3万回超のA/Bテストで見えた! 顧客の行動パターンとコンバージョンするWebサイトの成功事例
Webサイト上で、顧客の行動心理を理解し、適切にコミュニケーションを図ることは、顧客満足度向上だけではなくコンバージョン向上にもつながる。「Web担当者Forumミーティング 2021 秋」のセッションでは、Web接客プラットフォームのベンダーであるSprocketの深田浩嗣氏が、3万回のA/Bテストを通して見えてきた顧客の行動パターンと、離脱の原因となる「つまずき = フリクション」を防ぎ、コンバージョン率を改善する事例を紹介した。
3万回超のA/Bテストで見えてきた顧客の行動パターンと成功事例
Sprocketは、いわゆる「Web接客」と呼ばれる分野のプラットフォームだ。パーソナライゼーション、A/Bテスト、行動分析により、コンバージョン率を改善するプロダクトである。
顧客は主にEC系(購入推進)と獲得系(資料請求/来店予約/会員獲得など)で、どちらも導入時に成果目標を定めるという。EC系であれば、Sprocketのフィーに対し何倍のリターンがあったかを見る費用対効果(ROI)を設定する。一方、獲得系であれば、フィーをリフトアップできた件数で割ったCPA(顧客獲得単価)で設定する。
2020年度は、EC系の目標ROIの平均871%に対し、実績の平均値は1,565%、獲得系の目標CPAの平均17,943円に対し、実績平均は4,836円と、どちらも大きく目標を上回る結果を残した。
ツールは、導入して使い方を習得しても、それだけで必ず成果が出るわけではない。Sprocketでは、成果を出すための試行錯誤を繰り返してきたが、同社が特に重視するのがA/Bテストだ。「気づいたら3万回以上のA/Bテストを実施していた」という深田氏。その結果から、特徴的な顧客の行動パターンが見えてきたという。そこから導き出された業界別成功事例は100を超えるという。以下にその成功事例とともに、顧客の行動パターンをいくつかを紹介する。
「つまずき = フリクション」を極力排除し離脱を防ぐ
3万回を超えるA/Bテストから見えてきたもっとも重要な点は、ユーザーは、単純なこと、思いもよらないところで、つまずいて離脱しているという点だ。このユーザーのつまずきを、「フリクション」と呼ぶ。Webサイトの体験設計では、このフリクションを極力排除し、離脱を防ぐことが重要となる。
フリクションは、主に以下の4種類がある。
- コンテンツの存在に気づかない
- コンテンツを見ようと思わない
- コンテンツに到達できない
- コンテンツの内容が理解できない
よく見られるフリクションの原因となる3つの例と、その対策を次に見ていこう。
フリクション分析から見えてきたこと①
ユーザーは思いもよらないところで離脱している
作り手側は「当たり前」と考えているWebサイトの機能であっても、その意味や使い方がわからないユーザーはどのWebサイトでも一定数存在する。そしてそれが「コンテンツの存在に気づかない」「コンテンツに到達できない」というフリクションとなり、離脱してしまうという。
フリクション解消策1
ハンバーガーメニューの使い方を提示する
たとえば、Webサイトのトップページに、いわゆる「ハンバーガーメニュー」と呼ばれるナビゲーションメニューが設置されていることがある。小さく折りたたまれているが、アイコンをクリックするとメニューが開かれる仕掛けである。Webを使い慣れているユーザーにはお馴染みのものだが、使い方がわからない人が一定程度いることが見えてきた。そこで、アイコンに吹き出しを当てることで、購入完了率が125%上がったというのが以下の図の例だ。
フリクション解消策2
ポップアップで「カゴ落ち」を防ぐ
また、ECサイトでカートに商品を追加したものの、そこで離脱してしまうユーザーも一定程度いる。いわゆる「カゴ落ち」という状況だ。そこで、購入完了せずしばらく止まっているユーザーのフリクションは、「何らかの不安なのではないか」という仮説にもとづいて、その不安を解消するようなポップアップを出すという施策も購入完了率の改善につながっている。
たとえば、「商品はいつ届きますか」「送料はかかりますか」「会員登録は必要ですか」など、購入時に多くの人が確認したい内容をいくつかピックアップして、選択できるようなポップアップを出し、クリックするとその疑問を解消するページに移動するように変更したら、購入完了率が109%に改善したという。
フリクション解消策3
ログインエラー時のイラつきを防ぐ
会員登録していても、ログイン時に必要なメールアドレスやパスワードを忘れてしまった経験はないだろうか。買い物を続けるためにパスワードリマインダーを探す手間は大きなフリクションとなり、そこで離脱してしまう人もいる。そこで、ログインエラー時にパスワードリマインダーへの導線をポップアップで提示し、そのイラつきを解消したことで、購入完了率が109%に改善した。
