Web担当者よ、その施策は経営指標に関係するのか? ミスターフュージョン石嶋氏×アナグラム阿部氏[対談]
売上への貢献を意識したWeb戦略を提唱するミスターフュージョンの石嶋洋平氏と、運用型広告のスペシャリストであるアナグラムの阿部圭司氏。多くのクライアント企業を客観的に見て業績改善を支援し、かつ自身も経営者である両氏が共通して感じるのは、「Web担当者はもっと会社のビジネスを意識すべき」ということ。
会社のビジネスに貢献できる、あるべきWeb担当者像とは。広告予算、Webサイト、コンバージョン率、ビジネスそれぞれの最適化という視点から語った。
広告予算の最適化――広告サービスごとの断片化はダメ、ゼッタイ!
石嶋洋平氏(以下、石嶋) 以前、リスティング広告の運用で、阿部さんの「CPC(クリック単価)を3分の1に抑えて3倍集客したら、CVR(コンバージョン率)は落ちたけど、最終的なコンバージョン数が増えた」という話を聞いて、おもしろい考え方だと思いました。
CVRの低いキーワードを削って出稿量を減らせばCVRは高くなるけど、目標とするコンバージョン件数が取れなければ意味がありません。
CVRの最適化とは、必ずしも上げるだけではないということを、阿部さんから教えてもらいました。
阿部圭司氏(以下、阿部) CVRが高いか低いかは、私はそれほど気にしていません。重要なのは、決められた広告予算を、どのように分配して正しいポートフォリオを作るかです。
一か所に集中させることもあれば、細かく分散させてCPCを抑え、たくさん集客したら、結果的に売上が大きくなることもあります。
アナグラムでは、リスティング広告に限定せず、運用型広告として仕事をいただいています。クライアントから「リスティング広告で1000万円、フェイスブック広告で200万円の予算です」と言われたら、「全体でまとめてください。こちらでポートフォリオを組ませてください」とお願いしています。
広告サービスごとに予算を断片化させるのは、絶対にやめるべき
ポートフォリオとは、もともと金融用語で、株などを分散して投資する際の全体集合みたいなものです。個別の銘柄を見ると損もあるけど、全体としては利益が出るようにするという考え方です。
リスティング広告だけでも、多くの選択肢がありますから、株で分散投資するように、広告の費用対効果も全体で最大化・最適化しようというわけです。
広告サービスごとに予算を断片化(フラグメンテーション)させるのは、絶対にやめるべきです。もちろん、決裁が下りないという社内の事情があるかもしれませんが、そこは柔軟にやらせてほしいと強くお願いしています。そうしないと、うまくいかないですからね。
石嶋 おっしゃるとおり。グーグル(アドワーズ)に1000万円使ってくれと言われて、いまはヤフーのほうが調子いいのになぜ、ということもありますね。
阿部 アナグラムに任せるなら、もうリスティング広告やフェイスブック広告など、運用型広告のことは気にしないでください。その分の脳みそを別の目的に使ってくださいとお願いしています。もちろん、その前に信頼関係があってのことですけど。
石嶋 広告費を断片化させない、細かく決め過ぎない。それが、広告費を変えずに売上をアップさせることにつながるわけですね。全体のコストは変えず、その内容を柔軟に変えられるようにすると。
阿部 断片化は、広告費だけでなく、PCやスマホといったデバイスやメディアでも起きています。
以前は、ヤフーやミクシィだけ押さえておけば十分でした。しかしいまは、フェイスブック、インスタグラム、スナップチャットなどがあり、社内でも担当者が断片化しています。
どんどん複雑になるので、細かいことはそれを得意とする専門家に任せてしまったほうがいい。ポートフォリオという言い方をするようになったのは、そういう背景があります。
石嶋 広告費は細かく分けようとせず、まとめて任せることで、全体として最適化されやすくなるということですね。
ポートフォリオという考え方や発想は、私たちのような業者に依頼するときもそうですが、社内のWeb担当者が運営する場合でも有効ですね。
コンバージョン率の最適化――“木を見て森を見ず”にならないために
