次の打ち手がわかる「NPS」の分析手法とは? データを活用してCX改善
せっかくNPSを調べても、それを改善に生かせなければ何も意味がありません。今回は、NPSの調査票を使ったアンケートでデータを収集した後にどのような分析をすればアクションにつながる示唆が得られるのか、具体的な分析手法について解説します。
なお「NPSとは何か」「NPS調査票の作り方」については連載の第1回と第2回で解説しています。
「定性的な分析」×「定量的な分析」。2つの分析をかけ合わせる
NPSは、「究極の質問」と呼ばれています。「この企業(もしくはブランド、サービスなど)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」という、たった1問をユーザーに尋ねるものです。
しかし、当然ながらこの1問への回答だけでは「なぜそのような評価が下されたのか?」「何をすればもっと顧客ロイヤルティを上げることができるのか?」といった改善に結び付けるのは難しいものです。
NPSの数値だけをただ眺めていても意味はなく、それならば調査を行う意味はありません。調査結果から要因を特定して改善する行動につなげるためには、次の2つの分析をかけ合わせて見ていく必要があります。
- 分析1評価理由のフリーコメント(定性的な分析)
- 分析2顧客ロイヤルティを構成する各要素の満足度(定量的な分析)
分析1コメントをトピックごとに分類して定性的な要因分析を行う
第2回「調査票の作り方」で紹介したように、調査票では推奨度を聞く設問に加えて「そのように評価した理由をお答えください」というフリーコメント欄を設けることで、評価の理由を聞き取ります。最も基本的な分析は、このコメントで言及されている内容をトピックごとに分類することです。
次の図1は、ある生命保険会社(以下、A社)に対する推奨理由を抜粋したものです。
これらのコメントを読みながら、「ポジティブ/ネガティブ」の双方に関して、言及されているトピックをそれぞれカウントしてゆくことで、要因を把握できます。表ではポジティブなものを青色、ネガティブなものを赤色で色付けしています。
推奨度 | コメント |
---|---|
10 | 自分に合った保険を選んでくれる。押し付け営業ではない。 |
10 | 手続き処理が早い。しつこく勧められない。 |
10 | 営業マンも、企業も信頼できるから。 |
10 | 親身になって相談に乗ってくれ信頼できるから。 |
9 | 担当していただいた方が親切丁寧に説明してくれ、家計のことや長期的なライフプランの相談にも乗ってもらえた。 |
9 | 営業社員の対応が良くて、知識もあり、個人個人にあった保険商品を組み合わせて提案してくれるから。 |
8 | 無理に入らせようとしない。説明を聞かないと入らせない。自分に合ったものを作り上げることができる。無駄なものを排除できる。 |
8 | 親身になって相談に乗ってくれ、最適な内容で契約ができた。保険金の請求手続きに際しも迅速で丁寧。 |
8 | 商品を提案するプランナーの方がほかの会社に比べて、押し付けるわけではなく、1人1人のことをよく考えて、話をしてくれるところが好感を持って薦められるところです。 |
7 | 安くて補償が充実している。 |
7 | 保険料と補償内容のバランスが良い。 |
7 | 大手で安心できる。 |
5 | 契約したきりで特にその後かかわりがないから。こちらから問い合わせがなくても1年に一度くらいは保険の内容確認の説明をしてほしい。 |
4 | 最近対応が雑になってきた。 |
4 | 契約内容が複雑。営業はその後何年も顔すら見せない。 |
3 | 契約した際にはとても親身にプランを考えてくれたのだが、その後たびたび営業担当の変更連絡があり、今は何の接触もない。 |
3 | 担当者の印象が良くない。 |
2 | アフターフォローが一切ない。 |
2 | 営業マンとのトラブルがあったから。定期的にコンタクトが必要だと思う。 |
2 | 選択肢がたくさんある中で、特に薦めたいと思うものはない。特に担当者が変わるときは、こちらにも選択できるようにしてしてほしい。 |
0 | 高いし、契約後のフォローがない。 |
0 | コールセンターの対応が事務的で、同じことを何度も意見しているのに一向に改善される気配がない。 |
0 | 魅力的な商品がなく、営業マンが成績目的。 |
これらのコメントをトピックごとに分類したのが、次の図2です。回答を「ポジティブ」と「ネガティブ」に分け、さらに何について語っているかを分類しています。
このA社の場合、「営業担当者の親身で誠実な姿勢」と「自分に合ったプランを提案してくれること」が顧客ロイヤルティを醸成している重要な要素であることがわかります。一方で、批判理由の内訳を見ると「契約後のアフターフォローがないこと」が50%近くを占めており、この点を改善できれば顧客ロイヤルティが大きく改善すると考えられます。
回答のサンプルサイズが大きくなってくると、この分類はなかなか骨が折れる作業になります。その場合、「推奨者」(推奨度9-10点)と、特に推奨度が低い「批判者」(たとえば推奨度3点以下など)に限定して分類してみるだけでも、十分な示唆が得られることがあります。
中立的な評価をした人のコメントは「特に理由はない」「人それぞれなので他人に薦めたいとは思わない」といったものも多く、気付きにつながる特徴的な言及が現れることが少ないためです。
