天才たちから学ぶ! 「プロモーション企画」に役立つ9冊
各業界のエキスパートにオススメの書籍を教えてもらう本連載。今回お話をお聞きしたのは、株式会社CHORD 代表取締役の明坂真太郎さん。明坂さんは、テレビ東京などでマーケターとして活躍し、2023年に独立して企業のプロモーション支援や経営戦略の支援などを行っている。今回は、Webを活用した集客、プロモーションを考えるにあたって参考になる書籍について教えてもらった。
企画に必要なのは、企画者の熱、受け手の理解、そして伝え方
明坂さんは、2023年に独立し株式会社CHORDを設立。キャリアとしては、SIerにてSEを経験後、SEOコンサルティング企業を経て、リクルートジョブズ(現リクルート)に入社。その後、テレビ東京にてコンテンツの企画やプロモーション、権利管理、営業戦略など、テレビ業界のマーケティングに幅広く従事した経験をもつ。
現在は、老舗企業からベンチャー企業まで幅広く成長戦略の支援や、他社と協業しプロダクト開発などを手掛けている。
企画をする上では次の3点が必要だと明坂さんはいう。
- 企画者のこだわりと熱量
- 受け手(=伝える相手、たとえば消費者や顧客)の理解
- 伝え方の引き出しを増やすテクニック
まず、企画をする人が「これをやりたい」「これを作りたい」というこだわりがなければいいものは生まれません。それが企画者の熱となり、推進力となります。そしてその企画が受け手に理解されるためには、受け手がどういうコンテクストにあり、価値観をもっているのかを知らなければなりません。例えば、SNSでギフトカード1,000円プレゼントをすれば応募する人は多いかもしれませんが、本来の目的にかなった応募者かどうかはわからないですよね(明坂さん)
さらに、受け手の理解については、深さと広さの両方が重要だという。
テレビ番組では、たとえば特定の知識がある人だけに伝わるおもしろさを持ちながら、わからない人がみても十分楽しめるようなものはヒットコンテンツとして多くの人に届きます。深さと広さ、これはそれぞれの人のコンテクストを理解しているからできることです(明坂さん)
そして、その企画を伝えていくための引き出しはアイデアの掛け合わせなので、引き出しを増やして企画としてアウトプットしていくためのテクニックが必要になる。
そこで、今回はこの3点を軸に書籍を紹介してもらった。
企画者の熱の4冊:天才クリエイターたちは何を考えているのか?
1冊目
『1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』(高橋弘樹:著 ダイヤモンド社:刊)
1冊目に紹介するのが、元テレビ東京社員で「家、ついて行ってイイですか?」などの人気番組の企画・制作を務めた高橋弘樹さんの書籍だ。「企画者の熱」「受け手の理解」「伝え方の引き出しを増やすテクニック」という3つの要素も含めて、本書には企画に必要な要素がすべて入っている。
著者の高橋さんは没入させることにこだわりがあって、それは「家、ついて行ってイイですか?」にも表れていると思います。街頭でたまたま声をかけた人の話で60分間ひきつけるテレビ番組を作るのは難しいことに思えますが、没入感を起こす工夫があることで、それを実現させています。読んでいて「なるほど!」と思う箇所が多くて、本当にまるごと1冊読む価値がある本です(明坂さん)
2冊目
『企画脳』(秋元康:著 PHP研究所:刊)
そして2冊目は、稀代のヒットメーカー秋元康さんの書籍だ。
秋元康さんは、市場をゼロから作れる天才マーケターでもあります。この本は特に最初の3割に本質的なことが書かれていて、秋元康さんにしか見えない景色を知ることができます。本の中に「モグラ叩きゲームにハマってはいけない」という表現があります。ヒットする番組や歌手は、すぐに類似した二番煎じが出てきてしまい、そのモグラを叩く作業に追われてしまう。となるともうその戦場で戦っていてはだめで、新しいインプットを増やして、これまでとは違うところに種を巻き続けていくことが大切になります。こうしたことが書いてある、企画者の矜持を感じる一冊でした(明坂さん)
