーソナライズするソリューションが分かれていたとしたら、どのような問題があるのだろうか。萩原氏は、個別のデータの受け渡しが繰り返されると、更新の漏れによるバージョンの不整合、トンマナの異なるデザインの展開、更新タイミングのずれなどが発生することを指摘し、リソースも2倍になると述べた。
DAMの肝となるのが、メタデータによる管理である。コンテンツにメタデータを付与することで、キーワード検索ができ、ファイルの種類やサイズ、カラーなどでもフィルタリングできる。
Adobe Experience Manager AssetsはデジタルアセットのメタデータをWeb画面から追加できます。さらに、AIの「Adobe Sensei」を使って自動的に被写体の内容、雰囲気、色合いの構成などの情報をメタデータとして追加することもできます。これらはスマートタグ、スマートカラータグとして付与されます。クラウドでサービスを提供しているため、AIと製品で緊密な連携ができます。Adobe Stockでも同じテクノロジーを使っています(萩原氏)
インタラクティブなコンテンツ提供や、画像処理の自動化、ヘッドレス配信機能も
加えて、画像処理と配信機能を提供する「Dynamic Media アドオン」により、インタラクティブなコンテンツの提供を実現する。Adobe Experience Managerに画像をアップロードすると、Dynamic Media アドオンに自動連携されて、公開URLを通して画像が配信される。システム連携をしていれば、連携先のシステムへもリアルタイムに新しい画像が配信される。Adobe Targetとの統合では、メタデータを使った検索がAdobe Targetからも実行できるので、Adobe Experience Managerのデータをフル活用できるというわけだ。デルのキャンペーンメールではこの技術が採用されている。
「Asset microservices」と「Photoshop API」の連携でコンテンツの自動処理が可能になるコンテンツオートメーションも提供する。Adobe Experience Managerに画像ファイルをアップロードすれば、Asset microservicesが画像の背景を消す処理を行ったり、同じ画像を複数サイズで生成したりしてくれる。フォルダーごとにさまざまな処理が設定できるため、コンテンツ作成の手間を大幅に削減できる。
また、近年はコンテンツの配信範囲が、車載デバイス、デジタルサイネージ、IoT機器など拡大していることから、アドビではヘッドレス配信機能も提供している。様々なチャネルやデバイスに配信できるように、レイアウトを省いた構造化データを配信する機能で、データはAdobe Experience ManagerのWebフォーム上で編集できる。PhotoshopやIllustratorなどのチュートリアルコンテンツはこの機能を使って、配信されている。
パーソナライズを大規模に提供する4つのポイント
萩原氏は最後に、パーソナライズを大規模に提供するポイントとして下記の4つを挙げ、講演を締めくくった。
- データとインサイトを最適化すること
- コンテンツとコラボレーションの自動化およびワンプラットフォーム化によって業務全体を効率化すること
- シームレスなオムニチャネル対応でより良いジャーニーを提供すること
- 組織の運用体制の変革
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