業界人間ベム

テレビが生き残るために その1 テレビ局がAIでネイティブCMをつくる

1 year 8ヶ月 ago

視聴率が落ちていく一方のテレビ、ベムはテレビからデジタルにCM枠が移行していくことでの最大の懸念は、「CMの受容性」であると考える。

テレビCMは何十年もかけて視聴者とテレビ局とでの「和解」を形成してきたと思う。例えば、「視聴質データ」を見ると一社提供番組では番組からCMへ移行しても画面注視率が落ちないことが分かる。テレビCMはネイティブとまではいかないが、現状のデジタル広告と比べるとはるかに視聴者の受容性が高い。

 インプレッションという単位を、JIAAとWeb研の共同作業の用語定義(用語集)で決めたのはベムだが、このインプレッションにも質がある。そもそもテレビとデジタルとでは視聴態度が違う。テレビはパッシブで、デジタルはアクティブ。当然だがYouTubeではサムネを見てコンテンツを視聴しようとする態度は、コンテンツに強く傾注している。そこへカウンターで投じられるCMの受容性はとても高いとは言えない。無理やり接触させているCMのインプレッションをテレビと同等に評価できるだろうか。昔はCMに対するネガティブな評価は、無視されるよりはマシと考えたものだが、現状のデジタル広告に対する視聴者のネガティブな反応はまさに「逆効果」、単に嫌がられているのだ。いや、嫌がられていて無視されている。

 デジタルにおけるターゲティング配信機能については、96年からネット広告に携わってきたベムはその歴史の中にいたので、よく理解しているが、いまだ本当のターゲティング配信は実現していない。昔からベムが言ってきたのは、ターゲティングとは同じメッセージ(クリエイティブ)で対象者を絞り込むことだけではない。ターゲットによってメッセージを最適化することこそがターゲティングだ。

 そうしたターゲティングもなお不十分なまま、視聴量が増えたことで「広告枠」をつくった。YouTubeは嫌ならプレミアム会員になればいいので、どちらでもいい。受容性を考慮する必要がないのだ。

 

 この結果、テレビを観ない若い人たちにとって、すべからく広告はひたすらにウザいものでしかないのだ。「広告は文化」と言われた時代を知るベムには寂しい限りだ。

 さて、こういう状況だからこそテレビが生き残るためにやるべきことがある。

 

放送で生き残るのではなく、CMの効果で生き残るのだ。放送だけで生き残れないのは必定だ。当然配信を含めて、プロのコンテンツと受容性の高いCMで生き残るのである。

 そのためにすべきことは、番組コンテンツとの連動制の高いネイティブCMの制作をテレビ局が積極的に関わって、AIによるクリエイティブを行うことだ。

 教師データは先ほどの「画面注視率」でもいい。デジタルより受容性が高いテレビ視聴環境で、コンテンツ(番組)に対してネイティブなAIクリエイティブが動的に生成されてもいいのではないだろうか。

 つづく

ベム

人をひとりのヒトとして判定することでどこまでマーケティングは機能するか  ~ヒトの「カメレオン化」をもっと研究しよう~

1 year 8ヶ月 ago

変に長いタイトルになってしまいましたが、要は「IDにより人を特定することで期待されていたマーケティングは本当に機能しているのか」という話です。個人情報保護の観点で承諾のないまま裏側で紐づけられるのはNGになってしまって、現実論として「無理!」なのに、このような力業かつコストのかかる仕組みを作っても、本当に機能するのか?という議論です。そしてそもそもヒトの多面性というか移り気加減を無視した考え方になっていないかを考えてみようと思います。

この発想に至ったのはトレンダーズの「インフルエンスファクター」のSNSによる行動パターンがヒトに帰属しないということがデータではっきりしていることからです。

インフルエンスファクターでは、ヒト・モノ軸×ソサイエティ・パーソナリティ軸で、オーディエンス・トラスト・ナレッジ・ディスカバリーの4つの購買意志決定パターンを設定するのですが、このパターンはヒトに帰属しているのではなく、対象ブランドのカテゴリーや価格帯によって変わってしまいます。

特定のカテゴリー、価格帯のブランドを預かるマーケターにはこのインフルエンスファクターは非常に役立つロジックですが、こういう行動パターンがヒトによるものでないとすると、マーケティング理論としてすべてのブランドに機能する理論において「こういう人」と括ることだけではマーケティングは機能しないと言えます。

もうひとつファネルの理論も言ってみればヒトで括る考え方です。「認知したヒトのうちの、関心をもったヒトのうちの、比較検討したヒトのうちの、購入意向を持ったヒトのうちで購買者がいます。」という構造をつくって考えていますが、現実は、商品によってはメディアで認知していなくても買うヒトはいます。関心をもたなくても買ってしまうヒトもいますし、比較検討しなくても買ってしまうヒトもいます。購買行動をあまり単純化するのは危険です。

 さて、ではヒトで括るのが万能でないならどうすればいいでしょう。ある意味原点回帰かもしれませんが、コンテンツ、コンテキスト、タイミング、ジオなどを総動員するしかありません。つまりIDでのヒトの特定が万能ではなく、同じ人間が様々な購買行動パターンを起こすことを前提にマーケティング活動を設計するのです。

 「十人十色」から「ひとり十色、二十色」は、本当は昔からあったのです。しかし現在はヒトの「カメレオン化」を強く促す情報社会です。そうした中で「広告」は相対的に力を失っていると思います。テレビの視聴率が落ちて、デジタルメディアに流れているのでしょうが、その分は効果的な広告枠にはなっていません。デジタル化は圧倒的に消費者にコンテンツ消費の主導権をもたらしました。虫食い消費、1.5倍速消費、広告スキップは当たり前で効果的な広告枠は存在するでしょうか。テレビを観ない若い層にとって、広告とは「ウザい」ものでしかありません。

 広告枠をつくって配信すること自体がこの先危うい仕組みです。

 そうなると体験をつくるリアルな仕掛け、当然それがSNSとの相乗効果をつくり込むしかありません。「SNSで集客し、リアル体験をSNSで拡散する」というごくごく当たり前のことをもっともっと中身に知恵を使っていくのです。

 広告代理店にとっては得意の「仕掛け」の分野です。(仕組みづくりは下手ですからねw)

 さて、広告主に警鐘を鳴らしておきたいと思います。広告枠に放送・配信するのは楽ではありますが、効果的な広告枠はどんどんなくなります。当然単価は上がりますが、そもそも買えなくなります。いわゆる広告枠を買う以外の施策を考えてください。

ベム

エージェンシーが開発すべきAIとは

2 years ago

  拙著「広告ビジネス2030年」には、AIが広告ビジネスのコアであるクリエイティブを直撃すると書きました。

 エージェンシーが開発せずとも、アイディアを創出するAIは溢れるように出てきてクライアントも使うことになります。当然これをコンサルが支援することになるでしょう。

 下手をすると従来どおりエージェンシーのクリエーターがつくったクリエイティブ対コンサルが支援してクライアントがAIでつくったクリエイティブが競合することもあるでしょう。当初は人間が勝利するでしょうが、すぐに勝てなくなります。時間の問題です。

 そこでエージェンシーも「クリエイティブ案の実績をAIに学習させて」と行きたいのですが、そもそも捨て案などは学習させようにも残っていないし、あったとしても古いアイディアは学習させることがマイナスに働くことになります。古いセンスのAIにしてしまうだけです。

 つまりエージェンシーなのにクリエイティブAIづくりには何のアドバンテージもないのです。

 では、エージェンシーはどこにAI開発をすべきなのか。

 クリエイティブのAI化は一見クライアントにとって自社内にクリエイティブファームを抱えた感じになります。(ちなみにいわゆるクリエイティブファームは絶滅するかもしれません。)

 そこからいいアイディアの創出できたとして、広告効果によってクリエイティブは大きな変数ではあるものの、どんな掲載面に誰にどんなタイミングで接触させてという変数などと掛け算で結果が出るものです。

 結局それを実行しているのはエージェンシーです。

 広告を最適化するにはエグゼキューションが出来ないと意味がないのですから、エージェンシーのAI開発のスタート地点はこの辺にあります。

 従来広告配信の結果データは極めて粗末に扱われてきました。せっかくデジタル配信なのにやりっぱなしです。拡張配信という技法が失敗したのも、一次的な結果だけで評価して突き詰めなかったからです。ベムは拡張配信のロジックこそAIに任せるべきで、何千万人に何十億回も配信したというような膨大なデータを喰わせてこそAIは育つでしょう。

次回は競合するコンサルによって、業界の重心が変わるということを書きます。重力に引き寄せられるように歪んでいく広告業界はどこに行くのか・・・。

ベム

マクロデータで観るテレビCMとデジタル動画広告市場

2 years 4ヶ月 ago

ベムが2018年に推定したテレビCMとデジタル動画CMのインプレッション数を年代別にしたグラフですが、DACの協力で2023年版ができました。DAC砂田くんありがとうございました。

