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SEOで意図分析に取り組む朝日新聞社の「相続会議」 10ヶ月で検索流入が約50倍に

DX化が進む朝日新聞社。専門メディア「相続会議」が、SEOでユーザーの意図分析に取り組み、10ヶ月で約50倍の検索流入を達成した事例を紹介する。
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朝刊発行部数約560万部。日本第2位の購読者数を誇る朝日新聞社でもDX化が急速に進み、2018年春、新しい読者層との出会いを求めてバーティカルメディア事業を始動させた。

なかでも2019年9月にローンチした「相続会議」は、翌年2月から本格的にSEOに取り組んで以降、10ヶ月で約50倍もの検索流入数を獲得。目覚ましい成長を続けている。そこで、「相続会議」を軸に、同社のデジタル施策の今とこれからについても伺った。

左から、メディアデザインセンター・センター長代理 大野幸裕氏、「相続会議」副編集長・松崎敏朗氏、同編集長・森祐美氏、ビジネスディレクター・鈴木祥弘氏、Faber Company カスタマーサクセスチーム・坂口芽生

分野特化型メディアで新規顧客層にサービスを提供

アメリカの名門紙「ワシントン・ポスト」紙が2013年にAmazonのジェフ・ベゾスCEOに買収され、DX化して息を吹き返した一件以降、紙のマスメディアにとっても、デジタル戦略は社運を左右するものとして意識されるようになった。

朝日新聞社でもDXに取り組み、すでに朝日新聞デジタルは350万人もの会員を獲得している。2018年、新たに営業部門の直下にバーティカルメディアブランド「ポトフ」を新設したのは、やはり未来を見据えた成長戦略の一環だったという。

各バーティカルメディアをつなぐプラットフォーム「ポトフ」では現在、ペットメディア「sippo」や、中小企業の経営者や後継者向けメディア「ツギノジダイ」など計11サイトを運用中

2020年4月からメディアデザインセンターのセンター長代理に就任した大野幸裕氏は、「社員90名、業務委託を含めて110名以上のリソースをバーティカルメディアに割くというのは、企業としての決心があったと思う」と語る。

元銀行員で相続対策の融資も担当していたというメディアデザインセンター・センター長代理・大野幸裕氏

大野氏事業目的は、従来の広告型ではなくサービス型メディアとしてしっかりマネタイズしていくこと。そして新聞社として培ってきた知見と多様性のあるコンテンツの創造力を活かして、これまでタッチできてこなかった読者層との接点をもち、朝日新聞の魅力をより知ってもらうというミッションも背負っています。

しかし、事業立ち上げ時には本当に苦労したという。

記者としての自信が崩れるほど伸び悩んだ検索流入

朝日新聞の読者層と比較的近く、情報を深堀りすることで、メディアを中心にビジネス展開できそうな分野は何か。それが「相続」だった。そして森祐美氏は、朝日新聞の記者職から「相続会議」編集長に抜擢された。

森氏相続会議」は、家族が円滑に相続できるようお手伝いするメディアとして2019年9月にローンチしました。読者は大きく分けて2つ。①自分自身が財産を子に引き継いでいく親世代、そして②財産を受け継ぐ相続人となる子世代です。たとえば「遺言の書き方や相続税対策はどうすればいいか」「いざという時、慌てないために親の財産をどうやって引き継ぎ、きょうだいたちで分ければいいのか」といったお悩みに応えるコンテンツを制作しています。

「想いをつなぐ、家族のバトン」をコンセプトに2019年9月に立ち上げた「相続会議」。相続手続き、家族信託、終活など、専門家が執筆・監修した質の高い情報が集約されている

ところが編集部はすぐに壁に直面してしまう。

森氏私は相続に詳しいわけではないので、税金関係の書籍を読んで学ぶところから始めました。ただ20年近く新聞記者はしてきましたから、自分の経験で良いと思う記事を書けば、ある程度読者に読んでもらえるだろうと踏んでいたのです。ところがローンチして1ヶ月、3ヶ月と経っても、自然に増えると聞いていた検索流入がなかなか増えず、悩みました。

弁護士、税理士、司法書士など専門家に執筆を依頼するディレクションにも悩んだという。

森氏たとえば「相続税の申告のことについて書いてください」とテーマをポンと渡すだけでは、想定とは違う内容が返ってくることが多いのです。解説記事を頼んだつもりが、コラムのような内容が戻ってきたりして…。編集者としての手腕もGoogle Analytics(GA)で、PV数という形ではっきり出るので、かなり苦しい思いをしていました。

