初代編集長ブログ―安田英久

マス広告のトップ広告主が語る「デジタルでブランディングの時代が来た」

デジタル広告は、コンバージョン中心だけでなくブランド訴求もできる時代だと大手広告主が認識
Web担のなかの人

今日は、広告業界の少し大きな動きをお伝えします。マス広告を活用する大手広告主が、「デジタル広告は、コンバージョン中心だけでなくブランド訴求もできる時代だ」という方向に大きく舵を切り始めているのです。

マス広告もデジタルも、どちらも顧客との接点の1つ

日本の有力な広告主企業・団体の業界団体である、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会(JAA)が、2017年度事業説明会を4月18日に開催しました。

そこで、次のような発言がありました。

デジタル広告を特別なスキルとしてとらえるのではなく、マス広告もデジタルも、顧客との接点の1つとしてとらえていく必要がある。

(JAA理事長 伊藤 雅俊 氏)

デジタルは「コンバージョン中心の広告」から「ブランド訴求の広告」にシフトしてきた。これまでマスメディアで担っていた領域の役割を、デジタルメディアが担うようになってきている。

(JAA常任理事 小出 誠 氏)

デジタルメディアは顧客理解にも意味がある。情報提供者としてデジタルメディアをちゃんと使っていく必要がある。

(JAA理事長 伊藤 雅俊 氏)

「おおっ! ついに!」と思う人もいるでしょうし、「え? いまごろ?」と思う人もいるでしょう。どちらが正しいとかそういうことは、ここで論じるつもりはありません。

しかし、日本の名だたる広告主が集まっているJAAという団体の理事会が、こうした方針を決定し、発表したということには、大きな意味があります。

というのも、JAAというのは、日本を代表する規模の企業から宣伝部などの部長・役員が集まっている業界団体です。つまり、デジタルに関しては比較的「保守的」な姿勢の企業から、職位の高い人が集まっている会だとも言えます。

前述のコメントをした方も、理事長の伊藤氏は味の素株式会社の代表取締役 取締役会長ですし、小出氏は、資生堂ジャパン株式会社のコミュニケーション統括部長という立場の方です。

そうした方たちが「デジタルを、コミュニケーションのポートフォリオにちゃんと入れていく」という旨の決定をしたうえで、さらには「われわれのような企業の上の人間が、デジタルのことをしっかりと学んでいかなければいけない」とまで言っているのです。

これは、今後デジタルの活用がさらに大きく進んでいくことが期待されます。

ちなみに、以前に、某巨大企業の方と話していて印象的だった言葉があります。それは、次のようなものです。

われわれ大企業は、船艦のようなもの。進む向きをすぐには変えられないが、いったん方向を変えたら、あとは全力でその方向に進む。

だからこそ必要になる、「共通指標」

JAAの事業説明会では、さまざまな部会のリーダーが方針を説明していたのですが、複数の部会で共通して触れられていたことが1つあります。

それは、「さまざまなメディアを通じて利用できる指標」。

たとえば、テレビCMでこれまで使われていた「GRP」という指標は、広告主の側だけでなく、たとえば流通や小売りにおいても、ブランド露出の程度を示すものとして活用されていました。

しかし、今後「デジタルもあわせて進めていく」となったときに、現状のままでは足りない部分があります。

たとえば、これまで棚をとるときに「1000 GRP」を根拠にしていたところを、デジタルの「4億インプレッション」という表現で会話しても、おそらく流通側の相手は理解してくれないでしょう。

また、「マスはマス、デジタルはデジタル」と進めるわけではありません。マス広告も交通広告も屋外広告もデジタル広告も、いずれも「顧客接点の1つ」として、複合的に進めていくにあたっては、何らかの形でメディア横断型の指標が必要になります

こうした指標についても、JAAでは「効果の可視化」という観点で研究を進めていくとしています。

そして広告主が代理店や制作会社と対話する時代へ

また、もう1つ、興味深いトピックがありました。それは、JAAが「広告業界の働き方改善を進める」というものです。

JAAでは、2017年度の重点ポイントの1つとして、「関係者との対話強化による連携強化」を挙げています。これは、広告主・広告代理店・制作会社・メディアの距離を縮め、広告主が関係者との対話を強化していくというもの。

実際に、「働き方改善へ向けたアドバタイザーの取組み」としてJAAでは、次のような行動指針を挙げています。

広告会社・制作会社との懇談会を開催し、現状の課題共有を継続的に実施する

広告会社・制作会社と共に意見・課題を共有する機会をつくり、業務の課題・問題点について意見を交換することで、互いの業務における理解を深める。

これは、「依頼主とお得意先」という関係だった広告主と代理店が、お互い同じステージで話し合える場を作ろうという取り組みです。

具体的には、より良い働き方と成果のために胸襟を開いて対話する場をもっていくというもので、実際に、こうした対話をすでに進めている広告主もあり、広告代理店からは「これまで広告主に言えなかったことを言いやすくなった」という声があるとのこと。

また、これ以外にも、次のようなこともあわせて行っていくことを、「働き方改善へ向けたアドバタイザーの行動指針」としてJAAは示しています。

標準的な契約書・オリエンシートの策定による、依頼業務の適正化

依頼業務についての内容、期間、費用等の必要要件を明示した契約書、オリエンテーションシートを策定し、適切な業務日程の確保、作業着手後の頻繁な変更の撲滅、正確な情報の提供に努める。

歴史的にこうしたものがある会社も多いが、連携してしっかりしたものをまとめる方向で日本広告業協会や日本アド・コンテンツ制作協会とも同意している。

アドバタイザー社内での広告制作業務への理解促進による依頼業務の適正化

広告の依頼は必ずしも宣伝部や広報部から出るとは限らず、事業部門から広告依頼をすることもあり、依頼にも温度差がある。そうした事業部からの依頼であっても、宣伝部などと同様の依頼にできるよう、適正化していく(社内をまとめていく)。

この行動指針を定めた働き方改善プロジェクトのリーダーを務める名久井氏は、「これはあくまでもスタート地点であり、今後も引き続き動いていく。この行動指針はマスにもデジタルにも共通するものだが、デジタル特有のことに関しては、これ以外にも取り組むべきことがもっとある」と述べています。

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