【レポート】デジタルマーケターズサミット2022 Winter

オウンドメディアはブランドに貢献できるのか? LIFULLが検証を重ねて学んだ成功の秘訣

期待通りの成果を上げることが難しいオウンドメディアの運用。自社のブランド認知を高められていると語る「LIFULL STORIES」に、ブランディング指標やKPI、記事の質の高め方について聞いてみた。

LIFULL(ライフル)が運営するオウンドメディア『LIFULL STORIES』は「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを伝えるべく「しなきゃ、なんてない。」というコンセプトで、既成概念にとらわれない生き方への気づきや後押しにつながるコンテンツを発信し続けている。

オウンドメディアは企業ブランドにどう貢献できているのか。「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」のセッションでは、ブランディング目的のオウンドメディア運用について、株式会社noteの徳力氏がモデレーターとなり、株式会社LIFULLの畠山氏と田中氏に詳しく話を聞いた。 

株式会社LIFULL クリエイティブ本部 畠山大樹氏(左)、同社 LIFULL STORIES編集長 田中めぐみ氏(中)、株式会社noteプロデューサー 徳力基彦氏(右)

オウンドメディアのコンセプト作りは企業理念から

株式会社LIFULLでは、2017年4月の社名変更を機にマスターブランド戦略の推進を開始し、当初は社名認知を高めるために、テレビCMを中心としたコミュニケーションを行った。しかし数十秒のCMだけでは、提供価値を伝えきるのが難しく、継続的に企業姿勢を発信できるコンテンツとしてオウンドメディアに取り組み始めた。それが「LIFULL STORIES」だ。「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、多様な人のインタビュー記事を掲載している。 

コーポレメッセージからコンセプトを創造

「しなきゃ、なんてない。」というのは、既成概念にとらわれず「あらゆる人が自分らしく生きられる未来へ」という意味で、「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージから導き出されている。セッションでモデレーターを務めたnoteの徳力氏は「オウンドメディアを作る時は、企業理念や位置づけから始めるのが大事」と評価する。

インタビューをメインに構成

LIFULLの畠山氏の主な業務は、LIFULL全体のブランディングを見ながら、オウンドメディアをどう活用するのかを考えていくこと。LIFULL STORIESもその一環であり、企業の姿勢を大切にしている。

LIFULLブランド全体としての社会課題に向き合う姿勢を提示し、各事業が解決に取り組み、連動したコミュニケーション戦略をおこなう。企業ブランドとプロダクトブランドの互助関係・相乗効果を最大化することで、認知向上・信頼構築を促進する構造を目指している(畠山氏)

社是として「利他主義」を掲げていることもあり、日本最大級の不動産・住宅情報サイトである「LIFULL HOME'S」では物件情報を届けるだけでなく、住まいを借りづらいLGBTQや高齢者の相談に乗ってくれる不動産会社を紹介するサービス「FRIENDLY DOOR」も提供している。他にも日本最大級の介護施設情報を掲載している「LIFULL 介護」や空き家の利活用による地方創生をおこなう「LIFULL 地方創生」など、さまざまなサービスを提供していて、それぞれの相乗効果を図っている。

計測しやすいKPIを設定

ブランディング活動の指標は「LIFULLというブランドを知っていただき、さらには理解や好意、信頼につなげていく」こと。これは、テレビCMとオウンドメディアの両翼で進めている。オウンドメディアの効果測定はなかなか難しいが、LIFULL STORIESの場合は、ブランディング指標から逆算し、計測しやすい指標をKPIとして設定している。たとえば、来訪者数はアクセス解析で、認知者数はアンケートを取っているとのこと。

ブランディング指標と各施策KPI

オウンドメディア運用で重視している指標

セッションでは、オウンドメディア活用の実際について、LIFULL STORIESの編集長を務める田中めぐみ氏も交えてディスカッションした。まずは、オウンドメディアを運用するうえで、重視している指標はどれかという話題だ。

LIFULLブランドの認知が目的のオウンドメディアなので、サイトの認知、およびサイト認知者内のLIFULLブランドの認知という指標を重視している。効果を確認する方法として、Webアンケートや、まだ回数は少ないがオンラインインタビューを実施している。定量的な観点と定性的な観点の両面からオウンドメディアの効果を、定点的に聴取している(畠山氏)

また「トラッキングしやすい数値として、オーガニックやリファラルの流入」を日常的に追っている。田中氏は、現場の視点として定量的なものだけでなくSNSのコメントなどもチェックしている。

数字面は目標があるのでそこに向けて動くということで意識はしているが、それだけ追っていると燃え尽きるというか、ちょっと辛い時もある。そういう時に、ユーザーさんの直接の感想コメントを見るともすごく励まされるし、こういうところで影響を出せているなら嬉しい(田中氏)

SNSでの反響もチェック

徳力氏によれば、数字に引っ張られ過ぎないようにするのはいいことだと言う。PV数を増やすために“釣り記事”ばかり載せるようになると、ブランディングにとっては逆効果。また田中氏は「記事を作る時には、自分たちの意見に誘導しないように気をつけている」と言う。そもそも、既成概念を取り払おうというコンセプトなのに、自分たちの考えを押しつけるのは矛盾する。