 これをみると、テレビCMのインプレッションは4%強減少している一方、デジタル動画広告は40%増加しています。どちらも推定値なので(特にデジタル動画広告のインプレッション数は算出が難しいので)

 数字は4週間の関東地区のインプレッション数で推定しています。

 ベムも実際にはデジタルはもっと増えている、ないし2018年推定値はもっと少ないのではと感じます。2018年から2023年であればデジタル動画広告は何倍にもなっていておかしくないにでは?と・・・。そこはなにせ推定値なのでご容赦いただくとして、2023年版はDACに協力してもらったのでかなり正確かと思います。

2023年版ではデジタル動画広告のインプ数が30代で落ち込みますが、仕事や子育てで可処分時間が少なくなる30代で落ちるのは現実感はあります。

 さて、いまさらながらですがテレビCMのほとんどが60代以上で消化されているのがこのグラフから読み取れます。まずは2023年版

60代以上の構成比は2018年で43.7%でしたが、2023年ではなんと58.3%です。デジタルの伸びよりむしろこちらの方が衝撃です。

 ベムはよく講演で比喩として、「女子高生にリンゴをひとつあげるには、お母さんに3つ、おばあちゃんに6つ、」計10個用意しないといけない」と表現しますが。それ以上の感があります。10代、20代ではテレビCMのインプ数をデジタル動画広告が上回りました。

 ただ、これを見て単純にデジタル動画広告の優位と思うと少し違います。1インプレッションの価値が微妙に違うということと、急速なリーチ獲得(但し個人全体に対して)にはまだテレビの優位があることです。

 まず、1インプレッションの価値ですが、前回の投稿でも言及しましたが、テレビCMの挿入のしかたは何十年もかけてテレビ局と広告主と視聴者の間で許容されかつ効果のある方法を導き出してきたものです。それに対してデジタル動画においては、視聴環境が異なるなか、非常にプッシュ型(場合によっては非常にエイリアン広告型)になっています。よりアクティブは視聴行動をしているYouTubeでミッドロールの強制視聴型が本当にプラスの効果があるのかは前回書きました。デジタル動画もリーチしているという感覚ではテレビ以上かもしれませんが、その価値についてはどう評価するか非常に大切なテーマです。ベムはテレビのGRPをインプレッション数に換算することで、テレビデジタルを同じ土俵に上げたのですが、全く同じものとするのはやはり少し乱暴です。双方の1インプの価値や効果(プラスorマイナス)を吟味する必要があります。しかしながらテレビCMをインプレッション数という絶対値にしたことはいろんな効用があります。

 ひとつはエリアごとのインプ数を合算できることです。従来GRPだと母数が違うので「関東500GRPに関西500GRPで合計1000GRP」というわけにはいきません。しかし関東に1000万インプレッションに関西500万インプレッションで合計1500万インプレッションになります。ベムはテレビの結線視聴データから北関東3県だけ抽出してインプ数を把握して、そのメーカーの北関東の販社の売り上げデータと相関させるなど、メディアを買う側のデータに変換しています。こんなことも絶対値だからできることです。米国でスーパーボウルの視聴に関して視聴人数でいうようになってから10年以上経ったと思いますが、もう率ではなく回数や人数という絶対値で把握するのは当然なのです。そもそも日本では人口が恐ろしいほど減っています。テレビを観ない、持っていない若者も急激に増えています。母数が減っているのに率で把握しようとするのは極めてナンセンスです。

 さて、昨今テレビ局も言い出した「コア視聴率」で単純比較してみましょう。(単純比較は個々のブランドにとっては意味がないことは含みおいてください)

 コア視聴率とは13歳~49歳ということらしいのですが、とりあえずベムのデータでは10代~40代でテレビとデジタルを比較してみましょう。2023年のそれは、テレビ297.6億インプレッション、デジタル271.2億インプレッションです。単純化すると30:27です。

 

 特に広告主の皆さん、この比率を実感していますか?

 ただ前回投稿のように、だからデジタル動画CMを出せばいいというものではないことを肝に銘じて、テレビとデジタルの統合、融合の目的をしっかり設定しましょう。上層部からデジタルやれと言われるからとか、代理店が薦めるからだけで意味なく投じると前回投稿い書いたようなマイナス効果もあることもお忘れなく・・・。

ベム

コネクテッドTV広告の定義とCMの受容性 ~CM打つほどマイナス効果~

2 years 4ヶ月 ago

本当に久しぶりの投稿になってしまいました。今日から3つのテーマで投稿します。


① コネクテッドTV広告の定義とCMの受容性 ~CM投下のマイナス効果~

② マクロデータとしてのTVCM/デジタル動画広告

③ リテールメディアこそTVCMとのオーバーラップを狙え! 

~メーカーのTVCMに商圏内広告配信を重ねよ~


今日は第一回で

① コネクテッドTV広告の定義とCMの受容性

~CM打つほどマイナス効果~


 コネクテッドTV広告の定義に関してベムは世間より狭義に考えている。

つまり、

・広告を挿入するコンテンツはプロの制作するものであること

・CM挿入は視聴者と和解できる手法であること

・スマホやPCとは違い複数人の視聴を考慮すること

 まず、ベムはUGCとプロ制作のコンテンツを区別する。従来なら広告主は自らのCMがどんなコンテンツに挿入されるかについて極めて敏感だった。それがいつのまにかYoutuberが視聴回数欲しさにつくる玉石の石に方にも挿入されることが平気になっている。

 たしかに「枠」から「人」へと革新を表現したのはベムだが、ターゲットに当たればどんなコンテンツに挿入されてもいいとは思わない。

 さらに、これはもっと重要かもしれないが、CM挿入方法が強引であることに問題がある。ミッドロールに強制視聴をかけてくるのは、そうでもしないと獲得したいインプ数が取れないかもしれないが、大いに問題がある。金をかけてCM配信をしてマイナス効果を生んでいることに気が付かないといけない。

 こうしたCM挿入法はテレビ局と広告主と視聴者が長い時間をかけて和解してきた手法を完全に無視している。テレビのCM挿入はもちろんネイティブではない。その逆のエイリアン広告だ。それでも最低限のルールのもとで視聴者の拒絶感までは生まない(つまり投下することでのマイナスの効果を最低限にする)ようにしてきた。

 ところがYouTube広告では、デジタル動画広告に出稿することがいかにもデジタル対応しているとばかりに、こうしたことに無頓着に配信している。最近ベムがYouTubeを観るとやたらと〇〇リバブルがミッドロールのかつ強制視聴で出て来る。さすがにいいターゲティングをしていると見えて、ベムは不動産の売買について比較的リアリティのある関心事である。しかし〇〇リバブルは、私のYouTube視聴の邪魔をしてくるので絶対に使わない。

可処分所得が多い人ほど可処分時間は短い。そうでなくてもタイパを求める世の中、1.5倍速、2倍速でドラマすら視聴されるご時世だ。YouTubeのようなアクティブな視聴態度で視聴しているなかでのエイリアン広告は逆効果であることは誰が見ても明らかだ。こんなことが分からない広告主がいるのは非常に残念だ。

 広告を出すことでのマイナス効果は従来「フリークエンシー過多」だった。「しつこい」と感じて嫌悪感を生じる。視聴時間の長い高齢層には100回を超える場合だってある。これもひとり当たりにたくさん金を投じていて嫌われるのだからばかげている。広告主も考えないといけない。広告代理店や媒体社が投下によるマイナス効果を調査して教えてくれるわけがない。

 

 挿入するコンテンツ、挿入手法、頻度、こうした到達実態と視聴者にもたらすマイナスの効果について広告主は自ら調べるべきだろう。

 もうひとつ大画面に配信される場合は、パッシブかつ複数人視聴になる可能性があること。

実はTV番組やCMではひとりでの視聴より二人の方が、二人より三人の方が画面注視率が高い。パブリックビューイングになると画面注視が極めて高いのは感覚的にわかりますよね。


 この辺りは、従来のデジタル広告のひとつのデバイスで一人のユーザーではなく、テレビの世界の視聴環境な訳で、これらの到達実態をどう調べたり、どう評価するかも重要だろう。

ベム

2023年広告マーケティング業界7つの予測

2 years 10ヶ月 ago

① 大手広告代理店が買収される可能性大

2022年は広告代理店業界にとっては業績云々よりも、世間の厳しい目に晒された年になってしまいました。ベムの出身母体などは頭を取られてしまうという悲惨な事態になりました。はっきり言って別段悪いことをしている意識はあまりなかったでしょう。今までもやってきたことですから・・・。

さて、今年は大手広告代理店も買収されるかもしれません。では「買うに値する」ものとは何かというと、仕入先の口座です。メディア各社との取り扱い実績が買収する側にとっての価値です。

デジタルメディアだけでなく、マスメディア、プロモーションメディア全般を仕入れる機能が欲しいところというと、例えばアクセンチュアですね。

もちろん、買収価額が折り合うかどうかでしょうが、マーケティングコンサルにとって、すべてのエグゼキューション(メディアバイイングを含めて)が行えることが必要です。コンサル⇒プランニング⇒エグゼキューション⇒コンサルというループを回していくことがデジタル時代のマーケティングコンサルには必須条件だからです。

今年はその意味でもいいタイミングでしょう。

 

② エージェンシーとSIerの大型提携が成立?