3冊目
『悪意とこだわりの演出術』(藤井健太郎:著 双葉社:刊)
3冊目は、TBSのプロデューサーで「水曜日のダウンタウン」などを手掛ける藤井健太郎さんの書籍だ。「水曜日のダウンタウン」のような、他にはない切り口の企画は、時に賛否両論を巻き起こすこともある。
こだわりのベクトルをここまでもっているから、エンタメとしてあそこまでおもしろいものが作れるのだなとわかりました。僕は、アーティストはたとえ炎上してもクリエイティブがある限り、そしてそのクリエイティブにファンが居続ける限り、消えることはないと思っていて、藤井さんもアーティストなんだと感じます(明坂さん)
4冊目
『佐久間宣行のずるい仕事術――僕はこうして会社で消耗せずにやりたいことをやってきた』(佐久間宣行:著 ダイヤモンド社:刊)
そして4冊目にあげたのが、佐久間宣行さんの書籍だ。佐久間さんは、テレビ東京で「ゴッドタン」「あちこちオードリー」などを手がけながら、ラジオパーソナリティとして活躍。現在は、フリーランスのプロデューサーとして、時には演者として、さまざまなテレビ局の番組作りなどで活躍している。
組織の中でどうやって企画を通すのか、チームとしてどう動くのかといったマネジメントやチームビルディングの話、自身のキャリアや立ち位置まで幅広く書かれています。佐久間さんは、フリーのプロデューサーとして、Netflixやテレビ東京で非常におもしろい番組を作っていて、それを生み出すための要素や思考が書かれています(明坂さん)
受け手を理解するための4冊:顧客理解と行動経済学
5冊目
『「心」が分かるとモノが売れる』(鹿毛康司:著 日経BP:刊)
著者の鹿毛さんは、エステー化学で数々のヒットCMを手掛けるなど、著名なマーケターだ。明坂さんは、グロービス経営大学院で鹿毛さんの教えを受けたという。
人間が購入に至る意思決定には言葉で説明できない心の動きがたくさんあって、なぜ買うのかを直に見に行く(問いかけに行く)ことが大事だということは講義でも教わりましたし、本書にも書かれています。実際、なぜその商品を選んだのか、完全に言語化できる人は少なく、無意識の部分が大きいでしょう。人の無意識に着目するという視点が身につきます(明坂さん)
6冊目
『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(西口一希:著 翔泳社:刊)
6冊目は、顧客理解のための定番の一冊だ。
この本は、マーケティングの初心者の方にもオススメで、フレームワークに落とし込みやすい内容です。製品が売れていない理由について、認知が足りないのか、興味をひけていないのか、リピーターがいないのか、競合に負けているのかなど、定量的に把握する思考が身につきます。そして、それぞれのセグメントの顧客のことを考えて、打ち手を考えようということが書かれています(明坂さん)
7冊目
『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(ダン アリエリー:著 熊谷淳子:訳 早川書房:刊)
人間は、論理的ではない不合理な行動をとってしまうことを、行動経済学が明らかにしている。こうした行動経済学について学ぶなら、この本がオススメだ。
「ラーメンじゃなくて情報を食っている」というワードのネットミームがありますが、無意識にブランド名やそれにまつわるストーリーが美味しさの判断に影響することがあります。
また、ファミリーマートがプライベートブランドを「ファミマル」に刷新した時、「負けていたのは、イメージでした」という新聞広告を出しました。業界1位のコンビニとファミリーマートのお弁当のブラインドテストをすると、味の評価は変わらないのに、「おいしそう」というイメージでは負けている。そのイメージを覆して1位を目指す、という表明です。
人間は不合理な行動をしがちなので、それを理解した上で、企画の切り口を考えていくことが必要だと思います(明坂さん)
8冊目
