【レポート】Web担当者Forumミーティング 2017 Autumn

大企業のオウンドメディア立ち上げ、企画・運用・チーム運営まで大公開

オウンドメディアの真のKPIとは!? 「振る舞い自体をブランド価値」にする方法論

オウンドメディアはどのように立ち上げたらいいのだろうか。上から命令が降ってきて困る人は多いだろう。

栗田 宏美 氏
株式会社クレディセゾン
営業企画部 プロモーション戦略グループ
栗田 宏美 氏

クレディセゾンの栗田氏が「Web担当者Forum ミーティング2017 秋」で、「大企業のオウンドメディア『0→1』その企画、運用、チーム運営の試行錯誤すべて見せます!」と題し、企画・戦略や社内調整、目標管理などを時系列で紹介。トップのコンセンサスを得るポイントや女性活用の方法、メディアコンセプトや編集方針の重要性などを解説した。

オウンドメディアで会員以外との接点を持つ

栗田氏がクレディセゾンに中途入社したとき、仕事のひとつがSNSの運用だった。このため、次のような視点になってしまっていたという。

どうすればSNSアカウントのファン数がもっと増えるのだろうか

大企業では担当者レベルの実務領域が狭いため、思考がシュリンクして細かいことばかりが気になってしまうことがよくある。そこで栗田氏は、もっと俯瞰で考えるため、まず会社全体の経営課題に目を向け、そこからデジタルコミュニケーション領域の課題、クレジットカードとは何かというアイデンティティへと思考を進めた。

まず、会社全体の課題としては、次のようなことが浮かび上がった。

  • 社員の7割以上が女性であり、女性活躍をもっと推進したい。
  • しかし一方で、毎年100人単位で産休に入り、時短社員は増え続ける。彼女たちにどうやって活躍の場を与えていくのか。

また、デジタルコミュニケーション領域では、Web、リアル、マス、DMなど顧客とのタッチポイントは豊富であるのに対して、カード会員以外の一般消費者とのタッチポイントがあまり醸成されていないことが課題だった。さらに、クレジットカードとは消費者の「消費」を助けるものであり、正しい「消費」のあり方について提言していくことで、カード会社としてのリーダーシップを取りたいという思いもあった。

結論として導き出されたのは、オウンドメディアで「消費」に結びつく「働くこと」と「暮らすこと」を少し良くするヒントを発信し、一般消費者との新たなタッチポイントにするということだ。

クレディセゾンの得意分野は広告表現だが、それに対してオウンドメディアで発信するコンテンツは、社員が登場して人事制度を紹介するなどクレディセゾンの哲学やポリシーを反映する方向性で進めた。これにより、広告表現とは異なるアプローチを目指した。具体的には、「表現だけの広告」ではなく「振る舞い自体をブランド価値」にしたいと考えた。このときの考え方は、次のような流れだった。

このときに行った考え方

メディアターゲットは、「共働きの子育てママ」を軸にした。読者のインサイトとサイト運営者(社員)のインサイトが近い方がいいという考えからだ。そこから、

子育てママ → パパ → 間接的に子育てに関わるワーカー → すべてのワーカー

というように、「共感の同心円」を広げる狙いだ。

その他、当時は次のような点を議論した。

  • 会員登録制: 会員以外とのコミュニケーションには誰でも閲覧できる方がいい。
  • KPI: 類似のメディアのPV数やUU数を見て皮算用をしていた。

オウンドメディアの目的は目先の数値に偏りすぎない

オウンドメディアをプロジェクトとして発足させるには、トップのコンセンサスを得る必要がある。栗田氏は、何度も社長にプレゼンテーションした。

一般的には、事業の目標を数値で示すために、次のような訴求をするのではないだろうか。

  • ○○PV達成します
  • △△UUを目指します

しかし、栗田氏はそうではなく、次のように「目的」を明確に説明することで、トップの理解を得ていった。

  • オウンドメディアがクレディセゾンの情報資産になること
  • これによってインナーコミュニケーションが活発になること
  • それによってクレディセゾンのブランド価値を上げること

