業界人間ベム

MAD MANレポートからの2018年予兆と観測 その1

7 years 11ヶ月 ago

デジタルインテリジェンスは「MAD MANレポート」としてニューヨークに在住の榮枝(MAD MAN)の視点の市場状況を、契約いただいたクライアント企業(個人)にのみに毎月お届けしている。

・バックナンバー例:http://www.di-d.jp/mmbacknumber/
・デジタルインテリジェンス ニューヨーク 榮枝洋文:http://www.di-d.jp/dinewyork/

2018年をニューヨーク側から、どう見ているかを一部紹介しよう。

◆◆◆◆

下記のリストは「すでに米国で起きている」事として、MAD MANレポートで既にお知らせ済みの事象としての紹介だ。

 今年はこれらが順次、水面上に浮上してくる。少々波乱の要素が多いが、それらこそが想定していればチャンスとして考えられる。項目を列挙することで2018年の「色」が見えるだろう。予想というよりも、注目しておきたい事象をMAD MANの独断で、経済インパクトが大きそうな項目を挙げた。


その1 景気の腰折れに対する予兆。景気の「遅行指標」であるはずの、グローバル広告企業(WPP、Omnicom、IPG、電通)の2017株価下降が意味するもの。

graff01.jpg

2017年の米国市場(S&P)の株価推移(図1)は一直線で右肩上がり(約18%・年)であった。特にトランプ大統領誕生の2016年11月から見れば25%も上昇している。2018年、年明けの最高価格更新のニュースも、すでに耳慣れてしまった方も多いのではないか。

graff02.jpg


ところが、5大グローバル広告企業(WPP、Omnicom、IPG、Publicis、電通)の株価は揃って冴えない。図2は昨年1年のS&Pの右上がりのグラフ(+18%)にWPP(オレンジ)、Omnicom(紺色)、IPG(水色)のグラフを重ねてみた。各社が一様にマイナス14%〜17%に下がっている事がわかるだろう。仏のPublicisと日本の電通はニューヨーク上場では無いので重ねてないが、重ねれば他のグローバル広告会社と同じ下降を描いている(検索すれば電通の東証のチャートはすぐに見られる。お試しあれ。)。

 景気の動きを示す各種の経済指標のうち、総体としての景気変動に「遅れて」追随変化するとみなされる指標を「遅行指標」と呼ぶ。広告費はその代表だ。日本の経済産業省の考えでは、広告業売上高と名目GDPは、非常に高い相関を見せることが確認されている(相関係数0.74、有意水準1%)。

与件として、上記グラフは、

・「売上高」の変動ではなく、「株価」である点。株価は「未来を織り込む」性質がある。

・グローバル広告(マーケティング)企業(=OgilvyやBBDOやMcCann等)を束ねているホールディング企業(WPP、Omnicom、IPG)の株価であるので、米国1国の状態を表しているのではなく、「世界を総じて」のトレンドを表している可能性。

・全体の景気(株価)が上がる(+18%)のに、相関性が強いと思われている「遅行」指標の広告企業の指標がほぼ反比例している(-14%〜18%)のは、どういう事態なのか。

 これらの広告ホールディング企業の株価の落ち込みを、後付の理由で「広告の透明性の議論や、デジタル広告のボイコット等があったから」など一時的な出来事の影響とは言い切れない大きさがある。特に相関が逆向きであるのは非常に強いシグナルだ。グローバル広告企業へ発注する「広告主企業群」の発注量や広告ビジネス自体の景気を表しているのではないか。

 FAANG企業に代表される好調のテクノロジー企業を除いた、「その他一般」の世界全体の景気には最大の配慮を持って望むべき2018年が始まった。■

ベムのコメント:「グローバルエージェンシーがデジタル化、データドリブンにこれだけ傾注してもなお、広告ビジネスに対する期待値が下がっているとすると問題だなぁ。大手コンサルなども競合してくる中でどう評価されているのか・・・。」

MAD MANレポートからの2018年予兆と観測 その1

7 years 11ヶ月 ago

デジタルインテリジェンスは「MAD MANレポート」としてニューヨークに在住の榮枝(MAD MAN)の視点の市場状況を、契約いただいたクライアント企業(個人)にのみに毎月お届けしている。

・バックナンバー例:http://www.di-d.jp/mmbacknumber/
・デジタルインテリジェンス ニューヨーク 榮枝洋文:http://www.di-d.jp/dinewyork/

2018年をニューヨーク側から、どう見ているかを一部紹介しよう。

◆◆◆◆

下記のリストは「すでに米国で起きている」事として、MAD MANレポートで既にお知らせ済みの事象としての紹介だ。

 今年はこれらが順次、水面上に浮上してくる。少々波乱の要素が多いが、それらこそが想定していればチャンスとして考えられる。項目を列挙することで2018年の「色」が見えるだろう。予想というよりも、注目しておきたい事象をMAD MANの独断で、経済インパクトが大きそうな項目を挙げた。


その1 景気の腰折れに対する予兆。景気の「遅行指標」であるはずの、グローバル広告企業(WPP、Omnicom、IPG、電通)の2017株価下降が意味するもの。



2017年の米国市場(S&P)の株価推移(図1)は一直線で右肩上がり(約18%・年)であった。特にトランプ大統領誕生の2016年11月から見れば25%も上昇している。2018年、年明けの最高価格更新のニュースも、すでに耳慣れてしまった方も多いのではないか。




ところが、5大グローバル広告企業(WPP、Omnicom、IPG、Publicis、電通)の株価は揃って冴えない。図2は昨年1年のS&Pの右上がりのグラフ(+18%)にWPP(オレンジ)、Omnicom(紺色)、IPG(水色)のグラフを重ねてみた。各社が一様にマイナス14%〜17%に下がっている事がわかるだろう。仏のPublicisと日本の電通はニューヨーク上場では無いので重ねてないが、重ねれば他のグローバル広告会社と同じ下降を描いている(検索すれば電通の東証のチャートはすぐに見られる。お試しあれ。)。

 景気の動きを示す各種の経済指標のうち、総体としての景気変動に「遅れて」追随変化するとみなされる指標を「遅行指標」と呼ぶ。広告費はその代表だ。日本の経済産業省の考えでは、広告業売上高と名目GDPは、非常に高い相関を見せることが確認されている(相関係数0.74、有意水準1%)。

与件として、上記グラフは、

・「売上高」の変動ではなく、「株価」である点。株価は「未来を織り込む」性質がある。

・グローバル広告(マーケティング)企業(=OgilvyやBBDOやMcCann等)を束ねているホールディング企業(WPP、Omnicom、IPG)の株価であるので、米国1国の状態を表しているのではなく、「世界を総じて」のトレンドを表している可能性。

・全体の景気(株価)が上がる(+18%)のに、相関性が強いと思われている「遅行」指標の広告企業の指標がほぼ反比例している(-14%〜18%)のは、どういう事態なのか。

 これらの広告ホールディング企業の株価の落ち込みを、後付の理由で「広告の透明性の議論や、デジタル広告のボイコット等があったから」など一時的な出来事の影響とは言い切れない大きさがある。特に相関が逆向きであるのは非常に強いシグナルだ。グローバル広告企業へ発注する「広告主企業群」の発注量や広告ビジネス自体の景気を表しているのではないか。

 FAANG企業に代表される好調のテクノロジー企業を除いた、「その他一般」の世界全体の景気には最大の配慮を持って望むべき2018年が始まった。■

ベムのコメント:「グローバルエージェンシーがデジタル化、データドリブンにこれだけ傾注してもなお、広告ビジネスに対する期待値が下がっているとすると問題だなぁ。大手コンサルなども競合してくる中でどう評価されているのか・・・。」



ベム

2018年 広告マーケティング業界7つの予測

7 years 11ヶ月 ago

 年初に業界7つの予測を書くようになってかれこれ9年目だ。

今年2018年については、2020年代に起こるであろう広告マーケティングの劇的な構造変化を踏まえて、企業マーケターとして獲得すべきスキルを文末に定義しておこう。


予測その1 
『テレビ×デジタル』統合管理による動的アロケーションを実施する広告主が増える。

  ご存知のように、この4月から関東地区のテレビスポットの買い付け単位が「世帯GRP」から「個人全体GRP」に変更される。

  ベムは従来から「世帯GRPは取引通貨であって、マーケティングデータではない」と言い切ってきたが、この変更は方向感としては良いことではないかと思える。ただ、関東地区だけとか、今後個人視聴データが整っていないローカル局はどうするのか・・・など課題は多い。今後個人視聴データを基本とした買い付けが標準化すると、ベムが従前から提唱している「テレビの投下量もインプレッション数に換算して、デジタル動画と統合的に思考する」ことが普及していくだろう。

 このようにテレビとデジタル統合的に考えることがメジャーになるには、
①広告主側で別々のセクションで別々の目的で買い付けるのではなく、
②テレビとデジタルそれぞれに予算を固定化しない。
ということが求められる。

例えば、ブランドマネージャー側でテレビ2億、デジタル5千万と予算化したら、合計2億5千万をベストパフォーマンスになるように運用(配分)するのは宣伝部という案配だ。

 そもそもリアルタイムで競合ブランドのテレビ出稿やソーシャルからの消費者の評判、オウンドで観測されるスパイクなどをダッシュボード化できる今、事前にプランしたとおりにすべて執行する従来のやり方は早く脱却すべきである。予算化しないと始まらないものの、達成目標の設定がないまま予算消化が目的化することが多い。

 キャンペーンのKPI設定を徹底し、「目標達成を目指して運用する」ことが求められる。
そのためにも、キャンペーン予算の1割をどちらに使うか流動的にしておくなどの方法が考えられる。


予測 その2  AIスピーカー、AIカメラのマーケティング活用が始まる

  昨年末から普及が進むAIスピーカーだが、これらを無償で配る代わりにトレードオフにデータ収集を許諾してもらうモデルでのマーケティング活用が出てくるだろう。

 準備されているAIカメラでもよりこうした活用が広がると思う。
 例えばカメラであればペットの見守りサービスとトレードオフにテレビ視聴データを提供してもらうなどが考えられる。

 いずれにしても調査をパネルを謝礼で維持するモデルは旧態依然としている。出来るだけ多くのデータが集まってくるモデル開発にAIスピーカー、AIカメラが活用されるだろう。


予測 その3  競合ブランドの動きを観測するレーダー型ダッシュボード広まる

  マーケティングダッシュボードとは飛行機のコックピットにある計器類のようなものだ。だから表示される数値を「ふ~ん」と眺めているだけだと飛行機は墜落してしまう。そもそも計器類があるのはどう操縦するかを判断するためだ。マーケティングダッシュボードも同じで、「打ち手ありき」でデータが表示されていないといけない。

 ベムはリアルタイムダッシュボードが普及する一番の意味は、競合ブランドの動きが即時把握できるということだと思う。
 競合がテレビキャンペーンを打ってきた時、ソーシャル上に競合ブランド名がグンと盛り上がってきた時などをすぐにキャッチアップして、即時に対応策を打つことができることに価値がある。
 
 そういう利用法が今年は広まるだろう。


予測 その4 「正しいインプレッション」が定義され、実効性のあるアトリビューションが再興する。広告接触が正しく評価されるため正確な認知相関が把握される。

  昨年、ビューアビリティ、アドフラウド、ブランドセイフティについての問題が、ネット広告のクリティカルな側面として強く認識された。
  ネット広告にブランディング効果を担わせてきた米国市場だけでなく、日本でもこの3つの課題が論点化されてきたことは、日本でも本格的にデジタル広告のブランディング効果を期待されていることの裏返しでもある。
 長くCPAを効果指標としてきた日本のネット広告市場では、コンバージョンして初めて課金されるのだから、多少ビューアブルでない、あるいは人が見ていないインプレッションがあっても、あまり問題にしてこなかった面もあり、買う側の責任も少なくない。

 過去一時流行った「アトリビューション」も、実際には人の目に触れていないインプレッションもカウントしていたとすると全く間違った評価となってしまう。

 昨年はしっかり課題として認識された「これは正しいインプレッションか?」は、今年「正しいインプレッションを買う」手段が模索されるだろう。



予測 その5 テレビ視聴データの「売る側のデータ」から「買う側のデータ」の変換が進む。 ブランドが指値が出来る環境へ テレビスポット入札応札型取引きへの素地づくり始まる。

  昨年、年初予測に「テレビCM枠のオンライン入札の試み始動」と書いたが、これは
今年に持ち越した。
 そもそも有限な枠を販売するからには入札応札型の価格形成がもっとも合理的なはずだ。