 電通は電通デジタルをフロントに出しつつDXコンサル(といっても戦略コンサルレベルではありません。もっと下流のマーケティングのデジタル化におけるコンサルです)を押し立てています。結果、電通はアクセンチュアとの競合も多くなっています。電通にとってこの分野では博報堂は競合ではありません。

デジタル時代になってクライアントは、問題解決のための課題設定すらできないところが多くなりました。プランニングは課題がしっかり設定されているからこそ提案できるのです。プランニング以前にコンサル(課題を設定してあげる)が必要になり、DXの掛け声に乗ってアクセンチュアもマーケティング領域に進出したのです。さて、このトレンドに博報堂はどう動くでしょうか。現状博報堂の国内のオペレーティングマージンは非常に高いのですが、無理にデジタルコンサルに参入することは短期的には利益率を押し下げます。とはいえ今後を考えるとどうでしょうか。

タイトルは「エージェンシーとSIerの提携が進む」でしたが、博報堂がSIerと組む発想は十分あります。これはマーケティングのDXコンサルというのと少し毛色が違います。ただDXコンサルの担い手の中心にいるアクセンチュアもまた相性が悪いわけではありません。

従来エージェンシーは面倒なプランニングを提供しつつもメディアで元が取れるので、このモデルで長年やってきた訳ですが、「広告」がマーケティング課題解決としての機能が落ちてきた今、何で元を取るかが問題です。

一方システムインテグレータは企業のバックエンドには対応できますが、営業、マーケ、広告販促のようなフロントエンドへの提案はほとんどできません。ですからエージェンシーとSIerが組んで、エージェンシーもシステム導入で元を取る手法もあります。SIerとリベニューシェアしてもメディアマージン程度にはなるでしょう。

③ WPPの再上陸、その成功の鍵は総合商社との提携か

日本の代理店業界に言えることは、外資エージェンシーの元気がないことです。まあ欧米でも元々広告代理店だった企業はデジタルに強い企業に押されてさえないのが実態です。

そんな中でADKに袖にされてから日本戦略を練り直していただろうWPPも今年は再上陸することを宣言しています。ただ単独で乗り込んでもほとんど何もできないでしょうし、代理店業界で組む相手もいません。もう同業で組んでも意味はないのです。ベムは総合商社との提携に活路を見出すことはできると思います。


④ AI広告クリエイティブ会社が本格始動

広告業界のAI活用はいきなりクリエイティブに来ます。

もちろん電博CAも研究はしているでしょう。(CAは少し違うアプローチでしょうが)今年はAIによるクリエイティブ開発を全面に押し出してくるクリエイティブファームが数社出て来ると思います。

 2022年8月に登場したStable Diffusionはその可能性の大きさを感じさせました。当然ビジネスとして表現を生業にする広告業界がこれに指をくわえて観ているはずもなく、元気のよい会社が立ち上がるでしょう。

 ベムは楽しみにしています。

⑤ Yutuberビジネスの終焉とコネクテッドTVに求められるコンテンツの見直し

ベムはコネクテッドTVに関しては独自に狭義の定義をしています。つまり大画面での視聴であってもそれはクオリティの高いプロの制作コンテンツであるということです。広告を挿入することを前提にすると視聴さえあればどんなコンテンツでもよいという訳にはいかないからです。

 今後チューナーを内臓しないオンライン専用TVセットなども普及し、コネクテッドTVは急激な拡大をすると思います。AbemaTVのワールドカップ全試合配信はエポックメイキングな出来事として後から語られるでしょう。

 

 そして子供の将来なりたい職業1位にまでなったYoutuberですが、コロナ以前に既に彼らの視聴回数はピークアウトしています。コロナでテレビ出演機会がなくなったテレビタレントが一気にYoutubeに参入したこともあるでしょうが、そもそも続く訳がないのです。何年も面白いコンテンツを供給し続ける個人や少数チームはほとんどいないのです。はっきり言ってYoutuberビジネスは終焉します。

 そしてYoutubeを重要な広告露出先と考える大手広告主が増えるほど、そのコンテンツの質と広告挿入方法に疑問を持つようになるでしょう。Youtubeのコンテンツは玉石混交です。Youtubeでなければ得られない情報もあります。一方、視聴回数稼ぎだけを目的としたものも多く、ユーザーの取捨選択は進み、落ち着きを見せることになります。

 同時にテレビ番組はずいぶん前から負のスパイラルに落ち込んでいます。視聴率が落ち、収入の基本の持ちGRPが落ちることで、制作予算が減り、コンテンツが面白くなくなり、また視聴率が落ちています。

 テレビ番組が面白くなくなって久しく、素人が面白かった時代もまた終焉しつつあります。これを埋めるものは何でしょうか。基本プロが制作する一定以上のクオリティが担保されなければならないでしょう。もちろん制作予算が必要です。

 ひとつは、収入モデルが広告だけでないものです。

 配信であるが故に放送法やBPOの呪縛から離れて、また双方向であるが故の、通販より範囲の広いお金のやり取りを含む収入モデルでしょう。もちろんそのコンテンツ配信で稼いで、別のコンテンツづくりにお金を使うことになるでしょう。

 一方、ネットフリックスも広告入りの廉価版を始めました。今のところこれに移行する人は少なく、料金の再設定がされると思います。

いったん広告なしが売りだったネットフリックスが広告が入るものにするのは、そもそも広告入りのYoutubeに料金を払って広告なしのYoutubeプレミアムに移行する真逆にある訳です。ネットフリックスとしては巨額の制作費を投じていますから、広告が入るからタダという訳には行きません。あまり広告付きに移行していないのはネットフリックスの経営にとっては幸いなはずです。

 

 ただネットフリックスのような良質なコンテンツに多少広告が入ることに私たちは慣れています。民放が長年培った視聴形態です。CM挿入時間が少なければ、やたらとCMの多いアメリカでは見直されるかもしれません。

 日本でも最初はクオリティの高いCM素材に絞って優先し、挿入タイミングを間違わなければ馴染んでいくでしょう。CM機会としても最もプレミアムな枠となる可能性はあります。ベムもまだ視聴量は計算していませんが、まずは量より質のCM枠としてスタートするはずです。

⑥ テレビ番組視聴量は減り続けるが、今年はまだ売上維持、しかし・・・

テレビ番組の視聴率はまだまだ落ちるでしょう。視聴率を支えているのは高齢者です。ベムはテレビCMの到達量を表示回数(インプレッション数)で計算していますが、10歳以上のCM到達量の約45%が60歳以上の男女に当たっています。この世代の人口はまだ増えますが、既に団塊の世代が後期高齢者に突入しましたから、遠くない将来減少に転じます。

 一方、CM到達量の55%を占める10~59歳の人口は、2022年に9歳の子供は103万人ですから、この人口が10歳~59歳に参入しても、59歳152万人が卒業するので、約50万人減ります。これはまだ10歳~59歳の1%未満ですが、団塊ジュニアが60歳になり始めると、CM到達量の55%を占める層の人口が急激に減ります。

 ここまでは、人口つまりテレビを観る可能性のある最大値を母数として見ていますが、問題は放送によるテレビ番組離れの加速です。

 

 なおかつテレビ放送はターゲット配信のようなことが出来ません。広く満遍なく当てるのが得意なテレビ放送では、これはベムの譬えですが「女子高生にリンゴを1個あげようとすると、お母さんに3つ、おばあさんに6つ、計10個のリンゴが要る」ことになります。

配信でターゲティングすれば、1個だけあればいいのですが、これはテレビが人口の少ない若年層の視聴率が低く、人口の多い構成層の視聴率に頼っているが故の現象です。ですから全体で観ると、ほとんどCMが当たらない人と何度も当たる人に二極化するのです。広告業界では、テレビスポットの結果をクライアントにレポートする時、平均フリークエンシーを出しますが、実はこの平均回数で当たっている人は極端に少ないのです。平均と聞くと正規分布していて、そこが一番多いと思うのですが、逆に平均が底になるのです。

 最近になってようやく、テレビ局がコア視聴率と称して、13歳~49歳の個人視聴率を購買層として、ここの視聴率を上げようとしていますが、遅すぎます。また人口もテレビ視聴する人も減って母数が減っているのにいまだ「率」をどうのこうの言っている時点でアウトです。例えばこの20年で20代男女の人口は3分の2になっています。同じ個人視聴率でも絶対数では3分の2です。これでマーケティング指標になるでしょうか?