分析2定量的な要因分析から「打ち手」の優先順位をつける
顧客ロイヤルティを構成する各要素の満足度
定性分析ではフリーコメントに現れるトピックの頻度を分析しましたが、これに定量的な分析を加えることで、「顧客ロイヤルティを構成する要素のうちどの項目の影響が強いのか」「何から着手すれば効果的にロイヤルティを向上できるのか」というアクションの優先順位をつけることが可能になります。
定量分析の方法にはいくつかの手段がありますが、ここでは最もシンプルなものとして、相関分析を用いた「アクションドライバーチャート」を紹介します。次のデータ(図3)は、先ほどの定性分析でも利用したA社に関するアンケート結果です。
このチャートの縦軸は、調査票で聞いた各要素の満足度(第2回参照)と推奨度との相関係数、つまり「それぞれの要素の満足度が、顧客ロイヤルティとどれくらい強く相関しているか」を表しています。それに対し、横軸は「各要素の満足度の平均値」です。つまり、図の上部にある項目ほど顧客ロイヤルティとの相関が強いということを表します。
縦軸(相関係数)と横軸(各要素の満足度)それぞれの平均値を求めて線を引き、4つの象限(エリア)に分けて各項目を見ていきます。
右上の象限は「現在の強み」
チャートの右上の象限を見ると、「保障内容や保険金請求、条件の説明のわかりやすさ」「保険商品の魅力」「自分に合った保険サービスの提案」という3つの要素がプロットされています。
これらは推奨度との相関が高く、かつ高い満足度を得ているため、現在A社の顧客ロイヤルティを醸成している「強み」であるといえます。そのため、引き続き高い満足度を維持できるように、重点的に取り組む必要があると解釈できます。
左上の象限は優先して改善すべき項目
一方、顧客ロイヤリティとの相関が強いにもかかわらず満足度が低い項目は、左上の象限にプロットされます。このチャートでは「加入後のアフターフォローの手厚さ」「お問合せ時の応対の良さ」の2つが相当します。
ロイヤリティとの相関が強い項目なので、一刻も早く顧客体験を向上させ、チャートの右側に移動させる必要がある優先改善事項であることがわかります。
下半分の象限はロイヤルティとの相関が弱いので優先度を下げてもよい
それでは推奨度との相関の弱い要素はどのように扱うべきでしょうか? チャートの左下の象限を見ると、「企業のイメージ/ブランドイメージの良さ」「保険金請求手続き・支払のスムーズさ」がプロットされています。
これらの項目の満足度は確かに改善の余地があるのですが、同時にロイヤルティとの相関も比較的弱いことがわかります。そのため、この象限にプロットされる項目は、場合によっては優先度を下げてもよいかもしれないという判断ができます。
もちろんすべての不満に対して対処できればそれに越したことはないのですが、現実的には使えるリソースは限られており、どのポイントに資源を集中投下すべきか、優先順位をつけて取り組む必要があります。アクションドライバーチャートを見ることで、優先して対処すべき分野を特定し、改善アクションを的確に進めることができるようになります。
サンプルサイズが大きくなればより高度な分析も可能だが、時間がかかる
このアクションドライバーチャートでは「相関係数」という非常にシンプルな指標を使って要素をプロットしています。サンプルサイズ(アンケートの回答件数)が十分に大きくなれば、「重回帰分析」や「ロジスティック回帰分析」といったより高度な分析が可能となります。
ただしこれらの高度な分析には専門的な観点でいくつか注意点があり、納得感のある分析結果となるまで、ある程度分析者による試行錯誤と時間が必要となります。そのため、お客様の声の収集から分析、アクションまでを速やかに実行するためには、ここで紹介したようなシンプルな手法での分析も有効だと考えています。
定性分析と定量分析はどちらか一方では足りず、相互補完関係にある
ここまで、フリーコメントの分類による定性的な分析と、各要素の満足度と推奨度の相関係数を用いた定量分析を紹介してきました。この2つのアプローチは、どちらか一方だけで十分なものではなく、相互補完的な関係にあります。
たとえば、定性分析だけを実施した場合、お客様のコメントに現れたトピックのみを対象としているため、潜在的にロイヤルティに影響を与えている要素のインパクトを測ることができません。先ほどの例でいえば「カスタマーサポート」に言及するコメントはそれほど多くありませんが、アクションドライバーチャートを見ると、「お問合せ時の応対の良さ」が「アフターフォローの手厚さ」と同程度の影響力を持っていることがわかります。
逆に定量分析では、調査票設計の際に設定した仮説にもとづいて各要素の満足度を聞いているため、設計者が想定していなかった要素については測定ができません。こちらも先ほどの例でいうと、定性調査で現れた「親身・誠実」という要素は、事前に設問として設定していないため、定量的に分析することは不可能です。
このように想定していなかった要素を定性分析から発見した場合は、次回の調査票にそれを反映することで、定量調査の精度をより上げていくことができます。
今回は、アクションにつながるNPSの分析方法について、定性・定量の両面から説明しました。次回は「NPSが自社のビジネスにとって有効な指標となりうるか」、その検証方法を解説します。
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