「時代が要請する新しいマーケティングコミュニケーションをどういうプロセスで開発するか」デジタルマーケティング時代に、旧態の広告会社が立ち至るテーマである。
そもそも広告媒体枠を買ってもらうために行ってきた「広告クリエイティブ」なので、広告会社にとっては広告媒体枠(特にテレビの扱い)販売に繋がらない「コミュニケーション開発」に注力する道理はあまりない。
ところが、時代は、広告(特にペイドメディア枠によるマーケティング活動)だけでは消費者主導のコミュニケ―ションに対応できない状況を生んでしまった。そうなると、15秒のCMや15段の新聞広告といった、決められた「広告フォーマット」の中をクリエイティブする作業(私はこれを「広告クリエイティブ」と呼んでいる。)だけでは立ち行かなくなった。広告クリエイティブだけでなく、戦略的PRアプローチの「情報クリエイティブ」や「ブランデッドコンテンツ」またはマーケティングコミュニケーションの一環としての「ユーザーサービス開発」が必要になってきた。
戦略的PRのひとつのメソッドである「情報クリエイティブ」には、ファクトマーケティングをはじめ、アーンドメディアをソーシャルメディアだけでなく、既存メディアの情報開発力と情報発信力をソーシャルによる拡散力をテコに、消費者の「自分事化」の促進を仕掛けるコミュニケーション開発の発想が必要である。これにはそもそもPR会社がもつスキルをデジタル&ソーシャル対応に変革するところに新たなスキルが開発されるものだろう。
また、広告フォーマットを離れて、コミュニケーションコンテンツを開発するブランデッドコンテンツ開発などでは、単に映像開発だけでなくゲーミフィケーションやARG発想が必要だろう。もちろんソーシャルメディアフレンドリーなコンテンツづくりだ。ここにはCM制作者の発想だけでなく、映画やテレビ制作、ゲーム開発者ほかの様々なコンテンツクリエーターやハイエンドなクリエイティブでないアマチュアの手による新発想を取り入れる必要がある。
さらに、企業のマーケティングコミュニケーションにとって、開発すべきものは読みものや映像コンテンツだけでなく、Webサービスの開発、さらにビジネス開発の領域にまでに至っている。例えば「Nike Fuelband」はサービスであり、事業であるこの施策をNYのデジタルエージェンシーであるR/GAをパートナーに開発したところが注目すべき点と言える。
こうなると、広告会社にある知見やコミュニケーション開発力は、それだけでは時代への対応力がなくなっている。優秀なクリエーターは今、おそらくクリエイティブ力をサービス開発や事業開発に向けているだろう。それができない、またはそうしたオファーが来ないクリエーターやプロデューサーしかいない広告会社は今後生き残れるかどうかでは極めて危険な状況と言っていいだろう。とうのも、新しい知見を得るには、そうした新しい仕事をゲットしなければならないからで、新しい仕事が来ない会社には、スキルが育つ可能性がないのだ。
広告主にとっても、デジタルマーケティングをはじめとして、次世代型の仕事は、「どこに頼むか」ではなく、「誰に頼むか」になって久しい。
従来、日本の広告会社、特に総合代理店を称する比較的大きな規模の広告会社はワンストップで様々な仕事をこなすことに優位性を持っていた。欧米はアバブ・ザ・ライン、ビロウ・ザ・ラインに基本担い手が分かれていたが、日本の総合代理店はブランディングコミュニケーションも販促イベントもすべてこなすところが「売り」でもあった。
しかし、時代はあまりにもマーケティングに専門性の必要な新たな課題を突き付けてきた。営業のフロントがいて、後ろに専門スタッフがいるという体制で、いかに従来のワンストップを維持してきたとしても、そもそも社内に知見のない領域が急激に必要性を持ち始めたため、知見育成の時間がない。それもオウンドメディア領域やソーシャルメディア領域は実践する広告主企業の方がはるかに知見を得てしまっているという広告代理店にとって実に不都合な状況になってしまった訳だ。
特に営業のフロントラインのデジタルやソーシャル対応力は目を覆いたくなるような状況で、いくらスタッフがデジタルに強いと主張してみたところで、営業に知見がないところに仕事がくる訳もなく、仕事が来ないのでいくら専門家がいるといってもスタッフはどんどんスポイルされていく。特にこの早いスピードで進んでいくデジタルマーケティングの世界で、半年も最先端の仕事に関わっていないとなると、すでに「使えるスタッフ」ではない。
ここに至って改革が必要な広告会社の経営者には、大きな経営判断が求められている。もうぎりぎりのところまで来ていると言える。どうしたらよいのか・・・。
その2につづく・・・。
あまり詳細に書いてしまうとコンサルビジネスにならないような・・・。(笑)
10月16〜18日に米ラスベガスで開催されるPubCon Las Vegas 2012に参加するので今週のブログ更新はお休みさせていただきます。毎週金曜日のWeb担当者Forumの連載コーナーも今週はお休みです。セッションレポートを楽しみにしていてください。:)
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「デジタルマーケティングとアドテクノロジー」というタイトルで先日翔泳社MarkeZineのカンファレンスで講演をした。よく思うのは、最近のこの「デジタルマーケティング」というワードなんだが、・・・ということはデジタルでないアナログなマーケティングがあるということなんだろうが、マーケティングにデジタルもアナログもないような気もするが・・・。
