私的発言が招く騒動から考えた、企業のTwitter「私的利用ガイドライン」
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百弐十九
ネットは世界を良くするか
行方不明者の捜索もそこそこに、先頭車両を破壊して埋めた中国版「新幹線」の事故対応への批判が、中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」で盛り上がっています。いまだに中国の政治体制では、自由な言論は規制されているのですが、人の口に戸は立てられぬと言うように、2億人ともされる微博の利用者を前に規制が追いついていないようです。ちなみに中国国内で本家「ツイッター」が使用できないのは当局による規制です。
この一事をもって、
ネットは世界を良くする
とでも礼賛すれば、私もWeb業界から小銭をいただけるのでしょうが、ツイッターは道具、効能は使う人間に委ねられます。女子サッカー日本代表の「なでしこジャパン」の選手との飲み会が実況中継され、同じく男子サッカーの元代表とモデルさんのデートが晒されたのは、ツイッターがあったからです。
そしてまたツイッターで注目すべき騒動がおきました。俳優の「高岡蒼甫」さんのフジテレビ批判です。
韓流の評価と事実
ツイートは幾通りも解釈できる内容だったので再掲はしませんが、要約すれば韓流ドラマや韓国人のタレントを多用する在京キー局フジテレビへの批判で、東日本大震災から日本人が立ち上がろうとしている時だからこそ、日本人タレントにもっとスポットを当てろという解釈もできました。確かに、あまり有名でない韓国人タレントまでもが、毎朝のように紹介される朝の情報番組「めざましテレビ」に首をひねることは少なくありません。
私が注目したのは「韓流批判」ではありません。高岡蒼甫さんが作家や実業家ならば、たとえ有名人でもここまで取り上げられることはなかっただろう、ということ。テレビに出演する俳優さんが、依頼主(正確には違うこともありますが)であるテレビ局を批判したことで「騒動」となった点、つまり、ツイートには立場や肩書き、または企業名などの「背景」が加味されるということです。
私的なつぶやきが、企業にとって「舌禍(ぜっか)」とならないために、ツイッターの「私的利用」についての対策を考えてみます。
IBMの教え
まず前提として「背景」を名乗ってツイートしていれば、それは「公的(パブリック)」です。プロフィール欄で「私的なつぶやき」と注釈をつけたからと逃れられるものではありません。事情通の読者はIBM社の「IBMソーシャル・コンピューティング・ガイドライン」を持ち出し、
このサイトの掲載内容は私自身の見解であり、必ずしもIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません(筆者抜粋)
と、私的責任と言及すれば問題ないだろうと反論されるかもしれません。しかし、日本社会では個人と会社の線引きが曖昧で、個人の不祥事に会社が謝罪することは珍しくありません。
人は背景でものをみる
こんな例もあります。ニュースサイト「47NEWS」の公式マスコットの過激な脱原発や死刑制度へのツイートが炎上し(アカウントはすでに閉鎖)、運営会社の社長が謝罪コメントを配信するに至りました。マスコットのプロフィールには「会社の公式な見解とは必ずしも一致するものではございませんのでご了承下さい」とありましたが、なるほどそうかと見逃してくれるほど日本のネット社会は優しくありません。
だいいち、IBMはPDFで33ページに及ぶ倫理規定「ビジネス・コンダクト・ガイドライン」をあらかじめ用意し、それを熟知したうえで従えとソーシャル・コンピューティング・ガイドラインの第一条で示しています。つまり、ツイッターを前提としたものではなく、会社としての明確な考え(理念)を整えたうえでの対応であり、プロフィールに一文を入れれば何を語ってもよいというものではありません。
一方、こうした手間暇を割けない中小企業のとるべき対策はIBMとは正反対です。
新聞記者が責められる理由
ツイッターで新聞記者のツイートが批判されることがあります。「痛い」批判も少なくありませんが、新聞記者がフォローされるのは、彼らがその「背景」を公開しているからです。反対に背景を「非公開」にしたアカウント持つ記者は、ほとんどが、だれにもフォローされないとこぼしていました。
つまり、新聞記者という職種、あるいは所属する新聞社への興味や好奇心からフォローされているのです。すると「私的なつぶやき」と断ったとしても、発言に「背景」を重ねてしまうことは止められません。これは新聞記者に限らず、どの企業、業種でも同じで、「背景」を名乗ることで読者にバイアスがかかり、批判の刃が「背景(企業)」に向かう可能性が高くなるのです。
プロフィール欄に会社名をいれているユーザーは少なくありません。私が見たケースでは著名企業の社員が、手抜き仕事についてつぶやいていました。また、取引先などの関係者なら組織を特定できるような、業務に関係したツイートは掃いて捨てるほどあります。これを野放しにしているとしたら大変危険なことです。
背景がなければ噂話と同じ
もちろん、終業時間外のツイッターの禁止などといった私的な時間を制約することはできませんが、公開するプロフィールから企業名や、組織といった「背景」を特定できるような記述を避けるように「ガイドライン」を制定することなら可能です。高岡蒼甫さんの件で指摘したように、どれだけ刺激的な言説であっても「背景」がなければ影響力は殆どないからです。たとえば、
手抜きなんて当たり前ニャー、元請けのピンハネがきつすぎるから仕方ないにゃん♪
というツイートが「●●工務店勤務」とプロフィールにあるアカウントで行われた場合、ネタを探しているネットの住民に「内部告発」というレッテルを貼られて拡散される可能性は高いでしょう。しかし、同じ内容を私がツイートしたとしても拡散することはありません。そこに「背景」がなければ、噂話と同列だからです。さらにガイドラインの存在が「舌禍」のあとの「エスケープ(いいわけ)」を斬り捨て、社内における責任の所在を明確にすることもできるでしょう。「言っておいたのに」と。
だれもが自由に発言できる時代になりました。すなわち、だれもが「舌禍事件」を起こすリスクを背負っているということです。そのための対策と準備もWeb担当者の仕事と考えます。
今回のポイント
「背景」込みで発言は消費される
私的つぶやきなら会社名はNG
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