DMPによるコンバージョン最適化は非効率、ヤフー鍵山氏が語る誤解と課題
企業内に蓄積されたあらゆるデータを統合し、マーケティングに活用していく。データドリブンマーケティングの基盤として、DMP(Data Management Platform)の活用が注目されているが、具体的な活用方法をイメージできるだろうか。Web広告研究会の2017年11月月例セミナーは、「誤解だらけ、半信半疑のDMP -データ活用ホンネ討論-」がテーマ。第1部では、ヤフーの鍵山仁氏が登壇し、DMPの現状や課題について解説した。
「DMPを使っても効果が上がらない」と言われる理由
DMPは、「パブリックDMP」と「プライベートDMP」の2つに大きく分けられる。
ヤフーの鍵山氏は、アンダーワークスが出した「マーケティングテクノロジーカオスマップ JAPAN 2017」を示しながら、10を超える製品群のなかで、パブリックDMPはデータで差別化されていること、プライベートDMPは機能で差別化されていることが特徴だと説明する。また、これら製品の提供元には、ツールベンダー、メディア、代理店の3つがあると話す。
これらの提供元が広告主にDMPを提案する場合、それぞれに特徴があると鍵山氏は説明を続ける。
- 広告代理店
広告や媒体の知識は深いが、DMPの知識は広く浅い
- ツールベンダー
DMPの製品・導入には詳しいが、広告運用や媒体の知識は浅い
- メディア
自社メディアには詳しいが、他社メディアの知識は浅い
こうした状況から、各社の提案をそのまま受け入れると、「まずはデータを集めましょう」と、多くのWebサイトがデータ収集のために数多くのタグを入れることになる。加えて、提案側の担当者の異動や退職によって、どのようなタグが入っているかが把握できなくなっているのが現状ではないかと鍵山氏は推察する。
「DMPを使ってみたけど効果が出ない」という、よくある話を深堀するためには、広告主と提供側のどちらに、どのような問題があったのか振り返って考える必要があると鍵山氏は話す。
- 提供側と広告主のどちらの問題なのか
- DMPの提供側に深い知識があったのか
- そもそも導入したツールがDMPだったのか
- DMPによって効果が出る事業だったのか
- 効果を明確にしているのか
- DMP導入の目的は何だったのか
時系列でDMPを振り返ると、2014年にDMPが登場して多くの人が群がった。2015年には失敗するケースが多発し、2016年にあきらめなかった人たちがトライ&エラーで利用方法を見つけ出し、2017年までしぶとくDMPと付き合ってきた人たちはデータ活用できるようになっている。主観ではあるが、2018年からはデータの“つなぎこみ”が主流となってくる(鍵山氏)
ビジネスゴールの違いを理解する
この数年で、市場に投入されたDMPはある程度は整理されてきたが、広告主はどういった視点でDMPを選定すべきだろうか。
まず、広告主企業には、ブランディング、ファン獲得(コンバージョン)、CRMなど、それぞれに責任を持つ担当者がいて、それを支えるIT部門がある。一方、提供側もそれぞれが目的を持っている。広告代理店はマージン、ツールベンダーはトランザクション、メディアはインプレッションを求めている。こうしたビジネスゴールの違いを理解する必要がある。
DMPの導入で最も危ないパターンは、「獲得を目的としている広告主の担当者が広告代理店のDMPで効果を出そうとすること」だと鍵山氏は指摘する。こうした失敗が、2014年頃に数多くあったのではないかというのだ。
獲得効果を上げたいのであれば、わざわざDMPを使うまでもなく、CRMにもとづいてメールを打ったり、広告運用を最適化したりする方が短期間で成果を上げやすい。また、DMPはCRM領域でこそ効果を上げやすいものだが、マージン、トランザクション、インプレッションを目的としている提供側のビジネスゴールからすると、手間がかかるうえに売上も見込めないため提案を渋りがちだという。
ブランディング領域では、大きな広告予算が付く可能性があり、長期的に見ればブランドの成長はDMP提供側の利益にもつながる。ただし、こちらも時間や手間がかかるというデメリットがある。
三者三様のDMPセールストーク
続いて、鍵山氏は「広告代理店」「メディア」「ツールベンダー」ごとの特徴を解説していく。
広告代理店がDMPの提供者である場合、自社のDMPツールの有無による違いがある。DMPツールを持っている広告代理店の多くは、基本的にOEMのDMPに自社のアプリケーションを乗せており、検索やリターゲティング以外の付加価値を出すためにDMPを提供している。また、さまざまなサードパーティデータを集めているが、本当に使えるデータなのか、データソースが不明なことが多い。
