転職したがるマーケターの本音とは? マーケターのキャリアパスを考える
こんにちは、テレビ東京の明坂です。
先日、「Web担当者Forumミーティング 2022 春」というビジネスイベントにお呼びいただきまして、“マーケターのキャリア”をテーマに、パネルディスカッションのパネラーとしてお話をさせていただきました(https://webtan.impress.co.jp/e/2022/08/05/43001)。
セッションでは、「マーケターって転職する人多いよね」という話で盛り上がりました。キャリアの話、特に転職に関係する話は、多くの方に関係するテーマですし、私含め周囲のマーケターたちも複数回の転職経験者が大半です。実際に、知人15人にヒアリングしたところ、30代での平均勤務社数はおよそ3社でした。
世間一般においては30代だと平均2.2社ということなので、その数字と比べてもマーケターは転職が多いという感覚に当てはまりそうです(私の交友関係が特殊なだけの可能性はあります)。今回は、そんなマーケターと転職というテーマを深堀していきたいと思います。
より良い経験を得るために転職している
なぜ転職が多いのでしょうか。前述したイベントにていくつか仮説を話し合いましたが、今回コラムを書くにあたって改めて考えてみると、以下のような形にまとめられるのではないかと思いました。
- 知識と経験をインプットし続ける必要があり、一社では経験に限界があるため
- 自身の在りたい姿が時間とともに形成されたり、変化したりするため
- 業界の成長、変化が早く、売り手市場であるため
少し自身の経験を元に話します。私は現在所属しているテレビ東京で、新卒から数えて4社目です。2010年にした最初の転職こそ、リーマンショックによる不景気での会社の業績悪化という、やむにやまれぬ事情ではありつつ、それ以降の転職は毎回目的があって転職しています。
2回目の転職でリクルートに入社した際には、「Webサービスにおける集客を極めたい」という意識を持って転職活動をしていました。某求人メディアの集客担当となった私は、あらゆるメディアへ有料広告を出稿し、SEOやコンテンツマーケティング、SNSを始めとした自社内の施策に至るまで、さまざまなチャネルでの施策を実行。PDCAで得た結果を蓄積し、自社内でナレッジ共有する仕組み作りまでをフルスイングした経験は、強固な基盤となり、現在の私を支えています。
その「経験を得るために転職」という手段をとったのは、扱える予算の大きさ、見えるデータの量など、大手企業という環境でしか得られない経験があるのではないかと考えたためで、実際にその考えは概ね正しかったと思います。
仮に、書籍やビジネススクール、講座やラーニングサービスなどを通じて、どんな環境にいても体系的なインプットができるのであれば、転職以外の選択肢もあるかもしれません。ただ、テクノロジーの進歩や、SNSなどメディアの盛衰による消費者行動の変化など、外部環境の変化スピードは加速度的に上がっています。これらを加味すると、現実的には転職という形で、現状の自身が求めるインプットができる環境へ移ることを選んだマーケターは多いと思います。
市場や競合といった必然的に外部を意識する業務を行う関係上、その組織の中で高みに居続けられるだけのインプットで満足することなく、その枠を超えてインプットし続ける姿勢を持つ----これは、専門家としてのスタンスとしては素晴らしいものの、一方で企業の立場から見ると良いことか悪いことか難しいところではあります。
自身の「在りたい姿」は変化していく
このコラムを書くにあたって、知人数人にこれまでのキャリアについてインタビューを行いました。その際に、それまでのキャリアの中で「飽きた」という言葉が複数人から共通して上がりました。おそらく文字通りの仕事に飽きたというわけではなく、その言葉の裏側を推測すると、「自分が得たいと思うものが尽きた」「在りたい姿と企業が求める姿にズレが生じた」「社外に興味のあるものができた」などといった意識から出ている「飽きた」だと感じます。
よくマーケターには“社内にロールモデルやキャリアパスが無い”という話を聞きます。確かに、マーケティング部門があり、執行役員あたりまで登っていく道筋や必要なスキルが見えていれば、それは1つの道標として参考になると思います。しかし、実際にはさまざまな道を模索する。これは迷子になっているということではなく、在りたい姿が時間とともにシフトしているためかもしれません。
