オンラインイベントを活用したBtoBフルファネル戦略とは? ~博報堂 庄司氏 × ON24 上田氏 対談~
デジタルファーストが進む中、オンラインによるBtoBマーケティングへの期待が高まっている。オンラインイベントからクロージングに至るまでの一連の施策で、どのようなことを意識すればよいのか。
「デジタルマーケターズサミット 2022 Winter」では、顧客体験設計のスペシャリストである博報堂の庄司健一郎氏と、オンラインイベントプラットフォームを提供するON24(オン・トゥエンティーフォー)の上田善行氏が登壇。オンラインイベントを活用したBtoBフルファネル戦略のコツやポイントについて語り合った。
BtoBマーケティングのDXによる部門間の分断を生じさせないために
対面での顧客接点が得難くなり、BtoBマーケティングのDX(デジタルトランスフォーメーション)は企業にとって重要な課題となっている。そうした状況下においてフルファネル戦略を考える上で、「オンラインイベントは非常に重要な打ち手となる」と、冒頭から庄司氏は断言。BtoBマーケティングを取り巻く環境変化について解説していった。
リアルで行われていた商談会や展示会、セミナーなどが一気にオンライン化したことで、『効果が落ちてしまうのではないか』『うまく行う方法はないものか』と戸惑う声は多い。しかし、そうしたオンラインイベントをより効果的なものにできれば、今まで以上に大きなチャンスになるはずだ(庄司氏)
デジタル化なくして成長なし
ここ数年でマーケティングを取り巻く環境は大きく様変わりしている。コロナ禍はもちろん、以前から人材不足の影響やデジタル環境への親和性の高まりなどもあり、マーケティングのアプローチそのものが大きくデジタルにシフトしてきた。そうした状況に適切に対応することは、もはや経営レベルの課題といえるだろう。
マッキンゼーの調査によると、BtoB企業において、デジタル施策に積極的な上位25%のBtoB企業は、その他75%のBtoB企業に対して、「収益成長性」「EBIT(Earnings Before Interest and Taxes)」「株主利益」などの多くの指標で大きく上回っているという。もはやデジタルへの投資は不可避の事項であり、「デジタル化なくして成長なし=Digital or Die」ともいえる状態というわけだ。
デジタルを駆使した新しい営業スタイルの必要性
とりわけコロナ禍によって、従来型の対面によるセールス手法が通用しなくなり、契約件数に影響しているのは間違いない。「ここから脱するには、アナログ型からハイブリッド、そして完全オンライン型へと、根本の考え方を変える必要がある」と庄司氏は語り、「既存顧客のデータから見込み顧客を拡張的に見出す『アカウントベースドマーケティング』など、データを駆使して効率的にアプローチする、新しいセールス手法が主流になっている」と指摘した。
マーケ・セールスの分業による、情報の分断という弊害
新しいスタイルの仕組みづくりでカギとなるのが、マーケティング部門と営業部門の“デジタルを活用した分業”だ。従来は全プロセスを営業担当者が属人的に担っていたものを、新たなリード獲得はマーケティング、ナーチャリングはインサイドセールス、そしてクロージングやアフターケアをフィールドセールスというように、顧客のデータを共有しながら複数の部署が連携して対応するわけだ。
しかしその結果、マーケティングはリード数、セールスは商談や契約数というように、社内で異なるKPIを追いかけるコンフリクトが生まれている。つまり、企業はデジタル化という課題だけでなく、デジタル化による分断という問題も抱えることになる。
また、BtoBマーケティングとセールスの領域においては、とかく「すべきこと」が多い。MAツールの導入・運用、オウンドサイトの改修、集客のメディアプランに加え、クリエイティブやコンテンツ、オンラインイベントの企画・運営、さらには営業との連携も重要だ。
庄司氏は「すべてを自前で行うことは不可能。かといって外部パートナーは部分的な支援にとどまり、全体をコーディネートし、コントロールすることも難しいという企業が多い。そこで、トータルに頼れる相手が必要ではないかと考えた」と語り、BtoBマーケティング&セールスをフルファネルでサポートする、博報堂グループの専門チーム「GRIP & GROUWTH」を紹介した。