このような代理店の場合はどこまで付き合ってくれるのかを確認すべきだと鍵山氏は話す。
自社でDMPを持たない広告代理店の場合は、提案しているDMPの中身を知らない可能性があり、DMPを提供している会社の支援が必要だ。支援を得ていない場合は、自社でDMPをメンテナンスする体制(プライベートDMP)が必要となる。このような場合は、DMPを提供しているベンダーと一緒に提案してきているかどうかがカギとなる。
メディアは自社製品だけあってDMPには詳しいが、自社メディアの枠を超えて話ができないという課題がある。また、広告主が管理画面を見せてもらえる機会は少なく、数値が見られないことには注意が必要だ。
メディアがDMPを持つ理由は、自社メディアの価値を高めて出稿を促すことが目的であるため、出稿コストの最適化ができるのであれば付き合うメリットがある。ファーストパーティデータを送り込めれば、基本的には最適化が進むという。
ツールベンダーは、「DSPを持っていないベンダー」と「DSPを持っているベンダー」に分けられる。DSPを持っていないDMPベンダーは、ツール販売が生業であり、基本的にはプライベートDMPの導入がメインになる。広告主にとってプライベートDMPの保持はコストであるため、成果がでないからといって、途中ですぐにやめることが難しい。
今、生き残っているベンダーはそれなりに力があるところ。DMPを機能で選択することは重要だが、最大の選択ポイントは導入後の支援体制が厚いかどうか(鍵山氏)
DSPを持っているベンダーは、DSPが生業の中心であるため、DMPとの連携を目的としている。これらのベンダーはDSPが出稿できるメディアしか差別化要因がなく、どのメディアに出せるかでほぼ効果が決まるという。
鍵山氏は、KPIがコンバージョン獲得だけであれば、AIなどでメディアのDSPの学習と最適化すればよく、基本的にメディア出稿目的のDMPは不要だと話す。また、これらのベンダーはDMPのトランザクションで収益を得ているわけではないので、マネタイズに直結しなければ付き合ってくれないと説明する。
これからは課題発見の質を上げるためにDMPを使う
ここまで説明してきた状況は過去のものであり、現在は提案の質が変わってきていると信じたいと鍵山氏は話す。いずれにせよ、DMP導入の際には課題の設定を行うことが重要だ。コンバージョンが少ないことが課題ではなく、「なぜ少ないのか」と仮説を立てることで課題が見えてくるものであり、その課題を解決するためにDMPを使って仮説検証を繰り返さなくてはならない。
これまで、DMPはコンバージョン効率化のために使われてきたが、効果は低く、コンバージョン獲得は広告配信のプロダクトやサービスに任せるべきだと鍵山氏は説明する。
現在は、データ活用が広く求められてくるため、ビジネス戦略のもっと上流でDMPの活用が求められる。ユーザーのLTV向上のためにファーストパーティデータを活用する必要があり、今後はその時間をいかに早めていくかが課題となってくるという。DMPを有効活用するのであれば、すでに顕在化している見込客のコンバージョンを改善するよりも、データを活用して見えていない課題を見つけ、課題の質を上げることが重要だと鍵山氏は説明する。
データ活用をしっかり進めるためには、体制を作ることが重要だと鍵山氏は話を続ける。広告主側の社内にデータを見られる人間がいなければガバナンスが効かず、提案側の言ったとおりになってしまう可能性があるので注意が必要だ。また、提案側にもデータを分析する人材が不足しており、限られた人的リソースの割り振りが課題となっているため、出稿額の差が提案に影響してくる可能性がある。
DMPは、「Data Management Platform」の言葉通り、データを管理するプラットフォームでしかない。「誰が何のために管理するのか」という目的が必ず必要になる。「目的を定め、そのためのターゲットをはっきりさせることができれば、管理したいデータが見える。そうすればDMPの導入が考えていける」と鍵山氏は最後に話した。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「DMPによるコンバージョン最適化は非効率、ヤフー鍵山氏が語る誤解と課題」2017年11月28日開催 月例セミナーレポート (1)(2018/01/17)
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