アフィリエイトオタクが45歳過ぎてフリーランスに「会社員より今が一番楽しい!」
アフィリエイト運用のレクチャーを中心に、ネットショップ向けのコンサルティングを手がけるフリーランスの鈴木珠世氏が今回の主役だ。
鈴木氏はフリーになるまで8回の転職を経験している。40代になった今、ようやく自分がやりたいことを存分にできるようになったと、言い切る。
業界関係者から、ツッコミをもらいやすいという鈴木氏。自身のWebサイト、サービスメニュー、名刺まで、みんながあれこれアドバイスするのだという。聞き手の森田氏もインタビュー終了後、鈴木氏の肩書についてツッコミを入れ始めた。
そんな業界の愛されキャラだが、その裏にはアフィリエイトへの深い愛情とたゆまぬ探究心がある。今回は、鈴木珠世氏のこれまでのキャリアについて迫った(以下、発話は敬称略)。
Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。
インタビュアーは、Webデザイン黎明期から業界をよく知るIA/UXデザイナーの森田雄氏と、クリエイティブ職の人材育成に長く携わるトレーニングディレクター/キャリアカウンセラーの林真理子氏。
ギフトメーカーでアフィリエイトの魅力に触れる
林: 今はフリーランスとして活動されていますが、どういったお仕事をされているのですか?
鈴木: 主に、アフィリエイト広告を検討、利用している通販企業の担当者に向けて運用方法やアフィリエイターとのコミュニケーションについてレクチャーしています。アフィリエイト広告は、開始後放置されやすいのですが、運用しないと実績が出にくいものです。また、アフィリエイターとのやり取りも重要で、電話、メール、対面などで、提供するべき情報などをお伝えしています。
最近手がけている中では、3か月間で3回のレクチャー、フォローなどを通して、アフィリエイト広告について学んでもらうコースが人気です。1回目は3時間のレクチャーで、170枚くらいの資料をお渡しし、その後の運用マニュアルとして利用できるようにしています。
受講する人は、小さい会社の場合は社長が多く、中小企業だと担当者やECサイトのチーム、広報担当者などが多いです。チームで受講していただくと、浸透しやすいのでその後もうまく運用できる場合が多いようです。
林: これまでどういう変遷をたどって独立されたのですか?
鈴木: 実は過去に転職を8回しています。新卒で就職したのはWebとは関係ない経理、労務などの管理系の仕事でした。2004年に社員数7~8人のギフトメーカーに転職したことがきっかけでアフィリエイトオタクになっていきます(笑)。
林: “オタク”へ至る道、ぜひ頭から伺いたいです。ギフトメーカーではどんな仕事をしていたのですか?
鈴木: 出産祝いのギフトをデパートなどに卸す事業をしていました。社長が「ECサイトを作って直販をしたい」といい、以前少しだけHTMLを学んでいたことから、私が担当になりました。サイトの更新、受発注、広告運用、問い合わせ対応まで、ECサイトに関することはすべて任されました。
そのとき、リスティング広告、アフィリエイトを初めて経験しました。リスティング広告は、予算を3日で使い切ってしまうという失敗もしました。アフィリエイトは注文があった分だけ課金されるので、効率が良いなと思って力を入れるようになりました。もともと管理系業務だったので、直接、お客様とやり取りするのは初めてで楽しかったです。アフィリエイターはお客様に近い立場で商品を応援してくれる方たちなので、「商品のここがいい」「こういうほうが売りやすい」などのフィードバックもくれました。
二度とないと思って引き受けたセミナー登壇で、自分が役立てる場所を見つける
林: そこでまず、ECサイト運営全般を経験されたんですね。次の職場に移る転機は何だったんですか?