石嶋 私は、アクセス解析は将来的にAI(人工知能)にとって代わられる仕事だと思っています。
それで、人間であるWeb担当者は何をすべきかと考えたときに、コンバージョン率の最適化ではないかと思いつきました。
もちろん、これは単に目標のCVRを出せばいいという意味ではなく、継続的なPDCAを意識してもらうことが真意です。
わかっている人には当然のことですが、そういう意識を持っていないWeb担当者の方がまだまだ多く、打ち合わせで「PDCA? 何ですかそれ?」と言われることも珍しくありません。
そこで、SEO(検索エンジン最適化)やLPO(ランディングページ最適化)のように、わかりやすいラベルを作れば話もしやすいし、認知も広がるかと思ってCRO(コンバージョン率最適化)という言葉を連呼しています。
本当に大切なのは売上への貢献ですが、Web担当者にわかりやすく伝えることが目的なので、「SEOやりましょう!」と同じノリで「CROやりましょう!」と言えるようになればいいなと。
阿部 たとえば、アクセス解析をやる人は、Webサイトのなかばかり見ていて、全体のビジネスを見ていないことが多いですよね。
行間を何ピクセル変えたら、クリック率がコンマ数パーセント上がったと言って一喜一憂するのは、何か違います。そこまでやるのは、ほとんど完成している状態のビジネスだけであって、Web担当者としてほかにやるべきことがあるはずです。まさに「木を見て森を見ず」です。
たとえば、ブログでバズった記事の直帰率が高いことに対して、回遊性を上げるためにおすすめ記事へのリンクを記事の最後に入れて改善しようとする人がいます。ユーザーは、その記事だけを読もうと思って訪れているので、バズった記事の直帰率が高いのは当然です。そのコンテンツ自体を改善しようとするのは間違いなんです。
「似たような傾向の記事を書くとウケますよ」というのが正しいアドバイスです。
すべてのクライアントがと言う気はありませんが、多くの場合は売上を大きく変えるために一番手っ取り早いのは、ビジネスを変えてもらうことです。売り方や商品そのものを変えてしまう。それをやることで、売上が何倍も変わります。アナグラムが注力しているのは、そういうビジネスにインパクトのある提案です。
石嶋 CROは、アクセス解析で何かの数値を上げるとか、A/Bテスト的な話ではなく、ビジネスインパクトを生み出そうという文脈での言葉です。
しかし、大企業のWeb担当者はコンバージョンの数字しか見ていなくて、経営層は売上の数字にしか興味がないことが多いですからね。
どれくらいの売上を出すべきなのか、会社の経営のことまでわかっている必要がありますから、大企業のWeb担当者ほど難しいかもしれませんね。
阿部 会社のことをよく理解している方が担当者だと、本当にありがたいですね。
とはいえ、組織のなかにいる以上、彼らもKPI(重要業績評価指標)を指標としていることは事実ですし、そこはどうにかなるものでもありません。私たちにできるのは、彼らが目標や理想をクリアできるように支援することです。
ビジネスの最適化――とことん顧客の声に耳を傾ける
石嶋 売上を変えるためにビジネスを変えてもらうというのは、具体的にはどのようなケースがありますか。
阿部 まずは、リスティング広告で課題解決を試みます。ただし、ビジネスそのものが課題をはらんでいるときは、ビジネスごと変えてもらうのがアナグラムの方針です。
私たちは、リスティング広告を運用する過程で、Web側のデータを把握できています。お客さまの置かれた環境を分析したうえで、その商品の長所と短所、さらにユーザーのニーズまでわかります。
そこで、その会社が持っている技術などを使って別の商品を展開できないか、という提案をすることがあります。
アナグラムが目指しているのは、リスティング広告をきっかけにして、上流ビジネスからかかわることです。この、データを持って経営にまで入っていけることが、アナグラムの付加価値となります。
でも、そこまでやらせてもらうには、まず広告運用で成果を出して、信頼を得なければなりませんが。
石嶋 そのあたりの方針は、ミスターフュージョンも同じです。私たちはアクセス解析を軸にしていますが、やっていることは同じですね。