テレビスポットはどんなパターンで投下しても、基本テレビ視聴者に万遍なく到達する。
よって、視聴時間の長い高齢層に若年層の何倍もの回数当たる。この買い方だとどうして
もいらない枠も一緒に買わされている。
パーコストが高くても効果的な枠だけ買う方がいいのだが、どこの枠がターゲット効
率や視聴質がいいのかのデータがないので、指値ができない。
 今はテレビCM枠を売る側のデータしかない。
買う側が指値ができるようになるための「買う側のデータ」が必要だが、そうした動きが
進んでいくだろう。

 つまり「売る側のデータ」から「買う側のデータ」への変換である。例えば、エリアご
との投下データも広告主の販社エリアごとに編集するなど、局単位が当たり前という発想
から脱却する時期だろう。


予測 その6 アマゾンエフェクトによる小売り激変現象が顕在化 従来の小売りデータや施策を前提にしたDMP構想はいったん破綻する

 小売りの現場のID-POSなどの購買データを連携して、施策を最適化しようという構
想は、データを扱うSIerなどに多くある。
 しかし、こうしたDMP構想が実現する前に、リアルな店舗販売時点でのマーケティング
施策の有効性はなくなってくるだろう。

 店舗に人を呼び、ものを売るビジネスは、根本的にその価値の転換を迫られるだろう。
百貨店は、昔は店舗に人を呼ぶのではなく外商していた。あらためて、サブスクライバー
ビジネスへの転換を余儀なくされる。
 もし眼鏡を専門に売るECビジネスがあり会員が20万人いるとすれば、まだ資金がある
百貨店はこれをひとり10万円でもいいので買収すべきだろう。店舗は売っぱらった方がい
い。
 こうしたサブスクライバーの縦のラインをいくつか買収して、横につないで新たなマー
チャンダイジングをしていくのが本来の「顧客ありき」の外商ビジネスのDNAである。
テナント事業という不動産業に転じた時点で百貨店ビジネスの崩壊が始まっていたといえ
る。
  「売りものありき」で不特定多数に売るビジネスから「会員が買ってくれるものやサ
―ビスを商品化」するのが百貨店のような小売り業の価値である。

 

予測 その7 スマホ動画へのユーザー反応に関する研究が進む

   スマホの動画コンテンツや動画広告にユーザーがどう接触していて、どんな反応をしているのかについての研究が進み、ユーザーの受容性が高く、ブランディング効果の高いスマホ広告のフォーマット開発のきっかけになるだろう。

  以前、ベムはスマホ広告(特に動画広告)の成長には、ユーザー受容性があり、広告効果の有効性も高い広告フォーマットが確立するまで、いったん踊り場に来ると予測した。これからテレビとの統合効果を求められる時代に、スマホでの広告フォーマットはもっと検証されるべきであり、その基礎データをつくるためのユーザー反応データが必要となるだろう。


最後に2020年代の広告マーケティングの構造変化に向けて

企業マーケターがすべきことをPOEで整理してみた。

Paid (買うべきもの)

  これは直接買うべきものと言ってもいいが
  ・良質なパブリッシャーのコンテンツ
  ・良質なパブリッシャーの掲載面
  ・プログラマティックオペレーション

Owned (所有すべきもの)

  ・広告配信先データ
  ・広告配信設計知見
  ・インハウストレーディングのオペレーション知見  自動入札への布石

Earned (得るべきもの)

   ・マス×デジタル統合のハンドリングスキル 
 ・ブランド視点からユーザー視点のデータマーケティングスキル
   ・パブリッシャー(メディアから優良なアフィリエーターまで)と
ダイレクトなやり取りをしてネイティブコンテンツ開発をするスキル


ベム

2018年 広告マーケティング業界7つの予測

7 years 11ヶ月 ago

 年初に業界7つの予測を書くようになってかれこれ9年目だ。

今年2018年については、2020年代に起こるであろう広告マーケティングの劇的な構造変化を踏まえて、企業マーケターとして獲得すべきスキルを文末に定義しておこう。


予測その1 
『テレビ×デジタル』統合管理による動的アロケーションを実施する広告主が増える。

  ご存知のように、この4月から関東地区のテレビスポットの買い付け単位が「世帯GRP」から「個人全体GRP」に変更される。

  ベムは従来から「世帯GRPは取引通貨であって、マーケティングデータではない」と言い切ってきたが、この変更は方向感としては良いことではないかと思える。ただ、関東地区だけとか、今後個人視聴データが整っていないローカル局はどうするのか・・・など課題は多い。今後個人視聴データを基本とした買い付けが標準化すると、ベムが従前から提唱している「テレビの投下量もインプレッション数に換算して、デジタル動画と統合的に思考する」ことが普及していくだろう。

 このようにテレビとデジタル統合的に考えることがメジャーになるには、
① 広告主側で別々のセクションで別々の目的で買い付けるのではなく、
② テレビとデジタルそれぞれに予算を固定化しない。
ということが求められる。

例えば、ブランドマネージャー側でテレビ2億、デジタル5千万と予算化したら、合計2億5千万をベストパフォーマンスになるように運用(配分)するのは宣伝部という案配だ。

 そもそもリアルタイムで競合ブランドのテレビ出稿やソーシャルからの消費者の評判、オウンドで観測されるスパイクなどをダッシュボード化できる今、事前にプランしたとおりにすべて執行する従来のやり方は早く脱却すべきである。予算化しないと始まらないものの、達成目標の設定がないまま予算消化が目的化することが多い。

 キャンペーンのKPI設定を徹底し、「目標達成を目指して運用する」ことが求められる。
そのためにも、キャンペーン予算の1割をどちらに使うか流動的にしておくなどの方法が考えられる。


予測 その2  AIスピーカー、AIカメラのマーケティング活用が始まる

  昨年末から普及が進むAIスピーカーだが、これらを無償で配る代わりにトレードオフにデータ収集を許諾してもらうモデルでのマーケティング活用が出てくるだろう。

 準備されているAIカメラでもよりこうした活用が広がると思う。
 例えばカメラであればペットの見守りサービスとトレードオフにテレビ視聴データを提供してもらうなどが考えられる。

 いずれにしても調査をパネルを謝礼で維持するモデルは旧態依然としている。出来るだけ多くのデータが集まってくるモデル開発にAIスピーカー、AIカメラが勝つよされるだろう。


予測 その3  競合ブランドの動きを観測するレーダー型ダッシュボード広まる

  マーケティングダッシュボードとは飛行機のコックピットにある計器類のようなものだ。だから表示される数値を「ふ~ん」と眺めているだけだと飛行機は墜落してしまう。そもそも計器類があるのはどう操縦するかを判断するためだ。マーケティングダッシュボードも同じで、「打ち手ありき」でデータが表示されていないといけない。

 ベムはリアルタイムダッシュボードが普及する一番の意味は、競合ブランドの動きが即時把握できるということだと思う。
 競合がテレビキャンペーンを打ってきた時、ソーシャル上に競合ブランド名がグンと盛り上がってきた時などをすぐにキャッチアップして、即時に対応策を打つことができることに価値がある。
 
 そういう利用法が今年は広まるだろう。


予測 その4 「正しいインプレッション」が定義され、実効性のあるアトリビューションが再興する。広告接触が正しく評価されるため正確な認知相関が把握される。

  昨年、ビューアビリティ、アドフラウド、ブランドセイフティについての問題が、ネット広告のクリティカルな側面として強く認識された。
  ネット広告にブランディング効果を担わせてきた米国市場だけでなく、日本でもこの3つの課題が論点化されてきたことは、日本でも本格的にデジタル広告のブランディング効果を期待されていることの裏返しでもある。
 長くCPAを効果指標としてきた日本のネット広告市場では、コンバージョンして初めて課金されるのだから、多少ビューアブルでない、あるいは人が見ていないインプレッションがあっても、あまり問題にしてこなかった面もあり、買う側の責任も少なくない。

 過去一時流行った「アトリビューション」も、実際には人の目に触れていないインプレッションもカウントしていたとすると全く間違った評価となってしまう。

 昨年はしっかり課題として認識された「これは正しいインプレッションか?」は、今年「正しいインプレッションを買う」手段が模索されるだろう。

予測 その5 テレビ視聴データの「売る側のデータ」から「買う側のデータ」の変換が進む。 ブランドが指値が出来る環境へ テレビスポット入札応札型取引きへの素地づくり始まる。

  昨年、年初予測に「テレビCM枠のオンライン入札の試み始動」と書いたが、これは
今年に持ち越した。
 そもそも有限な枠を販売するからには入札応札型の価格形成がもっとも合理的なはずだ。

テレビスポットはどんなパターンで投下しても、基本テレビ視聴者に万遍なく到達する。
よって、視聴時間の長い高齢層に若年層の何倍もの回数当たる。この買い方だとどうして
もいらない枠も一緒に買わされている。
パーコストが高くても効果的な枠だけ買う方がいいのだが、どこの枠がターゲット効
率や視聴質がいいのかのデータがないので、指値ができない。
 今はテレビCM枠を売る側のデータしかない。
買う側が指値ができるようになるための「買う側のデータ」が必要だが、そうした動きが
進んでいくだろう。

 つまり「売る側のデータ」から「買う側のデータ」への変換である。例えば、エリアご
との投下データも広告主の販社エリアごとに編集するなど、局単位が当たり前という発想
から脱却する時期だろう。


予測 その6 アマゾンエフェクトによる小売り激変現象が顕在化 従来の小売りデータや施策を前提にしたDMP構想はいったん破綻する

 小売りの現場のID-POSなどの購買データを連携して、施策を最適化しようという構
想は、データを扱うSIerなどに多くある。
 しかし、こうしたDMP構想が実現する前に、リアルな店舗販売時点でのマーケティング
施策の有効性はなくなってくるだろう。

 店舗に人を呼び、ものを売るビジネスは、根本的にその価値の転換を迫られるだろう。
百貨店は、昔は店舗に人を呼ぶのではなく外商していた。あらためて、サブスクライバー
ビジネスへの転換を余儀なくされる。
 もし眼鏡を専門に売るECビジネスがあり会員が20万人いるとすれば、まだ資金がある
百貨店はこれをひとり10万円でもいいので買収すべきだろう。店舗は売っぱらった方がい
い。
 こうしたサブスクライバーの縦のラインをいくつか買収して、横につないで新たなマー
チャンダイジングをしていくのが本来の「顧客ありき」の外商ビジネスのDNAである。
テナント事業という不動産業に転じた時点で百貨店ビジネスの崩壊が始まっていたといえ
る。
  「売りものありき」で不特定多数に売るビジネスから「会員が買ってくれるものやサ
―ビスを商品化」するのが百貨店のような小売り業の価値である。

 

予測 その7 スマホ動画へのユーザー反応に関する研究が進む

   スマホの動画コンテンツや動画広告にユーザーがどう接触していて、どんな反応をしているのかについての研究が進み、ユーザーの受容性が高く、ブランディング効果の高いスマホ広告のフォーマット開発のきっかけになるだろう。

  以前、ベムはスマホ広告(特に動画広告)の成長には、ユーザー受容性があり、広告効果の有効性も高い広告フォーマットが確立するまで、いったん踊り場に来ると予測した。これからテレビとの統合効果を求められる時代に、スマホでの広告フォーマットはもっと検証されるべきであり、その基礎データをつくるためのユーザー反応データが必要となるだろう。


最後に2020年代の広告マーケティングの構造変化に向けて

企業マーケターがすべきことをPOEで整理してみた。

Paid (買うべきもの)

  これは直接買うべきものと言ってもいいが
  ・良質なパブリッシャーのコンテンツ
  ・良質なパブリッシャーの掲載面
  ・プログラマティックオペレーション

Owned (所有すべきもの)

  ・広告配信先データ
  ・広告配信設計知見
  ・インハウストレーディングのオペレーション知見  自動入札への布石

Earned (得るべきもの)

   ・マス×デジタル統合のハンドリングスキル 
 ・ブランド視点からユーザー視点のデータマーケティングスキル
   ・パブリッシャー(メディアから優良なアフィリエーターまで)と
ダイレクトなやり取りをしてネイティブコンテンツ開発をするスキル

テレビ×デジタルの統合指標やアロケーションを考える前提を簡単な比喩で説明する

8 years ago

ベムの会社には「テレビ×デジタル」のアロケーションに関してそのモデル化についての相談が多い。ただテレビとデジタルを統合的に考える上での前提はテレビの到達実態をしっかり知ることである。
デジタルインテリジェンスには、喩え好きなU副社長がいて、その比喩はなかなか上手い。

そのなかのひとつを紹介しよう。


ここに、10代後半の女性Aさんとそのお母さんと、おばあさんがいる。

Aさんにリンゴをひとつあげたいのだが、Aさんにひとつあげるには、お母さんに3つ、おばあさんには6つあげなければならない。
つまり、Aさんにひとつあげるには全部で10個リンゴが要る。