 「テレビ放送視聴の絶対数低下」と「若年層への到達力がないこと」そして「ターゲティングができないこと」、この3点でテレビCMの相対的なパワーは落ち続けるでしょう。テレビCMはこれに対してCM枠を減らして、有限な価値を訴求して、単価を上げて維持するしかないでしょう。「質」をアピールする必要があるのです。

 

 

 テレビ番組やネット動画、コネクテッドTVのコンテンツとCM枠を巡る変遷は2023年

をリスタート年として2030年までは外資(Netflix、Amazon Prime、Disney+、など)の攻勢を受けて激動することと思います。

 そうした中でテレビ局は放送事業(広告事業)での売り上げを3分の2まで縮小することになるでしょう。

 一方、広告主もテレビ到達力が落ちるのは「欲しいCM到達量を買えない」ということになります。何で補填するのか、コネクテッドTV枠がそれを補完できるほどになるのか、大きな問題です。デジタルを活用してみるのは、今はぎりぎりテレビで獲得できる到達量が、獲得出来なくなる時の予行演習でもあるのです。

⑦ SASがコネクテッドTV枠との統合プランニング&バイイングで活性化

SASがまだテレビ広告を大量に使う広告主に普及しないのは、パーコストが高いことと代理店マージンが少ないことですが、二番目はまあ置いておいて、広告主もパーコストを指標にしている時点でアウト!です。何度も言いますが人口が減って母数が減っているのに視聴率1%当たりのコストは意味がありません。まずは絶対値に指標を変換しないといけません。そのうえで1枠づつターゲット含有率や反応率(アクセスやコンバージョン)など効果ベースでコスト管理しないといけないのですが・・・。

 さて今年で5年目を迎えるSASにはコネクテッドTV枠との統合プランニング&バイイングで開花するでしょう。

 

当然⑥の最後に書いたことでもSASがコネクテッドTV枠を同じ土俵で買い付けるプランニングとバイイングが本格的にスタートする理由です。

ベム

「双六型」より「ビンゴ型」に現実味があるコミュニケーション設計

3 years 4ヶ月 ago

カスタマージャーニーなる概念については、私は少なからず疑問というか現実感に乏しいと以前から思っている。新製品であれば認知から始めて購買意志決定までステップを描いてみるのはアリだと思うが、多くの既に市場にある商品となると、希薄であっても、店頭やメディアから何らかのブランド情報には接触していることになる。改めて振り出しから順を追ってコミュニケーションを設計することが適切なのかを考えてみたいと思う。みんなとにかく一度振り出しに戻して再スタートし、全員同じステップを踏むコミュニケーションの設計がどうもしっくり来ないのだ。

 そもそもフローを描いて順を追ったコミュニケーションプランをつくっても、ほとんどの消費者に順番にコミュニケーションすることは無理である。デジタル広告なら一人の消費者に5回のフリークエンシーがあれば、1番から順番に5番までの広告素材を配信できる可能性もあるが、デジタルだけで成立させることも難しいし、必ず5回見てもらえる保証もない。またデバイスが錯綜するのでやはり順番にコミュニケーションを進化させていくのは指南の技である。

しかるに「順列」でもってコミュニケーションを成立させようとするより「組み合わせ」で発想した方がいいのではないかと思う。市場にはブランドに対する認識や印象をどのように持っている人がいるかを分析して何タイプかにを分け、それぞれにどんなコミュニケーションが足りていないかを設定していく。

 

 フローを描いていくモデルが「双六型」だとすれば、「組み合わせ」で思考するのは「ビンゴ型」と言える。つまり、双六はみんな同じステップを踏むが、ビンゴカードには何種類かあって、その中にはすでにいくつか穴が開いているカードもある。あとひとつ空けばビンゴの人もいれば、ふたつ開ける必要がある人もいる訳だ。

 ブランドのターゲットはどんなビンゴカードを何種類持っているのかという発想をするモデルが「ビンゴ型」となるだろう。

 おそらくある程度の認知があるブランドにおいて、「ビンゴ型」は機能するだろう。

ベム

クッキーレス時代を代替技術で考えるのは間違い

3 years 9ヶ月 ago

ベムがクッキーなる技術と向き合ったのは1996年、インフォシークの広告配信技術の説明を受けた時だ。クッキーみたいにポロポロと落ちて行った先まで追跡できるからという俗語と教わった。それから四半世紀以上、クッキーの権化だったグーグルもプライバシーにかかわるトレンドから、クッキーの代替技術を提唱している。いろんなカンファレンスでも「クッキーレス時代にどうする」というテーマで喧しい。

 しかし、本質は代替技術をどうするという話ではない。個人情報を扱う企業の振舞いが試されている。プライバシー対応に対する企業姿勢の問題で、経営者が宣言することであって、情シスなり法務が都度その時点のガイドラインに対応すればいいということではない。

 ベムはSDGsの18番目に個人情報に対する企業姿勢を加えてもいいのでは?と冗談で話すくらいだ。個人情報との向き合い方に関して、企業姿勢が問われるということを早く経営者に認識させた方がいい。

 またデータ保有はかえってリスクになる可能性は高い。DSR(データ・サブジェクト・リクエスト)という概念では、ネットユーザーは個人情報を保有する企業に、自分のデータを収集している企業に対して、消費者が①「私のどんなデータを集めているのは見せろ」②「収集した私のデータ消去してくれ」③「私のデータを使って私のプロフィールをどのように推量しているかを教えろ」などとデータ収集企業に要求することができる。その上、DNS(ドゥ・ノット・セルマイデータ)というリクエストも可能で、これは「収集した私のデータを第三者に売るな」は当然で、「グループ企業内で分析にも使うな」ということになる。よほど有益にデータを情報に変換して利益を生んでいないと、これらのコストに耐えられない可能性がある。


個人情報管理に厳しい欧州などから撤退するネット事業者は増えるかもしれない。

 


 いずれにせよ、現場の問題(クッキーの代替技術をどうする)ではなく、経営(企業姿勢)の問題である。いまだに目的もはっきりせずに保有している個人データを統合しようとかしているレベルでは危機的である。経営者がしっかりした認識をもたずに情報漏洩した時に現場に「何をやっているんだ」と叱るような従来のような状況では全く心許ない。

 

 クッキーがNGになるということ本質的にはどういうことかを経営会議でしっかり伝えることが必要である。

 越境データ移転に関しては別途投稿します。

ベム

「成功事例は参考になるか」

3 years 9ヶ月 ago

事業会社からDXの成功事例をよく聞かれる。またエージェンシーを含むマーケティング支援事業者からも、データを活用したマーケティング活動の成功事例は?などという質問がよく来る。もちろん成功事例は情報として価値がある。参考にもなる。ただ成功事例だけ欲しがる傾向には問題がある。

まず成功したという評価をするにはまだ早い事例が多い。またそれぞれの企業の個別の状況や課題がある中で、よその事例をそのまま参考にできるかは微妙である。そして、これが最大の理由だが、実は失敗例の中にこそ参考になる要素が多いということだ。だが特に失敗例は世の中に出て来ない。そうそう失敗を公表する企業もないし、大概本当は失敗なのに責任者の保身のために成功を装うことが多い。さらに失敗の原因をしっかり分析する会社もほとんどない。しかるに、自身で実際にやってみるしかないのだ。失敗事例に有効な情報があるのは、故野村克也監督の名言(「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」)のとおりである。失敗には原因がしっかりある。だからそれを潰していくことで成功の確率は上がる。成功事例には偶然の幸運があって、同じようにやっても見えない失敗要因を避けることができない。

 

 DXしかり、新しいことへのチャレンジによその事例を持ち出して議論するのはやめた方がいい。そもそもそういう企業文化そのものに革新性がない。とにかく「やってみる」これしかない。「よそはよそ、他人の事例は参考にならない」と割り切った方がいい。ただその経験値、得られた知見をしっかり共有すること、個人ではなく組織に経験値、知見を根付かせること。これが肝心だ。

 およそ30年前の名著「失敗の本質」を何度も読み返すことがあるが、この日本軍の組織論的研究には、日本企業の問題点を示唆する点が数多くある。破綻する組織の特徴として、

・トップからの指示があいまい

・大きな声は論理に勝る

・データの解析がおそろしくご都合主義

・「新しいか」より「前例があるか」

・大きなプロジェクトほど責任者がいなくなる

 が列挙されている。

 「前例があるか」はよその成功事例を求めるのと一緒だ。

 この本には、ノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテなどの作戦における失敗の本質を、章の頭に整理している。例えばガダルカナル作戦は、「失敗の原因は、情報の貧困と、戦力の逐次投入、日本の陸軍と海軍はバラバラの状態で戦い、米軍の水陸両用作戦に有効に対応できなかった」とある。

 ほとんど日本企業の組織的問題点をなぞっているかのようだ。

 おそらく大概の企業のDXはうまくいかない。ないし、DXの定義そのものを間違っている。それは、日本軍の失敗のそれとほぼ同じ体質を脱却できないからで、数ある失敗の本質のひとつとして「事例を探す」のかもしれない。情報収集として価値がある行為は、手に入らない失敗の原因も自ら実施することで得ることである。

