パナソニック コネクト CMOに聞いた「組織で活躍できるマーケター」になるための9冊!
業界のトップで活躍する人にオススメの書籍を教えてもらう本連載。今回は、パナソニック コネクトでCMOを務める山口有希子さんに、マーケターとして組織の中で活躍するために必要なことが学べる書籍を教えてもらった。山口さんは、CMOとして活躍するだけにとどまらず、ダイバーシティ推進担当役員でもあり、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンを経営戦略の重要イニシャティブとして積極的に取り組んでいる。
組織の中で成功するのは、周りを刺激し動かすことができる人
山口さんは、B2Bソリューションビジネスを担うパナソニック コネクトで、取締役 執行役員 ヴァイス・プレジデント CMOを務める。またダイバーシティ、エクイティ戦略など、カルチャー改革も担い、会社全体のトランスフォーメーションも推進している。そして2023年4月、分かれていたデザイン部門とマーケティング部門を統合して誕生したデザイン&マーケティング本部のトップとなった。
これまで弊社の中で、デザインというとプロダクトデザインやエディトリアルデザインのイメージが強かったのですが、今ではUIデザイン、サービスデザイン、ブランドデザイン、コミュニケーションデザインなど、その役割は大きく広がっています。
マーケティングも同様に、タクティクスである施策だけを担うのではなく、戦略、企画、オペレーションに関わり、顧客起点で価値を創出することが重要になっています。デザインとマーケティングのどちらも、企業経営や戦略を意識して顧客起点で考える必要がありますし、実際に、連携することで相乗効果が生まれ始めています(山口さん)
そこで山口さんに、組織人としてのマーケターが、組織の力を引き出すために読んでおきたい書籍を紹介してもらった。
1冊目
『The 12 Powers of a Marketing Leader: How to Succeed by Building Customer and Company Value』(Thomas Barta、Patrick Barwise:著 McGraw Hill:刊)
残念ながら、日本語翻訳は刊行されていないが、「ぜひチャレンジして読んでほしい」と山口さん。著者のThomas Bartaさんは、グローバルCMOを対象にした教育プログラムの講師をするなど、世界中の多くのCMOに影響を与えている人物だ。
マーケティングリーダーとして成功するために必要なのは、リーダーシップをもって、より良い変化を起こせる力であると本書には書かれています。そのためには、上司を、同僚を、チームを、そして自身を"mobilize"(刺激を与えて動かす)することが必要で、それにより企業の中で影響力のあるマーケティングリーダーになれるのです。
私が30年マーケターとして働いている中で出会った成功している人の共通点は、いろいろな人とつながり、ハブになって、部門、会社、社会全体により良い変化を起こすことができること。これは本書の内容にもつながります。
本書は、世界6万8千人のリサーチデータを踏まえて論じられているのもポイントで、類書がないと思います(山口さん)
顧客起点を徹底するためには、聞く力が必要
次に、マーケターがプロジェクトの一員あるいはリーダーとして、成果を出すためにはどう動くべきかを考えるのに参考になる本について聞いた。オススメの1冊として紹介されたのが次の本だ。
2冊目
『LISTEN--知性豊かで創造力がある人になれる』(ケイト・マーフィ:著 篠田真貴子:監訳 松丸さとみ:訳 日経BP:刊)
これからの新しいリーダーに求められるのは聴く力だと思います。そして聴くとは、単に聞くのではなく、相手と向き合うことです。1 on 1ミーティングをやっている企業は多いと思いますが、聴く力によって成果は大きく異なります。プロジェクトメンバーの話を聴き、現場の課題を本当に理解することができないと正しいプロジェクト運営ができないと思います(山口さん)
そして、顧客の声を聞く時に参考にしたいのが次の1冊だ。
3冊目
『企業の「成長の壁」を突破する改革 顧客起点の経営』(西口一希:著 日経BP:刊)
製品を作る人は製品起点、営業の人はセールス起点になりがちですが、どの部署でも顧客起点で考えることが重要です。N1インタビューを行うマーケターも多いと思いますが、必要なのはニーズをヒアリングするよりも、本質的な課題を理解することで、ここでも聴く力、理解する力が求められます。
顧客が大切という企業は多いですが、徹底している企業は少ないですし、パナソニック コネクトもまだまだチャレンジ中です。現在会社全体で顧客に向き合えるようにカルチャー改革をしているところですが、経営全体で顧客起点の考えをもつために、重要な視点が凝縮されたこの本は大変参考になります(山口さん)
デザインで会社のカルチャーを変革する
プロダクトデザインに限らず、デザインを活用できる領域が広がっていることを冒頭でも触れた。そこで読んでおきたいのが次の本だ。
4冊目
『これからのデザイン経営--常識や経験が通用しない時代に顧客に必要とされる企業が実践している経営戦略』(永井一史:著 クロスメディア・パブリッシング(インプレス):刊)
デザインにおいても、ユーザーについての理解やユーザーのかかえる課題、世の中の動きを理解する必要があり、それはマーケティングと同じです。本書では、ユーザーに共感をして課題を定義すること、ユーザー理解からデザインを考えることの重要性が書かれています。事業戦略、企業戦略にも、デザインとマーケティングが関わり、より良い影響を出せる時代になっていますし、組織文化のデザイン、価値創造のデザインという点では、デザインは経営と繋がることが重要だと思います(山口さん)
パナソニック コネクトでは2022年に新たな事業会社として発足する際に、パーパスを策定した。新会社の発足に伴い、デザインチームがさまざまな分野に関わるようになったことで、オフィスデザインや展示会、営業資料などあらゆる場面でブランドのトーンが浸透し、エクスペリエンスそのものが変わったという。
