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ローカルSEO×SEOで、EC売上4倍&来店増! 老舗和菓子店のDX施策とは?

コロナ禍で打撃を受ける和菓子業界のなかにあって、SEO施策、ローカルSEO施策で、EC売上増&実店舗への来店増を実現した老舗和菓子店の事例を紹介します。

「売上を伸ばすことができるDXやデジタル化について教えてほしい」。地方で中小企業を営む経営者から、私が所属するFaber Company(ファベル カンパニー)にそのような相談が持ち込まれるケースが増えてきている。新型コロナウィルスや人材不足などにより、地方や中小企業を取り巻く環境は厳しさを増す一方だが、これを乗り越える1つの材料となるのが、デジタルマーケティングだ。そこで、本記事ではECの売上4倍、実店舗の来店増にもつながった老舗企業のデジタルマーケティング実践事例を紹介する。

今回の取材にご協力いただいたのは、「木村屋」取締役・吉野薫氏

山形県で創業134年を迎える和菓子店「木村屋」。全体売上の2割を占めるお土産の売上が半減するなど、コロナ禍で大きな打撃を受けた。しかし、そこからデジタル施策に力を入れたことで、起死回生の糸口を掴んだ。コロナ禍を経て老舗和菓子店はどのようにマーケティングのデジタル化を進めていったのか。地方の老舗企業ならではの苦労やその乗り越え方などについて伺った。

和生菓子市場の小売金額(推定)は5年でマイナス20%。コロナ禍でさらに減少傾向

新型コロナウィルスで各産業が大きな打撃を受けている。その1つが和菓子業界だ。2016年と2020年を比較すると、和生菓子の小売金額(推定)はマイナス約20%、菓子全体に占める小売金額の構成比率はマイナス約2%。金額・構成比率ともに大幅に減少している(全日本菓子協会の調査データ参照:http://anka-kashi.com/statistics.html)。

同協会の調査によると、「彼岸の仏教催事・入卒業時の謝恩会、各種愛郷など和菓子需要が大きい催しが開催されないことによる売上が減少したこと」「空港や主要駅の利用客の大幅な減少の影響などによる販売機会が失われたこと」などが、減少している要因としてあげられている。そんな逆風が吹く中、売上を伸ばしている地方の老舗がある。山形県にある老舗和菓子店「木村屋」だ。

和生菓子の小売り金額と構成比(全日本菓子協会の調査データを基に著者作成)

木村屋は、明治20年(1887年)に山形県初のパン屋として創業した。屋号は、初代が「酒種あんぱん」で有名な東京銀座木村家で修業し、暖簾分けを許されたことに由来する。現在は、山形県に17店鋪を展開し、和洋菓子やパンなどの販売を行う。自家製の粒あんを使った和菓子「古鏡」、明治20年から作り続けるあんぱんなど、「自家製あん」にこだわった和洋菓子を取り揃える。数々の賞を受賞し、地域に親しまれる名品はもとより、お土産品としても人気を集める商品を製造・販売している。

木村屋では「自家製あん」にこだわった和洋菓子を取り揃えている

ECサイトの売上が3件から300件に? 放置していたECに異変

2020年の木村屋は、コロナ禍により壊滅的な打撃を受け、苦しい期間を過ごしていた。取締役・吉野薫氏(38歳)は、「全体の2割ほどを占めているお土産や法要関連の売上が半減した」と当時を振り返る。

この苦しい期間でも、光明が見えた出来事があった。同社では和菓子だけでなく、クリスマスケーキなどの洋菓子も販売しているが、EC経由のクリスマスケーキの売上が急増したのだ。「何となく作った」というECページ。7~8年前にネット上で注文を受け付けたときは、わずか3~4件しか注文がなく手ごたえがなかった。その後ネット予約の受け付けをとりやめていたが、コロナ禍により来店予約や直接の受け渡しが難しい状況になったため、数年ぶりにネット予約を受け付けることにした。するとすぐに、300件ほどの注文があったのだ。

吉野氏は「県外の方だけでなく、地元のお客様のネット注文ニーズもかなりあるのは意外でした」と驚きを口にする。地元はまだまだ直接の購入が多いだろうと考えていたが、その予測は外れた。

デジタル化やDXという概念は、「東京」「都会」「大企業」の話で、地方にある老舗の弊社とは程遠い存在だと思っていました。しかし、目の前のお客様たちはECでの購買を求めている。老舗だということにあぐらをかかず、変革をしていく必要があると感じるようになりました(吉野氏)