「ローンチ後3ヶ月はGAを見ても閲覧数がごくわずかの日もあり、焦りました」と話す「相続会議」編集長・森祐美氏

SEOへの取り組みを検討、でも機械の言いなりになるのは嫌⁉

相続会議」には、ゆくゆくは相続で悩む人を税理士、弁護士などのプロとつなぐお悩み解決型サービスを展開する構想があった。まず読まれなければ、それも絵に描いた餅だ。伸び悩む検索流入を見て、ビジネスディレクター・鈴木祥弘氏はSEOに本格的に取り組むことを提案したという。

鈴木氏Web記事は、新聞販売所の人がユーザーに届けてくれません。しかも、ユーザーにとって有益な情報を自分たちで届ける必要がある。それをするのがSEOです。たとえば子どもが遊園地に行きたいといっているなら、釣りや山登りじゃなくて遊園地に連れて行くように、対象者の目的が果たせる記事を届けなくてはいけません。読者は目的が果たせるからこそ、お金を払います。

特に「相続会議」はニッチな部分に特化したサービス型サイト。読むだけではなく、使われないと意味がない。ある程度ニーズが顕在化したユーザーを、検索から集客できるような体制を早急に作らないといけない状況でした。

とはいえ、ゼロからSEOに取り組む上で、どのメディアでもコストの話は避けて通れない。「相続会議」編集部は、外注するのではなく内製化し、自走する道を選んだ。

鈴木氏相続は専門性が高いテーマ。SEOを踏まえて指示できる編集者を雇い、記事を専門ライターさんに外注するとなると、ものすごくコストが高くなります。これはやっぱり自分たちで学んで内製化するしかない、という結論に達しました。

広告営業の経験を活かし、バーティカルメディアの収益性を高める施策に取り組むビジネスディレクター・鈴木祥弘氏

副編集長・松崎敏朗氏は、内製化のためのツール選びの段階で「内心ワクワクしていた」という。

松崎氏「相続会議」に携わる直前まで、弊社が現在推進している記者のデジタル実務研修を関連会社で受けていたので、SEOに抵抗感はありませんでした。当時はGAを見るのが苦痛なぐらい検索流入もPVも芳しくなかったので、記者時代にはなかった新しい手法にチャレンジできるのは楽しみだなという気持ちでした。

記事企画から、ツールで検索意図を読み解いた構成案作成、GAのデータ分析まで担当する副編集長・松崎敏朗氏

一方で森氏は、複雑な心境だったという。

森氏ツールを使ってSEOに取り組むって、これまで記者としてやってきたことをどこか否定するような感覚と言いますか…。新聞記者って、現場に行って人に話を聞いて、情報を記者の目で精査して記事にすることが一番だと思っていたので、なんだか「パソコンを叩いて機械的に記事にする」ような偏見をもっていましたね。

ユーザーの検索意図分析に目からウロコ!

いくつかのツールを実際に体験して、編集部で導入を決めたのが「MIERUCA(ミエルカ)」だった。選定ポイントは、「視覚的に理解しやすいところ」「教育面を含めた内製化支援があったから」だという。SEOは正直やりたくなかったという森氏も、“学べる場があること”でSEOへの意識が180度変わったそうだ。

森氏検索意図分析を、Faber Companyの「ミエルカ大学」で体験したことで、目からウロコが落ちました。たとえば「インフルエンザ」という言葉で検索する人が知りたいことは何か、というテーマがありました。ツールで分析すると、
「インフルエンザ+潜伏期間」というキーワードで検索する人は、まだかかり始めで自分の状態を知りたがっている人
「インフルエンザ+ワクチン」だと予防接種を受けたい人、
「インフルエンザ+出社or風呂」だと、いつから外出や入浴をしていいか不安な人、
というふうに、まったく異なる背景があると理解できるのです。それだけでも「異なるペルソナに沿って3本の記事が必要だな」と納得できました。

新聞記者は、長年取材やファクトチェックを繰り返してきたからこそ、ツールから知り得たヒントを元に、さらなる「深掘り情報」を発信できるのが強みだ。それに気づいた森氏は「SEOは機械のいいなりになるわけでも、他の記事を真似するわけでもないんだ」と積極的になれたという。

