NPSの調査票はこうやって作る! 調査票の構造と顧客ロイヤルティの抽出方法を知ろう[第2回]
前回は、顧客ロイヤルティを測るための新指標である「NPS(ネットプロモータースコア)」は業績と深い関係があることを紹介しました。今回は、実際にどのように調査票を設計したらよいのか、具体的な調査手法を解説します。
NPSの調査票はとてもシンプルです。設問項目は、カスタマージャーニーマップからロイヤルティに影響の高い課題領域をとらえて設計する必要があります。NPSは1回調査して終わりではなく、全体の評価を調査するものと、個別の顧客体験を深掘りして調査するものの2段階があります。順に解説していきましょう。
調査票の構成は至ってシンプル。設問は7問以内に収める
NPSの調査票はどのように作ればよいのでしょうか? 調査票の基本的な構造はシンプルです。最も聞きたい内容である「推奨度」を回答バイアスがかからないように最初のQ1とし、続いてQ2で「推奨/非推奨の理由」を自由記述で回答してもらいます。
そして、カスタマージャーニーマップから抽出したロイヤルティ構成要素について満足度を取得します。カスタマージャーニーマップについては、この後で解説します。
- Q1: 推奨度(顧客ロイヤルティの把握)
- Q2: 推奨/非推奨理由(定性的な要因分析)
- Q3: ロイヤルティ構成要素
- Q4: 属性・セグメント・行動(ターゲット顧客の行動分析)
上記を満たした実際の調査票は、次のようなものです。
NPS調査設計においては次のことも大切です。
- 設問は7問以内に収めること
- 3~5分以内に回答が終わるようにすること
従来の顧客満足度調査では、40~50問といった大量の設問で構成されているケースが多く見られました。しかしそれでは回答者の負荷が高く、回答率もデータの信頼性も下がります。
これまでの経験上、8問以上になると回答率が下がっていきます。このことからNPSの調査票は7問以内とし、回答に要する時間も5分以内に収まるよう極力シンプルに設計します。
設問数は少なければ少ないほど回答率が上がります。対象者がエグゼクティブ層の場合は、より回答に要する時間を短縮するために、Q3に相当するロイヤルティ構成要素の設問も省略して1分程度で回答できる内容で送付するケースもあります。調査票を作る際には、「いかにシンプルな質問の中に重要な要素を凝縮できるか」が鍵になります。
広い視点で関連性を調査する「リレーショナル調査」と
ポイントを深掘りする「トランザクショナル調査」の2段階がある
NPSで調査する範囲は幅広く、たとえば、「ブランド全体の顧客体験を調査する」ような大きなものから「コンタクトセンターの対応満足度を調査する」といったミニマムなものまでさまざまです。
NPS調査は主に次の2種類に分けられます。
- リレーショナル調査(Relational survey): 総合的な関係性を測定する
- トランザクショナル調査(Transactional survey): 個別の顧客体験を測定する
リレーショナル調査は「企業やブランド全体の評価」を測定するものです。その企業やブランド全体にどの程度のロイヤルティを感じているかを定期的に把握するために、年1回、あるいは半年に1回実施します。
一方トランザクショナル調査は「重要なタッチポイントにおける体験直後の評価」を測定し、ビジネスの現場でPDCAを回すための指標として使われます。たとえば、コンタクトセンターで問い合わせをした直後やWebサイトを通じて商品を購入した直後に、満足度や「他者に推奨するか?」というアンケートを実施します。リレーショナル調査と異なり日次、週次、月次と短い周期で実施します。
2段構造のステップを踏むことが大切
NPS調査は1回で終わりではなく、まずリレーショナル調査を行い、次にトランザクショナル調査という順番で行います。
- ステップ1: ロイヤルティに影響を与えるタッチポイントを特定する
- ステップ2: 重要なタッチポイントで深掘り調査する
ステップ1のリレーショナル調査では「顧客のロイヤルティを左右するタッチポイントはどこか」を特定します。たとえばリレーショナル調査によって「コールセンターの対応が推奨度への影響が高いにもかかわらず満足度が低い」という結果が明らかになったとします。これにより、「ロイヤルティにインパクトを与える重要な顧客接点はコールセンターである」と特定できます。
その結果を踏まえて、ステップ2でコールセンターの問い合わせ直後にフォーカスしてトランザクショナル調査を行い、評価が低い要因を深掘りしていきます。
この2段構造のステップを踏むことで「何をどうすればいいのか」というロイヤルティを上げるための施策がピンポイントで浮かび上がり、NPS向上にダイレクトに効いてきます。
このように、NPSは「究極の1問」を質問するだけではなく、リレーショナル調査とトランザクショナル調査という2つの調査を組み合わせて、ロイヤルティを形成/阻害している本質的な要因を探っていきます。
設問はカスタマージャーニーからロイヤルティ要因を洗い出して決める
ここまで「NPS調査票はシンプルであること」と「2つの調査があること」を解説してきました。それでは、設問はどのように決めていけばいいのでしょうか?
