Web=若者の誤解、Twitter通史が教えるWebユーザーの新常識
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の489
ツイート爆弾と誤解
トランプ米国新大統領の愛用によってり、Twitterの存在感が高まっています。就任式を終えた2017年1月24日、トランプ大統領のフォロワーが2000万人を超えたと報じたのは、トランプ氏が「偽ニュースを流す」と批判した米国CNN。日米共にマスコミは、トランプ氏の「ツイート爆弾」だと批判的に報じます。
我が国でも第193回通常国会の衆議院代表質問で、民進党の野田幹事長が批判しましたが、安倍首相は「現在はネット社会であり、政治家であればSNSを活用することは不可欠という時代に我々は生きている」と反論します。Web業界人として発言に賛同しますが、Twitterは今や「SNS」の範疇に収まりません。
以前にも指摘したようにTwitterは、政策・人柄を脇に置き、政治指導者の声をダイレクトに国民に届けて選挙結果に反映した、文字通りの「Webが政治を動かす」ことに成功しました。Web担当者なら知っておきたいその足跡と特徴、そしてトランプ氏がTwitterを通じて体現した「Webユーザーの新常識」を紹介します。
セレブの日常がすぐそばにある
Twitterが米国でブレイクした当初のあだ名は、「セレブの追っかけ」でした。ハリウッドセレブの「つぶやき=日常」が見られるという触れ込みです。
社会的な関係性を作らずとも有名人と接触できるTwitterは、ウィキペディアにある「Web上で社会的ネットワーク(ソーシャル・ネットワーク)を構築可能にするサービス」との定義からは外れます。Twitter社の言葉を借りれば、「共感と共有のプラットフォーム」となります。
それでは、どうしてこの誤解が生まれたのか。国内でTwitterのブレイクを語るとき、避けて通れない著名人が津田大介氏と勝間和代氏です。津田氏は、記者会見をリアルタイムにツイートするネットスラング「tsudaる」を生み出しました。また勝間氏は、「あの有名歌手がはまるツイッターとは?」とのテレビ番組で、お茶の間に広く知れ渡るきっかけとなった広瀬香美さんにTwitterを勧めた人物。
厳密な定義はいらない
Twitterが今ほど一般に広まっていなかったころ、両氏が著書で繰り返していたのが「つながり」や「実名」でした。「SNS」と並列の表記も確認でき、国産SNS「mixi」との比較もありました。厳密な定義を必要としない人々は、非Web系はもちろん、Web業界の周辺にも多く、混同のままイメージが定着し、首相の答弁に採用されるほどになったのでしょう。
2009年、国内でも大きくブレイクしたTwitterでしたが、その後、伸び悩みます。私の周辺調査では、Twitterが発表するアカウント数の増加に、国内の利用率が連動していませんでした。ネット上でつぶやく行為にメリットを感じない、非Web系が多数派の日本人にとってTwitterは遠かったようです。
停滞を打破したのは、やはり「セレブ」です。2010年末に有名女性タレントが、雑誌記者である元夫と先輩女性タレントの「下衆不倫」をTwitterで告発して騒動に発展。「大桃爆弾」と呼ばれた騒動が、非Web系の人々をTwitterへと駆り立てます。
また、翌年の東日本大震災において、ライフラインとしての活用が注目されます。
そして伝説が生まれた
トランプ氏に代表されるTwitterの政治利用の歴史は古く、前米国大統領のオバマ氏が初当選した2008年の選挙活動での利用が報告されています。翌年には「アラブの春」と呼ばれる、中東諸国の民主化運動でも利用されました。
なかでも、イランの大統領選を巡る不正疑惑への大規模抗議活動を助けるため、「反体制派を支持する米国国務省が、Twitter社に定期メンテナンスの延期を働きかけたのではないか?」という噂(両者は否定)は、「Twitterが政治を動かす」という都市伝説を生み出しました。
同じ頃から、日本でもTwitterに取り組む政治家が増え、津田氏の著書でも好意的に紹介されています。
日本の政治利用といえば
Twitterの政治利用において、忘れてはならない存在が橋下徹前大阪市長です。既存メディアを中抜きして有権者にメッセージを発信することで、自ら立ち上げた政党の宣伝をし、一定の成功を収めました。Twitterの政治利用ではトランプ爆弾の印象が強いですが、以前からも使われていたのです。彼はそもそも人気タレント。やはり「セレブの追っかけ」です。
こうした「Twitter通史」をたどれば、Twitterと「セレブ」は好相性で、不動産王かつ人気タレントであったトランプ氏にとっては、これ以上なく親和性の高いツールだということがわかります。自身のポテンシャルを最大に生かせるツールのチョイス。さまざまなWebサービスやSNSが乱立する今、どのプラットフォームを選択するかは重要な視点です。
トランプが示した現実
サービス開始から10年を過ぎたTwitterは、Webユーザーの常識も書き換えました。史上最高齢の70才で大統領に就任したトランプ氏。つまり「高齢者でもWebを活用する」ということです。意欲と能力があれば年齢を問わずに誰でもWebを活用できると、ツイッターを通じて証明してみせたのです。
日本でも「Yes! 高須クリニック」でお馴染みの高須克弥院長(72)は中毒を意味する「ツイ廃」を自称し、歯に衣着せぬツイートでネット界隈どころか、世間まで騒がせており、御年94歳になる漫才師の内海桂子師匠もつぶやいています。
また、2016年に入りTwitterは日本のユーザー数を発表しており、日本の全ユーザーの約半数を30代以上が占めるといいます。サービス開始から10年が経ち、若年層がシフトしたとも考えられますが、今や「ネットサービス=若者」の図式は通用しないのです。
米大統領選挙を機にTwitterの知名度は過去最高に高まりますが、米国NASDAQ市場に上場以来、赤字が続き四半期決算が近づく度に身売り説がどこからともなく湧いてきます。日本以外では利用者が頭打ちしているのです。
FacebookやInstagramの影響も少なくないでしょう、最近ではセレブの追っかけの座を奪われつつあります。時代にあったプラットフォームをユーザーが渡り歩いていくのは、Webサービスの常。知名度や利用者数と利益は、正比例しないというWeb界隈の切ないトリビアです。
今回のポイント
Webの利用に年齢は関係ない
知名度や利用者数と利益は比例しない
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