『ブランディングの科学 誰も知らないマーケテイングの法則11』(バイロン・シャープ:著 前平謙二:訳 加藤巧:監訳 朝日新聞出版:刊)
8冊目も行動経済学を学ぶ本だ。「本書はやや難しいが挑戦してみてほしい」と明坂さん。
この本では、あらゆる業界で認知度が高い製品は顧客の購買頻度も高い、つまりロイヤル顧客といわれる人も多く、結果としてマーケットシェアも高いと述べられています。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復させた森岡毅さんの著書『確率思考の戦略論』でも、「認知率、配荷率、好意度」に経営資源を投下することで売上が決まると書かれています。認知と好意ってそんなシンプルな…と驚くのですが、人のインサイトを探る顧客理解と合わせて、人類の行動原理について行動経済学を通して学ぶことで、ミクロとマクロの両方からアプローチできます(明坂さん)
引き出しを増やすための1冊と書籍以外の情報源。書を捨てて街に出ることも
9冊目
『考具 ―考えるための道具、持っていますか?』(加藤昌治:著 CCCメディアハウス:刊)
熱意をもった企画を届けたい人に届けるには、アイデアが必要だ。そのアイデアを生み出すために参考になるのが次の書籍だ。
1つのアイデアに対して、他のアイデアとの組み合わせや転換のフレームワークがたくさん紹介されている本です。この本を読むだけで企画の種は生まれませんが、アイデアの探し方やアイデアがある時の調理方法が書かれています。調理方法の引き出しが多いほど、素材に最適な方法を見つけられます(明坂さん)
書籍以外の情報源
書籍以外のインプットについても聞いてみた。
「SNS 事例」「プロモーション 事例」で検索しても、良いなと思うまとめに出会うことがあまりないので、Notionで事例データベースを自作して蓄積するようにしています。
情報の収集元としては、X(旧Twitter)に加え、「日経クロストレンド」「ブレーン」などの業界専門誌、「Web担当者Forum」、「AdverTimes.(アドタイ)」などの専門メディアを見ています(明坂さん)
また、ニュースや一般メディアなども広く見るようにしているという。
Xでは、気になるクリエイティブやコピーなどをシェアしている人、おもしろい事例をシェアしている人をフォローしています。自分もそういう人になりたいと思っているので、積極的に発信もしています(明坂さん)
実際のクリエイティブの現物を見に足を運ぶことも多いそうだ。
渋谷や新宿はOOH(Out Of Home:屋外広告)が多いので見に行きます。先日は、隙間時間に働ける「タイミー(Timee)」が、手すりや段差などいろいろな隙間を広告スペースにしているという話を聞いたので、見に行きました。足で稼がないと見えないものもあるから、おもしろいプロモーション企画やイベントは現地に見に行くようにしています(明坂さん)
今回は、プロモーション企画という観点から書籍を紹介してもらった。お話を聞いて、書籍やメディアはもちろん、話題のテレビや商品、街の中まで幅広くアンテナを張っている姿が印象的だった。
明坂真太郎(あけさか しんたろう)
株式会社CHORD 代表取締役
ちょっと笑えるプロモーション企画や、テクノロジーを活かすデジタルマーケティングが得意なマーケター。
SIerでのエンジニア職を経験後、マーケターとしてリクルートにて広告、SEO、アライアンス、コンテンツ、アクセス解析など、メディアの集客におけるデジタルマーケティング全般のディレクションを担当。2017年、テレビ東京コミュニケーションズに入社し、テレビ東京に出向。地上波番組のプロモーションや広告の企画、自社運営メディアの集客、ファンコミュニティ運営などに従事。
2022年、自身が企画・プロデュースした広告(全国放送っぽくふるまっていた件に関してのお詫び)で新聞広告賞、日経広告賞を受賞。
現在は独立し、企業のマーケティング支援やプロモーション企画などを行う。
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