ところが、パイナップルは、ひとつだけAさんにあげることが出来る。

tvdigital1.jpg tvdigial2.jpg

お分かりだろうか。リンゴはテレビCMでパイナップルなデジタル(動画)広告ということだ。デジタル広告はターゲティングして対象であるAさんにだけ渡すことが出来るが、テレビCMでは、人口の多い高齢層の視聴時間が長く、人口の少ない若年層の視聴時間が短いので、テレビスポットのような投下方法ではどうしてもAさんに一個あげるのに10個要るという状況になっているのである。

U氏の喩え「その2」は次回のエントリーで・・・。

「vMVPDの衝撃」ホワイトペーパーつくりました。

8 years ago

テレビ、ビデオのコンテンツはOTT送信か、OTA送信か
「vMVPDの衝撃」ホワイトペーパー+オンラインレクチャー

デジタルインテリジェンスNYから「vMVPDの衝撃」を特別レポートとしてリリースすることになりました。

OTT(Over-the-Top:ケーブルTVや衛星TVを超えた、ネット経由のコンテンツ)による番組送信がNetflixやHuluが火付け役となり、「旧テレビ業界」が侵食されているイメージはすでに定着してきた。このあたりの米国でのOTT進化状況を「vMVPDの衝撃」としてホワイトペーパー+レクチャーを公開するので、ご興味のある方はデジタルインテリジェンスまでご連絡ください。

一方で今年のラスベガスで開催されるNAB SHOWあたりからOTA(Over-the-Air:地デジを含む放送電波)側にも新しい展開が見えて来た。今月に入り米国ではさらにその進化の断片を日経が報道してくれている。
ーー
日経2017/11/17
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23601940X11C17A1FF8000/
『米、42年ぶりのメディア規制緩和 業界活性化にはなお課題』

>今回廃止するのは、メディア企業1社が同じ地域で新聞社と放送局(テレビ局とラジオ局)を両方持つことを禁じた1975年制定の規則

>1つの地域でテレビ局のシェア上位4局のうち2局の合併を条件付きで認めることも決定した。経営状況の悪化に苦しむテレビ局同士の再編を促す目的
ーー
日経2017/11/22
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23785020S7A121C1MM0000/
『米、「ネットの中立性」撤廃 コンテンツの扱い格差容認』

>トランプ大統領がFCC委員長に指名したパイ氏は声明で、オバマ政権による規制強化が通信会社のインフラ投資を抑えたと指摘し「間違いだった」と批判した
====
これらはじわりと、旧テレビ局勢への政府による追い風の方向転換だ。米国での「地デジ」化は日本より2年早く2009年に完了している。この送信方式は「ATSC1.0」と呼ばれているが、これが次世代方式の「ATSC 3.0」へのアップグレードを推奨すべく、米国連邦通信委員会(FCC:Federal Communications Commission)が後ろ押しを始めたのだ。上記2つの記事はいずれもFCCの指針である。

この「ATSC 3.0」方式の一番の特徴は、放送とネット(ブロードバンド)を組み合わせたIPベースの放送システムであること。4K、Ultra HDを含めた高画質、高音質、マルチキャスト、多言語、緊急警報放送等は当然として、アドレサブルな広告配信も可能だ。これらのテレビコンテンツが「IP上」にてテレビ局からOTA送信(Over-the-Air:電波送信)される。

視聴者はテレビ局からの電波を受信するだけで、Wi-Fi&ブロードバンドの契約不要でIP上のコンテンツ(番組)を視聴できる。テレビ電波そのものが「ネット」になるのだ。これはテレビ局側の勢力復活であり、特に地方局には夢のようなシステムとなりえる。ネット回線に頼らず、さらにGoogleに頼ることなく、ネット上の視聴者とインタラクティブに繋がれるのだ。

技術的な事はテレビ局側の方々の説明に任せるとして、これは「求心力を作る国策」であり「地方の活性」へ向けた大きな転換である。放送システムの違う日本(ISDB-T方式)としても目が離せない動きだ。お隣の韓国は来年のピョンチャン冬季オリンピックに向けて、すでに今年からATSC 3.0方式テストを開始し、Samsung、LG等がテレビやデバイスを販売している。

この流れは本当に動き出すのか、そして何が起こる(必要となる)のか。これらを上記レポートに「動き出したATSC 3.0」の項目を添えてご興味のある方にお伝えする。お申込みは、info@di-d.jp まで

広告業界にとってのADKの役割

8 years 2ヶ月 ago

 ベインキャピタルによるTOBが成功するか否かまだ分からない現時点で、今回の買収劇がどう推移するか予想するのはさて置いて、そもそも3番目のADKという存在は、日本の広告業界においてどんな役割、機能を果たすべきなのかと考えてみよう。

 その時、その視点は広告主にとっていい環境とは・・・ということだ。


巨人である電通と博報堂、そして3番目のADK。

歴史を振り返れば、ベムが入社した当時の旭通信社は7番目、第一企画は5番目、その後旭通はぐんぐんランキングを上げて3位になり、第一企画を実質吸収合併して今のADKとなった。

 この2社の企業文化の違いはかなりあった。旭通は営業主導文化で、真っ向から電博に対抗できないことは重々分かっていたので、アニメやプロモーションで差別優位をつくるのに長けていたと思う。一方、第一企画は特にCMクリエイティブに力があり、テレビの扱い比率が高かった。

 合併時、ベムには「旧旭通のこの営業と旧第一企画のこのスタッフを組ませたら最強だろうな」というイメージが浮かんだように、お互いは強みを補完する合併だったと思う。
 そして、「電・博・ADK」なるワードが生まれるのだが、ベムはこれが自分を見誤る最大の要因となったと思う。同じステージに上がったと勘違いしたのだ。

 つまり、電通や博報堂と本当に対抗できる総合力がないにも関わらず、同じ土俵に踏み込んでしまったということだ。電博相手に競合プレゼンが1勝5敗では、利益が上がる訳もなく、かなり当て馬的にコンペに参加させられることも多かったろう。

 そんな中で広告業界にもデジタル化の大きな環境変化が訪れた。
それは3番目にはチャンスであったはずである。ベムは当時こんな比喩で、当時のN社長に話をしたことがある。
 「ある小学校で、プール開きの時期になり、プールの水を抜いて底の大掃除をしていた。掃除をしているのは、えらくノッポさんと、中背と、おチビちゃんの3人。ところが掃除の最中にプールに水がはられてくる。最初に気づいて早くプールサイドに上がらなくてはいけないのは誰か・・・」
この比喩には続きがあって、一番小さい奴が最初に溺れるので、一番早く行動しなくてはいけないのだが、実は一番背の高い奴が、状況が一番よく見えているので、アクションも早い」ということだった。

 新聞紙上では「ADKがネット広告に乗り遅れた」と書いてある。
しかし、乗り遅れたのではなく、明らかに経営判断を間違えた。
 2006年から始め、2008年には会社として設立したADKインタラクティブは、まさにデジタルの営業会社を目指して立ち上げた。本体が変わるのは難しいが、デジタル新会社が大きく成長すれば資本全体としては変身することができる。それが狙いだ。

 昨年、電通デジタルさんがまさに同じような考えを標榜されたと思うが、それを10年前にやっていたと思う。

 だが、2011年にADKはこれを解散し、DACの株も売ってしまう。
今年、DACの時価総額は一時ADKを超えた。今も保有していれば300億超の価値だ。財務的な価値より、やはりデジタルテクノロジーの目利きとしてのDACを傘下にし続けた方がどれだけ価値があったか分からない。

 DAC株を売却したADKは、今度は電通さんと合弁会社をつくるが、(ADDCというこの会社はネット広告のバイイング会社で電通系メディアレップのCCIさん他のリソースで成り立っていたが、そもそもデジタルをネット広告販売ビジネスとしか捉えられない時点でアウト、しかもデジタルに全く疎いADK本体の営業の下につくだけの構造を脱却できない)これも昨年から今年にかけて資本提携を解消してしまう。ただ解消するだけで、次に組む相手もいない。

 この迷走の原因、経営判断の間違いを、うやむやにしてLBOでリセットしても、再生するためにデジタル化は必然で、この間違いを犯した経営陣がそのままでデジタル化など出来るはずもない。ベインが持ち込むお買い物リストにあるデジタル企業を目利きすることもままならないだろう。(ベインは無理やり買わせるだろうし、ADKは抵抗できない。機能する会社であることを願うしかない。)


 さて、本論に戻ろう。

 日本の広告業界にとって、3番目のADKのあるべき姿は、データによるブランド横断のマーケティング支援ができる広告会社である。もうこれだと「広告会社」と言えるかどうかだが、データ分析ができたとしても実際に成果をあげるにはマーケティング施策の企画実施(エグゼキューション)が伴わないと意味がなく、その実行こそが広告代理店でしか出来ないことでもある。
 データはマーケティングの米である。しかし米は炊かないと食べられない。またしっかりした技術で調理しないと高く売れない。コメのままだと一俵1万円だが、その分をチャーハンやドリアにすれば、また高級料理に仕立てれば100倍にはなる。

「電通・博報堂をブランドAE担当エージェンシーとして競わせて、3番目にはデータドリブンな、かつブランド横断の施策支援をさせる・・・」これが広告主にとって最も良い環境だ。

 ただ、そのスキルが今の3番目にあるかが、もっとも大きな課題だ。
正直今の陣容では機能しない。人材の半分以上を入れ替えないといけないだろう。(ただ今回このスキームでは現経営陣も含めリストラは可能になった)
しかし、逆に今まで培った広告代理店のマーケティング施策(クリエイティブ、マスメディアプランニング、ストラテジックプラニング・・・などなどの)開発のスキルセットとDNAがないと、データアナリストを揃えただけでは機能しない。
 荒療治にはなるが、3番目は大改造しだいで、データドリブンなマーケティング支援が広告主企業に提供できる可能性がある。

 広告主から見て、3番目はどうあって欲しいか、もしTOBがうまく行ったとしてADKの再生の鍵がここにある。

「ベインキャピタルによるADKのTOB」その先を読む。 広告マーケティングを愛する人たちへ、ベムの視点

8 years 2ヶ月 ago

このネタで、業界人間ベムとしては、(ベムは82年の旧旭通信社の新卒である。DACを起案設立し、ADKのデジタルを率いて、いちおうADKの執行役員も務めた。)たくさんの方々から所見を求められた。何も発言しないのもなんなので・・・、おまたせしました。

このブログ・エントリーは、ADK社員を含む全ての読者に向けて、特に自分の未来を10年20年作っていく若手に向けてのベムからの気持ちだ。すでに私の所には個別に解説打診の連絡が沢山届いているが、ベイン社のスキームやADKの次のゴールがどこにあるのかは、この機会に自分で調べ、考えた方が良い。

ADKが現在上場している会社の恩恵として、公にリリースとして発表されている。これらの文章に関しては一度全部読んでおくのが筋だろう。マスコミ・大手メディアの報道だけを読んで現状を把握しているつもりなら論外だ。君たちの1番の収穫は、きっかけはどうであれ、このような資本政策や事業の未来について考えるチャンスを身近に頂いたと言うことだ。

そしてあなたがADKの社員だとして、自分で調べたのなら、社内の人同士で審議するのではなく、外部の人に自分の仮説を聞いてもらい検証してみると良い。同じ船に乗っている人同士の話やADKの役員からの話では、船が浮いているのか沈んでいるのか、はたまた沈められようとしているのかの判断ができない。今回の件の「賛否」はベムには予想があるが、検証を求める若手の相談には個別で乗っている。

・どうしてTOB策に踏み切ったかのADKの意見表明

https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/431288c69c7ab0ef4535c81bb3ee3a6c.pdf

2016年2月から11月まで、WPPとは交渉会議を持っていたが結論に至らず。今年2月~8月までWPP抜きでTOB策を練り、9月下旬にベインを買い付けパートナーとする事を決意し、10月2日の役員会で強行突破した。WPPから役員で送られているStuart Neish 氏は、決議に反対。

・WPPとの資本提携解消のお知らせ

https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/26076683b3a44626cdf24aeb15e21a9c1.pdf

ADKが保有するWPP株の簿価が223億円で、このWPP株の9月29日現在の市場価格が約654億円、税引き後の利益は完了時の計算になるが、この20年でざっくり数百億円は「儲かった」勘定=これは本業の利益並。(これに対してWPPが持つADK株価はほぼ横ばい。)

・もうWPPには1円も配当出さないぞ、の表明

https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/a0eb331a418c2d64040cbb6972d7881b.pdf

2012年は特別配当141円、2014年に特別配当526円、純利益以上の配当を絞られていた。

・植野社長の信任状況、反対が4割(今年3月29日の総会結果)
https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/03/8023935ed2b0fe97cbb675fbc364fde2.pdf

WPPを含め外国人株主から、賛同されていない状況がよく分かる。

・最初の1株目の公開買付けがN取締役(TOB案件実行の主導者) Page 5

https://www.adk.jp/wp/wp-content/uploads/2017/10/53c61f446dd732f2af88a9b99788c37d.pdf