企業には、それまでの歴史から「話が通じやすい話題」と「通じにくい話題」がある。クレディセゾンの場合は、クリエイティブやインナーコミュニケーションの話が通りやすいという。トップへの説明では、そういったことを意識することも重要だ。

さらに、会社全体の課題である女性活用に取り組むため、育休中の女性社員約200人に手紙を出し、このプロジェクトへの協力要請と意欲アンケートを実施。その結果、おおむねコメントが好意的であり、過半数の賛同を得たことも後押しして、社長直轄プロジェクトとして本格的にスタートした。

このオウンドメディアのコンセプトは次の図のようなもので、これをベースにメディアの名前は「SAISON CHIENOWA(セゾン・チエノワ)」に決定した。

コンセプトをベースに、メディアの名前を議論

社内組織としてまずつくったのは、産休中や育休中でも参加できる「セゾン・ワークライフデザイン部」。これは、部署横断のタスクフォースとして「SAISON CHIENOWA」の理念に賛同・共感する有志が参加するバーチャル組織だ。孤軍奮闘になるのを避けるために、できるだけ多くの人が関わることができる体制にした。

ただし、関わる人が多くなれば、さまざまな意見が出てパニックになることもある。栗田氏は、パニックを防ぐために

この意見は、どの角度から見ているのだろう

どの角度から見るのがベストだろう

と多面的に考えるようにしているという。

さらに、運営面で苦労したのは、個人間のリテラシー格差だった。事業会社の場合、すべての関係者が同じようなデジタルリテラシーをもっているという前提で話すことが難しいため、コミュニケーションコストが高くなる。そこでコアメンバーには、共通言語を増やすための書籍やトレーニングを紹介し、自分が見ている景色を共有することを心がけている。

コンセプトや編集方針はしっかり決める

当初の運営チームは、現場レベルではWebチーム内のCHIENOWA担当として栗田氏を含めた2人、部署横断型のタスクフォースとして7人。その他に協力してくれる社員を募ってFacebookグループを作っていた。全体では、主体であるクレディセゾンの他に、戦略ブレーンの広告代理店、コンテンツのクオリティを確保する編集会社の3社体制だ。

また、当時はセゾングループの自社メディアや会員基盤などが「資源」だと考えていた。たとえば、セゾンカードのホームページには月間1500万PVがあり、バナーを掲出すれば「SAISON CHIENOWA」に送客できるだろうと考えていた。他にも、ネット会員へのメールマガジンやアプリ、公式SNS、毎月送付するご利用明細書に会報誌も同封している。

そのため当初は「類似の大手メディアが300万PVなら、200万PVくらいはいけるのでは」と期待していたのだという。

もうひとつの「資源」としては社員だ。ターゲットユーザーのペルソナに近い社員がたくさんいるので、企画・執筆・キュレーションすればいいシナジーを生めるはずだと考えていた。

サイト構築は、CMSをカスタマイズした。このときのポイントは、開発会社ととことん協議して、脳内をできるだけ近づけることだ。特に、「いつかこうしたい」「こう変えたくなる日が来るかもしれない」と思っていることは、後で困らないためにもきちんと伝える必要がある。ただし、ある程度まで詰めたら潔くGOを出すことも必要だ。

掲載のフローは次の図のようになっている。キュレーション記事は、RSSで取得した記事を、CMSのアカウントを発行した社内の協力者に評価させ、評価が良かったものを編集部で確認して本番環境に出す。RSSで取得したもの全部を出すのではなく、クレディセゾンのフィルターがかかる仕組みになっている。

メディアコンセプト編集方針5か条といったものも決めている。

栗田氏は次のように言う。

「ここまで必要だろうか?」という議論もあったが、議論しすぎるくらいがちょうどいい

長く運営すると忘れてしまい、立ち位置を見失いそうになることがあるが、企画がぶれそうなときに立ち返る原点になるのが、こうしたコンセプトや編集方針だ。

その他、社内のインナーコミュニケーションのロードマップも決め、長い検討・準備期間を経て、2015年12月16日に「SAISON CHIENOWA」をローンチした。

