Marty McFly:「うわあ、これ重いね」
Doc Brown:「またその言葉『重い』だ。どうして未来に行くと物体がそんなに重くなるんじゃ? 地球の引力に何か異変が生じるのか?」
みんなは、未来を予測したいと思わないかい? いや、少なくともマーケティング曲線の先は見越したいと思うだろう?
検索マーケティングの専門家として、僕らは知識に飢えている。どんな知識でもいい。とにかく僕らは、この奇妙で急激に変化する業界を理解するのに役立つ知識を片っ端から吸収したい。
とはいえ僕らの仕事は、検索エンジンが打ち出す最新の方針に振り回されてはならない。僕らは常に、検索マーケティングの最新の変化に先行し、さらにはこの業界の最も専門知識の豊富なプロとして、マーケティング業界のトレンドの先を行かねばならぬのだ。
このことを踏まえて、僕らが現在のマーケティング傾向を理解して、うっかりすると将来マーケティング業界がどのように変わっていくのか見通すのにも役立つ本を、5冊紹介しよう。いずれの本もそれほど有名なものじゃない。
影響力:説得の心理学
『Influence: The Psychology of Persuasion』
Robert B. Cialdini著
まずは1984年出版のかなり昔の書籍から。Cialdini氏はこの本で、意思決定の際の心理について取り上げ、情報があふれ、複雑さがいや増す世界において、人は選択を行う際に、たった1つのきわめて典型的な情報の断片に頼る、と主張する。
こうした唯一の手がかりとは、どんなものだろうか。チャルディーニ氏は、人にとって説得力を持つ普遍的な原則を6項目挙げているが、ここではFacebookを例に取りながら説明しよう。
相互関係――ウィルがあなたにSuperpokeを仕掛けた。仕返しませんか?
社会的裏付け――59人の人があなたをFacebookに招待しました。登録しませんか?
嗜好――おめでとう。あなたは○○さんの最高の親友だ。相性はなんと88%!
権威――ダニー・サリバンがSphinnのグループにあなたを招待してくれた。
希少性――本日のお買い得品:「煩わしいウィジェット」1ドル。残りわずか599個!
関与――Facebookなら大衆の仲間入りができる。
ソーシャルメディアマーケティングに対する強い関心を持つ目から見て、この本は、営業およびマーケティングに携わる人々がこれまで使ってきて、これからも長く使い続ける影響力という武器について、明らかにしてくれる。
マネー・ボール――奇跡のチームをつくった男
『マネー・ボール――奇跡のチームをつくった男』
Michael Lewis著、中山 宥訳
『マネー・ボール』はメジャーリーグに関する書籍だが、その裏にある真実の話を見落としてはいけない。これは、市場における非効率性を利用する科学の話なんだ。マイケル・ルイス氏は、わずかな予算しか持たない球団オークランド・アスレチックスが、どのようにしてメジャーリーグのおよそどのチームよりも、常に勝ち続けられる球団になったかを徹底調査している。
アスレチックスのゼネラルマネージャであるビリー・ビーン氏は、高い技術力をもちながらも、他のチームから相当な過小評価を受けて見限られた「不良品」扱いの選手をチームに入れる。同氏は、当時リーグ内のどのチームも行っていなかった野球記録の統計的分析手法を用いて選手を評価する。この手法を使うのはアスレチックスだけだったので、他チームで「低く」評価されている選手を買い、すばらしい選手に育て上げてから「高く」売ることができた。
僕はこの本を読み終え、選手に大金を使う数多のチームの無能ぶりを笑い、ビーン氏のスカウト手法を学ぶべきだと思った。お気に入りの選手の出塁率や、出塁率と長打率を合わせた数字を調べるようにもなった。