フルファネルで総合的なプランニングを行う「GRIP & GROUWTH」
「GRIP & GROUWTH」について、庄司氏は「分断しがちなデジタルマーケティング&セールスを一気通貫でサポートし、BtoBコミュニケーションについて『顧客の課題は何か』を起点にフルファネルで統合的なプランニングを行っていくのが特徴。チーム名には、顧客とつながり、顧客と成長するという意味が込められている」と説明する。
具体的には、顧客の問題解決ジャーニーを次の6つのフェーズに分けた上で、フルファネルでの全体最適の観点からそれぞれ打ち手を考え、提案・実行するというものだ。
- サービス認知:これまで知らなかったサービスやブランドを認知する。
- 情報収集:各社のサイトや比較サイトを閲覧し、資料を集める。
- 選択肢検討:パートナー候補を数社に絞る。
- 比較検討:絞ったパートナー候補から具体的な条件や見積もりを取る。
- 条件検討・商談:クロージングの段階。マーケティングからセールスに顧客情報が受け渡され、契約へと進んでいく。
- サービス活用:購入・契約後のアフターケアおよびCS(Customer Satisfaction:顧客満足)でクロスセル、アップセルにつなげる。
顧客の問題解決で各フェーズに貢献する「オンラインイベント」
庄司氏は「重要なのは、自社の価値によって顧客の課題に寄り添い解決し続けることで、『頼られる関係』になっていくこと」と語り、そのために欠かせないものとして「コンテンツ」をあげ、「自社が提供できる価値が何なのか、それが顧客の課題解決にどのように役立つのかを、顧客目線でコンテンツ化し、常時アップデートしていく。そうすることで、顧客との良い距離感をつくることができる」と解説した。
そして、コンテンツのなかでも特に重要な役割をもつのが「オンラインイベント」だという。たとえば、認知拡大のためのオンラインイベントやカンファレンスといった大掛かりなもの、顕在顧客開拓のためのコンテンツマーケティングやウェビナー、さらに顧客支援のフェーズでは既存顧客向けのコミュニティをつくるラウンドテーブルや、小規模セミナーなども該当する。
オンラインイベントの適用範囲は広く深く、BtoBマーケティングに欠かせない打ち手だ。新たな顧客の創出にも、見込み顧客の育成にも役に立つ。さらには、既存顧客のLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)向上にも貢献し、マルチな存在といえる(庄司氏)
そこで必要となってくるのが、「考え方のシフト」だ。従来のリアルイベントは単発で、半年や四半期に1度程度というペースで開催されることが多かった。そのため、知見も蓄積されず、都度企画されがちだった。そこで庄司氏は、「『イベント』から『コンテンツ』へと捉え直すべきではないか」と指摘する。
つまり、イベントは一過性のプロモーションで、効果測定が困難、かつ実施することが目的化していた。それを“コンテンツ”として顧客との継続的な関係構築を目的としたものとし、マーケティングプラットフォームとして仕組み化し、常時最適化して成長の源としていく。常にアップデートされた最新の情報を発信し続けることで、顧客との継続的かつ密接な関係構築に役立てようというわけだ。
こうした「コンテンツ」としてのオンラインイベントを継続的に行うために最適なプラットフォームとして紹介されたのが、オンラインイベントプラットフォーム「ON24」である。
「ON24」で継続的な関係構築を実現
ここからはON24の上田氏が、「ON24」の特徴について解説していった。
「ON24」は、セールス部門につなげていく「デマンドジェネレーション」と、購入・契約後の「カスタマーサクセス」の2つの領域に対応。マーケティングフェーズにおいては「ウェビナーマーケティング」「イベントマーケティング」の業務領域で成り立ち、ユースケースの多くがこの2つに集中しているという。
1つのプラットフォームでウェビナーとオンラインイベントの開催が可能であり、さらに蓄積されたコンテンツをポータル経由でより多くのユーザーに提供できる。また、アカウントベースドマーケティングの一環としてターゲティングしたユーザーに向けてキャンペーン配信することも可能だ。そのすべてのデータは統合されており、他のシステムとも連携できることも強みだ(上田氏)