代理店にいて、16年前に新会社を起案する時、社名にデジタルをつけた。扱うのがまさにデジタル広告だったからだ。その後、レップからエージェンシーサイドで新会社をつくる時は、インタラクティブを社名にした。その方が本質だと思ったからだ。インタラクティブとは、「インター・アクティブ」つまり「双方向性」ではなくて、「双作用性」のことだ。「双作用性」はもちろんほとんどがデジタルで実現しているが、TVはデジタルでもまだ「双作用性」ではない。そしてアナログでも双作用性は実現できる。
僕にとって、「インタラクティブ」なキャンペーンが出来たのは、80年代後半で、ある飲料の商品開発及びそのローンチングキャンペーンでだ。まず瓶容器だったその飲料のラベルに電話番号を刷り込んで、テレホンサービスを実施した。女子小中高生向けブランドだったので、ソフトは「占い」やら「おまじない」やらだが、24時間のうち午後8時~9時だけは電話をかけてきた方が声を吹き込むことが出来るようにしておいた。その声、つまりユーザーが自ら話す身の回りの話を選んで、ラジオCM素材として「三宅裕司のヤングパラダイス」で流した。90秒のラジオCM素材は毎日違うものをつくるので、自転車操業で制作しなければいけなかったが、毎週有楽町のニッポン放送に立ち会いに行くのは楽しかった。CMのナレーションは当時「タッチ」の声優だった三ツ矢雄二さんで、「今日はどこどこの誰から・・」とユーザーの声が流れると、テレホンサービスの電話回線はほとんどパンク状態。都内のコンビニでは週販で1位になる店も出た。
当時はまだ7割以上ダイヤル電話の時代。でもキャンペーンは「インタラクティブ」だった。このキャンペーンが終わったあと、電話設備会社の人とダイヤルでも自動音声応答装置をつくろうとした。ダイヤルを廻すと、番号によって独自の周波数が出る。オシロスコープにつなぐと測定できるこの周波数の波のグラフを積分して面積を出して数値化する。社会に出て始めて高校の数学が役に立った。
余談だが、今はどうか知らないが当時、統計は数3で、文科系を目指すとほとんどの高校生が統計をやらないままになる。ビッグデータの時代だが、日本には統計数学の専門学科のある大学はひとつもないそうだ。(韓国には32あるとのこと)
その後プッシュホン時代になって、本格的に電話による自動音声応答装置をキャンペーンツールにする際に、紹介されたのがハイパーネットだったのも何かの縁だったか。
とはいえ、学生時代のバンド仲間との縁で、僕はインターネットを広告ビジネスにすることになる。伊藤穣一くんとの出会いも、学生の時からの親友である厚川欣也氏がデジタルガレージの創業メンバーだったからだ。
若い人たちには、会社の仕事での人脈だけでなく広く個人的なネットワークを広げておくことを薦める。
僕は大学時代にフォートランを使って多変量解析で言語と言語の距離と方向をプロットするということをやっていた。広告代理店に入社すると、その部署で当時「ソード」がクライアントだった。ソードの漢字PIPSを使ってテレビスポットの進行表を局別からエリア別スケジュール表にしたりしていた。マックはDTM用だったが、98は使わず、DOS/Vから入って、スライドショー機能のあるHarvard Graphicsというプレゼンソフトを使っていた。またパソコン通信をやらずにいきなりインターネットユーザーになった。始めたころはまだブラウザソフトがなく、ゴーファーやニューズグループというソフトを使っていた。僕の世代はおそらくネットの第一世代だ。インターネットをビジネスにした最初のかつ最も上の世代である。その意味では、本格的なネット世代への橋渡し役でもあり、広告業界にあっては、マス広告、マスマーケティングを徹底して15年やり、インターネット広告を立ち上がりから15年やってきた稀な経歴を生かして、次世代広告人の育成をライフワークとしたい。
今、出来れば現在ネット専業代理店で、インターネットに閉じたマーケティングをやっている若い広告人に、ブランディングコミュニケーション開発の知見やマス広告の仕組みやハンドリングをじっくり教えておきたい。川上で行われている「メディア戦略」や「表現戦略」「コミュニケーションコンセプト」はどう組み立てられるのか、CMクリエイティブはどうやって開発されるのか、またテレビスポットやマス広告のメディアプランニングはどう行われているかなどをインプットしておきたい。そういうことを理解し、出来れば実践をこなした上でデジタルマーケティングの担い手になることを薦めたい。ECやオンラインマーケティングもネットに閉じている訳ではない。ネットにしか接触していない消費者はいない。だからネットのマーケティングやコミュニケ―ションだけ分かってもほとんど意味をなさない。
これからは、アトリビューションがキーワードになるだろう。アトリビューションは特にオンラインでコンバージョンパスが明確になる領域から始まるだろうが、それだけで終わるはずもない。当然マス広告やPR活動などを含めたトータルアトリビューション、(クロスチャネル評価)に行きつく。ネット広告という効果・効率をCPA評価で義務づけられてきたネット専業代理店のみなさんは、ラストクリックでだけのCPAが本当の指標でないことは十分理解しているはずである。そして、本当のROIを測定評価し最適化することを実践してみたいはずだと思う。その素地をつくるためにも、マス領域で行われている広告やPRの基礎知識(特に仕組み、取引の仕方や料金感覚)を持っていないと、シングルソースのサンプル評価でのROI分析設計も、重回帰分析をかけてモデリングする時の説明変数を理解することもままならないだろう。
ある大手広告会社の元経営者がベムを称して、「突然変異」と呼んだが、新種ができる時は最初にミュータントが生まれないといけない。次世代の新種の広告人のために、僭越ながら自分に課されたと勝手に思っているお役目を果たしていきたいと思う。