ベム

2022年広告マーケティング業界予測 ver.2 その1:コネクテッドTVの定義と認識

3 years 9ヶ月 ago

宣伝会議さんに掲載していただいた同投稿ですが別バージョンをベムに載せようと思います。

7つの予測は、

・コネクテッドTVの定義と認識 ~放送枠とどう組み合わせるのか~

・メタバースでのブランド体験実験急進

・広告ビジネスへのAI本格利用元年に

・企業のデータ保有リスク顕在化

・SNS分析からインサイト発見とコミュニケーション設計するスタイル確立

・宣伝部のDX実践始まる

・エージェンシーのD2Cブランドスタートアップへの出資

 でした。

 コネクテッドTVに関しては、大型のTV画面にどんどんネット結線によるコンテンツ視聴が増えてくるのですが、やはり広告主が安心してCMを出せるコンテンツでのTV画面視聴を基本に考えるべきではないかと思います。

 ネットにはUGC(なんかもう古いワードに聞こえますね)からテレビ局制作よりはるかにクオリティの高いNetflixやAmazon Primeなどまで幅広いコンテンツが散在しています。別にYoutubeのものがみなクオリティが低いと言っている訳ではありません。専門家がしっかりした情報を配信していてテレビでは得られない良質なものもあります。しかしながら現在のテレビCMの広告主が玉成混交の動画コンテンツ群にCMを出すことには逡巡する向きもあると思います。

 今のところTVerが広告枠をもつオンラインのテレビ局制作コンテンツになります。今後同時配信に放送とは別の広告枠を設けることは必然でしょうから、今からTV画面でのオンラインCMについてこれをどう定義して、どう対応するかを議論しておいた方がいいでしょう。スマホで観る動画広告もTV画面で観るCMも同じとするか、またどんなコンテンツや番組にCMを出すことをよしとするかを判断しておくべきです。ベムは大画面で観るCMについてはスマホで観る、あるいはYoutubeコンテンツを観るという視聴機会とは少し区別して考えています。少々昔、テレビとネットを「リーンバック」と「リーンフォワード」とか言ってたと思いますが、視聴態度に応じたCMの打ち方は議論の余地があります。長年かけて培ってきたテレビのCMの挿入手法はそれなりに視聴者に許容されてきている訳で、スキップできるから突然でも構わないという挿入法はリーンバック状況にどうなのか・・・。放送からネット接続にも遷移していくテレビ番組視聴を従来の放送枠の維持拡大するCMインベントリーとして考えていきたいと考えるベムです。

ベム

ベム再開!

3 years 9ヶ月 ago

 2008年に始めた『業界人間ベム』は、2020年1月で閉じることにしたのですが、25か月経って再開することにしました。

 有難いことに「コンテンツはアーカイブしておいて欲しい」とのご要望もいただいて、今となってはそう価値のあるものはないのですが、どうせアーカイブするならとブログを引っ越して、新たなコンテンツも書くことにしました。

 『業界人間ベムReload』では引き続き、広告及びマーケティング支援産業を俯瞰して、そこに起こる変化の方向性から身に着けるべきスキルや人財、組織の在り方を探っていければと思います。

 先週宣伝会議さんに「2022年広告マーケティング業界予測」を掲載していただきましたが、ページ数も限りがあったので、これもロングバージョンを次回掲載します。

 

 再開した「業界人間ベムReload」よろしくお願いします。

ベム

ベム最後の投稿  2020年代広告業界7つの予測

5 years 10ヶ月 ago



①企業の姿勢が問われる個人情報扱い

~経営マターとしてのデータ取り扱いポリシーとファーストパーティデータの同意取り直し~

 前回のエントリーで書いたように、今年1月1日からCCPAの施行される。CCPA(カルフォルニア州消費者プライバシー法)は、Cookieや位置情報に代表される「許可なき追跡」に対して消費者に主に5つの権利を与えている。まず、消費者はデータを取得している事業者に「わたし」のどんな情報を持っていて、どこから集めたのかを聞ける権利を有する。そして、それを過去12か月分どんなデータかを知る権利がある。また、それらを確認したら「消去しておいてくれ」と命令できる権利がある。同時に「わたしのデータを他社に売ってはいけない」と命令できる。ついでにデータ消去を命令したからといって事業者が「わたし」へのサービスの質を低下させてはならない。

その上で、オプトイン(同意)のプロセスに関しても従来よりはるかに誠実な対応を求めている。
 
 この潮流は確実に日本にも来る。企業でデータに関わるすべての人に関わる重大な事態となるだろう。構築してきたDMPがほぼ使えないという状況も考えられる。
 また1stパーティデータを再構築、つまり同意の取り直しを行う必要もでてくるだろう。この際、保有している1stパーティデータがそもそも持っていても大丈夫なのか、保持していることが逆にリスクになるダークデータではないのか検証すべきだろう。その意味でも2020年はCMP(コンセント・マネージメント・プラットフォーム)が注目されるようになるだろう。

 企業のデータマネージメントにおける大きな変化は、広告業界にも(特にデジタル領域において)大きな影響を与えることとなる。サイト内ではクッキー取得を同意するかしないか問わなければならなくなると、クッキーを取得できないブラウザのPVカウントにも影響する。当然、リタゲや位置情報による広告配信は大打撃を受けることになるだろう。

 リスティングの費用対効果の頭打ちによって大きく市場を拡大したリタゲ広告ではあるが、今度はそれに代わって「指名検索」を得るためのコミュニケーション施策が幅広く追及されるだろう。


②テレビ広告の反転増加  

~オンライン&データによる枠選定で蘇るテレビCM少量投下需要とデジタル連動~

 リタゲに限らず、ターゲティング手法全般にプライバシー法の影響がおきる。そうなると、「指名検索」を促す広告をしてテレビCMが改めて注目されるだろう。ただそこには従来の番組やスポットのような買い付け手法ではなく、1本1本買い付けるASSのような買い付け手法に行くことになる可能性が高い。
 ベムは従来から「テレビで認知させてネットで刈り取る」というよりは、「デジタルで素地をつくってテレビで刈り取れ」と主張している。テレビはやはりスラッガーなので、1番バッターを打たせるより、デジタルで1~3番を出塁させておいてテレビにホームランを打たせて4点とるほうが良い。
 また、ASSのような買い付け方はデータを基にターゲット含有や視聴質を吟味して1本1本を選定する。これは従来のスポット広告の空爆型投下というより、デジタルとの連動を最初から織り込んだ「ミドルファネル施策」としてのテレビ広告というポジションが確立できる。
 当然デジタルの知見とミドルファネル用のクリエイティブを開発できるエージェンシーにチャンスがあり、この領域を制するエージェンシーが2020年代に大きな成長をすることだろう。


③テレビとデジタルの境目の消失


  現状、日本ではネットフリックスを見るデバイスは大型テレビ受像機が37%程度、スマホ、タブレットが60%近くとなっているが、アメリカではこれが大型テレビディスプレイが7割近い。オリンピックも契機をなって、4K・8K普及と同時にテレビの結線率も大きく伸長するはずで、オンラインでテレビ番組や映画を見る機会はリビングの大型ディスプレイが主流になるだろう。いわゆるリーンバック型の視聴態度の比率が高まる。またオンラインでのリニア配信を大型テレビ画面で視聴する機会が増加することになる。
 オンラインでもリニア放送型の視聴され、そこに挿入型CMチャンスも増える。そうなると、テレビCMとデジタルCMの境目は放送かオンラインかではあるものの、同じCM枠に放送と結線テレビにはアドレッサブルCMと差し分けられるようになるので、これらをテレビ広告かデジタル広告かを区分することはナンセンスかもしれない。
 まあ、ずいぶん前からテレビ受像機もデジタルデバイスではある。

 さて、リビングでは大型テレビディスプレイが結線され、放送でも配信でも視聴され、個室ではテレビではなくスマホやタブレットでテレビ放送の同時配信やオンデマンド配信を個々に視聴される。こうした形態が定着するだろう。そうなるとリビングで家族で視聴されるコンテンツやCMには、個別視聴とは別の価値が出てくる。
 リビングで複数の家族の構成員で視聴する「コ・ビューイング」は、テレビの個人単独視聴より、画面への注視率が高くなる。2人よりも3人の方がより注視率は高い。つまりより大勢で視聴すればするほど画面へよりコミットするので、こうした視聴形態に価値があるということだ。昔の「お茶の間」視聴はまさに画面にみんな見入っていた訳で、現代にこうした状況を再現できるか番組の質にかかっている。
 ベムが持っているデータでも番組によってこのコ・ビューイング率に大きな違いがある。世帯視聴率はさほどではないが個人全体視聴率が高い番組はいい番組(いい視聴質の番組)となる。