鈴木: ギフトメーカーに勤めていた当時、ASPのセミナー担当者から「通販企業向けのセミナーで講演してほしい。中小企業でもここまで伸ばせるという成功事例を伝えたい」と言われました。セミナーで話すのは初めてだったのですが、「二度とこんな機会ないかも!」と思って引き受けました。
セミナー後、日本アフィリエイト協議会理事長の笠井北斗さんにレポートを書いていただき、その中で「よく勉強している担当者」と評されました。アフィリエイトの知見で人の役に立てるんだな、と初めて感じました。この出来事が転機になりましたね。
その後、A8.net、リンクシェア・ジャパンと2つのASPに転職することになります。さらに、その後代理店に興味を持って売れるネット広告社に転職しました。
林: ギフトメーカーを辞める時は、決断に躊躇はなかったですか?
鈴木: 仕事は充実していました。ただ、アフィリエイトだけを頑張れば、売り上げが最大化できるわけではありません。取り扱う商品が素晴らしく、買い物がしやすいサイトがあって初めて売り上げにつながっていきます。私自身その認識で仕事をしていたのですが、会社全体でその認識が共有されていなくて、成果を出し続けることが難しくなってしまったんですよね。
林: 2つのASPを渡り歩いた経緯は?
鈴木: 2社とも前職を退職するというタイミングでお声がけいただき、転職しています。2社とも広告主をサポートするセミナーを開催する部署で運用マニュアルを作成したり、セミナーを開催したり、アフィリエイターと広告主の交流イベントを企画したりしていました。同じASPなのですが、広告主、アフィリエイターとのコミュニケーションの取り方に違いがあって、2社経験させてもらったことはおもしろかったですね。
ASPを退職しようかなと考えているとき、業界のステークホルダーを整理してみたんです。そこには、アフィリエイター、メーカー(広告主)、ASP、代理店の4つがあり、私が経験したことがないのが、代理店でした。ちょうど、代表の加藤公一レオさんに声をかけてもらったこともあって、売れるネット広告社に転職しました。
業界の有名人たちが次々陥落? アフィリエイトへの尽きぬ興味が人脈を広げる結果に
森田: アフィリエイトの勉強はどうしていましたか?
鈴木: サイトや本を見て勉強しましたが、2004年頃はアフィリエイトに関する情報がそもそも少なくて……。唯一参考にしていたのが「アフィリエイトインデックス」です(現在は終了)。サイトの運営者は、和田 亜希子さんで、現在は「WADA-blog(わだぶろぐ)」を運営しており、通販担当者向けの書籍『アフィリエイト・マーケティング実践マニュアル』の著者でもあります。
本にもサイトにも書かれていなくて、わらかないことがあったとき、和田さんに直接メールで問い合わせをしました。そうしたら、丁寧な返答をいただき、やり取りをする中で、アフィリエイターを紹介してもらったり、コミュニケーション方法を教えてもらったりするようになりました。
林: 直接聞くその行動力はすごいですね!
鈴木: 確かに(笑)。知りたい欲で突っ走っていたのかもしれません……。アフィリエイトを始めた当初から、本当に人に恵まれていると思っています。アフィリエイト業界には稼ぐために大げさなことを書く人もいますが、私が出会った方たちは、商品やサービスをきちんと理解して運用するというポリシーの人が多くて、長くお付き合いをしています。
仕事以外でもアフィリエイトのみならず勉強会にはよく参加していて、そこで知り合った人からのつながりが活きることも多いです。Web業界の人は、知見を話すことが好きな人が多いので、質問をすれば返してくれます。管理系業務のときは、そういうことがなかったので、新鮮でした。
森田: アフィリエイトは最近の露出方法としてはどういうものが多いのですか? LPなどでしょうか。
鈴木: リスティング広告で出稿してLPに誘導する人もいれば、テーマでサイトを作り、それにあった商品を紹介するという人もいます。たとえば、身長の低い人のファッションサイトで、アフィリエイター自身がモデルになって、服を紹介したり、趣味でブルースギターをされている方がコードブックを紹介しながら、ギター用品を紹介したり、といった例があります。商品がコンテンツの一部で、読者の役に立つというような思想で作られているサイトですね。
森田: かつて、サイト制作やアクセス解析のテストとして、クレジットカード比較サイトを作ったことがあります。儲けることよりも、コンテンツ作りのスタディーとしてやったのですが、商品に興味がないから、続きませんでした。仕事ではなく、自発的にやる場合は、好きじゃないとモチベーションが持たないというのを実感しました。
鈴木: 会社員時代に新卒入社の社員向け研修で、集客のためのブログを作るワークショップをやったことがあります。自分の好きなテーマで作ってもらいましたが、何人かはそのまま続けている人もいました。私も、自分で少しですがアフィリエイターとしてサイトの運用をしています。
お客様のために制限なく仕事ができるからフリーランスを選んだ
林: 鈴木さんのクライアントは業界が多岐に渡ると思いますが、その業界研究はどのようにされるのですか?