たとえば、見込み客がウェビナーやバーチャルイベントに参加しコンテンツを閲覧すると、データがインサイトとして取得・蓄積され、有効なリードを獲得するだけでなく、次の体験としてパーソナライズすることができるのだ。
重層的な顧客とのコミュニケーションを実現
紹介されたON24デモンストレーション動画では、あらゆるコンテンツや仕組みがフル活用され、「コンテンツの持続的なジャーニー」を実現。重層的な顧客とのコミュニケーションが描かれていた。
たとえば、あるユーザーが広告を閲覧して、ON24プラットフォーム上で「ウェビナーに参加する」「資料のダウンロード」「講演者とSNSでつながる」など、さまざまな体験をしたとする。すると、営業担当者は、それらの顧客体験データをもとにタイミングよく無料トライアルなどの働きかけができるようになる。
特定顧客専用のランディングページを作成し、情報を集約できるだけでなく、コンテンツハブをつくり、さらに体験を深めていくことが可能になる。そのため、営業担当者と面談したときには、ユーザーは十分な情報に触れており、かなりの確度で成約に結びつけることができるわけだ。
2,000社にのぼる導入実績
「ON24」はすでに欧米のエンタープライズを中心に2,000社に導入されており、特にテクノロジーや製造、金融サービス、ライフサイエンス(製薬企業)、士業といわれるプロフェッショナルサービス、BtoB情報サービスなどでの活用が進んでいるという。日本でもソフトバンクや富士通、三井化学などで活用が始まっている。
導入部門は80%がマーケティング部門、20%がDX推進チーム。KGIとして全体的な売上高が向上するだけでなく、それぞれがもつKPIの改善にも大きく寄与しているという。たとえば、SaaS型ワークフローのプロバイダであるServiceNow社では、最も営業につながるチャネルとして「ON24」をあげている。こうした成果に大きく貢献しているのが、「ON24」ならではの「データ活用」だ。
継続的なコミュニケーションに欠かせないデータ活用
庄司氏は「ウェビナーやイベントをコンテンツとして捉えてブラッシュアップするには、データ活用が不可欠となる」と語る。
一般的なBtoBマーケティングでは、オンラインイベントはさまざまなフェーズで活用できる重要な役割を担うコンテンツだ。そこで得たリアクションなどのデータを、自社の顧客データベースと統合して、事後のコミュニケーションに生かしていける。そのため、そうした環境をあらかじめ構築しておくことが重要となる。そうすることで、一過性ではなく、顧客との継続的なコミュニケーションや関係構築につながる(庄司氏)
さまざまなMA、SFA、CRMと連携可能
そうした継続したコミュニケーションを実現するため、たとえばMarketo(マルケト)やHubSpot(ハブスポット)、Salesforce(セールスフォース)といった主要なMA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援システム)などのプラットフォームについては、API(Application Programming Interface)レベルだけでなく、連携するアプリケーションも用意。リアルタイムで緊密なデータ連携を可能にしているという。
庄司氏は、「アプリケーションを簡単にマーケットプレイスからダウンロードして、セルフサービスで連携することができれば、ON24の専門チームによるサポートも受けられる」と説明した。さらに、「ON24上でも分析ができ、ダッシュボードでの閲覧やExcelなどへのエクスポートのほか、TableauやPowerBIなどBI(Business Intelligence)ツールに統合することもできる」と強調。一人の顧客を360度分析できる上、「価格表を閲覧した」という行動をトリガーとして営業担当者につなげる機能があるなど、セールスとの連携も行いやすい。
最後に上田氏は、「デジタルファーストは定着し、もはや不可逆な流れだ。BtoBマーケティングのデジタルへの期待は非常に高まっている」と語り、「オンラインイベントをコンテンツとして生かすことで、フルファネルでのビジネス創出をしていただければと思う」と述べ、本セッションを締めくくった。
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