BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

Web 2.0信者の目を覚ます/書評『グーグルとウィキペディアとYouTubeに未来はあるのか?』

ブックレビュー

BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『グーグルとウィキペディアとYouTubeに未来はあるのか? Web2.0によって世界を狂わすシリコンバレーのユートピアンたち』

評者:山川 健(ジャーナリスト)

専門家が素人に乗っ取られているのがネット社会と分析
質の高い伝統メディアや文化を崩壊させるWeb 2.0を批判

  • アンドリュー・キーン 著、田中じゅん 訳
  • ISBN:978-4-901679-85-5
  • 定価:1,900円+税
  • サンガ

「Web 2.0」への痛烈な批判。Web 2.0によって質の高い伝統的なメディアは消滅し、芸術や文化も崩壊する。Web 2.0がもたらす社会への悪影響を止めなければならない――。本書の主旨を一言で書くとこうなる。私は、Web 2.0という概念に基づいた新しいビジネス手法が登場し、成功事例があることは当然知っている。だからといってWeb 2.0はウェブビジネスの特効薬ではないし、逆に副作用をもたらすのではないか、とおぼろげに思っていた。本書によってWeb 2.0に対してぼんやり感じていた不安の中身が一気に見えた。Web 2.0の本質は、本書の原題である『The Cult of the Amateur(アマチュア礼賛カルト)』そのものだったのだ。

著者は、Web 2.0で生まれた無料のユーザー作成コンテンツに基づくビジネスモデルが「伝統的なメディアやコンテンツの経済的価値を吸い取っている」と言い「Web 2.0革命の真の結末は、低級な文化、信頼性の低いニュース、無益な情報のカオスでしかない」と断言する。専門家が素人に、教養人が烏合の衆に乗っ取られているのがネット社会の現実。「今日、誰もが平等の発言権を持つウェブ上では、賢者の意見や経験談は愚か者の発言と何ら重要度が変わらない」。アマチュァとプロの区別が困難になり、結果的に情報の品質や信頼度が低下する、と警告している。

わかりやすい例として、ブリタニカ百科事典がウィキペディアやユーザー作成の情報源によって置き換えられつつあることを指摘。選ばれた専門家のチームが作る百科事典ではなく、誰もが自由に編集できるために事実誤認も多いウィキペディアが、無料で利用できることで普及した今、社会にどんな影響を与えるのか、考えるだけで恐ろしくなる。買う人がいなくなれば出版社は百科事典の発行を止める。人類の英知の結晶である百科事典が、世の中から消滅してしまうのだ。

ブログやウィキペディアの書き手の情報源は結局、百科事典、書籍、雑誌、新聞、ニュースメディア。しかし「ブログやウィキペディアは、ユーザーをこっそり盗み取ることによって、自分たちが“情報集約”しているオリジナルコンテンツの生みの親である出版業界、音楽業界、ニュース業界を滅ぼしている」。引用、転用、借用を重ねるブログやウィキペディアのユーザーが拡大した結果、オリジナルコンテンツのビジネスは崩壊の危険に直面。他人の作品を取り込むことは「勤勉や革新の上に築かれた社会を、また、作家、科学者、芸術家、作曲家、演奏家、ジャーナリスト、評論家、映画監督たちの知的文化的業績の上に築かれてきた社会を徐々に弱らせていく恐れがある」。

著者は批評家でも記者でもなく、1990年代にデジタル音楽サイトを立ち上げ「投資家をそそのかして金持ちになった」米国シリコンバレーのかつてのインサイダー。Web 2.0を信奉するカルトを脱退した“背教者”の立場で、内部からの悲痛な叫びとして、カルトへの徹底批判を展開している。外から短絡的にWeb 2.0をほめたたえて止まないITジャーナリストなどとは、格も経験も実績も違う。本書は、過激な見解がこれでもかこれでもかと現れるが、著者の経歴を考えると納得させられてしまう。

本書の日本語版タイトルは『グーグルとウィキペディアとYouTubeに未来はあるのか?』。だがこれらの将来を語っている訳ではない。むしろ原題の方が内容を正確に表している。実例として挙げているサービスや、比喩の固有名詞は米国のものが大半で、訳書の宿命とはいえ、日本人には実感し難いのも残念だ。とはいえ、アマチュアが主役のWeb 2.0的概念を絶対的な善とする風潮がある今のインターネットにあって、時代への逆行とも受け止められかねない独自の骨太のスタンスを貫く姿勢は、称賛に値する。すべての人が情報発信者になることや社会のフラット化など、Web 2.0的事象に疑問を持っているのなら、本書を手に取るべきだろう。

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