リード獲得数が約4倍に! DXに取り組むパイオニアから学ぶB2Bマーケティングの戦略づくりの基本
1938年創業のパイオニアは、音響機器やカーナビなどのコンシューマ商品で知られる老舗企業だ。パイオニアは2019年3月末に投資ファンドの出資を受けて非上場企業となり、ビジネス変革の真っ只中である。
「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」に、パイオニアの大野耕平氏が登壇し、老舗企業が事業のデジタル改革へどのように取り組んできたのかと、B2Bマーケティングチームの成果を上げた取り組みを紹介した。
車載機器メーカーからモビリティデータを活用したソリューションサービス企業への変革を目指す
パイオニアは1938年に創業し、スピーカーなどの音響機器からビジネスをスタート。従業員は約1万人(2021年9月末時点)の老舗企業だ。現在はモビリティサービスやモビリティプロダクトなど、車に関する事業がメインとなっている。
パイオニアは、2019年3月末に投資ファンドの出資を受けて非上場企業となり、ビジネス変革の真っ只中だ。「未来の移動体験を創ります」というビジョンを掲げ、カンパニー制の導入や経営陣の刷新などを経て、新しい領域のビジネス展開を進めている。
具体的には、パイオニアが保有する「Pioneer Mobility Data(パイオニア モビリティデータ)」と呼ばれるデータの活用だ。
- 2006年から蓄積した約80億キロの走行履歴データ
- 2017年から蓄積した約60万地点の“ヒヤリハット地点”(事故などが起きやすい場所)
- 2013年から蓄積した約1.4億枚の位置情報に基づく走行画像など
これらのビッグデータを渋滞予測や災害影響予測、災害対策、運行計画といった社会課題を解決するビジネスに活用していっているという。
新しいパイオニアは、プロダクトビジネスは依然として強みとして持ちつつ、モビリティデータを活用したソリューションサービス企業への変革を目指しています(大野氏)
DX・デジタルを担う外部人材を積極的に採用し、現存社員との融合を推進
しかし、事業の変革(DX)は簡単ではない。特に、ハードウェアからソフトウェアビジネスへの転換を担う人材不足は大きな課題だった。そこで、パイオニアでは、コト作りへの変革を推進すべく、外部人材を積極的に登用しており、大野氏自身、2022年1月に中途入社している。
大野氏が所属するB2B向けのビジネス領域では、法人向けの運行管理・支援サービスの「ビークルアシスト」のマーケティングに取り組んでいる。「ビークルアシスト」は、2015年から展開しているクラウド型の運行管理サービスで、カーナビや通信型ドライブレコーダー等と組み合わせて、業務車両での事故削減や車両管理業務、業務効率化をサポートするものだ。
カーナビやドライブレコーダーから車両の位置情報を取得し、事故のあった場所や、事故になりそうな危険運転があったときにその動画を撮影・サーバーに動画を格納して、車両管理者にリアルタイムに送信するサービス(大野氏)
社有の車両は地図上にマッピングされ、運行管理者はドライバーの運行状況を把握し、日報やレポートなどの作成業務を効率化できる。また、ドライブレコーダーのセンサーや画像解析AIによって、急加速や急ハンドル、急減速などの危険運転を検知すると、「急減速を検知しました。安全運転を心がけましょう」というアナウンスが流れ、ドライバーに注意喚起を促し、車両管理者にその情報を連携することで事故の抑制に役立てられている。
ペルソナやカスタマージャーニーがない!?……戦略なき戦術は無意味
大野氏が入社当時、マーケ担当者からは「ウェビナーの集客が思わしくない」「展示会のリード獲得数も思わしくない」「Webサイトのアクセス数が思わしくない」といった相談を受けたという。
大野氏がさまざまなヒアリングを進めていくと、商品のペルソナやカスタマージャーニーがないことがわかった。
ペルソナやカスタマージャーニーがないまま施策を行うことは『設計図面がないまま、家を建てているようなイメージ』。ペルソナ(典型的なユーザー像)やバリュープロポジション(提供する価値の組み合わせ)、カスタマージャーニー(ペルソナがどんな行動、感情、思考を持って、商品やサービスを選ぶかを時系列でまとめたもの)は、マーケティングにおける『戦略』であり、これがなければ効果的なマーケティングを実施できません(大野氏)