 「個の時代」への対応は限界点を迎える。十人十色は一人十色にも百色にもなり、ただ人を特定するだけではモードになる(触発する)タイミングに合わせることも難しくなった。家族なり、誰かと一緒に見るオケージョンにフォーカスした方がよさそうだ。

 また、ベムの会社(デジタルインテリジェンス)での調査データでは、高齢層はCM接触頻度(フリークエンシー)が高くても認知率が上がらず、若年層では少ないフリークエンシーでも一定以上の認知が取れている。これはもうフリークエンシーの理論は崩壊しており、ターゲットリーチのコントロールとクリエイティブのパフォーマンスを上げることがより求められるだろう。従来なかった視聴データが、到達実態や視聴実態を詳らかにする。データによる効果検証(クリエイティブを含む)と改善は2020年代大きく進むだろう。


④日本版DNVBの台頭  NPO的小さなブランド支援と深いデータ

Digitally Native Vertical Brand については、https://gyoukai-test.amebaownd.com/posts/18704537と、https://gyoukai-test.amebaownd.com/posts/18704538 を読んで欲しい。ウォルマートが数年前から矢継ぎ早に買収してきたり、ジレットのシェアは奪い、ユニリーバが買収したり、P&GもDNVB買収に積極的になっていた。
このマーケティングモデルに関してベムは、これの日本型はどういうものになるのかと考えてきたが、①で書いた潮流によって、やはりプラットフォーマーの強さが改めて確認されることで、巨大プラットフォーマーとは全く違う消費者との繋がりをつくることが試行される中で、日本版DNVBが登場して来るかもしれない。

 そして、そこには日本的な事情が大いに影響するものになるだろう。
 日本の人口動態は極めて急激な人口減少に見舞われている。2019年の出生数が89万という現実は驚愕せざるを得ない。270万人いた団塊の世代の3分の1以下である。
こうした現象は少子高齢化での年金問題もさることながら、日本にある「いいものづくり」や「いいサービス」の継承者がいないことで消えていってしまっていることに改めて気づく。ベムは新しい価値の提案とともに、改めて「無くなりそうないいものやいいサービス」の生き残りをデジタル空間で支援するモデルの確立が待たれるところだと思う。
 
 クラウドファウンディングや本来のふるさと納税の思想は、日本版VBの支援することにブランドとの濃い繋がりを持つことに価値を感じる消費者によって、プラットフォーマーにはない関係づくりを目指すだろう。
 まずは消費者が「価値」を感じるブランドとの関わりがあることで、濃い個人データがトレードオフしてもらえる。そこには消費者がブランドから受ける「価値」だけではなく、消費者がブランドに与える「支援」が消費者にとっての「価値」となるモデルがどんどん現れると思う。
 
 DNVBに関しては米国IABが特集レポートをつくったくらいで、広告を核としたマーケティング産業に携わる者にとっても、無関心ではいられない注目のマーケティングモデルである。
 つまり、CCPAの影響によるターゲット広告などの減衰に代わる施策は、広告ではなく、新しいこうしたマーケティングモデル支援であったり、自社ビジネスとしてのブランド構築であったりするだろう。
 誠実なデータ取得同意は突き詰めると、消費者からの積極的なデータトレードオフにある。
 データをどう取得するかから思考するのではなく、どんな価値のあるカスターエクスペリエンスを創造するかから考える者が、2020年代のデータを制するだろう。

⑤DX推進が進む企業、落ちこぼれる企業


  企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の核となるのは「教育」である。
 デジタルかつビジネスクリエイティブ発想ができる「カルチャー」と「スキル」を獲得することである。そのためには、まずはビジネスのプロセスにおけるデジタル化とは何かを発想し合い、試行するマインドセットを植え付けることだ。CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の役割はこうした「教育」と「スキル開発」である。

 CDOというのはCOO、CFOクラスの強い権限が必要である。場合によってはCEOが兼任するか(CEOにデジタル知見が十分にあれば)、強い権限をCDOに与えなければならない。デジタル化は企業のバリューチェーンのすべてで行なわれなければならない。部門横断で推進するからには、各部門より強い権限が要る。
 そして、そのためにもまずはCEOのデジタル化への認識が最も重要である。昨年11月に「マーケティングのデジタル化5つの本質」という本を上梓した。是非経営層に読んで欲しい。

 DX推進に関しては、成功する企業には下記の3つのタイプが出てくるだろう。

・個人情報ではないデータで成功する企業、
・「紙芝居モデル」で成功する企業、
・泥臭いアナログ施策(のプロセスをデジタル化して)で勝機を得る企業

  *紙芝居モデルとは、紙芝居そのものは無償だが、駄菓子や水飴で商売するようにメディア利用やコンテンツで関係を築き、別のビジネスで回収するモデル


⑥デジタルメディアでの「動機づけ」のコミュニケーション機会拡大

ネット世界では関心が顕在化することで、情報接触の機会が格段に増える。しかしながら欲しい情報が明確でない、または漠然と情報空間を散策している場合は、いわゆる「動機づけ」してくれることは稀かもしれない。
 書店を覗くのが好きだという人は、意識していない関心事に出会うことを求めているのだろう。
 従来のリコメンドは基本協調フィルタリングで、関心事を示すことで「他の人はこれも観てますよ」というリコメンドでしかないので、「無意識の関心事」に出会うことはままならない。これまでネット空間はリアル空間のメタファーにことごとく失敗している(セカンドライフしかりである)。
 リアル空間に模すことの最大の利点は書店のような「意識していない関心事との出会い」だろう。

予期しない出会い、あるいはテーマを動機づけるという、その昔特に雑誌が果たしてきた役割を、デジタル環境が果たすことができる時代になるかもしれない。
手段としてのAIやVRに注目するというより、「動機づけ」のコンテンツに対するマーケティング的「価値」に注目されるだろう。

          
⑦電博CA 三大広告会社体制確立とマーケティング支援サービスの構造変化
     
  2019年はネット広告専業代理店の伸長が止まった年として、後に記録されるだろう。
 そして2020年はテレビを中心としたマス広告、CPAを追求してきたネット広告という2分化した(発注者もエージェンシーも二つに分かれた)状況が終わり、マスをデジタルが吸収し始める年となるだろう。③に書いたようにテレビとデジタルの融合というか、境目がなくなり、分けて考えることがナンセンスになる。
 そもそもテレビもデジタルデバイスだし、新聞、雑誌、チラシ、OOH、ダイレクトメールなどもそのプロセスのデジタル化が進み、デジタル施策との連動は当然のこととなるだろう。
  デジタル施策を中核にしてマスやリアル施策を展開するようになり、立体的なコミュニケーションプランニングと実行ができるエージェンシーが主役となる。

  こうした中でエージェンシーも、コアスキルの再設定を余儀なくされるのは言うまでもない。
  
  2014年にベムが書いた「広告ビジネス次の10年」には、ネット専業の業界シェアは2020年前後に縮小すると書いた。しかし当時はここまでネット広告におけるプラットフォーマーによる寡占化が進むとまでは考えていなかった。今後もYahoo、Google、FB、LINE、Twitter、Amazonの広告枠が市場のほとんどを占める状況は当面はあまり変わらないだろうが、広告以外のマーケティング施策に大きな市場が形成されるだろう。

 エージェンシーはDNVB支援やブランド事業者への資本業務提携などによって、スキルを持つ人財の囲い込みに走るだろう。こうしたことに対応できる経営のスピードと社員のセンスが決め手になるように思う。
 
 基本、電通グループ、博報堂グループ、CAグループの3大エージェンシー体制は2020年代も続くだろうが、新たなブランド開発に事業者としても参入できるスピリットとセンスにおいてサイバーエージェントに勝機が出てくるかもしれない。
 エージェンシーはフロント(従来営業と呼んでいる)のスキル改革と、企業のインハウスへの人材供給でどこまで収益性が確保できるかが課題となるだろう。
 日本ではまだまだ広告主側にマーケティングスキルやメソッドが乏しい。
 
 ビジネスに成果が出ないとエージェンシー機能も評価されない時代は、事業者側のマーケタースキルとエージェンシー側のプランニング&オペレーションスキルがオーバーラップしていく必要がある。
 ブランド側であり、エージェンシーでもあることが新たなマーケティング支援集団になる可能性がある。

 
 さて、「業界人間ベム」は2008年にスタートして丸12年経ちましたが、今回の投稿をもってこのブログを閉じようと思います。長い間、皆さんありがとうございました。


ベム

ベム最後の投稿  2020年代広告業界7つの予測

5 years 10ヶ月 ago

① 企業の姿勢が問われる個人情報扱い

~経営マターとしてのデータ取り扱いポリシーとファーストパーティデータの同意取り直し~

 前回のエントリーで書いたように、今年1月1日からCCPAの施行される。CCPA(カルフォルニア州消費者プライバシー法)は、Cookieや位置情報に代表される「許可なき追跡」に対して消費者に主に5つの権利を与えている。まず、消費者はデータを取得している事業者に「わたし」のどんな情報を持っていて、どこから集めたのかを聞ける権利を有する。そして、それを過去12か月分どんなデータかを知る権利がある。また、それらを確認したら「消去しておいてくれ」と命令できる権利がある。同時に「わたしのデータを他社に売ってはいけない」と命令できる。ついでにデータ消去を命令したからといって事業者が「わたし」へのサービスの質を低下させてはならない。