鈴木: 2004年からアフィリエイトを始め、今までに広告主とは1000人以上会っています。アフィリエイトオタクなので、日々いろいろな広告をチェックしちゃうんです。だから、ネタのストックがたくさんあるんですね。その中から、その会社にあう運用を紹介しています。基本的に業界が変わっても運用のベースは変わらないので、必要な情報をアップデートします。
ただ、フリーになって最初の年は、そのベースがないので3時間のレクチャーの資料をゼロから作っていました。今は少し楽になって、ちゃんと寝られる生活になりました(笑)。
森田: 話が戻りますが、独立しようと思った理由は?
鈴木: お客様のためには、持っている知識をすべて提供したいという思いがあります。ただ、組織に属していると立場上、言えないこともありますよね。「お客様のために」という思いが強すぎて、会社で経なければいけない承認を中央突破で通してしまったり。
どこかの企業に所属するよりも、組織の枠にとらわれずに自由にお客様とコミュニケーションできる方が私には向いているし、役に立てるのではないか、と思ったことがきっかけです。
みんながアドバイスしたくなるのは、「業界稀に見る素直さ」
林: 鈴木さんのWebサイトは情報が整理されていて、自分が必要なサービスがどれなのかわかりやすく、金額も明確なので、発注しやすいですよね。
鈴木: 周囲の人がみんな直してくれました。「この情報を入れろ」「順番を変えろ」と細かくアドバイスしてくれるので、その通りにしています。
林: 言われたことを素直に取り入れるので、教えたくなるのですね。
鈴木: 元Web担編集長の安田さんにも「業界稀に見る素直さ」と言われました。独立した後、年末年始に仕事がなくなったときも、業界の先輩に相談したら、一緒にEC系の集まりにまわらせてくれて、それで仕事につながったこともありますし、周りの人には支えられています。
アフィリエイト業界の健全化のための活動も
林: 問い合わせを受けたお客様はすべて対応されているのですか?
鈴木: 自身のポリシーに合わないお客様からは、依頼が来ないような対応をしています。たとえば、最初から数字の話をする人。Webサイトの内容やどんな人が来ているのかといった情報なしで、数字にこだわる方は、自分が伝える内容はマッチしないので、お断りしています。また「情報交換しよう」というお話には乗らずに、必ず1時間でもお金をいただくようにしています。
森田: 合わない人はわかるものですか。
鈴木: 何度かメールのやり取りをすればわかりますし、セミナーで名刺交換するときも目を見ればわかります。
森田: 目ですか!!
鈴木: 自社の商品に興味がない、お客様に訴求したいポイントがない、そもそも自分で使ったことがないなど、すぐにわかりますね。どういうメディアに紹介してほしいか、を聞いた時の反応でも関心の度合いがわかります。
林: アフィリエイトでは、誇大広告が問題になっていますよね。鈴木さんも業界全体の健全化に向けて、何か取り組まれていますか?