しかし、もっと重要なことがある。僕が衝撃を受けたのは、野球界の隙間をうまく利用するビーン氏の能力と、僕らの業界で起こっている検索エンジンおよびドメインの活用戦略に驚くほどの類似性があることだ。これから先、検索マーケティングの世界ではどのような隙間が利用できるだろうか? ビーン氏が統計学的手法を用いて成功したように、客観的にウェブを解析することで、最もうまくオンラインの世界の将来像が見えてくるのではないかと思う……。
1日1時間のアクセス解析
『Web Analytics: An Hour A Day』
Avinash Kaushik著
僕の同僚が気を悪くしないと良いのだけど、オンラインの出版社で働いている身としては、僕らの会社には、およそどんな市場アナリストもビジネスアナリストも必要ない。それなら、実務経験は浅くとも、アクセス解析についてノウハウのある人間のほうがいい。
だが、そうもいかないことがある。そんなときに僕が買って渡すのがこれ。アビナッシュ氏のウェブ解析論の本だ。
ちょっと乱暴な言い方をするので、勘弁してね。僕らの業界で行っているアクセス解析はどう考えてもおかしい。
一例を挙げると、この業界ではとにかくデータの集合に依存する。それが内部的に用いたアクセス解析のパッケージを通して見たものなのか、NielsenやcomScoreやHitwiseのようなプロバイダがまとめた公の情報なのか、ということは顧みない。こうしたベンダが実際にデータを集めた方法や、調査報告書にある矛盾に気づく人間は、まだおそらく50人に1人ぐらいだろう。
さらにいけないのが、大半の企業で、いまだに冗長な測定基準を用い、主要業績評価指標や目標を設定していることだ。ページビューと、それより利用頻度は少ないながらもユニークビジター数は、それほど客観的なデータとは言えず、それだけで自分の会社全体のビジネスモデルを決定するには十分じゃない。
まあ、騙されたと思って、アクセス解析の基礎を理解するためにもアビナッシュ氏の本を読んでみてほしい。それだけの価値はあるよ。
まだ僕の言うことが信じられない? それならば、お教えしよう。僕は、この本を読んですぐに給料がどーんと上がったマーケティング担当者を2人知っている(なんとその1人は1万ドルも上がった)(^_-)
アクセス解析は、ますますホットな業界になっていくばかりだ…。
マーケティング戦争 全米No.1マーケターが教える、勝つための4つの戦術
『マーケティング戦争 全米No.1マーケターが教える、勝つための4つの戦術』
Al Ries著、Jack Trout著、酒井 泰介訳
この本の刊行から20年経っても重刷が続いているということは、それだけ価値がある証拠だ。グローバルエコノミーなんていう概念が登場するずっと以前から、ライズ氏とトラウト氏は、すでにマーケティング戦争における企業の位置付けというものを定義していた。
両氏は、プロシア(現ドイツ)の名将カール・フォン・クラセビッツが集めた戦いに勝つ原則を、マーケティング戦争の戦略に焼き直して議論を進めている。
- トップ企業(ブランド)がとるべきマーケティング戦略は防衛線だ。
- 2番手企業がとるべきマーケティング戦略は積極攻撃だ。
- より規模の小さな企業がとるべきマーケティング戦略は側面攻撃だ。
- 地域企業や地場企業がとるべきマーケティング戦略はゲリラ戦だ。
『マーケティング戦争』から重要箇所を抜き出して僕なりに要約すると、次のようになる。
指揮官が『われわれは今の2倍努力しなければならない』と言うのを聞いたら、間違いなく、それは負け組の話だと思っていい。Apple本社のあるクパチーノのような場所では、社屋の灯りが遅くまで点いている必要はない。Appleは、長時間考えたのではなく、スマートに考えて勝っているんだ
戦争でもマーケティングでも、公平な戦場は用意されていない。あなたの会社のマーケティングは今どの立場にある? それは、明日どうなるんだろう?