私たちはあくまで中立な立場で、こういう見方があるけれど、こちらから見たらこうも見えるという、多様な視点を提供したい。それが伝えられない記事だったら、取り上げるべきでないという思いでやっている(田中氏)

ブランディング指標とKPIの図で見ても、一番下の流入数などの数値は、目的であるブランディングからは距離が離れている。もちろんKPIを追うことも大事だが、それがKGIであるブランディング指標にどうつながるのか?を時間軸も意識して取り組む必要がある(畠山氏)

オウンドメディアは会社の宣伝を無料や格安でできる手段だと思っている人がまだ多いが、そのブームは数年前に終わっている。宣伝されたいと思っている人は誰もいない。オウンドメディアは、読者、ユーザーの会話に入っていく、会話のネタを提供しなければいけない(徳力氏)

記事の質は企画で決まる

オンラインセミナーならではだが、セッション中にチャットで来た質問についても、ディスカッションされた。「ブランディングには記事の質が大事だと思うが、どのような工夫をしているのか」という内容だ。

もちろん、文章や写真のクオリティは、お金を支払えば上げることができる。しかし、オウンドメディアでかけられるコストや工数には限度があり、落としどころが必要だ。これについて田中氏は「記事の質という意味では、企画が一番大事」と言う。

インタビューは、こちらがして欲しい話を相手がしてくれるとは限らず、始まってしまうとコントロールしづらい。このため「誰のための記事なのか」「何がテーマで、どういう人に話を聞くべきか」が最初に明確になっている必要がある。そこから、インタビューするならこの人がいいのでは、とアサインする。

たとえば『コミュ症は克服しなきゃ。なんてない』というインタビュー記事が、私もすごく面白かった。コミュニケーションがテーマで、コミュニケーションでどういうことに人は困っているのかや、人とのコミュニケーションが苦手と思う人はどういうところに壁があるのかを、チーム内でかなりディスカッションした(田中氏)

LIFULL STORIESのうまくいかなかった例とうまくいった例

さらにセッションでは、実際に運用していて想定よりうまくいかなかったケースや、思った以上にうまくいったケースを紹介してもらった。

失敗例:ブランド指標向上のためのサイト流入増加施策

最初の頃にうまくいかなかった話として、畠山氏は過去、LIFULL STORIESでWEB広告を実施した際の話を紹介した。

LIFULLのブランド認知、サイトの認知を上げるというのがあったので、最初はとにかく人がたくさん来てくれれば知ってくれるだろうと思い、CPC(クリック単価)が低いサイト流入目的の広告を複数メディアに出稿した。そのタイミングでは流入数が増えるが、そこから続いていかない。直帰率が上がって、結局広告実施前に戻ってしまった(畠山氏)

広告流入では読者が定着しなかった

想定としては、広告で流入した人がそのまま定着し、次の広告で流入した人も定着することで読者(認知)が積み上がっていくと期待していた。しかし、特定のテーマについてのメディアであれば、そのテーマに興味がある人がそのまま定着するだろうが、多様なテーマの記事があるため、それが難しかったのだ。そこで、KPIを広告以外の流入に変更した。これは、一度広告施策をやってみたうえでの、トライ&エラーがあって得た学びだとも言える。

成功例:親和性の高い人へのアプローチ(タイアップ・記事出稿)

逆に、思った以上に効果が高かった例として田中氏が紹介したのは、タイアップだ。ひとつは「青葉家のテーブル」という映画とのタイアップCM。2021年6月から3カ月間の期間限定だが、LIFULL STORIESとの親和性の高い人にきちんとアプローチできたことが、アンケート結果で確認でき「新しい間口を広げるうえで、すごく知見が溜まった」と言う。

また、流入増加を期待して、はてなブックマークのユーザーに合いそうな記事を選び、定期的に記事出稿を行っている。はてなブックマークはコメントのやりとりが多く、ユーザー同士のコミュニケーションが活発なプラットフォームだ。コロナ禍で世の中的に疲れが溜まっていた2021年冬頃に出稿した記事は、思っていた以上の反響があった。田中氏は「癒やしを求めて来てくれたのでは」と感じていると言う。

はてなブックマークへの記事出稿

オウンドメディア運用で大事にしてきたこと

最後に、オウンドメディア運用に取り組む際のヒントとして、以下のようなコメントをもらった。

LIFULL STORIESを3年間やってきて理解したことは、何のための、誰に向けた、どういうことを伝えたい記事/メディアなのか見失わず、愚直に企画を考えることを大事だということ(田中氏)

不確実な時代に、顧客としっかり関係を築くために、オウンドメディアの役割や重要性が高まっている。その時に、自社が伝えたいことより、世の中の人が求めていること、他の人に伝えたくなる話を意識することが大事(畠山氏)

徳力氏は「オウンドメディアは第一次ブーム、第二次ブーム、第三次ブームと、ブームのたびに終わったと言われてきたが、インターネットで自分たちの伝えたいことを自分たちで伝えるのは基本的な取り組み。LIFULLのように、自社の理念とシンクロする伝えたいことを見つけるとうまくいくと思うので、ぜひトライしてほしい」と締めくくった。

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