HCD-Net通信
「人間中心設計 (HCD)」を効果的に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO「人間中心設計推進機構(HCD-Net)」から、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。
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ISO13407改訂―HCDの新たな展開のために見直すべきこと/HCD-Net通信 #13

HCD(人間中心設計)からHCD(人間中心開発)というアプローチへ
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これまで連載内でも何度か取り上げてきた人間中心設計に関する国際規格であるISO13407(日本における翻訳規格: JIS Z 8530 人間工学―インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス)が、数年に一度の改訂の時期を迎えている。この改訂を機にこれまでISO13407が果たしてきた役割を振り返ってみよう。

これまでのISO13407

ISO13407

コンピュータを応用したインタラクティブシステムの製品ライフサイクル全般に対する人間中心設計の指針について規定した国際規格。日本における翻訳規格は「JIS Z 8530 人間工学―インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス(Human-centred design processes for interactive systems)」

ISO9241シリーズ

典型的なオフィス作業を行う際に用いる書式記入対話及びダイアログボックスを利用するコンピューターとの対話についての対話設計、入力設計及び出力設計に関する条件付き推奨事項について規定した国際規格。日本における翻訳規格は「JIS Z 8511~JIS Z 8527 人間工学―視覚表示装置を用いるオフィス作業(Office work with visual display terminals(VDTs))」

いずれも日本工業標準調査会のデータベース検索で翻訳規格の参照が可能。

1999年に国際規格として成立したISO13407は、1995年にWD(Working Draft: 作業原稿)、1996年にCD(Committee Draft: 委員会原稿)、1998年にDIS(Draft International Standard: 国際規格原稿)、そして1999年にFDIS(Final Draft International Standard:最終国際規格原稿)となったことからもわかるように、ISOの規格としては比較的順調に、淀みないペースで規格化が進行してきた。その背景には、1980年代後半から盛んになってきたユーザビリティ活動の本格化があり、ISO9241シリーズにおけるユーザビリティ関連の規格の整備があった。

特に日本においては、欧州地域での非関税障壁となり製品の輸出ができなくなる可能性が懸念され、各工業会の関係者が熱心に資料を読んで対応を検討していた経緯もあり、産業界への普及は世界中で一番素早く行われたといえる。当時はISO9000シリーズやISO14000シリーズへの対応に産業界が苦慮していた時期であり、それが過敏な反応として現出したものだった。実際に非関税障壁となることはなかったが、こうした敏感な反応が、結果的に良い意味でのユーザビリティ活動の浸透につながったことは言うまでもない。

ISO13407の一番の意義は、ユーザビリティ活動にとって支柱としての役割を果たしたことである。当時からユーザビリティという問題に関心をもっている企業の担当者はいたが、どちらかといえば少数派であった。ユーザビリティが利益に直結するものではないと考えられていた当時は、企業の利益追求という大命題の前で関係者は苦労を余儀なくされていた。そこにこの規格が登場し、そこで取り上げられているユーザビリティという概念が、単に使いにくさやわかりにくさという問題点の克服だけでなく、ユーザーにとって魅力的で有意義な機能の開発にも関係しているのだという理解が少しずつできあがってきたのである(その点はISO13407の成果というよりは、むしろそこで引用されているISO9241-11の成果というべきだが)。

ISO13407の大きな特徴として、そのプロセス的な視点があげられる。随所で引用されてきた有名な4つの円からなるプロセス図は、ユーザビリティが単なる評価活動によって成立するものではなく、上流工程を含めた設計プロセス全体で成し遂げられるものであることを明示するものであり、ユーザビリティアプローチの確立に大きな役割を果たしたといえる。

人間中心設計のプロセス図
ISO13407内に示されている人間中心設計のプロセス図

これからのISO13407に欠けていること

現在、ISO13407は数年に一度の改訂の時期を迎えており、ISO9241-210と番号を変え、TC159/SC4/WG6という委員会においてその改訂作業が進行中である。ただ、全体として今回の改訂作業はマイナーな部分の修正が多く、基本的な部分はISO13407のままといっていいだろう。

筆者は、この改訂には幾つかの不満を持っている。いや、以前から不満に思っていた点が、手をつけられずにそのまま残っている点に不満を抱いているのだ。その1つが先ほどの図で説明したプロセスに対する考え方である。それを次に整理してみよう。

  1. ユーザビリティは設計だけの問題でなく、企画から運用に至るまでのライフサイクル全体に関するものである。ISO13407では運用における長期的モニタリングの重要性を指摘してはいるものの、基本的には設計に関する規格だということで、運用においてどのような活動を行えばよいかが明示されていない。また4つの円の1番目に相当する部分は企画段階に含めてもよい内容であり、企画段階と設計段階の区分が曖昧でもある。

    ライフサイクルを明示した規格としてISO18529やISO18152があるが、ISO13407においてもライフサイクルを明示的に取り扱うべきだと思われる。言い換えれば、HCDをHuman Centered Design(人間中心設計)の短縮形としてでなく、Human Centered Development(人間中心開発)の短縮形として考え、「企画」「設計」「製造」「販売」「運用」といった段階を区別するべきだと思われる。

  2. ウォーターフォールモデル

    ソフトウェア開発モデルの一種。上流工程(前工程)から下流工程(後工程)へ作業工程を順次移していくモデル。それぞれの工程が平行に行われることはなく、上流工程に後戻りすることもない。

    PDSサイクル

    Plan(計画)、Do(実行)、See(評価)を繰り返すことにより、製品・サービスの改善を行いながらより良いものを作っていくマネジメントサイクルの1つ。

    PDSA(PDCA)サイクル

    PDSサイクルとほぼ同意義で使用されている。Sはstudy(評価)でCはCheck(評価)、最後のAはAct(改善)を意味している。

    4つの円のモデルは反復設計を念頭においたものとされているが、4番目の円から1番目の円への流れというものは、いわば設計から企画への後戻りであり、いくら反復設計といってもそれは考えにくい。反対に、それを理由にしてその矢印を取り去ってしまうと、4つの円は反復設計ではなくウォーターフォールモデルになってしまう。この点については、設計段階における各プロセスにシューハートのPDSサイクルやデミングのPDSA(PDCA)サイクルの考え方を取り込んだ方がいいと思われる。いや、すべての段階においてPDSAサイクルを考えることができ、ライフサイクルの段階とPDSAのサイクルとから構成されるマトリクスによって人間中心開発を整理する必要があると思われる。

  3. ISO13407では「設計による解決案の作成」という3番目の円のなかで、設計と評価(形成的評価)の反復が明記されていた。この点において、ISO13407は反復設計を念頭においていたといえる(ISO13407の制定当時はまだアジャイルソフトウェア開発宣言は出されていなかった)が、ISO9241-210では、形成的評価と総括的評価が共に4番目の円に収められてしまっていて、せっかくの反復設計への志向性が失われてしまっている。

  4. ISO13407は「コンピュータを利用した対話システム」を対象としているが、実際にはハードウェアの設計開発とソフトウェアの設計開発、統合的システムの設計開発、そしてサービスの設計開発では、そのプロセスには異なる部分がある。当初、サービスへの適用まで想定していなかった規格ではあるが、人間中心という考え方は当然サービスにも適用されるべきである。このあたりの共通性と特殊性の扱いが不明瞭なままになっている点も残された課題といえる。

このように、大きな歴史的意義をもったISO13407ではあるが、その初期の役割は十分に果たしたといえ、現時点ではむしろ新たな規格によって今後の人間中心開発の骨格作りを考えた方がいいように思われる。

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