全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
『全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術』
Joseph Sugarman著、金森 重樹訳
みんなはチャルディーニ氏が話していた、権威の影響を覚えているだろうか? その観点で言えば、CopyBloggerのBrian Clark氏は、おそらくオンラインのコピーライターとして権威ある人物なので、同氏の推薦するコピーライティングの本は買わなければいけないということになる。そこで僕は、コピーライティングの基本に関するSugarman氏の本について、Amazonのリンクをクリックする前に、どうにかブライアンのレビューを読んでみたんだ。
コピーライティングに関する本はたくさん持っているし、授業もたくさん受け持っているが、もし今日まったく何もないところから始めるとしたら、僕ならこれを出発点にしたい。
ジョセフ・シュガーマン氏は、ダイレクトマーケティングの大御所だ。彼はこの書で、基本的なコピーライティングの考え方を楽しめる形にしている。したがって、コピーライティング初心者なら、まずはこの本から始めよう
ブログを書いているとか、アドワーズ広告のクリエイティブを制作しているとか、あるいはオンラインのニュースレターを作成している、Diggのヘッドラインを書いているなどなど、とにかくオンラインで何か書く仕事をしているなら、この本がきっと気に入るだろう。
シュガーマン氏は、コピーを書くのに必要な24種の心理的きっかけ(どのような広告でもこれがすべての要素の主目的となる)を挙げ、同氏の伝説のダイレクトメール広告から、大失敗に終わったものも含めて16の例を示している。
この本を読めば、成功しているブロガーが人々の注意を惹きつけている、すばらしい数多くのテクニックに気づくだろう。そして君は、自分のブログや広告にこのテクニックを使えるようになるんだ!
SEOmozが推奨する検索マーケティング担当者が読むべき5冊の本、というのを紹介してきたけど、そのうち2冊は心理的なきっかけを取り扱った本で、1冊は隙間取り合戦の話。それにウェブ解析に関する本が1冊と、市場における地位によって変わるマーケティング戦術を論じた本が1冊だ。
ブームになる前に傾向を掴めれば、未来が重くなることはないはずさ!
自分自身のため、あるいは自分の会社のために、この中から少しでも読んでみてほしい。その見返りは、投資分をはるかに上回るだろう。そして、もしすでにこの中の本を読んだことがあれば、意見や感想を聞かせてほしい。
おまけ:本の読み方
『How To Read A Book』(PDFファイル)
Paul N. Edwards著
申し訳ない。5冊だなんて僕は嘘をついてしまった。ここにもう1つ、SEOmoz読者のためにおまけの必読資料を挙げておく。僕はよく、「どうやって、これだけの本をすべて読む時間を見つけるんですか?」と尋ねられることがある。その秘訣は簡単。楽しみのために読むんじゃなくて、情報のために読む方法を学べばいいんだ。
ミシガン大学情報スクールのポール・エドワーズ氏は、読み方に関するPDF形式のガイドを書いた。その中で彼は、ビジネス書をすばやく吸収するための戦略を解説している。重要なポイントは、3回読むことだ。
- 1回目――概略をつかむ:発見する(全体の10分の1の時間)
- 2回目――詳細をつかむ:理解する(全体の10分の6の時間)
- 3回目――メモを取る:思い起こしながらノートを取る(全体の10分の3の時間)
このテクニックで覚えておかなければならない重要なことは、各書籍についてスケジュールを決めておくことだ。たとえば、Avinash Kaushik氏の本を、10日間かけて毎晩寝る前の2時間で読もうと思ったら、最初の2時間で全体にざっと目を通し、次の12時間でていねいに読む。そして最後の3日間はノート書きにあてる、という具合だ。このやり方にいったん慣れてしまえば、簡単かつ効果的なシステムだ。
SEOmozの書籍レビューをもっと読みたい人は、Randの「Greatな企業が備える、Goodな企業にはない6つの重要ポイント――自分の会社の現状チェック」や、YOUmozに掲載されたアンドリューのレビューをチェックしてみてほしい。アンドリューのレビューでは、次の5冊を取り上げている。
- 『アンビエント・ファインダビリティ ~ウェブ、検索、そしてコミュニケーションをめぐる旅』
- 『Call To Action』
- 『ウェブユーザビリティの法則』
- 『ロングテール ~「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』
- 『ザ・サーチ ~グーグルが世界を変えた』
更新情報:数人の読者の方から、Joseph Sugarman氏の著書のハードカバー版(英語版)は現在150ドル以上する上、Amazon.comから直接購入できないというメールをいただきました! 僕がこの本を買ったのは今年の3月で、そのときは40ドルしなかったんだ。なのでたぶん、Amazon.comはまもなくこの本の在庫を補充すると思うよ。
良いニュースもある。該当の本のペーパーバック版が、別の書名で出ていることがわかったんだ。
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