フリクション分析から見えてきたこと②
「セルフサービス」の前提はもう成立しない
お店に行ったり電話で問い合わせたりするのが面倒だから、オンラインを活用する。少し前までなら、多くのユーザーがWebサイトをセルフサービスでスムーズに利用していたが、最近はそれに該当しないユーザーも見受けられるという。
たとえば、これまではネット通販を使ったことのなかった高齢者も、コロナ禍で「使わざるを得ない」状況になっている。また、若者はYouTubeやTikTokなど特定のアプリを使い、レコメンドされるままに流されていれば十分楽しめるという体験に慣れてしまい、能動的にサイト内を探しまわることを面倒に感じる層が生まれているという。
こうしたユーザー層により、「コンテンツにたどり着けない」「コンテンツを見ようと思わない」というフリクションが生じている。
フリクション解消策4
目的に合わせた案内をポップアップで提示する
これを解消する施策として、目的に合わせた案内をポップアップで提示するという方法がある。商品点数の多いECサイトで、トップページに導線がたくさんあると、どのように進めばいいか迷ってしまう。そこで、サイトを訪れた目的に合わせて、いくつか選択肢を絞ってナビゲーションを出すことで、購入完了率が116%に改善されたのが以下の例だ。
他にも、以下のような例が紹介された。
- 不安を払拭する:金融系商材などで不安を解消するコンテンツへ誘導するポップアップを出すことで申し込み完了が121%に改善
- 使っていない機能を案内:「絞り込み検索」という機能をまだ使っていないユーザーに利用を提案することで、購入完了が113%に改善
いずれも、「こちらから解決方法を提案する」ことでフリクションを取り除き、コンバージョン率が改善した例だ。
フリクション分析から見えてきたこと③
ユーザーが提案を聞いてくれるタイミングがある
「解決方法を提案」するにしても、いつでも親切に声をかければいいというわけではない。これは、実店舗の接客と同じだ。入店と同時に店員さんが話しかけてきたら、ちょっと身構えてしまうが、欲しいものが決まって自分に合うサイズがあるか確認したい段階になったら、店員さんを探し始めるだろう。優れた店舗スタッフは、そのようなお客様の挙動をよく観察し、適切な声がけのタイミングを見計らうものだ。
フリクション解消策5
ユーザーが提案を受け入れるタイミングを見つける
以下の図は、カード会社が「リボ払い」の利用を提案している例である。リボ払いの案内は常にページ上に置かれているが、通常はそれをわざわざ見ようとは思わないだろう。ただし、利用明細書を確認してしばらくとどまっているような場合、「今月は使いすぎたな。どうしよう」と考えている可能性がある。そのタイミングでリボ払いを提案し、ステップを追って商材を紹介して申し込みまで誘導したことで、申し込み完了が250%に改善した事例だ。
他にも、ユーザーが提案を受け入れるタイミングをうまく拾った事例が紹介された。
- チャットでの提案:商品詳細ページでしばらく止まっているユーザーに、「何かお困りですか」とチャットを通じて話しかけることで、チャット起動率が128%に、購入完了が116%に改善
- 丁寧に導線をレクチャー:購入後再訪したユーザーに「レビュー投稿で○○のサービスが受けられます」と案内し、投稿までの導線をレクチャーしたことで、レビュー投稿完了が138%に改善
最近では、ポップアップで動画を使ったコミュニケーションも可能だ。1つ目のポップアップで動画を見てもらい、「詳細を知りたいですか?」と2つ目のポップアップを出し、Yesをクリックした場合に商品詳細に誘導するといった設計もできる。
また、企業視点で接客体験を設計すると、どうしても「売り込み」に偏ってしまいがちだが、顧客視点に立った「気の利く提案」や「つまずきケア」が重要だ。また、企業視点の情報であってもユーザーがニーズを自覚している場合には後押しになる。つまり、声がけするタイミングを見計らうことが、コンバージョン率の改善につながるということだ。
さらに現在は、「ブランドコンセプトに共感すると購入意欲が上がる」という仮説について、A/Bテストを進めているところだという。
最後に深田氏は、ツールとしてのSprocketについて簡単に紹介した。以下の図の赤枠で囲んである部分が、特徴的な機能だ。
深田氏は、「セッションではフリクションの例を3つ紹介したが、他にもたくさんある。ECサイトであればこんなところで落ちている、そこに対してこうやればいいということがご案内できるし、獲得系でも同様に検証済みの体験をご提案できるので、成果のコミットが裏付けられている」とまとめ、セッションを終えた。
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