また、2023年4月にはデザイン部門とマーケティング部門を統合し、総勢200名の「デザイン&マーケティング本部」を発足した。顧客起点のトランスフォーメーションを進め、デザインとマーケティングの機能を企業経営に最大限生かしていくことを目的とする。
カルチャーが軽やかでスピード感のある企業でないと、企業存続が危ぶまれるのではないでしょうか。そして、組織全体で顧客起点の考え方を浸透させるためにもデザイン&マーケティングは重要だと考えています(山口さん)
推進するためには、志をもたなければならない
企業運営を推進するために重要になるのが「志」だ。パナソニックの創業者である松下幸之助氏が著者である次の書籍は、パナソニック社員だけでなく、社会人として、人として参考になる哲学が書かれている。
5冊目
『道をひらく』(松下幸之助:著 PHP研究所:刊)
最初に志を立てよ、と書いてあり、これは何においても重要です。私にとってはバイブルで、何回読んでも価値がある言葉が見つかります。たとえば「日々是新(ひびこれあらた)」という言葉がありますが、毎日アップデートする大切さを心に刻んでいます(山口さん)
次に、大前研一さんが開いた「一新塾」の1年間の教育プログラムに山口さんが参加した際、使っていたテキストを紹介してくれた。
6冊目
『「根っこ力」が社会を変える~志と共に市民の時代を生きる』(一新塾:著・編集 ぎょうせい:刊)
本書では、まず自身の志を探求し、社会の現状、課題をとらえ、新しい自分がどのように課題解決をしていくかを6つの箱で考えるフレームワークが紹介されています。自分の根っこである志と、幹であるアクションを近づけていかないと、両方とも細くなって枯れてしまいます。何を自分が目指すのか、何が理想なのかという点から、自分が本当にやりたいことを見つけることも重要です。自分のキャリアを自分で設計するという視点に通じることだと思います(山口さん)
山口さんはこのコースで知り合った仲間と、不登校の子どもとその親をサポートするNPOを立ち上げ、現在副理事を務めている。
そして、志高く、市政を変えていった事例として参考になるのが次の書籍だ。
7冊目
『「じゃなかしゃば」 新しい水俣』(吉井正澄:著 藤原書店:刊)
「じゃなかしゃば」とは、「こんなつらい世の中(娑婆)ではない(じゃなか)別の世の中」という意味だそうだ。著書の吉井正澄さんは、水俣市の元市長であり、1994年に水俣市長として水俣病犠牲者慰霊式で初めて謝罪し、水俣市を新しい「環境都市」に導いた。
吉井さんが市長になった当初、患者団体は16に分かれておりバラバラの方向を向いていたそうです。吉井さんはその団体1つ1つと膝を突き合わせて話をしてまとめあげ、水俣市の次の方向性として「環境都市」という道筋を示しました。水俣病という複雑な問題を抱えた地域において、志を立て、それを実現するために課題を解決し続け、改革を進めた実例として参考になります。サステナビリティの意識をこの当時から推進されていたのも注目です(山口さん)
新しい感覚、価値観を与えてくれる
山口さんは、部下が上司に助言をする「リバースメンタリング」を実施しているとのこと。定期的に新卒社員に最近やったこと、おもしろかったことなどを教えてもらっているそうだ。直接話すことで新しい世代の価値観を感じることができるという。その際、新卒社員の一人からオススメされたのが次の1冊だ。
8冊目
『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(最果タヒ:著 リトル・モア:刊)
この本は詩集で、著者の言葉の選び方、言葉の紡ぎ方の感覚が自分とは全然異なっていて、何か新しい世界観を彷彿とさせる現代アートのように感じました(山口さん)
次の本は、山口さんが10年以上前に読んで印象に残っているというSF作品だ。本には白い薄紙でカバーがされており、大切にされていることが伝わってきた。
9冊目
『滅びの風』(栗本薫:著 早川書房:刊)
ある日突然、日常が終わる。哲学的で、メメント・モリ(死を想え)という言葉を思い起こすような小説で、常に死を意識して生きよう、つまりは、生きている時間を大切にしよう、という気持ちになる小説で、読みやすいですが、深いなと感じる本です(山口さん)
SNSでさまざまな人と気軽につながる
最後に、書籍以外の情報ソースも聞いてみた。新聞などの情報もデジタルで読むことが多いという。
グローバルのCMOのポッドキャストを聞くことが多いです。あとは、Facebook、LinkedInなどのソーシャルメディアで情報を集めます。
私は、記事などを読んでおもしろいと思ったら、その著者とつながるようにしていますが、そういう方の発信するSNSは非常に参考になります。先日は、前職でお世話になった海外の方からSNSを通して連絡があって、会うことになりました。日本だけでなく、グローバルな人たちとすぐにつながれるのは、ソーシャルメディアならではですね(山口さん)
グローバルな視点でフットワーク軽く動いている山口さん。興味・関心の広さも魅力的でした。オススメの書籍は、マーケターが組織の中でどう活動の場を広げ、多部門と連携していくかを学べる本です。ぜひ、参考にしてください。
山口有希子(やまぐち ゆきこ)
パナソニック コネクト株式会社
執行役員 ヴァイス・プレジデント CMO デザイン&マーケティング本部
パナソニックのB2Bソリューション事業会社におけるCMOとして、国内外のマーケティング組織・機能を強化しつつ、企業トランスフォーメーションをドライブしている。
DEI(Diversity, Equity and Inclusion)担当役員、企業カルチャー変革、およびサステナビリティ推進室も担当。
日本IBM、シスコシステムズ、ヤフージャパンなど複数の日本企業・外資企業にてマーケティング部門管理職25年以上従事。
日本アドバタイザーズ協会 デジタルメディア委員会 委員長
メタバース・ジャパン理事
Mashing UP(DEI)理事
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