■TOBのスキームに関して:
日経等の報道を読んだだけではピンと来ないのではないだろうか。マスコミの報道は基本的にはベインやADK側の発表をベースにコピペしているだけなので、称える側のコメントが多く真の意図までは解説できていない。ブログで専門的に解説してくれているサイトや海外のBloombergなどの分析もあるので、そのような外部の意見を自分で聞く良い機会だ。

今回のスキームを平たく例えれば「中年のADKがWPPと離婚・出家したいためにベインというLBOファンドの荒手とTOBという手で駆け落ちをした、家出みたいなもの」だ。ADKとしては「もうこの年になって、離婚・家出となると、こうするしか他に方法がなかった」という選択だろう。

ベインはADKの幸せを願う存在というより、この出獄を手助けする事で商売としている。現在話題の東芝メモリーの日韓チームを作っている主導がベインであるのは報道でもおなじみ。ベインは2兆円の巨大ディールで相当「忙しい」はずの時期に、ADKのような小口をよく相手している時間があるものだ。それ程「おいしい」ディールとタイミングである事も伺える。

TOBはベイン(が作ったペーパーカンパニー)が市場の株をTOB価格で買い戻しする事で始まる。価格はすでにTOB提示の3660円を上回り3800円台になっているが、その買い戻す資金は、東京三菱UFJ(ら)から有利子負債として借りて、ADKを子会社化する。

ADKが非上場になった後は買収した会社(ADK)をベインが設立したペーパーカンパニーと合併させる。つまり、有利子負債を手配するのはベインだけれど、買収完了後はADKのバランスシートに押し付ける形。

ADKの企業価値が1500億円の会社だったとして(TOB価格がいやらしい程に低かった。徐々に上げる気配)、ベインが3割程の出資だと仮定して(東芝メモリの2兆円の場合は1割程度しか自腹出費していない)、残りのざっくり数百億円~1000億円くらいの有利子負債を積み上げて株を買い戻す。ADKはWPP株を放出し、他の持ち合い株を放出売って、かなり現金にはなるけれど、それでも自らの株式を買うために支払った「のれん」=「プレミアム」を乗せて買い戻しを行うので、負債額はかなり重い金額に膨らむはずだ。

ポイントはこの有利子負債を負担する(返済する)のが、現在・未来のADK社員の仕事(未来のキャッシュフローの行方)である事だ。ADKは「買収されるため」に作られた負債を、自らがせっせと返済する。一方のベインはおそらく数百億円の自腹は再上場で取り戻し、さらにADKの多くの株式を握る(さらに売って儲けられる)し、配当がある、という構造だと考える。

現在のADKが本業で営業利益が(減価償却を差し戻したEBITDAが良いが)どれくらい年間作れるかといえば、55億円(2016年)。今年はさらに上昇かどうかは、まだ不明。では、いったい積み上げる負債は稼ぎの何年分なのだ?と横で比較してみると良い。あのソフトバンクでもARM買収後でさえ4倍(EBITDA対有利子負債の比率)だ。まあ「利子払は増えるけれど、搾り取られていた年末配当が無くなるからいいじゃん、」という考えにでもすり替えて説明するのだろう。

ADKの株式をすべて握るベインの「お仕事」は、この非上場会社を「なる早(大急ぎ)」で再上場させて、上場益で稼ぐ事が彼らの事業だ。広告事業は景気に左右されるので、オリンピックに向けた上り坂さえあれば、自動的に再上場が狙える。(景気の腰が折れると負債が重くのしかかる)

ADKはこれまで「自社で実行したかったシロウト投資」に関してのアダコダを「プロのWPP」から言われなくなっても、ベインからアダコダ言われるのは同じであり、今度はスピードも要求される(ありがたい事に)。上場後はたっぷりとベインが株式を握る事になる。再上場に向けて、何やら株式のオコボレがあるのでは、と期待する不勉強な社員は残念ながらベインの負債返却のための労働者となる。

■今後のTOBの着地点は:
東洋経済には「買い付け予定数の下限は50.1%としているため、WPPが応じなくてもTOBは成立する。」なんて書いてあるけれど、「チームWPP」である「外国人株主」は6割(61.88%、2017年中期発表)存在する。彼らはWPPあってのADK投資なので、リーダーのWPPの言い分側に付く。

とはいえスキームそのものは、ADKが心中を覚悟でベインと連れ添ったのだから、好きなもの同士であるし、WPPも長年伸び悩んだADK株が4000円近くで売れるならヨシとする面もあり、さらに貸付側の銀行を含めて、資金の流れだけ見ればWIN・WIN・WIN・WINの構造は見える。問題は「早いこと」再上場をする時のADKの事業体制とそのセンスにある。

■今後の体制:
ADKのリリースによれば、今後の事業柱をありきたりに2本立てており、
1.テクノロジーに強みをもつ企業との連携によるデジタル・マーケティング、統合的マーケティング・サービスを実現

2.デジタル&データ領域や、中国・タイ・インドネシアなどのアジアを中心とした地域における事業業の再構築。コンテンツビジネスにおいて、事業拡大

と表面上のセリフを掲げている。

1つ目の柱はWPPからの束縛から解放されて、経営の自由度を高めて、今後デジタルやテックに投資していくつもり。しかし今回のディールを決めたADK取締役を見れば、その中にデジタルのデの字も、テックのテの字も一言も見当たらない経歴の人ばかりで、さらに執行役員のグループも同様だ。

このブログを読む君たちの未来を創るリーダーがこのようなチームで良いのかどうかは考えればすぐにわかること。ベインでさえもその事は気づいているだろう。おそらく案件ベースで外部の取締役が入ってくるのは間違いない。

2つ目の柱も同様だ、(日本でも市場専有はほんの5%程の存在だが)欧米では歯がたたないので、アジアへ、という図式だ。電通や博報堂を手本とする必要もないが、先行する電・博の取った道順は身近な参考になる。

例えば電通は米国出身の取締役専務執行役が英イージスの買収を決め、そのイージスCEOが執行役員として就任し、そのチームが米マークルの買収を決めてマークルCEOはCRMデータ業界の目利きとなっている。電通のレベニュー(粗利)は国内よりも大きくなったが、これらを取り仕切るのは「東京で就活入社した電通マン」ではない、米国、英国のプロ精鋭だ。ADKはシンガポールにFCB出身の「旧来クリエイティブのオフィサー」を立てたが、アジアを知る「経営とデジタルのプロ」が必要になってくる。

デジタルにせよ、海外にせよ圧倒的に不足する執行レベルの「その道のプロ」が今後入れ替えられて、仮にADKに入ったとして、さて、そこから一人相撲をどうするかだ。

今後は「WPPグループの」ADKという枕詞は使えなくなる。日本で5%市場サイズのちびっ子ADKでも、なんとなく海外でのプレゼンスが保てたのは圧倒的に「良家」であるWPP傘下に属していたからである。「ベインの子供のADKです」ではマーケティングビジネス上は無名であるのと、知られたとしても「経営があまりよろしくありませんでした」と宣言するようなもの。

———
ベムが入社した旧・旭通信社は、87年に東証二部に広告会社として初めて上場し、90年に一部上場を果たした。(若手の人は、この頃に「産まれました」の世代かもだ)電通の上場はこの10年後である。

ADKがWPPとの資本提携(=つまり、外資に自社株を売る、という当時としてはスーパー経営手法)を行ったのが98年、そこから20年目に非上場への道へと進めるADK。

今のままで立ち止まらないぞというADKの姿勢は評価したいが、キャスティング・ボードを持っている組織や人物がどこの誰で、そのインテンションが何かを考えれば、次なるドミノ倒しは自然に読める。資本構成をいじる事による「儲け」が、本業の業績が低迷な企業程儲かりやすいと、この景気状況が教えてくれたのだろう。若手の自分の未来の熟考を期待したい。

「vMVPDの衝撃」

8 years 2ヶ月 ago

2020年代の広告マーケティング体制やスキル構築に関するコンサルをするベムとしては、テレビとデジタルの統合指標化、相乗効果の可視化やアロケーションも具体的なエグゼキューションにして実証していく重要なテーマだ。

その中で、この5年くらいでメディアに起こるであろう「衝撃的」な事象を予想し、マス広告宣伝部のデジタル化の方向感も示唆している。

ここでは、デジタルインテリジェンスNYのレポートを中心に、今後起こるであろうテレビのネット化(その中心となる「vMVPD」を解説する。


vMVPD.jpg


ここからはダウンロード版レポートの予告編です。


にわかに日本で沸いてきた、政府による「電波オークション」の導入(電波の周波数帯の利用権を競争入札にかける)の検討は、偶発的な出来事ではない。米国や欧州ですでに始まっている「電波オークション」も、それを包括する「ネットxテレビ」の融合のトレンド(医療から交通まで他産業を含む)の隆起から、ようやく日本でも重要課題として(再)浮上してきた現れである。

この議論の背景には、既存の利権課題は横に置いて、テレビ変革の第一波としてやってきた現在のOTTストリーミング(※)を超えた、「ネット上のテレビ」の需要が今後ますます拡大流通している事にある。視聴者側の選択肢が増えて広告主、放送局を含めた再編に向う実在シグナルと見て良いだろう。

そのエコシステムが立ち上がるタイミングは「オリンピック前」を目指すことが各ステークホルダーも望む所だ。テレビ業界には既存利権の上に成り立つ旧ビジネスとのカニバリを含む、いよいよ待ったなしの新ビジネスへの移行の「本格的な第二波」がやってきた。(Over-the-top, 従来の放送電波やケーブルTV設備に頼らない、ネット経由の動画番組コンテンツの配信。第一波の代表格がNetflix、Hulu、等)

このOTTストリーミングを含む「テレビのネット化」において、日本にはまだ上陸できてない概念だが米国で急激に注目を浴びている「vMVPDs(virtual Multi Video Platform Distributors:以降vMVPDと記す※)」というテレビ(番組)の放映事業形態がある(図2)。米Googleを筆頭とした大手企業の参入が相次いでおり、このビジネスモデルを把握することは、デジタル上での番組コンテンツを使ったマーケティング・エコシステムを把握する上で重要となるので、現在準備中の「特別レポート」の予告編としてお伝えする。(※発音はそのままヴィ・エム・ヴィー・ピー・ディー、あるいは「バーチャルMVPD」と読む)

vMVPD2.jpg


この聞き慣れぬ「vMVPD」の例として、日本では「YouTube TV」が今年7月に米国で始まった事が日経新聞等で報道された。筆者(在ニューヨーク)は今年のテニス「USオープン」の生放送を、この「YouTube TV」を使ってスポーツチャンネルのESPN上で視聴した。テニスのファンでは無い筆者でさえも、ニューヨーク中でマリア・シャラポワが復活出場する事が話題になって知っていた中、「今、試合に出てる!」と街で聞いた時にスポーツバーに駆け込む事なく、その場でオフィシャル映像での試合をスマホ上で見られた(図3)。

上記は些細な事例だが、「テレビがまんま、スマホで見るネット上にある」のだ。これがvMVPD配信とNetflixに代表される他のOTTストリーミングとの大きな違いの1つだ。vMVPDの「YouTube TV」のアプリがあって月間視聴の購読 (35ドル=約4,000円)をしていれば、現在テレビ放映されている主要チャンネルの全番組が、モバイル環境でも(もちろんリビングの70インチスクリーンでも)どこでも見られるのだ(しかも「録画=あとで見る」の設定も可能だ)。本編で說明するが、「YouTube TV」は現YouTubeと全く別サービス、別事業と考えた方が良い。

■vMVPDはOTTストリーミング配信事業の形態の一つ
新興の「vMVPD」概念は動画・番組を配信目線から事業の形態を表す「くくり」の言葉だ。元々「v=virtual」が付かない「MVPD」のくくりで、欧米の「ケーブルテレビ放送事業者」や「衛星テレビ放送事業者」の事を総称していた、その延長概念が「v」MVPDである。

元のMVPDは100チャンネル以上もの番組チャンネルを束ねて(=Multi Video Programming)、自社の放送施設とケーブル回線や衛星電波経由でテレビ受像機に番組を配信するサービス(Distributors)を現していた。このくくりの単語「MVPD」他にも「VOD」のカテゴリーには「SVOD」、「AVOD」、「PPV(EST、TVOD)」と、業界お得意の3文字・4文字のくくり略語がずらりと登場する(本編で詳細仕分け補足する)。

この長年続いた「テレビ放送」事業の形態が、「v」MVPDの登場により放送電波だけでなく、ケーブル回線や衛星電波の放送設備や回線を持たずとも、「通信」の範囲で行き渡ったネット回線上で「バーチャルに」同様の番組配信ビジネスが行えるようになり「v=virtual」を付けてvMVPDと称し、事業拡大してきている。