現在、編集部は4人。SEOのノウハウや自社独自の業務フローを動画で管理し、人材教育に活用できる「Draw(ドロー)」も併せて導入。体制づくりを強化することも決めた。

「ドロー」の管理画面。マニュアルの動画を順番に見ることで、作業手順を誰もが共有できる

「贈与税+ばれる」の分析結果から鮮明に見えたユーザー像

こうして2020年2月、検索意図を分析するツールと、その分析を記事に反映するノウハウ共有ツールを手に入れた3人は、SEOを意識した記事制作を開始した。するとすぐにヒットコンテンツが誕生した。2020年4月の公開から「贈与税+ばれる」のキーワードで翌年1月現在も1位をキープしている以下の記事だ。

松崎氏贈与税の検索意図を分析していた時に、「贈与税+ばれない/ばれる」というキーワード群があったんですね。なんだろうってところから深堀りしていきました。すると「贈与を受けたことがばれたらどうなるのか」を気にしているペルソナが、一定数いることがわかりました。

「贈与税」を検索するユーザーが何を知りたがっているかを分析した意図分類図から、 「ばれる/ばれない」の意図グループを発見。構成案を制作していった

正しい情報を、読者の知りたい流れで届ける

1歩間違えると“法の抜け道”指南にもなりかねないセンシティブなテーマだ。YMYL(幸福、健康、経済的安定、安全に影響を与える情報)領域では、特にE-A-T(専門性・権威性・信頼性)が検索順位に強く影響する。だがGoogleの方針以前に、記者として「読者に正しい知識を届ける」という矜持があった。

松崎氏森と相談して、元国税専門官のライターさんが、この問題については誰よりもお詳しいだろうと考えて執筆を依頼しました。

依頼時には、ミエルカの検索意図分析から「書いてほしい内容」と「項目の順番」を指示した構成案を一緒に渡した。戻ってきた原稿の感想はどうだったのだろう。

松崎氏構成案通り、いや正直なところ、文句のつけようがない出来栄えでびっくりしました。元国税専門官だけに、読んだ瞬間に「親や祖父母からもらったお金を自分の口座に入れておくと、こんなふうに贈与されたものだとわかるようになっているんだ」と、流れが明快になりました。

記事配信後は検索順位もどんどん上昇して1位に。「これがSEOだ」と手応えをつかんだという。

ユーザーの検索意図を読み解きながら編集会議

話題になる前に「種まき(投稿)」を終え、目印の看板を立てる

記事配信がWebという広大な畑に種を植える行為だとすると、重要なのは種まきの時期。加えて、どこに何の種を植えたのか、読者にもGoogleにも、はっきりわかる「看板(タイトル、見出し、図表)」を掲げることも忘れてはならない。これらを意識して成功したのが、2020年3月に公開された2つの記事だ。

配偶者居住権は2020年4月1日に導入された新制度。法改正直前に投稿しておくと流入が増えると考え、記事を準備していたという。

松崎氏検索意図を調べると、まず「配偶者居住権+問題点」というキーワードから、「新制度に期待感はあるけれど、問題点があるのか? あったら自分は使うべきか?」と概要を知りたがっているニーズが分析できました。もう1つ抽出できたのが「配偶者居住権+登記」です。「配偶者居住権での登記を進めていく手段、申告方法」を知りたいというニーズでした。
よく「SEOは網羅性が大事」といわれるので、最初はこれを1本の記事にまとめるべきか迷いましたが、ミエルカ式コンテンツ企画では「1検索意図に1コンテンツ」が基本。そこで2本に切り分け、1本は私が弁護士さんに取材し、節税の記事は専門の税理士さんに構成案を渡して執筆依頼しました。

「配偶者居住権」を検索するユーザーをグルーピング機能でニーズごとに分け、「1ペルソナ1コンテンツ」を徹底した

新制度はなかなか複雑で、一般人には理解し難かった。そこで松崎氏が用意したのが、相関図やフローチャートだ。

松崎氏施策に伴走してくださっているFaber CompanyのCS(カスタマーサクセス)坂口さんから、「この記事なら図表があったほうがわかりやすいし、ユーザーフレンドリーですよ」とアドバイスいただいたので、関連会社のデザイナーに作成を依頼しました。