その上で、オプトイン(同意)のプロセスに関しても従来よりはるかに誠実な対応を求めている。
 
 この潮流は確実に日本にも来る。企業でデータに関わるすべての人に関わる重大な事態となるだろう。構築してきたDMPがほぼ使えないという状況も考えられる。
 また1stパーティデータを再構築、つまり同意の取り直しを行う必要もでてくるだろう。この際、保有している1stパーティデータがそもそも持っていても大丈夫なのか、保持していることが逆にリスクになるダークデータではないのか検証すべきだろう。その意味でも2020年はCMP(コンセント・マネージメント・プラットフォーム)が注目されるようになるだろう。

 企業のデータマネージメントにおける大きな変化は、広告業界にも(特にデジタル領域において)大きな影響を与えることとなる。サイト内ではクッキー取得を同意するかしないか問わなければならなくなると、クッキーを取得できないブラウザのPVカウントにも影響する。当然、リタゲや位置情報による広告配信は大打撃を受けることになるだろう。

 リスティングの費用対効果の頭打ちによって大きく市場を拡大したリタゲ広告ではあるが、今度はそれに代わって「指名検索」を得るためのコミュニケーション施策が幅広く追及されるだろう。


② テレビ広告の反転増加  

~オンライン&データによる枠選定で蘇るテレビCM少量投下需要とデジタル連動~

 リタゲに限らず、ターゲティング手法全般にプライバシー法の影響がおきる。そうなると、「指名検索」を促す広告をしてテレビCMが改めて注目されるだろう。ただそこには従来の番組やスポットのような買い付け手法ではなく、1本1本買い付けるASSのような買い付け手法に行くことになる可能性が高い。
 ベムは従来から「テレビで認知させてネットで刈り取る」というよりは、「デジタルで素地をつくってテレビで刈り取れ」と主張している。テレビはやはりスラッガーなので、1番バッターを打たせるより、デジタルで1~3番を出塁させておいてテレビにホームランを打たせて4点とるほうが良い。
 また、ASSのような買い付け方はデータを基にターゲット含有や視聴質を吟味して1本1本を選定する。これは従来のスポット広告の空爆型投下というより、デジタルとの連動を最初から織り込んだ「ミドルファネル施策」としてのテレビ広告というポジションが確立できる。
 当然デジタルの知見とミドルファネル用のクリエイティブを開発できるエージェンシーにチャンスがあり、この領域を制するエージェンシーが2020年代に大きな成長をすることだろう。


③ テレビとデジタルの境目の消失


  現状、日本ではネットフリックスを見るデバイスは大型テレビ受像機が37%程度、スマホ、タブレットが60%近くとなっているが、アメリカではこれが大型テレビディスプレイが7割近い。オリンピックも契機をなって、4K・8K普及と同時にテレビの結線率も大きく伸長するはずで、オンラインでテレビ番組や映画を見る機会はリビングの大型ディスプレイが主流になるだろう。いわゆるリーンバック型の視聴態度の比率が高まる。またオンラインでのリニア配信を大型テレビ画面で視聴する機会が増加することになる。
 オンラインでもリニア放送型の視聴され、そこに挿入型CMチャンスも増える。そうなると、テレビCMとデジタルCMの境目は放送かオンラインかではあるものの、同じCM枠に放送と結線テレビにはアドレッサブルCMと差し分けられるようになるので、これらをテレビ広告かデジタル広告かを区分することはナンセンスかもしれない。
 まあ、ずいぶん前からテレビ受像機もデジタルデバイスではある。

 さて、リビングでは大型テレビディスプレイが結線され、放送でも配信でも視聴され、個室ではテレビではなくスマホやタブレットでテレビ放送の同時配信やオンデマンド配信を個々に視聴される。こうした形態が定着するだろう。そうなるとリビングで家族で視聴されるコンテンツやCMには、個別視聴とは別の価値が出てくる。
 リビングで複数の家族の構成員で視聴する「コ・ビューイング」は、テレビの個人単独視聴より、画面への注視率が高くなる。2人よりも3人の方がより注視率は高い。つまりより大勢で視聴すればするほど画面へよりコミットするので、こうした視聴形態に価値があるということだ。昔の「お茶の間」視聴はまさに画面にみんな見入っていた訳で、現代にこうした状況を再現できるか番組の質にかかっている。
 ベムが持っているデータでも番組によってこのコ・ビューイング率に大きな違いがある。世帯視聴率はさほどではないが個人全体視聴率が高い番組はいい番組(いい視聴質の番組)となる。

 「個の時代」への対応は限界点を迎える。十人十色は一人十色にも百色にもなり、ただ人を特定するだけではモードになる(触発する)タイミングに合わせることも難しくなった。家族なり、誰かと一緒に見るオケージョンにフォーカスした方がよさそうだ。

 また、ベムの会社(デジタルインテリジェンス)での調査データでは、高齢層はCM接触頻度(フリークエンシー)が高くても認知率が上がらず、若年層では少ないフリークエンシーでも一定以上の認知が取れている。これはもうフリークエンシーの理論は崩壊しており、ターゲットリーチのコントロールとクリエイティブのパフォーマンスを上げることがより求められるだろう。従来なかった視聴データが、到達実態や視聴実態を詳らかにする。データによる効果検証(クリエイティブを含む)と改善は2020年代大きく進むだろう。


④ 日本版DNVBの台頭  NPO的小さなブランド支援と深いデータ

Digitally Native Vertical Brand については、http://g-yokai.com/2018/03/dnvb-1.php
と、http://g-yokai.com/2018/03/dinydnvbiab.php を読んで欲しい。ウォルマートが数年前から矢継ぎ早に買収してきたり、ジレットのシェアは奪い、ユニリーバが買収したり、P&GもDNVB買収に積極的になっていた。
このマーケティングモデルに関してベムは、これの日本型はどういうものになるのかと考えてきたが、①で書いた潮流によって、やはりプラットフォーマーの強さが改めて確認されることで、巨大プラットフォーマーとは全く違う消費者との繋がりをつくることが試行される中で、日本版DNVBが登場して来るかもしれない。

 そして、そこには日本的な事情が大いに影響するものになるだろう。
 日本の人口動態は極めて急激な人口減少に見舞われている。2019年の出生数が89万という現実は驚愕せざるを得ない。270万人いた団塊の世代の3分の1以下である。
こうした現象は少子高齢化での年金問題もさることながら、日本にある「いいものづくり」や「いいサービス」の継承者がいないことで消えていってしまっていることに改めて気づく。ベムは新しい価値の提案とともに、改めて「無くなりそうないいものやいいサービス」の生き残りをデジタル空間で支援するモデルの確立が待たれるところだと思う。
 
 クラウドファウンディングや本来のふるさと納税の思想は、日本版VBの支援することにブランドとの濃い繋がりを持つことに価値を感じる消費者によって、プラットフォーマーにはない関係づくりを目指すだろう。
 まずは消費者が「価値」を感じるブランドとの関わりがあることで、濃い個人データがトレードオフしてもらえる。そこには消費者がブランドから受ける「価値」だけではなく、消費者がブランドに与える「支援」が消費者にとっての「価値」となるモデルがどんどん現れると思う。
 
 DNVBに関しては米国IABが特集レポートをつくったくらいで、広告を核としたマーケティング産業に携わる者にとっても、無関心ではいられない注目のマーケティングモデルである。
 つまり、CCPAの影響によるターゲット広告などの減衰に代わる施策は、広告ではなく、新しいこうしたマーケティングモデル支援であったり、自社ビジネスとしてのブランド構築であったりするだろう。
 誠実なデータ取得同意は突き詰めると、消費者からの積極的なデータトレードオフにある。
 データをどう取得するかから思考するのではなく、どんな価値のあるカスターエクスペリエンスを創造するかから考える者が、2020年代のデータを制するだろう。

⑤ DX推進が進む企業、落ちこぼれる企業


  企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の核となるのは「教育」である。
 デジタルかつビジネスクリエイティブ発想ができる「カルチャー」と「スキル」を獲得することである。そのためには、まずはビジネスのプロセスにおけるデジタル化とは何かを発想し合い、試行するマインドセットを植え付けることだ。CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)の役割はこうした「教育」と「スキル開発」である。