このvMVPD事業が米国で何を動かしているのか(凄いのか)を紐解くのが本編の趣旨だ。決してバラ色の側面だけではなく、答えの見えないトンネルに突入している側面もある。

■vMVPDは、NetflixなどのOTTストリーミングサービスと何が違うのか
ビデオ・ストリーミングやVOD (Video On Demand)の流通を通じ「テレビ x ネット」の融合が掲げられて久しいが、これまでの「ネット上のテレビ」は一長一短の機能ばかりであったのを感じるだろう。

例えばOTTストリーミングの最有力である「Netflix」のオリジナル・コンテンツの品揃えは素晴らしいが、民放のバラエティー&ドラマ番組が見られる訳ではないし、生のニュースもスポーツもほとんど無い。この状況は程度の差はあれど、「Amazon Prime Video」も「Hulu」も同様であり、「d-TV」や「Abema TV」に至っては「現行のテレビ環境」とはまったく別のニッチ・コンテンツを流す。

民放が寄り添って開始したTVerは極端に一部の番組に限られている事と、上記同様に生のニュースやスポーツや映画は一切無い。(元々、TVerの設立の経緯はネット上でのテレビ番組の違法配信が増加したことから、これらを撲滅する「対抗手段」として無料サービスを開始していた。)

一方で、欧米のvMVPDが地殻を動かしたのは「テレビ放映の全番組が放映時間帯の生で見られる上に」、「ネット環境でモバイルデバイスで見られて」、なおかつ「録画視聴(後で見る)でイッキ見も可能になっている」サービスが、「月額費用がMVPD配信よりも安価で(約35-45ドル、4000円前後)」で見られるのだ(チャンネル数は約40-50程度)。

このビジネスが成り立つためには、vMVPD事業者は「現テレビ局」から番組コンテンツをネットに解放する同意(仕入れ契約)を得る必要がある。

知っておきたいのは米国ではすでに2年前からこの「同意」にテレビ各局が踏み切り、自社のコンテンツ(番組)のネット流通先を増やし、副次的な収入を得ている事だ。減りゆく既存テレビ放映の視聴数に対し、ネット経由の視聴数を増加させるため、その(分散)流通先の増加がビジネス課題になっている。

そして今年は前出Googleが「YouTube TV」ブランドでvMVPD事業者としてコンテンツ買い付けに参入を果たし、Googleより先に参入済のテレコム企業2強の一角であるAT&Tが「DirecTV Now」として参入しており、そしてもう一方のテレコムのVerizonも今年中に参入するいうのが米国の状況だ(図3)。

vMVPD3.jpg

こうなると放送電波の利権を借りてビジネスを行っていた旧来の「テレビ局」は放送事業主という立場ではなくなり、コンテンツ提供者というニッチ位置に下がる(上がる)。そして「新」放映事業者としては、Googleやテレコム企業が担うイメージである。

さらにこの領域に、「FAANG企業(Facebook, Amazon, Apple, Netflix, Google)」の残りの企業が参入する事が予想されている(Googleが先発した)。利権に守られてきた(欧米の)電波帯がオークションによって再配分されたのは、電波の「放送局」による利用価値よりも、モバイル環境の激増に比例したテレコム&ネット電波の利用価値にシフトしている(需要が増大している)という、テクノロジーの移り変わりの力関係が影響する。

これまで日本語で言われてきた「(地上波放送の)ネット同時送信」の「同時」とか、あるいは「融合」の意味は、電波放送が主体で「ネット放映も、同時に」流れ融合するという主従関係であった。ところが近年は前出電波オークションに代表されるように、電波も放送利用からネット利用へ政府がシフトした事に続き、vMVPDの登場によりついに「ネット側」に主役が逆転しようとしている。

一方で視聴者は既にすっかり「ビデオのストリーミング配信慣れ」しており、「6秒ビデオ」も「1時間ドラマの10話イッキ見」にも慣れて来たが、「リーンバック姿勢」や「同時、ライブ」で見られるこれまでのテレビの様な「ながらコンテンツ」や「同時視聴魅力」が実はネット上では「まだ顕在化していない」需要として存在する。

さらに視聴者は今後「スタンダード・プレミアム(ブロードバンド経由)」の位置づけで月額有料視聴を好む層と、「有象無象の広告付き無料放送(地上波)」に甘んじる層と二種類に分岐していく。当然、広告主のマーケティング費用は有料視聴のプレミアム層を好み、「その他大勢」へのマーケティング予算が地上波放送向け(無料視聴)に仕分けされる。欧米では政府のネットに対する規制の変化も伴い、巨大資本がこのプレミアム分野に流れ込んでいるのだ。

このネット上での旧来の「テレビ」の出現(=vMVPDの出現)インパクトは、2014年頃以降の「Netflix」の登場より大きい変化だ。Netflix自体すらもが現状の事業をvMVPD化にシフトさせると予想される程である。既存の米国(欧米)の全ての(現)テレビ事業体はvMVPD事業へのシフトに向けて、(現)テレビ事業資産のカニバリを覚悟の上で、大再編に動き出しているのだ。

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ベムはあるシナリオをもって、日本での「テレビのネット化」(同時配信事業開始)によるインパクトをクライアントに説明している。

「アメリカと違って日本ではまだまだテレビが強いから・・・」という議論を根底から崩すであろうこの「vMVPDの衝撃」は、デジタルインテリジェンスからホワイトペーパーとして出します。

ご期待ください。

テレビが果たした若年層のブランドコミュニケーション資産形成

8 years 5ヶ月 ago

昔は子供も、お酒やクルマや化粧品のCMをたくさん見ていた。だから、お酒を飲める歳、免許をとれる歳、化粧を始める歳になった時に、さんざんテレビCMで見てきたブランド力が機能する。そういうものであった。

しかし、今クリティカルなのは本当にティーン以下の子供たちのテレビ接触が落ちてきていることだ。
そして、一方企業側ではブランドマネージャー制度が普及し、担当ブランドのターゲットにだけ訴求しようと懸命になる。当然、クルマやお酒や化粧品は子供相手ではないので、ターゲットされない。

このまま行くと、子供たちが相応の歳になった時に。「はい。お酒飲めますね」とか「クルマ乗れますね」とか「もうお化粧するご年齢ですね」と言って、「〇〇です。」とブランド名をコミュニケーションしても、「???」になりかねない。

もちろん広告だけがブランド力形成手段ではない。おそらくもっと商品やサービスそのものの体験がより重要だろう。

 だからブランド体験の場も含め、従来テレビCMが果たしていた若年層へのブランドコミュニケーションは何に代替させていくかを考えないといけない。

おそらく、「コンテンツ」提供や「ブランデッド・コンテンツ」制作にこの課題解決の方向感を得ることができるだろう。

そして、こうしたコンテンツによってブランドが得られるエンゲージメントの質的評価をすることが今後重要になる(これはもちろん若年層に限ったことではないが)。

センサーデータによる視聴動向と認知相関を調べていると、高齢層と若年層には明らかな違いがある。若年層はマルチな情報取得行動が可能で、周辺視野に少し入るだけでも認知したりする。一方高齢層はテレビをぼおっと見ているが感度が低くなっている。

テレビも視聴者の高齢化が顕著だから、もう高齢層相手にするしかないのでは?という意見も出てきそうだが、世帯視聴率ベースで番組制作をするだけではなく、もっと視聴者の8割がティーン~20代という番組づくりにもチャレンジしほしい。そしてそのコンテンツにネイティブなブランドコミュニケーションにもチャレンジして、強いエンゲージメントを得られるように広告主と一緒に番組とCMづくりを作ってくれるテレビ局「出てこいやぁ!」ですな・・・w。

メディアのブランド化

8 years 6ヶ月 ago

  これはアドウィークアジアでのデジタルインテリジェンスセミナーでのコーナーテーマである。資生堂音部さんにセッションに加わっていただいて、このテーマ(「メディアのブランド化とブランドのメディア化」)設定が示された。(音部さん有難うございます!)
 ニューヨークでのアップフロント(テレビメディアがいっせいに広告主向けプレゼンテーション大会を繰り広げる)が先日行われたばかりで、今年のトレンドが、「プレミアムメディアとブランドセーフティ」・・・。

 しかし、そもそもブランドセーフティなんて、従来のテレビ局は「当たり前過ぎて言ったこともない」というだろう。

 アップフロントやニューフロントを眺めていて、日本と一番違いを感じるのが、メディアがブランド化をとっても意識していることだ。テレビ局も日本より特徴が明確だし、よりエッジを立てたメディアがある。
日本では既存マスメディアは特にテレビ場合、局の特色はそれほどない。まあ似たようなドラマ、似たようなバラエティ、(そもそもベムは思うのでが、「バラエティ」と1語で番組を語っているところも新しい番組の概念を開発できない要因である気がする。いろんなものだからバラエティという1語に括るのではなく、あえて新ジャンルを開発して定義していった方がいい。)似たような報道番組(まあ報道と言っても情報番組)・・・。
局は一生懸命自らの「局」を打ち出してはいるが、それはブランド化とは違うし、実際ブランド化できていない。

一方、カテゴリーキラーが「takes all」のネット業界では、ブランド化をやっている。(まあ、メディアでありサービス事業だからね、ブランド化しないとやっていけない・・・)

免許事業のテレビ局は本当のブランド化を考えたことがないのかもしれない。

 ベムはテレビのブランド化に関しては、例えばこう思う。
 テレビ東京はもっとWBS(ワールドビジネスサテライト)をブランド化して、デジタルメディアに留まらず、プリントメディア(雑誌「WBS」)も展開すればいいと思う。(もちろんサブスクライバー化して)すべての番組をブランド化するのは無理だし必要もないが、一定の支持が定着したコンテンツをブランド化することは、コンテンツプロバイダーとしてのテレビ局が今後チャレンジしないといけないことだろう。

 地上波の放送枠の中身としてのコンテンツ開発だけでなく、さまざまなディストリビューション手段に展開できるコンテンツをつくること、リニアなテレビ放送から視聴者の接触が多様なメディアにバラけてきている現状で、いつまでもテレビ放送枠だけを前提にしたものしか作れないとしたらクリティカルだ。(こんなこと言い飽きたことだが・・・)

 で、資生堂ブランドに、マキアージュやエリクシールというブランドラインがあるように、TBSブランドを形成するのはしっかりしたコンセプトとオーディエンスを獲得したコンテンツブランドが必要だ。こういう個性のあるコンテンツブランドをつくるのはTBSだよなって思ってもらえばいい。これを意識しないと、今はこのドラマはどの局かなんてほとんど意識していないしね。
 またドラマももう少し局別の個性があったが、今はだんだんなくなっている。視聴者には別にどこの局かなんてどうでもいいからだ。

 さて、ニューヨークのアップフロントでメディアがアピールするのはもちろんコンテンツである。広告主もコンテンツを買う。でも日本では広告主は番組枠を買う。もちろん事情は分かっている。ずっと売り手市場だったからいったんその枠を手放すと、すぐには買い戻せないから、同じ枠の番組企画変更にもスポンサーはお付き合いしないといけない。
ドラマ枠も当然コンテンツがコロコロ替わるが、さてドラマの企画変更によってオーディエンスがどう変わっているかどれだけ把握してますかね・・・。スポンサーが狙いたい視聴層でしょうか?広告主も視聴率さえ一定以上ならいいんでしょうか?
 
 テレビの視聴率って同じ10%でも中身が全然違うことがありうる。ドラマのように視聴者の8割以上の人がは放送時間のうちほぼ全時間見てくれる10%もあれば、音楽番組のように自分の見たいアーティストのところだけ10分くらい見て離れる視聴者が最も多く、入れ替わり立ち代わりいろんな視聴者が観た10%もある。また箱番組(週1回のやつ)であれば、定番客(ロイヤル視聴者)がどのくらいいるのか、(ベムは1クール13週のうち8週以上観る人をロイヤル視聴者と呼んでいるが、このロイヤル視聴者が一回でも見た人のうち何%いるかで番組定着率が違う)これも番組によってリーチとフリークエンシーの内訳が違ってくる。

 また、オーディエンスの流出流入も当然把握しておかないといけない。どんなオーディエンスが欲しいか、同じ枠でもドラマ企画を変更したらどんなオーディエンスが流出し、どんなオーディエンスが他局から流入したのか・・。こういうこと広告主もテレビ局にデータを要求したほうがいいんじゃないかな。

 ニューヨークのアップフロントから学ぶことは、テレビ局はコンテンツによるブランド化をもっと意識すべきであること・・・。「メディアのブランド化」がキーワードであることだ。

 それにしても、新たな番組企画を広告主にアピールするイベント(デジタル系ならコンテンツやオーディエンスをアピールするイベント)、日本でもやるといいよね・・・。

TVerは「一気見」視聴を取り込め!

