BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

ウィキペディアが抱える真実と虚偽とは/書評『ウィキペディア革命』

ブックレビュー

BOOK REVIEW Web担当者なら読んでおきたいこの1冊

『ウィキペディア革命 そこで何が起きているのか?』

評者:斉藤 彰男(編集者、システム・エンジニア)

ウィキペディアが内包するさまざまな問題点を鋭く分析
2007年夏、フランスのマスコミを賑わした調査報告とは?

  • ピエール・アスリーヌ、ピエール・グルデン、フロランス・オクリ、アトリス・ロマン・アマ、デルフィーヌ・スーラ、タシロ・フォン・ドロステ・ツー・ユルショフ 著
  • 佐々木 勉 訳
  • ISBN:978-4-00-022205-1
  • 定価:1,700円+税
  • 岩波書店

ウィキペディアは、誰でも記事を執筆・更新できる、新しいスタイルの「百科事典」である。ティム・オライリーが2005年9月30日に自社のウェブサイトに掲載した記事「What is Web 2.0?」(邦訳:Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル 前編後編)でWeb 2.0の原則の1つ、集合知の利用の例として「信頼に立脚した進歩的な実験」と紹介しているように、ウィキペディアはウェブ利用の新たな可能性を切り拓くものとして注目され、実際の利用もAlexa.comのグローバルアクセスランキングでは第8位(原稿執筆時点)となっていて、いまやその存在基盤はネット上で揺るぎのないものとなっている。

このウィキペディアについて、2007年7月の初めにフランスの作家・ジャーナリストであり、パリ政治学院の講師でもあるピエール・アスリーヌの指導のもと、彼の5人の学生によって調査が実施された。その結果は、新聞社「ルモンド」のウェブサイトで紹介され、さらにテレビ「TF1」、ラジオ「RFI」、雑誌「リベラシオン」でも取り上げられて、大きな話題となった。その理由は、それまで語られることが多くなかった、ウィキペディアの「負の側面」について、さまざまな視点から検証していたからだ。本書は、この調査結果を出版した『ウィキペディア革命:百科事典は無くなるのか(原書のタイトルを直訳するとこうなる)』の邦訳である。

本書は、ピエール・アスリーヌ自身が執筆した序文と、「動揺する教育現場」「判定の判断――ネイチャー誌調査の真実」「ウィキペディアの裏側」「間違い、改ざん、虚偽」「百科事典の興亡」「ディドロはウィキペディアの先駆者?」「ウィキペディアの賢い利用法」の7つの章によって構成されている。

第1章「動揺する教育現場」では、多くの学生がウィキペディアの内容を何の疑いもなく信用し、レポートなどを作成する際にコピー&ペーストが日常化しているといった現状が報告されている。また第2章「判定の判断――ネイチャー誌調査の真実」では、2005年12月にイギリスの科学雑誌「ネイチャー」が実施した百科事典「ブリタニカ」とウィキペディアの比較調査について言及している。同誌が「ウィキペディアは百科事典ブリタニカと同じくらいに正確な情報源である」と述べたことについて、その調査項目、調査の実施方法などの正当性について検証している。

とりわけ注目に値するのは、第4章「間違い、改ざん、虚偽」である。この章では、ウィキペディアの記事において悪意ある書き込みや政治的意図をもった情報操作が行われていることが、多くの事例を示しながら紹介されている。米国の政治家に関する記事のいくつかの修正は、連邦議会の一室にあるコンピュータから直接送られたものであったこと、CIA職員がイラン大統領アフマディネジャドの記事を修正したこと、米国の軍事関係ロビイストが2001年9月11日のテロにイラクが関与していたと書き込んでいたことなどが述べられている。これらの事実の多くは「WikiScanner」を使って情報を書き込んだIPアドレス記録を分析し、企業や機関に割り当てられているIPアドレスと照合した結果判明したものだ。

本書では、このようにウィキペディアが内包する問題点の解説に多くのページが割かれているが、著者たちはウィキペディアを断罪し、その社会的地位を抹殺することを意図しているのではない。第7章「ウィキペディアの賢い利用法」の冒頭には、「喜ぼうが悲しもうが、ウィキペディアの存在は否定しようもない事実だ。その原則に対する全面的な反対は、風車に立ち向かうドン・キホーテの闘いのようなものだ」「そうならば、若者たちにウィキペディアの適切な使用法を身につけるようにさせればよいのではないか」と述べている。

本書で指摘されているウィキペディアの問題点の中には、たとえば情報の信頼性のように、ウィキペディアに限らずインターネット全般に当てはまるものも少なくない。何はともあれ、本書は一読の価値ある、お勧めの書籍である。

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