鈴木: はい。マスコミで報道されているような情報でも知らないEC担当者がいます。法務担当者はわかっていても、EC担当者には「Before/Afterの写真がだめ」というような伝わり方になっているので、その背景や事例を説明するようにしています。
また、日本アフィリエイト協議会で通販業者向けにセミナーをしていますし、協会としても消費者庁が開催する「インターネット消費者取引連絡会」に業界団体として参加しており、警視庁などと一緒に健全化のための議論をしています。
アフィリエイトはおもしろい! その魅力を伝えるためにここにいる
林: 鈴木さんにとって仕事へのモチベーションはどこにありますか?
鈴木: 人の役に立てると思っていなかったのに、役立つ場があって、自分の知見を使ってもらえるから、今ここにいます。フリーになって初めて3か月プランのレクチャーを受けてくれた会社の担当者から「滝に打たれたみたい。何をやるべきか道が開けた」と言われて、自分の知見が役に立つことを実感しました。
モチベーションの源泉は、アフィリエイトはおもしろい、楽しいということです。おもしろさに気がついてくれた通販企業は積極的に活動してくれます。アフィリエイトは向き不向きがあるので万人にあうわけではないですが、好きになってくれたら嬉しいな、という思いでやっています。
林: 仕事をする上で、気をつけていることは?
鈴木: 嘘をつかないことですね。今は会社の制限がないので、自分が持っている知見は全部伝えたいです。
森田: アフィリエイトに関して全方位的に興味を持って、知らないことは謙虚に聞き出す、知っていることは伝えるところが鈴木さんのよさですね。普通は、自分の会社の事業のことしか知らない人も多いですから。
鈴木: ASPの中には媒体をつなぐだけの仕事と思っている人もいます。どういうアプローチをしたら売れるのか、商売の経験がないと、広告主が知りたい売り方について教えられないのかもしれません。その点で私はメーカーでの経験が生きています。
森田: いろいろな立場を経験している強みですね。これから先はどうしていくのですか?
鈴木: リソースが少ないので、自分のような仕事をする人を増やしたいです。フリーの立場の人だけでなく、代理店の人のサポートもしています。自分としては、個人事業主のままでどこまでやれるのかを試したいですね。一社でも多くアフィリエイトの良さに気づいた企業が増えて、アフィリエイターが幸せになれればいいです。
二人の帰り道
林: 鈴木さんは物腰が柔らかくて、人の意見も素直に受け止めていくから、業界の皆さんがいろいろ指南してくれる…という筋にも確かに納得感があります。一方で、質問する内容は本にもネットにも載っていないディープな内容、受けた突っ込みは正面から受け止めてきちんと咀嚼した上で反映する、そういう骨太でスマートで快活な活動あってこそ、鈴木さんの仕事内容も人のネットワークも豊かに広がりと深みをもって循環しているのだろうなぁと思いました。なんでもかんでも質問する人だったら周囲からも距離おかれますもんね…。話を聴きこむほどに「只者ではない」感が潤しだされ、「オタクの野生の力」みたいなエネルギーをひしひし感じました。でも、対面してお話ししているとやっぱり柔らかなお人柄で、等身大なんですよね。このバランスの妙が魅力的でした。
森田: 安田さんが「業界稀に見る素直さ」と評したそうですが、業界というのがちょっとどの範囲なのかわからないにしても、きっと聞き出し上手なのでしょうね。ただ、僕はアフィリエイトとなると専門外なところも多分にあるので、アドバイスしてあげたいというよりも、むしろもっと僕が教えてほしいというか、いっそ鈴木さんが僕にアドバイスしてあげたくなるような、そんな何かを僕が醸し出せたらいいのにと思いました。仕事に対して、嫌いじゃないから続けてる、みたいな斜に構えた感じが一切なくて、純粋に、アフィリエイトが好きだからというのが素晴らしいです。ちなみにアフィリエイターという仕事には僕自身ひそかに興味があったりしてまして、まずはそれを純粋に好きだという状態づくりからだなと思った次第です。
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