8 years 6ヶ月 ago

 アメリカではもう6~7年前から、C3、C7といったタイムシフト視聴を合算する指標があります。放送後3日後まで、または放送後7日まで入れましょうということだ。

 それがここきてなんとC35などという話が出てきた。
そのココロは、4週間分のドラマをまとめて「一気見する」からだそうだ。

 ベムも体験的に週末海外ドラマを「一気見」することが多い。面白くなると半日かけて「ハウス・オブ・カード」シーズン1全部観ちゃうとか・・。(全部画面を注視しなくてもいいので、最近吹き替えを選ぶことが多いのは「一気見」仕様といえる。長時間なのでコーヒー淹れにいきながらも音声でフォローできるからだ。)

 こういう視聴スタイルはベムのようなおじさん特有でもないだろう。特にテレビ端末で見るVOD型の番組視聴は、こうした視聴スタイルがすでにかなり広がっているだろう。スマホは隙間時間にいつでも入り込むが、テレビ画面では時間のある時に面白いコンテンツをじっくり連続して楽しみたいというわけだ。

  さて、「見逃し視聴」を取り込みたいということでスタートしたTVerが基本1週間分だけなのにはいろいろ「大人の事情」があるのは分かっている。

  しかし、どうせならこの「一気見」需要を取り込まない理由はない。
しっかりCMを見てもらえるTVerは、広告主が比較的長尺CMを試すいいチャンスになる広告枠だ。今後広告インベントリーがもっと増えてある種のターゲティング配信ができるようになると、15秒のCMより、もっと見込み客層に近い消費者へのメッセージとしのて長尺動画と位置付けてもいいだろうから、単なるアウェアネス狙いのターゲティングではなく、パーセプションフローの次のステップ狙いのコミュニケーションが長尺もので叶うかもしれない。
 ターゲティング配信できるくらいにインベントリーを増やす意味でも、「一気見」需要をとりこむべきではないだろうか。

 ベムは以前テレビ局での講演で、「『見逃し視聴』とおっしゃってますが、今の視聴者で本当に番組を「見逃した~」って思っている人はほとんどいませんからね・・。」と悪態ついてきたりしてました。テレビ局が視聴者に「あれっ?見逃しちゃったの?」という発想自体ナンセンスです。とっくの昔に編成権は視聴者のものであって、テレビ局の編成のものではありません。

 だから今の時代、小売り業がリアル店舗に客を取り戻そうとか、テレビ局がリアルタイム放送に視聴者を連れ戻そうとかいうこと自体、意味のある努力とは言えないのです。もちろんSNSで評判が広がってリアルタイム視聴が上がる例は昨今もあります。でもそれはSNSの力で寄与した関心はコンテンツに対してであって、リアルタイム視聴行動に対してではありません。もちろん放送しているのですから、その放送時間で見てもらえるようになることはありがたいことではありますが、いろんなコンテンツ視聴形態が用意できていればいいわけです。むりやり「リアルタイム視聴に」と考えずに、総体としてオーディエンスに届く、しかもセグメントされたターゲットに強く届く(またそれがレポートできる)方が価値が高いのです。

 ところでTVerではフジテレビさんはFODでのユーザー登録を促しますよね。ベムはもうあれが嫌で、そもそもTVerでCXを選びません。それに、デモグラデータを入力してもらってもほとんど意味はほとんどありません。全然アノイマス(匿名)でいいのです。
 そのユーザーがどんなコンテンツを選んでいるオーディエンスかがわかり、視聴しているコンテンツでセグメントできればいいのです。そもそも今までそれが出来てなったからです。

  ある視聴ログデータとサードパーティデータをつなげた見た事例では、50代の男性を、家に子供がいるグループ、もう独立して奥さんとふたりのグループ、単身の50代男性グループでは視聴番組がほとんど被っていません。つまり50代男性というセグメントは意味がないのです。
 M1とかF1とか、パネル数が少ないので比較的幅広い年齢区分になっていて、20歳と34歳を同じに括るとか、50以上は80過ぎまでひとくくりみたいなベムも噴飯もののデモグラセグメントでマーケティングできるんでしょうか?
 そういうデータしか取れないと思っていたから今までは仕方ないのですが、実は取りようはあるのでは?と考えてみましょう。コーヒーを1日4杯以上飲む人で括るとこの番組の視聴率は?とかね・・・。

 だから、100万人単位で、もしかすると今後は1000万人単位で視聴データが取れるかもしれないTVerにもっと視聴者をとりこむ努力が必要なのではないでしょうかね。ねえテレビ局さん。「一気見」対応しましょう。

ADWEEK ASIA デジタルインテリジェンス セミナーレポート その1

8 years 6ヶ月 ago

5/31にミッドタウンで行われているAWASIA  今年はデジタルインテリジェンスも協賛してセミナー枠をもちました。


さて、このブログではこのセミナー内容をレポートします。

デジタルインテリジェンスのHPでもレポートしていますのでこちらも是非ご覧ください。

http://www.di-d.jp/?p=3413

レポートその①は、デジタルインテリジェンスNYの榮枝からのアップフロント情報からです。


テレビ局は「ブランド・セーフティー」なのは当然。目的はブランド価値を作る事

2年目となるアドバタイジング・ウィーク・アジアが六本木ミッドタウンで開催され、「動画広告からテレビCMへの予算の揺り戻し 〜米国プログラマティックTVと広告主の新策トレンド〜」のタイトルでベム+音部大輔氏(資生堂チーフマーケティングオフィサー)とニューヨークの榮枝でセッションを開催した。

http://asia.advertisingweek.com/replay/-digital-intelligence-seminar-2017-05-31-1735?lang=ja

そのセッションの一部を紹介しよう。
米国では毎年5月頃に「TVアップフロント」の呼称で、各テレビ局が(視聴者に向けてではなく)広告主とエージェンシーに向けて各チャンネルの強みや価値をプレゼンテーションを行う。昨年あたりから、YouTubeやFacebookなどでの(ビデオ)広告がブランドが意図しないコンテンツと並列で掲載されてブランド毀損を避けるため、一時キャンセル、ボイコットが起こった。これに比例するかのように昨年はアップフロントの業績が突如回復し、テレビCMへの揺り戻しが起こっている。

しかし大局を見てみれば、優良な「プレミアム」テレビコンテンツを狙って、巨大な資本が虎視眈々と狙っているのは明らかで、その規模の違いに驚かされる。図は5月20日時点での各TVコンテツに関係する企業の時価総額をビジュアル化したものだ。

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テレビへの揺り戻しの好調さを維持したい各テレビ局は、アップフロントにて「自社のオーディエンスの価値」について、「ニールセン以外」の指標を使い、各広告主・エージェンシーに視聴の質をアピールしている。

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図:アップフロント、に参加するパブリッシャー/テレビ局の一覧。

「視聴率」というメディアの購買通貨であり、広告枠の評価基準をニールセンの視聴データ。年々下がり続けるこのデータを、人びとが「テレビを見なくなった」では片付けられない。データそのものが「漏れ」があり、「不備」であることに主原因があるとするTV広告の取引を行う業界関係者が41%もいる(下図)。

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ニールセンの年齢・性別デモグラデータ(女性18―34歳等)はセグメントが大雑把すぎる上に、デジタル分散露出される視聴を取りこぼしている。

米国での広告取引は2007年頃から導入が始まったニールセンのC3/C7(生+録画3日、7日の「見逃し視聴」の総計)視聴率を頼りに、性別&年齢のデモグラをベースにしたGRPを積み上げるモデルを採用し、丸10年が経過した状態だ。現在では「イッキ見」に対応するため、C35(35日分)の数字も出す程だ。

チャンネル局はこれまでの手作業による、エクセル上でのニールセンのオーディエンス・ベースでの買付けプラニングを、自社開発のプラットフォーム上で顧客に解放し、そこで組み立てた数字を基に「ギャランティード」売りを始めた。これは今年のTVアップフロントの特徴と言える。

具体的にはチャンネル局が提供するプラニングツールにログ・インして、局が契約するサードパーティ・データによるオーディエンスのセグメントを選び、広告主が自社のファーストパーティ・データと組み合わせて「プログラマティックに」プラニングができるメニューが用意された。「年収1,000万円以上で、車購入から3年以上経過の家庭」を基に何GRPを獲得したいか、という目線でテレビCM枠のアップフロントでのコミットが出来るのだ。

中でもNBCUは広告主に対し近年話題の「ブランド・セーフティー」に関しては「基本中の基本で、当然の事」とし、「そんな低い次元よりも、広告主が本来目指すべき商品が売れてブランド価値が引き上がる事を支援するのがNBCUの役目だ」と訴える。ブランド毀損を防ぐためにYouTubeやFacebookへの出稿ボイコットした広告主への大きなメッセージだ。下の写真は「ラジオシティ・ホール」で開催された2時間にわたるNBCUのプレゼンテーションの模様。

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図はNBCUがアクセンチュアと共に調査をした自社(NBCU)のオーディエンス調査。YouTubeやFacebookでの動画広告よりも、視聴の「質」が違う事を訴えている。ブランド認知のファネル上部で対YouTubeで11.6倍、対Facebookで4.1倍。ファネル下部の購買意向に繋がる部分でも対YouTubeで2.5倍、対Facebookで1.8倍のオーディエンス・メッセージがあるとしている。

これらのデータを自前で完備し、NBCUは過去二年、アップフロントでの広告セールスの手法として「ニールセン・ギャランティード(年齢性別のみのセグメント)」の販売方法とは別に、自社開発のATP(Audience Targeting Program)を使った「オーディエンス・セグメント・ギャランティード」の方法を一部のクライアントに「お試し」提供していた。

広告主企業は自社のファーストパーティ・データと、Axiom、Experianらのサードパーティ・データを合わせて、NBCUプレミアム番組を「吟味」できる。広告主の選択は自由であるが、ニールセン計測式を使っても、ATP計測式でも「ギャランティード」売りなので、NBCUと合意した契約数値に達しない場合は、NBCU側が追加スポット等何らかの方法で補償(メイクアップ)を行う。Viewable計測はMoat(Oracleが買収)を使う。

すでに過去2年でATPを利用した広告主からの反応も良く、試した広告主の7割が利用をリピートしており、2〜3倍の上積み予算を出す企業もあるので、NBCUは6,600億円規模(60億ドル)と言われるTVアップフロントでの販売目標の約6分の1の1100億円(10億ドル)分のプレミアム枠をATP用に優先確保し、今年は「全ての」広告主に提供できる。(裏返せば、それ以外のアップフロント枠は、引き続きニールセンのC3/C7データを使う<併用する、と考えられる)

テレビ局は熱心に、自社メディアの視聴の質データを完備し、デモグラ視聴率に頼らない販売方法を開発してきた。ブランド広告主目線では、これらのデータは「プラニング」のためのデータであり、最終的には自社ブランドに対しての視聴者(消費者)行動や感情の変化に関するデータと揃えて蓄積(レビュー)が必要になる。「効く枠」、「安い枠」等の価値判断は個々の広告主(+エージェンシー)によって違うはずだ。米国のテレビ局は、そんなブランド広告主の意向に沿い、二人三脚でのデータパートナーとしての行動結果として評価できる。次はクロス・プラットフォームを含めた「新しいテレビ(ビデオ)」の独自知見の蓄積が今年の広告主の大きな課題となる。

第二弾はまた・・・。

P&Gのインハウストレーディングデスク変遷にみる「今後のトレンド」

8 years 7ヶ月 ago

さて、アドウィークアジアでデジタルインテリジェンスもセミナーを開催します。
ベムでもそこに向けていくつか発信します。

まずは、デジタルインテリジェンスNYからのレポート

【インハウスについて考えておく目線】


P&GがAudienceScienceの契約を終了させる件の過去経緯について、
先週のAdageの報告に続き、AdExchangerが長文報告しています。

The Ecstasy And Agony Of AudienceScience’s P&G Partnership
(AudenceScienceのP&Gとのエクスタシーな時期と、痛み分けの時期)

https://adexchanger.com/advertiser/ecstasy-agony-audiencesciences-pg-partnership/


昨年、P&Gがメディアのアカウントの大レビューを行い
Omnicomの新設データドリブン・メディアエージェンシーの
Hearts & Science(とCarat/Dentsu Aegis)に大移行した事とも
タイミング的に辻褄があいます。

この記事では
おそらく、AudienceScienceの9割のアカウント規模ではないかと予測されていますが、
AudienceScience側はこれまで一切取引が禁じられていたCPG企業との取引が
「解禁」になるので「未来は明るい」という高楊枝なコメントも登場しています。

これまでAudienceScienceはCPGとの取引が禁止されているどころか、
P&Gの扱いについてすら、公言できない縛りでした。

The captain of the football team is your boyfriend, but no one’s allowed to know.

