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なぜ「デジタルサイネージメディア」は話題になる? 注目事例と未来展望

2023年に話題となった事例を紹介しながら、デジタルサイネージメディアの価値や今後の可能性について考えていきたいと思います。

2023年のデジタルサイネージ広告市場は801億円(前年比119%)に達する見込みで、今後さらなる成長が予測されています(※1)。昨年は、渋谷のスクランブル交差点、新宿東口の3Dサイネージなど、街全体を巻き込んだ大規模なプロモーションがたびたび話題となりました。それらの波及効果もあってか、それ以外の新たなロケーションにもデジタルサイネージメディアが多数誕生しており、開発視点でも大きな盛り上がりを見せています。

今回は、2023年に話題となった事例を紹介しながら、デジタルサイネージメディアの価値や今後の可能性について考えていきたいと思います。

2023年注目のデジタルサイネージメディア活用事例

活用事例①アニメ『進撃の巨人』最終回放送に先駆けて渋谷の街をジャック

アニメ『進撃の巨人』は、約10年の歳月をかけて、マンガ原作のほぼすべてを映像化した人気作品です。その最終回に当たる「The Final Season完結編(後編)」が、2023年11月4日にNHK総合で放送されました。それに先駆けて、同年10月28日~11月4日の8日間限定で、渋谷スクランブル交差点ビジョンを『進撃の巨人』の特別映像がジャックしました。

このビジョンジャックのために特別に編集された映像が話題となり、多くのファンが渋谷を訪れました。映像の最後には最終回の放映日時も告知されており、認知向上にも寄与したのではないでしょうか。

渋谷スクランブル交差点という、世界的にも有名な交差点で展開された大規模なプロモーションは、全世界にファンを抱える『進撃の巨人』の世界観とマッチし、実際に渋谷に足を運んだファンは歓喜。SNSでも拡散され、国内外で話題になりました。

なお、2023年3月3日の「The Final Season完結編(前編)」放送に際しては、2月27日から1週間、Spotifyとコラボした特別映像で渋谷スクランブル交差点の大型ビジョンをジャックするキャンペーンを実施しており、これも大きな話題となりました。

活用事例②スシローが「デジタルスシロービジョン」実験導入

スシローは2023年9月、デジタル大型ビジョンと回転レーンを融合した「デジタルスシロービジョン(デジロー)」を一部店舗に実験的に導入しました。約50×150センチの大型ビジョンをボックス席に設置することで、新しい顧客体験の創出を狙ったものです。

コロナ禍で大きな影響を受けたスシローは、「これまで以上にワクワクするような空間づくりを行う必要があると考え、デジローを導入した」といいます。各ボックス席に設置された大型デジタルサイネージには、寿司が流れるイメージ映像が流れ、そこから直接タッチして注文も可能です。

このタッチパネル機能は2人同時に使うことができ、従来のタッチパネルの不便さを解消する手段としても期待されています。

また、注文額に応じたゲームも楽しめるなど、大人から子どもまで楽しめる仕掛けを多数搭載。このようなエンターテイメント性のある新たな店舗体験の提供は、総合的な顧客満足度の向上に貢献するのではないでしょうか。

デジローで表示される画像の一例。空間演出と同時にタッチパネルとしての用途もある(リリースより引用)

デジタルサイネージメディアが提供できる体験価値とは

これら2つの事例を通して伝えたいことは、「デジタルサイネージメディアだからこそ提供できる体験価値がある」ということです。

街や空間を巻き込んだ施策は、リアルな体験を通して、人々の印象に深く残ります。また、手元のスマートフォンで普段目にするパーソナライズされた広告とは異なり、街中や店舗内など、パブリックな環境で視認したコンテンツには特別感があり、体験として長く記憶に留まります。短期的なコンバージョン効果はさほどではないかもしれませんが、後日、友人や家族、同僚との会話で話題になったり、SNSでシェアしたりするなど、中長期的な広告効果は高いと言えます。

