ここが変だよウェブマーケティング第1回 勘と経験に頼る流れにさようなら
[コラム]
ここが変だよ
ウェブマーケティング
株式会社デジタルフォレスト 清水昌浩
集客のためによかれと思ってやっている、さまざまなマーケティング手法。なのに結果がついてこない、アドバイスを聞いてもなんとなく納得いかない……とお悩みの方は多いのではないだろうか。もしかしたらそんなあなたと、あなたの周囲のウェブマーケティングは、どこかが「変」なのかもしれない。
デジタルフォレスト 清水昌浩氏が、実話をもとにウェブマーケティングの問題点とその解決策を読み解くシリーズ。
サイトの問題点を改善するとき、あなたは何を頼りにするだろう。過去の成功例、周囲のアドバイス……。いろいろあるが、それは本当にサイトにとって大きな効果を生むものなのだろうか?
そもそも、改善するべきその問題が生じた原因を明らかにしなければ、前には進めない。ここでは、適切な分析と施策の判断について、具体的な事例を挙げて紹介していく。
第1回となる今回のテーマは、「コンバージョン数の向上」。コンバージョン数の向上は多くのマーケターの目標である。この目標のために、マーケターはSEOやキーワード広告などの施策でユーザーを集客し、LPO(Landing Page Optimization:ランディングページの最適化)によって直帰率を防ごうとしている。しかし、まともにページの分析もせずにこのような施策を実行するのは正しいことなのだろうか?
SEO、キーワード広告、LPOは万能じゃない!
集客は十分、でもコンバージョン数が増えない……
先日ある企業の執行役員からこんな相談を受けた。
新しいキャンペーンを始めたのだが、まったくといっていいほど会員登録や資料請求が増えない。なぜだろうか?
私は早速その執行役員と打ち合わせを行い、現状について聞いた。彼が言うには、数か月前からキャンペーンを行っており、それに併せてSEOを施策し、キーワード広告を出稿していて、集客は十分なのだそうだ。またキャンペーン開始後に、キャンペーンのランディングページでの直帰率が高いことが判明したため、広告代理店のアドバイスに従ってLPOを実施し、そのおかげで直帰率も下がった。
しかし、肝心のコンバージョン数がキャンペーン前と比べて大幅に増えたわけではない。困り果てた彼に対する広告代理店のアドバイスはこういうものだった。
リスティング広告と、あとバナー広告にも追加投資をしましょう
しかし彼は、その対応が果たして適切なのか疑問だったため、私に連絡したのである。
このような状況は、残念ながら別段珍しいものでもない。読者のみなさんの中にも、身に覚えのある方もいるのではないだろうか。このような状況に陥ってしまった場合、みなさんは次にどのようなアクションをとるだろう。代理店のアドバイスに従って、追加で広告に投資をするだろうか?
私はこの相談を受け、まずは現状の把握と分析を行うことにした。集客は十分で、直帰率も低いことがわかっているのに、なぜ改めて現状把握と分析を行うのかと思われるかもしれない。理由は簡単だ。私から見れば、問題を十分に分析して原因を特定していないからである(図1)。
ユーザー行動の把握による問題点の分析
この執行役員は、集客、直帰率、コンバージョン数の3つの指標は把握していた。しかしキャンペーンのランディングページからコンバージョンページの間のユーザー行動を把握していなかった。そこで私は、アクセス解析ツールで分析してユーザー行動を「見える化」した結果、3つの大きな問題点が明らかになった。その分析結果と問題点とは、図2のようなものである。
3つの大きな問題点とは、具体的には次のようなものだった。
- キャンペーンの最後のページから会員登録フォームと資料請求の入力フォームへの遷移が極めて少ない。
- 会員登録フォームと資料請求の入力フォームを完了しないユーザーが多い。
- サイトのトップページからサイト内キャンペーンへの遷移が少ない。
この結果を件の執行役員と共有し、引き続きこの問題の原因究明を行い、原因をつぶすための改善施策を実施することにした。また同時に、集客の追加投資は、これらの問題が解決されるまではいったん凍結することも決定した。
問題点1については、さらにアクセス解析で深く分析し、定性的な分析を行った。その結果、ユーザーが会員登録フォームと資料請求入力フォームに遷移する理由がないこと(ユーザーからすれば、キャンペーンページの最後に「会員登録」「資料請求」とあるが、何のために会員登録や資料請求をする必要があるのかわからない)と、キャンペーンの最後のページにある会員登録ボタンと資料請求ボタンが認識されづらいことが原因であると結論付け、改善を行った。
問題点2については、ユーザーがページ離脱してしまう原因となる入力項目やエラーを引き起こす入力項目を洗い出し、それらの項目をフォームから取り除いたり、間違わないように項目分けや入力制限(小文字だけ入力できるように)を行うEFO(入力フォーム最適化)を施したりすこととした。
問題点3については、キャンペーンを知らせる画像がまるでバナー広告のように見えることが原因であると仮説を立て、画像+テキストによる表現に変更し、クリックを促すようにすると共に、トップページ以外からもキャンペーンページに遷移できるように修正を加えた。
問題点の所在によって適切な対処法は異なる
この3つの解決策によって、広告に何百万円もの追加投資をすることなく、コンバージョンである会員登録と資料請求は劇的に改善した。さらに、サイトの根本的な改善は、広告による集客施策とは異なり改善効果が持続するため、マーケティング投資の先々のROI(Return on Investment:投資対費用効果、アールオーアイ)も向上させることができたのである。
この事例からわかるように、コンバージョン数が増えない場合、問題点がどこにあるかによって、打つべき施策は変わってくる。集客数が十分でない場合はSEOやキーワード広告が有効だし、直帰率が高い場合はLPOが有効である。しかし、課題がそれ以外の部分にある場合はSEO、キーワード広告、LPOでは効率的にコンバージョン数を増やすことはできないのである。
この事例で挙げたような分析を元にした施策は、考えてみれば当たり前のことなのだが、意外と実践されていないものだ。実際のところ、分析と課題把握に基づいて施策を実行するのではなく、勘や経験に頼って施策をプランしたり、代理店に勧められるままに施策を実行したりしているマーケターが多いものだ。「ここが変だよウェブマーケティング!」、と私が思ってしまう最たる例である。
集客力向上とコンバージョン誘導力向上の「合わせ技」がとても重要
多くのサイトの目標であるコンバージョン数の増加、これを実現するためには何をすればいいのだろうか? コンバージョン数は、そのサイトへの「集客力」とサイトの「コンバージョン誘導力」のかけあわせであるため、その両方を向上させていくのが定石だ(図3)。コンバージョン誘導力は、一般的に「コンバージョン率」といわれるものだが、マーケターの意思とアクションによってユーザーを意図的に、しかしストレスを感じさせることなく、自然に誘導・改善させていくべきものであるため、私はこれを「コンバージョン誘導力」と呼んでいる。
もしあなたがこれまで集客に力を入れていて、コンバージョン誘導力を改善してこなかったのならば、せっかくこの記事を読んだのだから、これからはサイトのコンバージョン誘導力の強化・改善を視野に入れてみてはいかがだろうか。
しかし、ここで1つの問題がある。どうやって課題を発見し、どこを改善すべきと判断すればいいのだろうか? それについては次回、詳しくお教えすることにしよう。
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