Cookieに頼らず、サイト訪問者の行動履歴をもとにパーソナライゼーションする方法
マーケターが常日頃から求めているもの──それは顧客の情報である。年代、性別、職業、趣味、家族構成、ページ閲覧履歴などなど、知っているからこそマーケターは“次の手”を打てる。利便性とプライバシーを天秤にかけながら、ユーザー可視化を巡る取り組みは動き続けている。
「Web担当者Forumミーティング 2018 秋」に登壇したハートコアの神野氏は、サイト訪問者の行動履歴をもとに一人ひとりに最適なコンテンツを提示する「パーソナライゼーション」とWebマーケティングの動向について解説した。
スマホの登場でWebの位置付けが劇的変化
神野氏が社長を務めるハートコアは今年6月に社名変更したばかり。それまではジゾンという名前だったが、中核ブランドである「HeartCore」の名称を新社名に冠した格好だ。HeartCoreはいわゆるCMS(Contents Management System)で、おもに企業のWebサイト運用に使われており、国内導入実績は510社を誇る。
神野氏はHeartCoreを通じて長らくWebの世界に携わっているが、黎明期と比べて明らかに変化したことがあるという。それは、Webサイトが今や“カタログ”ではなく、“マーケティングツール”に進化した点だ。
以前のWebサイトは(紙の)カタログと同じ。誰が見ても同じ内容を表示していた。しかし、それではお客様になかなか使っていただけなくなっている。Webは、読む人の事情に合わせて内容の差し替えが普通に行われる「マーケティングツール」へと進化した(神野氏)
Webの常識を変えたスマートフォン
Webの常識を決定的に変えたのはスマートフォン(スマホ)だ。神野氏によれば、スーパーにおける値札表示を商品の下側にしたり、自動販売機における売れ筋商品の位置が左上から中央になっているのは、いずれも、左右ではなく、縦画面に合わせて上下に視線を動かすスマホ特有の視線移動に影響を受けているのだという。
同様に、ユーザーの気も短くなっている。検索第1位のサイトに訪れ、自分の求める情報があるかの判断に要する時間の平均は、女性でわずか1秒程度、男性でも3秒だと神野氏は指摘。つまり、ユーザーはWebサイトの内容をじっくりと読むことなく、直感でサイトを離脱してしまう。
またスマホはPCと比べて画面も小さい。1~3秒というわずかな時間でページをスクロールさせているとは考えにくく、スマホの1画面に表示される範囲に有益な情報を凝縮させなければならない。
Web担当者の方も、普段はこのようにサイトに接していると思う。しかし、自分が運用を担当しているサイトのことになると「そんなことない。じっくり読んでいただけているはずだ」とおっしゃる。それはもう幻想だと認識していただきたい(神野氏)
新機能「ビスケット」でITP環境のユーザーを判別
サイトの使い勝手は集客を大きく左右する。そのためのキーワードとなるのは、「おもてなし」と「自動化」だ。
例えば、ユーザーごとに表示内容を最適化したり、訪問回数によって情報を出し分けたりといった方法を取ることで、訪問者はもてなしを受けたと感じて、サイトの使い勝手は大きく改善される。そのためには、サイト利用者をなんらかの手法で判別しなければならない。HeartCoreはCMSであると同時に、顧客の可視化のための機能を多く備えている。
そのHeartCoreにおいて、直近での大きなトピックは、新機能「ビスケット」のリリースである。ビスケットとは、Cookieの利用が厳しいブラウザーにおいても、トラッキングやリターゲティングを可能とするものだ。
ビスケットの柱は、アップルのSafariブラウザーに適用されている「Intelligent Tracking Prevention(ITP)」への対応だ。
現在のWebの世界ではcookieを用いたユーザー行動追跡が極めて一般化している。しかし、サイト閲覧履歴を元にしたリターゲティング広告に代表されるように、プライバシー侵害の懸念は常につきまとう。ITPは、ユーザーのプライバシー保護のためにCookieの働きを抑制するものだ。
ITPはSafariだけを対象としたものだが、日本国内ではiPhoneの市場シェアが高く、海外と比べてその影響は大きい。また、ITPそのものも改版が続けられており、「2.0」ではさらにCookie管理が厳格化される。1st party Cookieでさえ、有効期間が30日に制限されるため「数カ月ぶりにサイトを訪れたらログイン状態が解除されていた」といった事態が発生しうる。
ビスケットは、従来のCookieとはまた異なる手法でサイト訪問者を判別する。具体的には、ビスケット利用サイトのいずれかに訪れたユーザーに対してグローバルユーザーIDを付与し、これをサイト間で共有する仕組みという。なお、ITP 2.0環境でのユーザー判別率は現在80%。Android端末などのその他の主要プラットフォームでは100%を達成している。
- Cookieが利用できない状況においても
- HeartCoreユーザー(事業者)が運営する様々な業界のWebサイト間で
- Webサイト訪問者の個人識別を可能にし
- かつ、各サイトのWebサイト行動履歴を統合的に記録して
- 個人属性や購買履歴などと紐付けた「顧客統合DB(DMP)」を提供する
無料のWeb接客ツール「Escort」を提供開始
HeartCoreに集積されたユーザー判別情報は、Web上だけでなく、リアル店舗での接客にも活用できる。これには各種のビーコン機能が利用されており、例えばWebで多くの買い物をしている客がリアル店舗へ訪れた際、個人名はわからないものの過去の購買傾向を把握可能になるという。
初めて訪れたはずの店頭で、なぜか自分の買い物傾向が知られている。やや空恐ろしさを感じるエピソードだが、技術的には十分実現しており、特に米国や中国では実践が進んでいる。日本でも十分な配慮のもとで、先進マーケティング施策を取り込んでいくべきだと神野氏は主張する。
法律に基づいてお客様の個人情報を利用するのは大前提。その範囲で各種のテクノロジーを組み合わせ、お客様の利便性を向上させることにフォーカスすべきだ(神野氏)
最後に神野氏は、7月にリリースした無料ツール「HeartCore Escort(エスコート)」を紹介した。HeartCoreのエントリー版に位置付けられるもので、いわゆる「Web接客」機能を無料で利用できる。サイトを離脱しようとするユーザーに対し「お困りごとはありませんか?」などのポップアップメッセージを表示できる。
「Escortは、GDPR(EU一般データ保護規則)関連の注意メッセージを表示する用途に向いている。またビスケットの一部機能も使えるので、ぜひお試し頂きたい」と神野氏は述べ、講演を締めくくった。
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