すでに過去の話になりますが、
AudienceScienceのP&Gとの契約上は7年だったのですが、
その前身も入れると2000年頃からの付き合いになります。
(digiMine → Revenue Science → AudienceScience)

その経緯も、P&Gが社内システムHawkeyeとRight Media(Yahoo)との
ハイブリッド・マネージド・サービスを2009年に設定したときに
当時RightMediaとの取引が大きかったAudienceScienceを
RightMediaがP&G紹介する形でAudienceScienceを採用して付き合いが広がったいきさつ。。

P&Gのインハウスの必須項目は「グローバルで」運用する事。

この直近にP&Gが発表した数字は
次の5年かけて、グローバルベースで約1100億円(10億ドル)のメディア費用を削減し、
その内、約550億円(5億ドル)のエージェンシーの人件費を削減する、、と宣言しています。

コモディティー化するCPGを販売する企業なので、典型的「コストカッター」な企業です。
ベンダーの取り扱いについても、「コスト」の一部として見ているような
(ちょいと厳しい)企業風土が垣間見られます。

===
ここからは私見ですが、P&Gはこれまで
マーケティング戦略や広告の事について静かな企業だったのですが、
去年の終わり頃から、「突如として」Chief Brand OfficerのMarc Pritchard氏が
メディアに登場し、啓発的な発言をされている事が私には少々不思議に思えます。

・ANA(広告主協会)のチェアマンに就任したから、就任式としてコメントをしたから、
・ANAとしてリーダーシップを発揮する必要があったから、

等を割り引いても、なんとなく自然な感じがしませんでした。

Marc Pritchard氏はこれまで、
「透明性、Viewabilityが大事だ → 調べたら身内にもサビがあった 
→ 原因をしらべたらエージェンシーの利益モデルにも踏み込む必要がありそうだ。」

、との一連のコメントをされていたので、この部分にAudienceScience
も何らか関係していた、、と連想されます。
何らか、「透明性」の部分にお気に召さない不具合があったよう感じます。


P&Gはインハウス(という名の、ベンダーのエクスクルーシブ採用)でのデジタル買付けは
今後もNeustarとThe Trading Deskとで継続されます。
そして、
メディアエージェンシーとの付き合いはHeart & ScienceとCaratとの付き合いは変わりません。

(参考までに対抗馬であるUnileverはP&Gのインハウス化とは対照的に
WPPとがっぷり組んでMindShareを「オペレーター役」に徹する付き合いを継続しています。)

=== インハウス、、について。ここからが本題 ===
「Programmatic Buying」の名の元に
デジタルメディアのバイイング「機能」をインハウス化させるトレンドにも代わりがないでしょうし
ますます増える傾向は予想されます。

考えておきたいのは、
Data ManagementやProgrammatic Buyingのインハウス化に気をとらわれず、
今後は「クリエイティブ」や「ブランディング」の部分とを包括する体制や取り組みが
ますます増える傾向になるだろう事。そういう人材や部門が求められる事。

AudienceScienceやThe Trading Deskの事だけを切り出して、あれやこれやと
考えても片手落ちになるし、むしろP&GがOmnicomのHeart & Scienceとの関係が要注目。

「クリエイティブな人びとにデータやメディアの事を教えるより、
データやメディアな人びとがクリエイティブの事を考える方が、近道だ」

詠み人知らずwのこの一句が象徴するように、
コンサルティング会社がクリエイティブ機能を取り込んでマーケティング領域に進出している傾向もこの事。

そして、落ち目気味だったレガシーな米国テレビ局が
「プレミアムコンテンツ」というクリエイティブを引っさげて
そのコンテンツがProgrammaticに配信される売り言葉で反撃に出ているのも同様。

この米国テレビ局の反撃キックオフが来週から始まる「TV アップフロント2017」での
一連のプレゼンテーションです。
インハウス、ではまだまだ対応しきれていない部分が「プレミアムコンテンツの制作や確保」。

データ動向と合わせて、マーケター企業がどのようにプレミアムコンテンツを
確保(契約)していくのかが注目です。


デジタルシフトはいいが、安易にテレビ広告を削っていいのか・・・。~あとからボディブローのように効いてくるテレビ広告カット~

8 years 9ヶ月 ago

 最近、広告マーケティングコストの「デジタルシフト」が叫ばれるようになっている。ベムも基本的にはそう主張しているが、なかには安易にテレビを全く使わないという選択をするケースが垣間見れて、それには少々苦言を呈したい。

 消費者のメディア接触もデジタルシフトを起している。ベムが主張するように若年層へのテレビCMの到達効率は昔に比べて非常に悪くなっている。人口の多い高齢層の視聴時間が長く、人口の少ない若年層の視聴時間が短いから非常に偏向する。
 しかし、だからと言って簡単にテレビ広告出稿をどんどん削る(無くす)ことには賛成しない。

 デジタルの効果、テレビの効果を精緻に把握してのことならいいが、どうも安易にテレビを使用しなくてもいいと判断しているように思えて仕方ないのだ。

 この要因のひとつに、従来代理店が「テレビスポットは一定以上の投下をしないと意味がない」ということを広告主に刷り込んできたことがある。
 だから広告主側も「どうせ1000GRPくらいはやらないとだめなんでしょ?それだと億単位のキャンペーンコストがかかるし、デジタルで億かからないくらいのキャンペーン企画で行ってみます。」てな感じなんだろう。

 手売りのテレビ広告は、代理店も予算が多ければ多いほどいいので、ついつい「やるならこのくらいは・・・」と言ってきた。

しかし、そもそも「1000GRP以下は意味ない」なんてことは全くない。テレビは100GRPでも効果がある。逆にテレビスポットなどの立ち上がりの到達初速は他のどんなメディアも全く敵わない。フリークエンシーが1回だけじゃあまり効果がないのはそのとおりだが、今はそのフリーエンシーの積み上げをテレビだけでつくる時代ではないのだ。
ただテレビCMで1回でも2回でも接触させておく価値は大きいとベムは考える。

 テレビCMという広告フォーマットは長い時間をかけて視聴者に受容されてきた。CMタイムはおしっこタイムと揶揄する向きもあるがベムが把握しているCMの画面注視率はもちろん番組そのものよりは落ちるが決して低いものではない。1社提供番組などはある意味「ネイティブ化」しているのでCMの画面注視率は落ちない。
 
 

テレビ広告の出稿を大きくカットした広告主は過去にはいくつもある。
やめた直後は「な~んだ。テレビやらなくても商品は売れるじゃないか」と思うが、半年、1年経つと「なんだか動きが悪くなってるなぁ・・・」となる。やめたことはボディブローのように効いてくる。そして「やっぱりテレビをやらないとだめなのか」と再開しても、その効果が元に戻るのはやめていた期間くらいかかるものなのだ。

テレビの効果にはタイムラグがある。


 テレビには主に2つの効果があると思う。

 ひとつは即効性のある「認知」効果
 これがあるから通販もダウンロードさせたいアプリもテレビCMを出稿している。
 残存GRPという概念も基本この効果を見ている。

 そしてこの効果も間接効果としてもどう評価するかが今の課題だ。

 起点がテレビCMによる認知だが、それによってスマホで検索したり、ブランドへの興味関心が一度は顕在化する。そしてそれをデジタルがリマインドして購買行動に導いているケースもある。この場合、効果測定としてはリマインドをかけた広告の効果を100%として評価しがちだが、実際にはテレビがなければ発生していない関心だったと言える。

「購買行動に近いステージに貢献するデジタル」という考え方はいいが、そもそもそこに至る前の「認知」や「購入意向」を獲得できているのかを見ないといけない。

またエリアプロモーション展開も結構だが、そもそもマス商材にはマス認知(マススケールの認知)が要るのでは?

 とか、安直なデジタルシフト&テレビカットには突っ込みどころが満載なのである。

 そしてテレビ広告の効果のもうひとつは、ブランドコミュニケーション資産の蓄積に長い時間をかけて寄与しているということだ。

 よく精緻なマーケティング施策のROI分析をすると、当該キャンペーンをやらなくても売れた分(=ベースライン)が出てくる。これはブランド力がある企業ほど比率が高い。ブランドエクイティの要素のひとつと言い換えてもいい。
 こういう分析をすると広告主はせっかく大きなコストをかけてキャンペーンをしたのに、それで増えた売上はこんなもんかとがっかりするが、それは逆で、やらなくてもこんなに売れていることが素晴らしく、またこのキャンペーンコストは短期の売上寄与だけでなく、長期のベースラインの維持拡大に貢献しているのである。

 その部分にはやはりテレビ広告の貢献度は絶大なのである。

 ベムはデジタルシフトによるメディアのリアロケーションが専門と言ってもいいので、ひとつ大事な視点を提示しておこう。

 よく、テレビとデジタルの予算配分を何対何にすればよいのかという質問がくるが、いきなり予算配分から決まるものではない。
 テレビとデジタルは、購買プロセスのどのステージにマーケティングコストをアロケーションするかというブランドごとの課題から入らないといけない。
 それぞれのステージへの効果がテレビとデジタルで違うものであり、また同じステージに対してでも組み合わせることで新たに醸成できる効果もある。

 (またテレビはほぼ予算がプランを決める傾向にあるが、デジタルは同じ予算でも使い方は無数にある。)

 そうした上流から下流までの全体設計のなかで初めてコスト配分が決まってくるのである。

 で、テレビ×デジタルを
 
① テレビだけでは到達しづらくなっている層に対するリーチ補完としての
  「統合リーチ」の考え方
 
② ターゲット認知を補完するために、フリークエンシーバランスの悪いテレビをデジタルで補正する「ターゲットのフリークエンシーコントロール」の考え方

(昔のネット広告でのフリークエンシーコントロールは何回以上は出さないというキャップの議論だったが、それはCTRがバーンアウトするからというクリック目的のだったからで、ブランディングのためともなればターゲットには最低何回以上見せようというフリークエンシーコントロールになる。)

③ テレビCMとデジタル広告の両方に接触したことによって態度変容を起こす効果を狙う「態度変容(購入意向)醸成」の考え方

これには「ブランドの文脈」で出来ているテレビCMと「ユーザーの文脈」でつくるべきデジタル動画広告を、別素材で開発することだと思う。

この時、ベムは出来ればこれらを一緒に、またはデジタル動画からつくって行って、消費者反応データも分析した上でテレビCMを開発するというプロセスはあると思う。


 の3段階で知見を構築していくことをお薦めする。

 ベムの会社でコンサルしておりますので、お問い合わせくださいw。

広告主企業が2020年までに社内に確立すべき知見

8 years 9ヶ月 ago

 よくテレビとデジタルのアロケーションに関する相談を持ちかけられる。
予算で何対何がいいのかと問われる。

 しかし、テレビはほぼ予算がプランを決めるが、デジタルは必ずしもそうではない。デジタル広告1億円分の使い方は何通りもある。そもそも機能や役割も異なる中で、端から予算配分から入るのがどうなの?ということだ。

 ブランドによって、購買プロセスのどの部分にマーケティングコストを配分するのかが違う。またブランドによって(ターゲットによって)、テレビCMの1インプレッションとデジタル広告の1インプレッションの価値も違う。

 また、デジタルへのマーケティングコストシフトはいいが、根拠なくテレビを否定するのはいかがなものかと思う。

 テレビの本当の効果が見えていて、そう言っているのか。
 テレビの間接効果や中長期に渡るブランド力への底支え(貢献)は簡単にデジタルで得られるものでもない。
 
 やはりテレビとデジタルの本当の効果と、その相乗効果を突き詰めることが肝心だ。

 テレビCMの「リーチの初速」は絶大であり、サチるターゲットリーチをデジタルで補完させることから始め、テレビCMのフリークエンシー分布のアンバランスを補正することで認知効率を高めること、そしてクリエイティブ素材を替えて、テレビ×デジタルで被る視聴者/ネットユーザーにおける態度変容効果を最大化するところまでに施策が展開するところまでは2020年前には必須の到達点だろう。

 これは、テレビCMを制作し、テレビメディアを買い付けているマス広告宣伝部が、やらないといけないことだ。
 マス広告宣伝部がデジタルにコンプレックスを感じている場合ではない。

 企業の広告マーケティング活動は、こうしたスキルが広告主にあるかどうかで大きな差がつく。従来メディアへの投下量(広告予算)があれば、企業間の差はさほどつかなかったと言える。しかし、これからは50億の予算の企業が、100億の企業を凌駕する時代になる。
 
 2020年代のメディア環境に対応するための企業の広告マーケティング体制とは・・・。そのP・O・E、つまりP(買うべきもの)、O(企業内で所有すべきもの)、E(それによって得るべきもの)を今年中には整理し整備をスタートしなければならない。
 
 まさに、これをコンサルしているのがベムであり、デジタルインテリジェンスであります。

 広告主のみなさん

 2/28は既に満席ですが、是非デジタルインテリジェンス主宰の「デジタルマーケティング研究会」に参加され、研究会会員に・・・。

テレビCMとデジタル動画広告の受容性

8 years 9ヶ月 ago

 テレビCMは長年かけて広告として許容されてきた。視聴者はCMを受け入れている。番組とCMのアテンションデータを見ても、CMは落ちるものの、総じて注視度合いに決定的な差はない。