木村屋のECページ。2020年にはケーキの特設ページを設けた

ローカルSEO×SEOの2つの車輪で、デジタルマーケティングを推進

社会全体の潮流としてECサイトの需要が高まっていたことに加え、突如訪れたコロナ禍。打ち手が限られるなかで生き残っていくためにはデジタルしかないと考えた吉野氏だが、社内にデジタルに精通する人材がいるわけでも、専門家がいるわけでもない。

「自分たちに何ができるのか……」。そんな不安を覚えながらも、手探りで行動を始めた。

不安を抱えながらもデジタル化への挑戦を始めた吉野薫氏

同社がまず取り組んだのは、デジタルマーケティングだ。Webサイトだけでなく実店舗への集客を増やしていくために、「SEO」「ローカルSEO」に注力した。「SEO(Search Engine Optimization:検索エンジン最適化)」は、検索エンジンを使ったマーケティング戦略の1つ。Googleなどの自然検索結果に自社サイトを表示させることで、サービスや商品を知らないユーザーに自社サイトを見てもらい、購入検討する機会を創出する。

一方、「ローカルSEO」とは、ユーザーの居住地や現在地など「特定の地域」にフォーカスした検索結果のなかで上位表示をねらう最適化のことを指す。例えば、ユーザーが「千代田区のカフェ」といったような特定ジャンルのキーワードをWeb検索したとき、お店の情報が検索結果の上部に表示されれば、集客効果が期待できる。ローカルSEOはそのために有効な施策のことだ。

では、同社が取り組んだ施策の一部を紹介しよう。

ローカルSEO施策_最新情報を週3、4回更新

見込み顧客にアプローチする頻度・機会を増やす施策として、Googleマップなどの地図アプリに着目した。地図アプリ上の店舗情報を管理する「Googleビジネスプロフィール(以下、GBP)」には、店舗から情報発信をする機能がある。その最新情報を週3、4回更新することとした。

最新情報を週3、4回投稿した例

ローカルSEO施策_商品写真の追加

続けて、お店や商品を魅力的にアピールする施策として、商品写真の追加を実施した。取り扱い商品のほぼすべての商品写真をGBPに登録した。

追加した商品写真の一部

ローカルSEO施策_店舗情報の整備

さらに、GBPはユーザーが情報を更新できるという特性もあり、一部情報が意図しない内容で書き換わってしまう場合もある。間違った店舗情報が掲載され続けてしまってはお客様からの苦情につながるリスクが大きい。コロナ対策状況なども追加できるようになったので、店舗情報の整備も各店舗で実施した。

店舗情報の整備として、コロナ対策を行っていることを表明する設定やサービスオプションの追加などを行った

GBP関連の施策自体は至ってシンプルだが、この基本ができていなかった。これらの整備によって、マップ上での露出を高め、来店促進につなげることが狙いだ。

SEO施策

Webサイトはあったものの、特に集客を意識したことなければアクセス解析なども十分に行えていなかった。当然ネットショップでの購入も伸びていない。こうした状況からサイトの集客力を高めるためのSEO施策に取り組んだ。これも基本的な施策だが、デジタルマーケティング強化にあたっては重要な取り組みとなった。

SEOへの対応としては、次のような施策を行った。

  • サイトの内部構造の分析
    →サイトの骨組みとしての基本的な問題を改善するため
  • 流入しているキーワードの分析と今後獲得したいキーワードの設定
    →現状分析後に、目標を定めることで適切なPDCAを回すため
  • ユーザーの検索意図に合わせたコンテンツリライト
    →ユーザーに寄り添ったコンテンツで満足度を高め、検索順位への好影響を意識
    など。

ローカルSEO×SEOから生まれたシナジー

ユーザーは、検索エンジン・SNS・グルメ情報サイトなど、さまざまなチャネルでお店や商品を探す。ゆえに、SEO / ローカルSEOのどちらか一方の施策のみでは、さまざまなユーザーにアプローチできない。デジタルマーケティングにおいては、1つの手法に力を入れるだけでは成果を上げるには不十分になりつつあり、いくつかの手法を組み合わせてマーケティング施策を行う重要性が増してきている。2つの手法に取り組んだことについて吉野氏は以下のように振り返った。

どちらか1つでは足りなかったと思います。山形県内在住の方や山形でお土産を探している方に対してはローカルSEO、県外の方に対してはSEOが効果的でした。ただ、それぞれが別々ものとしてあるのではなく、新たなシナジーも生まれています。Googleビジネス プロフィール(旧Googleマイビジネス)でお店を見つけて「このお店に行ってみたい」と思ったユーザーは、そのお店のWebサイトも訪れる方が多い。Webサイトには、GBPに掲載できないような商品の魅力を詳しく掲載しておくことで、新たなファン獲得にもつながりました。そうした新たな導線を生むことができたんです(吉野氏)

EC売上4倍、実店舗売上は約10%アップ! 成功した要因とは?