マーケティングを「市場を創ること」と定義するなら、この目的を達成するためのシナリオが「戦略」だ。そして、戦略を実現するための計画(マーケティングプラン)があり、個々のマーケティング施策は「戦術」にあたる。
大野氏は中国古代の兵法家である孫子の言葉を引いて「戦略なき戦術は無意味」だと話した。しかし、マーケティングの現場ではしばしば「言語化しなくてもなんとなくわかっているから」「言語化が面倒だから」といった理由で、戦略を立てずに施策を実行している場合がある。大野氏は面倒でも言語化した方がよいと強く推奨した。
1か月でペルソナ、バリュープロポジション、カスタマージャーニーを作った方法
ペルソナ、バリュープロポジション、カスタマージャーニーのこの3つを大野氏は、たった1か月で作り上げたという。その方法を紹介していった。
大野氏はまず、営業エースをみつけ、営業同行をしたという。現在は商談がウェブ会議で行われることも多いので、簡単に毎日同行することができる。商談でお客様がどのような話をしているのかを聞き、顧客ニーズを確認した。
次に、営業の生き字引と呼ばれるようなベテラン営業担当者に毎週2時間、「購入するお客様はどんな人か」、「どうやって購入に至るか」をヒアリングした。さらに、見込み顧客に電話をしているインサイドセールスの担当者に電話内容を確認することにも取り組んだ。
理想はお客様のところに足を運ぶことだが、コロナ禍で難しい場合も多い。定性データ、定量データ、社内に散らばる情報のかけらを集めて、それらをまとめて言語化するだけでも十分に価値があります(大野氏)
顧客像と課題を高い解像度で言語化。戦術を変え、リード獲得数は前回比約4倍に
こうした活動の結果、ぼんやりしていた顧客像や課題を高い解像度で言語化できるようになり、マーケティングチームや営業部門、さらには一部業務を委託しているパートナー企業とも同じ意識を持ってビジネスを行うことができるようになった。
顧客像と課題を明らかにしていく中で、ペルソナである総務担当者は「安全運転管理者」を兼任している方が多く、2022年4月からのアルコール検査の義務化の対応に追われていることがわかったという。
「安全運転管理者」とは、道路交通法で定められた「安全運転管理者制度」に基づき、選任および警察に届け出る必要がある者のことだ。道路交通法令の遵守や交通事故の防止を図ることを目的に、交通安全教育や運行計画の作成、交代運転者の配置などの広範な業務を行わなければならない。さらに、2022年4月からは運転者の運転前後のアルコール検査が義務化され、業務負荷が高くなることが想定されていた。「アルコール検査の義務化」は入社以前から社内で注目されていたが、「安全運転管理者」は見落とされていた。
そこで、パイオニアは課題解決のソリューションとして、2022年2月からアルコール検査義務化をテーマに展示会の出展、ウェビナー開催を行い、安全運転管理者の課題解決にフォーカスしたコンテンツを用意した。その結果、展示会のリード獲得数は前回比約4倍、ウェビナーの申込者は前回比約6倍となり、アポ獲得数は前月比約1.5倍という成果を上げることができた。「今まで闇雲にやっていたことも、基礎設計をちゃんとすると数字は伸びる」と大野氏。
現場に飛び込む勇気を持ち、お金よりも知恵を使ってマーケティングを成功へ導こう
今後も、オウンドメディアや動画、各種広告施策、導入事例、SNS、マーケティング施策の拡充、戦略の随時アップデートなど、やるべきことは山積みだ。これらをすべてやろうとするといくらお金があっても足りない状態になる。
講演の最後に大野氏は、次のように聴講者にエールを送りセッションを終えた。
営業へのヒアリングをしていた際に、ビークルアシストに対するマーケティング組織ができる前、ビークルアシストを販売していた営業担当者は業務の合間に、今の10分の1程度の予算と時間で、効果的な成果を出していたことを知りました。営業は、顧客像と顧客の真の課題を知っているということなんです。マーケティング担当者も営業現場に飛び込んで営業と同じ感覚を持ちながら、お金だけを使うのではなく、知恵を使って自社のマーケティングを成功に導いてください(大野氏)
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