たとえば、個々の在りたい姿が経験獲得とともに具体化される、あるいは自身のスキル習得重視から社会への貢献重視になるなどです。転職活動は、在りたい姿の追求を率直に実行しているようにも見えます。一点目にあげた要素との掛け合わせになりますが、在りたい姿が経験とともに移り変わり、その姿を実現するためには環境を変えざるを得ない、ということがあるのではないでしょうか。
また、私が話を聞いた中では、「昇進したい」「管理職になりたい」というモチベーションを持っているという声は出てきませんでした。権限を持つことで自由にできる事が増えるのか、責任が増えて望まない役割をせざるを得ない事が増えるのか、状況は企業によってまちまちだと思いますが、キャリアパスが無いと感じることは、このあたりの意識とも結び付いているのかもしれません。
マーケターという職種は売り手市場
冒頭で、外部環境の進化と変化スピードについて言及しましたが、それはつまり職種としての市場が伸びており、売り手市場であるということです。
転職サイト「doda(https://doda.jp/)」に掲載されている転職求人倍率レポート(2022年8月18日発表)によると、職種別の求人倍率の推移において、ITエンジニアがコロナ禍にも関わらず著しく上昇しています。マーケティング職(と思われる)の企画・管理についても上昇しており、ニーズが上昇していることがわかります。ITエンジニアの増加がWebサービスやメディア、アプリなどの増加・拡大につながるであろうことを考えると、企画職も相関して上昇していくことが推測されます。
売り手市場であるということは、マーケターにとっては選択肢が多くなります。企業側の採用の難しさを鑑みると、待遇交渉などもしやすいでしょう。
また、「マーケティング担当が居ないから一人で全部やってほしい」みたいなケースはともかく、事業拡大にあたって、「広告運用する人がほしい」「SEOに詳しい人がほしい」「リサーチやデータ分析の設計をする人がほしい」など、比較的汎用的かつ定義されたスキルとして可視化し易い要素で適正判斷しやすいという特徴があります。こうした点も、スムーズな転職ができる理由の1つではないでしょうか。
想いを自らの心に刻んで、良い仕事をしていきたい!
かくいう私も、20代のころはがむしゃらにスキルを追い求め、自身が社会の誰をどうやって幸せにしたいのか、という観点はあまり持っておりませんでした。30代では得られる経験と貢献したい社会の重みが徐々に変化し、今では斜陽産業といわれることも多い過渡期のテレビ業界であえて働いています。おそらく、今後も価値観は変化していくでしょうし、現場で経験しながら学び続けるスタイルは継続していくでしょう。
転職のきっかけはポジティブなものだけではありません。むしろ、何かしらのミスマッチを伴うネガティブな要素も含むことが大半だと思います(それをどう表現するか次第ですが)。しかし、誰もが経験するそのタイミングで、それぞれが考え、受け止め、自ら道を作っていけるのもマーケターの強みだなと思います。あまり道が見えていない中で転職するのもなぁ、とか思っている方もあまり気負わず、自らのやりたい道を進むとよいのではないでしょうか。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」とはリクルート創業者の江副さんが生んだ言葉ですが、私は今でも心に刻んで生きています。多くの市場を創出してきたリクルートらしい言葉ですが、私的にはもう1つリクルートで好きな言葉があります。ビジョンに掲げられている「Follow Your Heart」という言葉で、訳すと「あなたの心に従いなさい」。その言葉には、「自らが夢中になれる時、より良い未来が生み出せる。自分に素直に、自分で決める、自分らしい人生という世界を実現する」といった「想い」が乗っています。想いを自らの心に刻みながら、今後もより良い仕事をしていきたいと私は思います。
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それでは。
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