このような取り組みを続けた結果、GBP経由での店舗への電話数は3倍近くまで向上。EC売上も順調に伸び、2020年1~3月と、21年同月を比較すると4倍近くになった。

施策実施の成果として、店舗への電話数、EC売上などがある

実店舗を含めた売上で比較すると、20年5月と21年同月では10%ほどアップ。コロナ前の19年3月と21年同月を比較しても、約5%伸びている(3月は繁忙期となるため、5%でもかなりの売上増となる)。

成功した要因は一体どこにあったのか。吉野氏に聞くと「ローカルSEOツール“(ローカルミエルカ)”やSEOツール“(ミエルカ)”の活用が大きかった。これらを提供するFaber Companyとの定例ミーティングを継続的に行ったことで、アクションが緻密になり、デジタル上でPDCAを回せるようになった」という。

例えば、何月何日に何を投稿し、それに対する反応はこうだった…といった数値を積み重ねながら改善して、さらに良い投稿を行っていく。この計画・投稿・反省といった一連の流れの実施をFaber Companyのご担当に伴走していただき、非常に勉強になりました。行き当たりばったりだった今までのやり方とは次元が違うレベル感で施策が行え、我々の成長につながりましたし、成果にもつながったのだと思います(吉野氏)

プロセスを他の施策にも応用

同社では、今回の取り組みで得た一連のプロセスを、SNS投稿やホームページ更新など、他の施策にも応用しているという。また吉野氏は「開発や製造から広告宣伝まで巻き込んだ形で企画を動かせるようになってきた」と、社内での連携が円滑になったことに安堵する。今後さらなる成果が付いてくれば、社内のデジタル施策への理解はより一層深まり、好循環が生まれてくるのではないかと期待しているそうだ。

地方の中小企業などでは、デジタルに詳しい人材が社内にいないことや、そもそもデジタル施策に割ける人数が少ないことがネックとなり、なかなか踏み出せないケースも多々ある。木村屋でも、主なデジタル施策を展開しているのは、吉野氏ともう1名の社員、そして現社長・吉野隆一氏(67歳)の3名のみだ。

2~3名体制でデジタル施策を回すコツを聞くと「社長を巻き込んでいくことでしょうか」と返ってきた。さらに、「ゴールまでロードマップを描き、行動に落とし込んでくださる会社さんと協力することでうまく回る」と吉野氏は付け加えた。

デジタル施策が結果を出し始めると、社長である隆一氏の意識も変わってきたという。隆一氏自らが、SNSや画像編集ツールを学びはじめて商品写真を投稿するなど、デジタル施策に関心を寄せて現場で実行までしているそうだ。吉野氏は「やっぱり成果が出ると楽しくなってくるんでしょうね」と笑顔を見せる。

左から、現社長の吉野隆一氏、取締役の吉野薫氏

縮小業界でも伸びている領域はある。広告費を最適化して苦境を乗り切る

良い影響はそれだけにもとどまらず、「広告費の最適化」にもつながりつつある。コロナ前まで数百万円単位でマス媒体を中心に投じてきた広告費だが、コロナ禍を機に、大幅にカットせざるを得なくなった。しかし、デジタル施策をスタートさせた2020年以降、広告費の減少に伴って売上が下がったというような事象はほぼ起こっていない。

マス広告を一切取りやめたわけではない。「マス広告は瞬間的な反響が大きいという利点があるので、媒体の性質を見極めながら出稿先を検討していきたい」と吉野氏は述べる。媒体ごとの特徴と自社商材の特徴に鑑みて、適切な広告施策を打つことを心がけていくという。

全体として縮小傾向にある和菓子業界。「お土産関連や法要関連の売上は壊滅的」と吉野氏が語ったように、非常に苦しい2年間を過ごしてきた。一方で、SNS映えする和菓子や、地方の独自性を活かしたお菓子のギフト需要など、成長している部分もある。

年々売上が増えている商品もあり、我々は今後もお客様の需要に応えられる商品を作っていかなければ。しかし作るだけではダメで、その情報をどうやってお客様に届けるか。Webという新たな武器を手に入れたので、それを今後も活用していきたい(吉野氏)

木村屋をはじめ、地方企業や老舗といわれる企業にも、デジタル施策に注力する企業が増えてきている。コロナ禍でさまざまなオンライン化が進み、商圏が限られる地方企業にとっては好機ともいえる。時流に合わせた商品開発はもちろんだが、それらの良い商品をお客様に知ってもらうためのデジタルマーケティング施策をブラッシュアップし続けられる体制があることが、地方企業生き残りの条件になるかもしれない。

木村屋は今後もお客様の需要に応えられる商品を作っていく
※編集協力:落合真彩
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