 一方、デジタル動画広告はどうだろうか。
 
 習慣的にスキップする人をかなり多い。

 ネイティブ広告が提唱されるということは裏を返せば、エイリアン広告である要素がまだまだ拭えないからだろう。

 以前、スマホへの動画広告市場は、成長はするが、いったん踊り場が来てから2段ロケット噴射になるだろうと書いた。

 それにはスマホにユーザーの受容性の高い枠や広告フォーマットの登場が条件となる。

 そうなるとやはりコンテンツとの親和性や、コンテンツの番組化そのものへの新たな取り組みが必要だろう。
当然、ネイティブ広告の正確な理解と取り組みは必須だと思う。

行動データはネットのログデータからセンサーデータやスマホのロケーションデータに拡張する

8 years 9ヶ月 ago

「意見を聞くマーケティングから行動を把握するマーケティング」と言ったのはかれこれ10年前。行動データはネットのログデータからセンサーデータやスマホのロケーションデータに拡張する。


 かれこれ10年くらい前にベムは講演で「意見を聞くマーケティングから行動を把握するマーケティングへ」というフレーズで潮流を説明していた。
 この時、昔のグループインタビューでの経験談を話して、「消費者に意見を聞いてはいけない」という話をした記憶がある。

 そもそもグループインタビューという調査手法は「鵜呑み」に出来ない。モデレータの技術でもかなり左右される。ベムのカミさんはその昔、女性対象商品のグループインタビューのモデレータをやらせると結構な高いスキルをもっていたと(身内を褒めるのもなんだが・・・)思う。で、カミさん曰く、「インタービュールームに入ってきた時にファッションやアクセサリーや化粧などで、誰が意見をリードして、誰が迎合して自分の意見を言わないか分かる」と言っていた。
 そもそも、日本人は自己主張をすることが少なく、こういう答えをしてあげるといいのかなと慮ったりもするので、本音の引き出し方は案外難しい。

 で、ベムの経験談は、いろんな種類のテーブルウェアを評価してもらって、家で使いたいものなどを聞いたグループインタビューだったのだが、最後に「みなさんせっかくですから欲しいものをひとつづつお持ち帰りください」というと、さっきまでこれが欲しい、これを家で使いたいと言っていたものでなく、みんな普通の丸皿を持って帰ったのである。

 「行動」こそが真実である。

 そう考えていた25年以上前にはなかったインターネットが普及し、ネット上の行動をログデータという形式で把握できるようになったことを、前述の「意見を聞くマーケティングから行動を把握するマーケティングへ」と称した訳だが、ネット行動に限定されていた行動データは、リアル行動データやセンサーデータといったものに拡張されていっている。

 拙著「届くCM、届かないCM」で、テレビ画面をそのくらい注視したかというセンサーデータを使って、CMに対するアテンション(画面注視)を秒間データで取る分析手法を解説しているが、例えばこのデータは実際のテレビ視聴における視聴者の行動データと言える。

 そしてこのデータがアンケートによるCMの評価と違うことがあるのだ。

 アンケートで評価を聞くとネガティブなのに、AI値(画面注視率)は高く、こちらはある目的変数と相関している。

  そうなると、センサーデータによる視聴者行動を「打ち手」(この場合CMクリエイティブ)の最適化に使おうということになる。

  ユーザーの移動データ(スマホのロケーションデータ)にもおそらくアンケート調査では分からない「行動に表れる真実」があると思う。

  ベムは最近、こうした分析が楽しいw。

  一緒に切り口を考えて分析してくれる仲間を募集してます。

「枠から人へ」のトレンドと、「枠から番組へ」のトレンド

8 years 10ヶ月 ago

デジタルインテリジェンスNY榮枝から米国状況をレポートしてもらった。

この話の詳細は2/28のデジタルインテリジェンス主宰「デジタルマーケティング研究会」(広告主限定)で聞けます。

http://eventregist.com/e/GP7x9IUn24xT


「枠から人へ」のトレンドと、「枠から番組へ」のトレンド
「オートメーテッド・ギャランティード」の名の下に、米国で昨年から火が付いたテレビ・メディアのプログラマティック化(プライベート・オンライン取引化)が進んだが、今年は「テレビ番組視聴」の新データ指標が登場する動きがある。今年1月に日本で発表があったビデオリサーチと米ニールセンとの資本業務提携は、この米国での議論の延長線にあると考えられ、広告主各社は意味合いを掴んでおく事が必要だろう。
日本でも昨年あたりから「見逃し視聴」に関するデータの扱いがようやく注目されるようになってきたが、米国では約10年前からニールセンが提供するC3(放映から3日後までの録画視聴によるCM視聴のデータ)、C7(同7日後)という積み上げ数字がCM枠バイイング取引の通貨となっていた。しかしこのC3/C7はオンライン上でのCM+番組視聴の数字が拾いきれてなく、モバイル視聴を含めたコンテンツの分散配信に適応できていなかった。放映チャンネル局側はこの部分を加えた指標を登場を、数年待ちわびている。


■テレビ視聴数の減少の原因はNetflixやYouTubeの影響だけではない
テレビの視聴数(米国では視聴率、だけでなく視聴数を重要視する)が年々下降しているのは日米同じ。これはNetflixやYouTubeを始めとしたネット上の優良コンテンツが増え、「テレビ電波」や「ケーブルテレビ」だけが映像コンテンツでは無くなったから、が一般的な解釈だ。
しかし米国の4大チャンネル局は納得していない。彼らの考えでは「ニールセンの数字が、分散配信されている番組視聴を拾いきれて無いから数値が下がっている」、あるいは「新しいネット配信先も含めると、むしろプレミアム番組に関しては視聴者は増えているのではないか」というのが本音だ。
マルチスクリーン上でのオーディエンス・データならコムスコアやニールセン(でさえ)が、調査しているではないかと思うかもしれない。確かに「ネットに閉じた」数字は調査されているのだが、テレビ視聴の数字と足並みを揃える基準が登場していない。まさかネット上の単純インプレッション数とテレビ視聴者数は合算できないし、かと言って「1分あたりの平均視聴者」で合わせて良いのか等、技術上の難しさは想像できるだろう。さらに様々なネット上の視聴形態とテレビとの「重なり」も考慮しなければいけない。
いずれにしても基準となる土台は「これまでのテレビ視聴者数」にどう足し合わせるかであり、その意味で「新データ」はテレビ視聴データを持つニールセンが主役になる。日本ではビデオリサーチが主役になるデータであり、この背景が先の提携の意図する方向だろう。
ここで念押ししておきたい事は、現在米国で「待たれる新しい指標」というのは、「(動画)広告」の配信のカウントではなく、「テレビ番組の総露出」のカウントなのだ。上記のC3/C7の「C」はCommercialの「C」で、広告露出部分のカウントに力点を置いている。C3/C7は裏返せば番組コンテンツそのものをカウント・評価している数字ではない。プレミアム番組(コンテント)を持つチャンネル局は、自社の宝である番組そのものの価値の評価を待っているのだ。


■プレミアム番組で広告枠を減らすNBCUの場合
例えばNBCUであれば、人気番組「Saturday Night Live(SNL)」は若年層の支持が非常に厚い番組であるが、今年この番組に関しては(番組離れが起きないように)広告枠時間は30%削減させると発表している。アドレサブルにターゲティングできる「CM枠」を減らす傾向だ。その代わりNBCUの制作部がブランデッド(ネイティブ)コンテンツを特定の広告主に提供するモデルに収益をシフトさせる。
そしてNBCUは番組を自社の放映電波だけでなく、親会社のComcastのパイプ(ケーブル、ネット、OTT含む)で分散配信している。さらにNBCUは「ディストリビューション・パートナー」としてオンライン・プラットフォームであるAOL、BuzzFeed、Vox、Snapchat等とも提携関係にあり配信できる。この流通になれば「視聴者数がむしろ増えているのでは」と考えられるのは大いに理解できる。このようにNBCUの番組は、これらの分散配信露出の全ての価値を含んだ番組の「総視聴」の数字が必要になってくる。
さらにNBCUのセールスポイントは、広告主に対してプレミアム番組(前出SNL等)を「男性25-54才」のデモグラ・データを追うのではなく、「年収10万ドル以上のセダン所有者」に対して番組(コンテント)視聴数が積み上がったかどうかを検証でき、その数字に対してNBCUは「露出保障(ギャランティード)(補填)」するビジネスモデルを構築したいのだ。日本のテレビ局との事業ステージの差にも気付くだろう。


■いよいよ新C3/C7が今年稼働、しかしTotal Content Rating(TCR)はいかに。

ニールセンは前出C3/C7のネット露出を含めたクロスプラットフォームでの数値(Total Audience Measurement Platform内でのDigital in TV Ratings)に関しては米国の非営利協会のMedia Rating Council(MRC)からお墨付きがもらえ、今年から稼働予定だ。平たく言えばC3/C7の数字に「ネット数字を加算」した数字(つまりC3・C7の数字が大きくなる)が登場する。

Nielsen Receives Media Rating Council Accreditation for Its Digital TV Measurement
http://www.adweek.com/tv-video/nielsen-receives-media-rating-council-accreditation-for-its-digital-tv-ratings/

待たれるのは「番組露出」の計測(Total Content Rating:TCR)だ。TCRのネーミングのCは「コンテント=番組」のCだ。これも、今週、3月1日に「実験版(Limited)」が開始する事も決まったらしい。

Total Content Ratings Rollout, With ‘Limited’ Release on March 1
http://www.adweek.com/tv-video/nielsen-modifies-its-total-content-ratings-rollout-limited-release-march-1-175805/

「らしい」と断定していないのは、昨年12月~今年直近まで、各大手チャンネル局はこのTCRに対し「待った」をかけて騒ぎになっていたからだ。ニールセンの計測数字が「不十分」とし、良いことナシで混乱だけが生じると各チャンネル局が同じトーンの声明を出していた。


(大手チャンネル局NBCUはニールセンのTotal Content Ratings(TCR)をプライムタイム番組の評価に当てる事を書面で拒否した時の報道。Adage 2016 年12月15日)

そんな折、1月末の上記リンク記事は、「折衷案」という着地を見せたようだ。2年も延期に延期を重ねていたTCRがまたしても今年のアップフロントに間に合わないのか、というスレスレの時期での発表だ。今年のアップフロントでの大きな話題の一つは、TCRがLimited Editionということで、どのように試験運用されるのかが注目される。今年のアップフロントの状況は例えば、

・セールスの基準にTCRを採用している、と宣言するチャンネル局はないけれど、
・ニールセンはチャンネル局のTCR情報を、その局だけには公開提供する。
・同時にエージェンシーにも公開するので、エージェンシーが裏でつなげてしまえば、複数局を比較して実験利用ができるというイメージ。その中において大手エージェンシーグループのWPPやOmnicomのメディア・エージェンシーの役割は大きい。

整理したいのは、米国でのテレビ視聴に対する新指標TCRは、「クロスプラットフォームへの対応」、というよりも番組に溶け込む「ネイティブコンテンツ配信における、チャンネル局側の新事業モデルへの対応」、という側面に気づけるかどうかだ。

この動向に影響を受ける広告主は「プライムタイムに局といっしょにネイティブコンテンツを露出する大企業」という事になる(注:タイム枠の復活、ではない)。スポット買いの広告主は、引き続き広告のプログラマティック・バイイングの動向を見て行けば良いだろう。

企業メッセージを広告枠を選んで配信するのではなくてオーディエンスを選んで配信する、いわゆる「枠から人へ」の概念がある。この概念は、チャンネル局や新興パブリッシャー(Netflixを含む)が持つ「プレミアムの番組(コンテント)」に関しては、少し当てはまらない。プレミアム番組では、広告主が広告枠でコンテントを邪魔をするのではなく、あるいはそのコンテントの枠の中でターゲット別に広告メッセージを差し替える事を喜ぶものでもなく、いかに番組に溶け込むかという「枠から番組へ」の傾向が始まった。
先のスーパーボウルで言えば、レディー・ガガの「ハーフタイムショー」では300機のドローンが空を舞い、ペプシのロゴを夜空に描いたシーンを見た人も多いだろう(実際は録画合成)。インテルがあのドローンのシステム・スポンサーだ。両社は見事にハーフタイムショーのコンテンツの中に溶け込んでいる。プレミアム・コンテンツを開発するチャンネル局は、自社コンテンツの価値が広告枠の販売だけではなく、番組コンテンツそのものの中で昇華させる考えにシフトしてきているのだ。
 続報はDI. MAD MANレポートでお伝えする。

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2 時間 58 分 ago
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