ちなみに、そのような競合品を含めた評判やユーザーのニーズは、すべてネットから探すのですか。
阿部 基本はネットです。Yahoo!知恵袋などのQ&Aサイトにある情報も見ています。
あと、アナグラムの社員はクライアントの商品を自腹で買って使っているようなメンバーも多いです。実際に商品を使い、目の当たりにすることでさまざまな気づきが得られます。その過程で、競合分析やニーズなども把握できます。
石嶋 なるほど。ミスターフュージョンでも似たことをしていますが、私たちはオフラインが好きなので、既存ユーザーにダイレクトメールを出して、アンケートでひたすら声を集めます。
コールセンターには改善のヒントがたくさん埋まっている
阿部 ただ、声を聞くことは大切ですが、それに偏りすぎてもダメです。書かれていることを精査して、それが本当がどうかをたしかめます。実際に、自分たちが買ったり使ったりしてみて、どう感じたのかも重視します。
1つの指標だけに依存せず、定性データと定量データをバランスよく参考にします。
それから、コールセンターには改善のヒントがたくさん埋まっていて、改善の施策や仮説が生まれるきっかけになります。
よく、クライアントのWeb担当者や製品企画担当者の方とコールセンターの方とでブレスト会議をしてもらっていますが、双方にとって有意義な濃い時間になりますよ。
トップセールスマンは売れる理由や秘訣を持っているので、それをWebサイトや広告にも反映する
石嶋 ミスターフュージョンでは、Webサイトの改善をお手伝いするときに、クライアントのトップセールスマンにも必ず参加してもらいます。その方の営業時の会話を録音してもらうのですが、コピーに使えそうないい言葉がいくつも出てきます。
BtoBの場合は商談に同席させてもらって、どういうストーリーで説明しているか聞かせてもらいます。そこには、トップセールスマンならではの売れる理由や秘訣がありますから、それをWebサイトでも表現するわけです。
営業が言っていることと、Webサイトに書かれていることが食い違っている会社がけっこうあります。せっかく、売るためのヒントが社内にあるのに、活用しないのはもったいない。
トップセールスマンとは、いわばユーザーをコンバージョンさせることにもっとも長けている人です。そういう人は、やはり会社のビジネスをしっかり理解していて詳しいです。
阿部 会社のことをよく理解している担当者は、本当にありがたいですね。よく私が社内に言うのは、クライアントの担当者よりもその会社の商品やビジネスのことに詳しくなれということです。そのくらいでないと、絶対にうまくいきません。
Web担当者のミッションとは――会社のビジネスをしっかり理解する
石嶋 Web担当者の役割というのは、自分たちの情報を発信することだけではなく、情報収集もしっかりすることです。
お客さまの声を聞き、それをもとに改善の施策を検討し、具体的に落とし込み、検証する。この仕組みを作ることが、CRM(顧客関係管理)の第一歩になります。
CROの本質は、経営状態や商品、お客さまの声、競合の強みなどを、全員で共有して正しく認識できているかどうかです。
Web担当者にその旗振り役をやってほしいし、そんな方が1人でもいれば、まったく変わってきます。
私がCROという言葉を流行らせようとしているのは、Web担当者ってそういうラベルがないとなかなか動けないからです。
でも、そういう視点を持つことができたら、仕事が楽しくなると思います。私たちのような社外の業者とも、単なる業務としてではなく、一緒にやっていて楽しい、会社をよくしようという姿勢を持っていただけたらうれしいですね。
阿部 とてもいい商品を持っていたけど、倒産寸前という会社をお手伝いしたことがあります。いまでは業績が回復して、社員も増えて、うまくいっています。
その様子を見ていると、この会社と仕事できてよかったなと思います。そういう会社の担当者はものすごく成長します。
石嶋 今日はどうもありがとうございました。
阿部 こちらこそ、ありがとうございました。
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