ローンチ後も試行錯誤を続けてアップデートする

Webサイトもメディアも、立ち上げるだけでなく運用と改善が大切だ。「SAISON CHIENOWA」も同じで、ローンチ後にも試行錯誤は続いている。

まず栗田氏が育児休暇中に、上長が「資源の再解釈」と「目的の再解釈」を行った。当初資源として当初考えていたのは「自社の既存メディアや会員基盤」と「社員」だが、前者に重きを置いていた。それを逆転させ、社員が最大の資源であると再解釈したのだ。

また、目的としては「戦略的プロモーション」を主に、「働き方改革の旗頭」を従にしていたが、それも逆転させた。そこから、インナーの動きがどんどん加速した。

「SAISON CHIENOWA」を働き方改革の旗印であると位置づけ、ワークライフデザイン部が主体となり働き方や働く環境について社員の本音を聞き出す「全社アンケート」を実施。その結果を経営陣にプレゼンテーションし、人事・労働組合とは違うボトムアップ型の改革を目指した。その他、育児休暇中の社員が企画・執筆などを行った場合、料金テーブルに沿って給与を支払う「スポット勤務給」を制度化した。

「SAISON CHIENOWA」のサイト自体も改善を進めた。サイトに「セゾンの楽屋」という新しいカテゴリーを追加し、社員が気軽に記事を執筆できるようにした。また、オリジナル記事をメインにしたUIに変更した。これは、ランキングに入るのがほとんどオリジナル記事であるということに加え、WELQ問題(まとめサイトで記事の信憑性や著作権上の問題が明らかになった)によるキュレーションメディア凋落というトレンドを踏まえた変更だ。

運営チーム体制もアップデートし、Webチーム内からSAISON CHIENOWA運営チームとして独立。専任メンバーはママ2名に加えて、障がい者雇用にもチャレンジした。働き方・暮らし方を考えるメディアだということもあり、ダイバーシティを体現しているチームでありたいという考えからだ。

タスクフォースのメンバーも一新し、全国の10支社に12名「CHIENOWAアンバサダー」を任命。「『SAISON CHIENOWA』の社内活用推進」と「支社の働き方課題の吸い上げ」の2つの役割を担っている。

一方、対外的なメディアの価値を見ると、ローンチ前の期待と違ってスタート直後のPVは10万程度に留まった。想定とはかなりの差がある。しかし栗田氏は焦らなかった。

多額の広告配信で一時的なPVを稼ぐことに意味はないので、コツコツとコンテンツを制作している。オリジナル記事はおよそ10本/月のペースで、徐々にPVが増え、20万PV/月までは成長した。あらためてKPIをどうするか議論の末、目標は必要だということで「30万PV・15万UU/月」をベンチマークすることで決着した。

オウンドメディアにできること

オウンドメディアの価値は数値で計りにくいうえ、信頼を蓄積する施策への理解を得ることは非常に難しい。そのためオウンドメディアはコストセンターだと揶揄されることもある。しかし、コツコツ積み上げたコンテンツは溜まっていく。また、「内製しろ」という圧力がかかることもあるが、オウンドメディア運用のノウハウを持つ人材が少ない事業会社では、内製を進めすぎると、ひたすら兼務が増えて疲弊してしまう。

そこで「SAISON CHIENOWA」の場合は、コンテンツの「量」と「更新頻度」を捨てて、「質」を取った。社内から生まれる独自の視点や面白さを発信し、「SAISON CHIENOWA」に関った社員が「楽しむこと」「何かを学ぶこと」を優先しているという。

また、「SAISON CHIENOWA」の場合はボトムアップ型だったが、トップダウンでオウンドメディアをやるように言われることもあるだろう。そのときに注意すべきことは、次のようなことだと栗田氏は言う。

オウンドメディアで解決できる課題は何なのか、多面的に考察してみること

それは、オウンドメディアはコストセンターだと言われたときに、めげないための考え方でもある。相手がどの角度から言っているのかわかれば、納得も理解もできるので、パニック防止にもなる。

先ほども示した「多面的な見方」のイメージを改めて示しながら、栗田氏は、次のようにまとめた。

オウンドメディアは、0を1にする施策ではなく、1を1.1、1.2……にする施策だ。そのブランドを使っている自分が好きか、他人に勧めたいかが、サービスの価値をより高くする。そんなときにじわじわと効いてくるオウンドメディアを目指している

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