内容をパッと理解できるこの“看板”は功を奏した。検索結果上でより目立つ特別な方法(=強調スニペット)として表示されるようになったのだ。2021年3月現在、両キーワードとも表示され続けている。

テキストよりも手順や図、箇条書きの方がユーザーにとってわかりやすい場合、検索結果画面の最上位にこのように表示されるケースがある

投稿後も“意図ズレ”を見つけたらすぐ改善

同じく “看板”の1つである記事タイトルの付け方にも成功例が生まれている。分析結果から意図がズレている点に気付き、ちょっとした修正だけでメキメキ流入が増加。「相続+弁護士相談」で検索1位(2021年1月現在)になった。

一種の圧迫感のある「相談すべきこと」より、「弁護士にどこまで何を相談できるのか、相談前に何を準備すればいいか」というユーザーの気持ちに応えたタイトルに変更

こうして本格的にSEOに取り組んで以降、3ヶ月後約8倍、半年後に約32倍、10ヶ月後には約50倍と、自然検索流入は着実に伸びていった。

ミエルカ導入前の1月から12月までの自然検索流入(セッション数)の伸び

特筆すべきは2020年12月現在、「自然検索流入(SEO)が流入チャネルに占める割合が78%にまで上昇したことだ。しかも「朝日新聞」や「相続会議」などを含む指名検索ではなく、相続にまつわる一般キーワードから流入するユーザーが99%以上。つまり相続に関することで悩んで検索し、メディアにたどり着いた新規ユーザーとの出会いを、確実に創出できているといえる。

2020年12月の内訳は自然検索流入(約78%)、サイト/ブログ経由(17%)
メディア名や朝日新聞系列だと知らない新しいユーザーとの出会いを創出している可能性が高い

「相続」単体キーワードでは依然、銀行、コンサル会社、国税庁などのサイトが検索上位を占める。しかし後発メディアにもかかわらず「相続会議」がほぼ1年で、検索10位前後の位置につけていることは、大きな成果といえるだろう。

「良い記事を悩んでいる人に届ける」 新聞もSEOも根本は同じ

森氏は当初、相続関連キーワードで1位をとろうと気負っていたそうだ。

森氏「1位を取らねば!」と気負っていた時、「国の制度説明は国税庁が1位で当たり前。ここではこの5位のサイトが競合です。なぜなら…」と、坂口さんがユーザー目線で具体的なポイントを示し、目標も提示してくれ、発想を転換できました。
画面の向こう側に、相続について何かしら心配事や不安を抱えるユーザーがいて、どうやれば情報を届けられるのかを一心に考える。それって、これまで記者としてやってきたことと変わりません。これからも質、信頼度ともに相続のナンバーワンメディアを目指したいですね。

CSの坂口芽生(左)は「『相続』は専門性の高さが問われる難しい分野。読者のリアルな像をこれまでしっかり見てこられた記者さんだからこそ、スピード成長できたのでは」と語る

松崎氏は、SEO未経験の記者から質問を受ける機会が増えたという。

松崎氏僕の理解では、SEOってつまり、S=洗練して(検索意図を考えて)、E=選りすぐった記事を(構成案と記事を作成)、O=多くの人にお届けすること(検索エンジンでデリバリー)」。そう説明すると、ストンと理解してくれる人がいるんですよ。良い記事を悩んでいる人に届ける。今までと根本は同じなんだと。

ツールを使いこなし、SEOの価値を伝える“社内伝道師”に

2020年に次々とサービスをスタートさせてきた鈴木氏は、さらに新サービスの展開を企画し、進めている。

鈴木氏弁護士検索は2020年5月、税理士検索は8月、土地活用のプラン請求は9月に、それぞれサービスを開始しました。また、ここまで規模が拡大してきたので、今年3月には司法書士検索も始めました。今後は、不動産売却の一括査定サービスなども実装していきたいですね。
誰もが検索意図に応える記事制作ができ、集客から総客までのシステムを回せる体制を、ミエルカとドローで整えることができました。現在、4メディアで活用しています。

統括の大野氏は今後、「エバンジェリストとしての活躍を『相続会議』のメンバーに期待したい」という。

大野氏短期間でこの成果を出せたことは、やはりわかりやすい指標になります。彼らには、ツールを使いこなしたSEOのスペシャリストになり、今後はその価値を伝道師として社内に資産共有してもらいたい。朝日新聞全体のブランド価値を上げることに寄与できるよう、期待しています。

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