ブランド全体のロイヤルティを測定するリレーショナル調査においては、事前に「どのタッチポイントがロイヤルティに影響を与えるか」の仮説を立てることが重要です。そのために行うのがカスタマージャーニーマップの作成です。顧客の視点で体験を洗い出し、体験ごとにロイヤルティを構成する要素を抽出していきます。
新築分譲マンション購入のケースを例に見てみましょう。
このように、顧客が経験する主要なプロセスを図式化します。その上で、顧客接点と顧客体験を可視化して落とし込んでいきます。
下図は、とある商品を認知してから購入、サポート、レビュー投稿までのカスタマージャーニーマップに感情の盛り上がりと盛り下がりの感情曲線を加えた図です。
時系列で「顧客の感情がどう動いたか」を調べることで、現状の課題や打ち手が浮き彫りになってきます。特に、感情曲線のピークにあたる体験が推奨者/批判者を生み出す「真実の瞬間」(Moment of Truth)となるケースが多く、ロイヤルティを左右する重要なタッチポイントとして仮説を立てていきます。
事例: 百貨店業界とシティホテルのNPSベンチマーク調査
カスタマージャーニーの具体例を見てみましょう。筆者が所属するNTTコムオンライン・マーケティング・ソリューションが実施した百貨店業界のNPSベンチマーク調査では、NPSがトップだったのは阪急百貨店でした。
阪急百貨店における重要なロイヤルティ要因は、カスタマージャーニーのなかでも「雰囲気の良さ(楽しめる・親しみやすさ)」や「企業イメージ/ブランドイメージの良さ」「お問合せ時の応対の良さ」という結果がでています。なお、ほかの項目もあるなかでなぜそれらが重要なロイヤルティ要因なのかは、次回のNPS調査結果の分析法で詳しく扱います。
また、シティホテルのNPSベンチマーク調査(こちらも筆者の所属会社によるもの)では、NPSスコアのトップは、ザ・リッツ・カールトンでした。重要なタッチポイントは、「スタッフの笑顔や気遣い」や「サービスの信頼性」「お問合せ時の対応のよさ」という結果が出ています。
ここではカスタマージャーニーの詳細な設計方法には触れませんでしたが、ロイヤルティ要因の仮説を立てる際には次のようなアプローチ方法が有効です。これらを組み合わせて、NPSに影響が強そうなロイヤルティ項目の仮説を立てていきます。
- 自社の関係者を集めたワークショップの開催
- 顧客へのデプスインタビュー(1対1の面談式のインタビュー)
- 行動観察などの定性調査
- アンケートによる予備調査
カスタマージャーニーマップを作成しロイヤルティ要因を抽出できたら、顧客に評価してもらう実際の調査票へと落とし込んでいきます。
今回は、NPS調査手法と具体的な調査票作成のTIPSについてお話ししました。次回は、NPSの調査結果をどうやって分析するかについて詳しく解説します。
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