実際に、ニューステクノロジーが運営しているタクシーサイネージメディア「GROWTH」では、経営者や企業の担当者が登場するインタビューコンテンツを放映していますが、見かけた友人が車内で撮影し、FacebookやInstagramのストーリー、Xなどで投稿するといった行動がよく見受けられます。そこから発生したコミュニケーションをきっかけに、コンタクトをとるようになり、仕事につながったという話も耳にします。

これは、タクシーという「公共性の高い環境で放映された情報」であることが、大きなポイントだと考えています。自分の知人が、パブリックな場所にあるデジタルサイネージに識者として映っているというのは、テレビ番組出演に近しい高揚感をもたらすのではないでしょうか。その高揚感から、思わずSNSなどの他メディアに投稿するという行動を誘発し、情報を拡散させるのだと思います。

そうした生活者の心の動きを踏まえて、デジタルサイネージメディアの価値を最大化するには、その空間に存在する人々の属性やシチュエーションを考慮したコンテンツを設計し、心に残る体験を提供することが非常に重要です。

効果の可視化が進むデジタルサイネージメディア

デジタルサイネージメディアの最新の傾向として、効果の可視化が挙げられます。

コロナ禍で外出が制限された時期、多くの広告主が屋外広告への出稿を減らし、インターネット広告への出稿に振り替えました。現在、屋外広告への出稿は回復しつつありますが、一度経験したデジタルならではの利便性を、屋外広告にも求めるようになってきています。

オフライン広告であるデジタルサイネージメディアでもインターネット広告と同様に、どれだけの人が見たのか、どのような効果があったのか、数値として可視化する動きが広がりつつあります。

LIVE BOARDが始めたインプレッションベースのプログラマティックOOHの提供は、業界全体に大きな影響を与えており、ダイナミックDOOHとしてインプレッションベースで広告枠を販売するデジタルサイネージメディアが増えてきています(※2)。また渋谷駅ハチ公口や大阪・道頓堀の大型屋外広告ビジョンを多数保有するヒットなど、インパクト型と呼ばれるデジタルサイネージメディアでさえ、インプレッションをベースとした広告販売にシフトしています。今後もこの流れは加速していくでしょう。

なぜ今、デジタルサイネージメディアが注目されるのか

2024年に入って、Googleがついにサードパーティクッキーの段階的廃止を開始し、デジタルマーケティングが大きな転換期を迎えようとしています。これまでターゲティング広告に依存してきた広告主は、今後のマーケティング戦略を策定するために、有効な代替ソリューションを模索していく必要があります。

これまでデジタルサイネージメディアは、どれだけの人が見たのかもわからず、結果の振り返りや説明ができないことを懸念し、プロモーション施策に採用しにくいという声が一定数ありました。しかし前項で紹介したように、インプレッションベースの配信が可能になってきた現在、このような懸念は払拭されつつあります。

加えて、通勤電車、都内のタクシー、オフィスのエレベーター、喫煙所、美容室などと連携したデジタルサイネージメディアにおいては、利用者属性や視聴環境がわかりやすく、すでに一定以上のクオリティを担保したターゲティングが行われていると判断してよいでしょう。

デジタルサイネージメディアの真価

企業のマーケティング担当者がデジタルサイネージメディアを起点に施策を立案する場合、何を意識するべきなのでしょうか。

私はあくまでも「リアルな顧客体験」をベースにプランニングをするべきだと考えます。インプレッションだけを優先し、デジタルサイネージメディアの本質的な価値や、他メディアと比較した優位性を理解できていない状態で、広告代理店に提案されるままに予算を投下することだけは避けるべきです。

『進撃の巨人』や「デジロー」の事例に見られるような、その空間ならではの特性を活かしたリアルな体験の提供こそがデジタルサイネージメディアの本当の価値です。リアルな体験をきっかけに生じた強い感情が、クチコミやSNSによる拡散を誘発して話題を呼び、さらに多くのメディアの露出へつながる。このような流れで情報が動いていくことを重視しながら、一次体験の先のPR効果まで想定した施策を考えてみることが大事だと思います。
 

用語集
Facebook / Instagram / SNS / インプレッション / キャンペーン / クチコミ / クッキー / コンバージョン / スマートフォン / ターゲティング広告 / デジタルサイネージ / ヒット / 広告代理店
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