 CDOというのはCOO、CFOクラスの強い権限が必要である。場合によってはCEOが兼任するか(CEOにデジタル知見が十分にあれば)、強い権限をCDOに与えなければならない。デジタル化は企業のバリューチェーンのすべてで行なわれなければならない。部門横断で推進するからには、各部門より強い権限が要る。
 そして、そのためにもまずはCEOのデジタル化への認識が最も重要である。昨年11月に「マーケティングのデジタル化5つの本質」という本を上梓した。是非経営層に読んで欲しい。

 DX推進に関しては、成功する企業には下記の3つのタイプが出てくるだろう。

・個人情報ではないデータで成功する企業、
・「紙芝居モデル」で成功する企業、
・泥臭いアナログ施策(のプロセスをデジタル化して)で勝機を得る企業

  *紙芝居モデルとは、紙芝居そのものは無償だが、駄菓子や水飴で商売するようにメディア利用やコンテンツで関係を築き、別のビジネスで回収するモデル


⑥ デジタルメディアでの「動機づけ」のコミュニケーション機会拡大

ネット世界では関心が顕在化することで、情報接触の機会が各段に増える。しかしながら欲しい情報が明確でない、または漠然と情報空間を散策している場合は、いわゆる「動機づけ」してくれることは稀かもしれない。
 書店を覗くのが好きだという人は、意識していない関心事に出会うことを求めているのだろう。
 従来のリコメンドは基本協調フィルタリングで、関心事を示すことで「他の人はこれも観てますよ」というリコメンドでしかないので、「無意識の関心事」に出会うことはままならない。これまでネット空間はリアル空間のメタファーにことごとく失敗している(セカンドライフしかりである)。
 リアル空間に模すことの最大の利点は書店のような「意識していない関心事との出会い」だろう。

予期しない出会い、あるいはテーマを動機づけるという、その昔特に雑誌が果たしてきた役割を、デジタル環境が果たすことができる時代になるかもしれない。
手段としてのAIやVRに注目するというより、「動機づけ」のコンテンツに対するマーケティング的「価値」に注目されるだろう。

          
⑦ 電博CA 三大広告会社体制確立とマーケティング支援サービスの構造変化
     
  2019年はネット広告専業代理店の伸長が止まった年として、後に記録されるだろう。
 そして2020年はテレビを中心としたマス広告、CPAを追求してきたネット広告という2分化した(発注者もエージェンシーも二つに分かれた)状況が終わり、マスをデジタルが吸収し始める年となるだろう。③に書いたようにテレビとデジタルの融合というか、境目がなくなり、分けて考えることがナンセンスになる。
 そもそもテレビもデジタルデバイスだし、新聞、雑誌、チラシ、OOH、ダイレクトメールなどもそのプロセスのデジタル化が進み、デジタル施策との連動は当然のこととなるだろう。
  デジタル施策を中核にしてマスやリアル施策を展開するようになり、立体的なコミュニケーションプランニングと実行ができるエージェンシーが主役となる。

  こうした中でエージェンシーも、コアスキルの再設定を余儀なくされるのは言うまでもない。
  
  2014年にベムが書いた「広告ビジネス次の10年」には、ネット専業の業界シェアは2020年前後に縮小すると書いた。しかし当時はここまでネット広告におけるプラットフォーマーによる寡占化が進むとまでは考えていなかった。今後もYahoo、Google、FB、LINE、Twitter、Amazonの広告枠が市場のほとんどを占める状況は当面はあまり変わらないだろうが、広告以外のマーケティング施策に大きな市場が形成されるだろう。

 エージェンシーはDNVB支援やブランド事業者への資本業務提携などによって、スキルを持つ人財の囲い込みに走るだろう。こうしたことに対応できる経営のスピードと社員のセンスが決め手になるように思う。
 
 基本、電通グループ、博報堂グループ、CAグループの3大エージェンシー体制は2020年代も続くだろうが、新たなブランド開発に事業者としても参入できるスピリットとセンスにおいてサイバーエージェントに勝機が出てくるかもしれない。
 エージェンシーはフロント(従来営業と呼んでいる)のスキル改革と、企業のインハウスへの人材供給でどこまで収益性が確保できるかが課題となるだろう。
 日本ではまだまだ広告主側にマーケティングスキルやメソッドが乏しい。
 
 ビジネスに成果が出ないとエージェンシー機能も評価されない時代は、事業者側のマーケタースキルとエージェンシー側のプランニング&オペレーションスキルがオーバーラップしていく必要がある。
 ブランド側であり、エージェンシーでもあることが新たなマーケティング支援集団になる可能性がある。

 
 さて、「業界人間ベム」は2008年にスタートして丸12年経ちましたが、今回の投稿をもってこのブログを閉じようと思います。長い間、皆さんありがとうございました。

『ネット広告2020年問題』

5 years 11ヶ月 ago



 2020年1月1日からCCPA(カルフォルニア州消費者プライバシー法)が施行される。
日本の企業はGDPRでヨーロッパは個人情報扱いに厳しめで、アメリカは今まで結構野放図だから、その中庸で構えていればいいのではかと考えていたのではないだろうか。ところがいきなりカリフォルニア州の州法である意味GDPRよりも厳しいプライバシー保護法が出来てきた。許諾の取り方も流れで無理やり同意させるような手法は基本アウト、「許可なき覗き見(追跡)」を排除するために消費者にいくつかの権利を付与している。

日本で言えばタクシー広告でカメラによって男女などを見分けて広告素材を差し替えるなどの手法は、データはサーバーに送られていないとか、記録されないとかいう問題ではなく(そういうエクスキューズが書かれているが)カメラで乗車客を見定める行為そのものが「気持ち悪い」と感じられるのであればアウトの可能性大。

 カルフォルニアにつづいて各州(ニューヨーク州も)でも同様な法案が出てきていて、いずれもCCPAよりもずっと厳しい内容だ。あわててアメリカの商工会議所のような団体が、今のCCPAベースで連邦法を作ってくれと嘆願する署名まで出した。

 CCPA施行から日本にも来る大きな潮流として踏まえておきたいのは、これがリーガルの側面というよりも企業の「姿勢」や「振る舞い」の問題であることだ。「そもそも気持ちが悪いと思われるようなことはしない」「同意をとる行為も誠実に行う」・・・、個人情報の取り扱いに対する姿勢は、企業として環境・社会・経済のサステナビリティへの取り組みと同じレベルで問われるだろう。
 これは本質的に経営マターであり、現場や法務が法律やガイドラインにどう対応するかという次元の問題ではない。

 そしてこの潮流は2020年日本のネット広告業界を直撃するだろう。

公正取引委員会もクッキーや位置情報を使うことに関して問題を提起している。公取がこの問題に入ってきたということは、法的に個人情報保護法だけだったところに独占禁止法も加わったということだ。これは当然巨大プラットフォーマーをターゲットに公取がクッキーや位置情報使用に制限をかけようとしているのだが、結局IDと消費者にとって必要で欠かすことのできない、習慣(癖)になってしまっているサービスで囲い込んでいるプラットフォーマーはびくともせず、サードパーティの広告事業者やクッキーを使ってリターゲティング広告をしている普通の広告主がダメージを受けたり、制限をかけられる結果になるだろう。
 ツイッターも先日、一部ターゲティング広告を配信しない方針を打ち出している。ネット広告でクッキーを使ったターゲティング広告、スマホの位置情報を使ったターゲティング広告などは相当厳しくなる可能性がある。

 こうしたネット広告需要はかなりテレビ広告に返るようになるだろう。
しかし、ターゲティング広告需要なので、ほとんどターゲティングできない従来のスポット広告に戻るのではなく、ASSのようなデータで枠選定ができる買い付け手法に返っていくはずである。

 また、これらの市場は広告以外に転じる可能性が大きい。

 そもそも新たなマーケティングモデルに移行する流れも出来ると思う。DNVBのような対象が少なくてもブランドへの深い関与と信頼で、むしろ消費者側から濃いデータもトレードオフしてくれる「価値」の提供を前提とするサービスが試行されるだろう。

 単にクッキーや位置情報を使ったターゲティング広告がやりにくくなるという次元の問題ではなく、巨大プラットフォーマーとは違う消費者との繋がり方を考える時代となった。

 大したデータでもないのに「データを所有しているから、なにかマネタイズできないか」というような議論から早く脱却して本質論に向き合うべきである。
 
 企業にとって価値あるものはデータではなく顧客である。カスタマーエクスペリエンスの最適化のために、「顧客にとってより価値のあるサービスとは?」を考えるべきで、データはその手段に過ぎない。「データの活用」は目的ではない。




ベム

『ネット広告2020年問題』

5 years 11ヶ月 ago

 2020年1月1日からCCPA(カルフォルニア州消費者プライバシー法)が施行される。
日本の企業はGDPRでヨーロッパは個人情報扱いに厳しめで、アメリカは今まで結構野放図だから、その中庸で構えていればいいのではかと考えていたのではないだろうか。ところがいきなりカリフォルニア州の州法である意味GDPRよりも厳しいプライバシー保護法が出来てきた。許諾の取り方も流れで無理やり同意させるような手法は基本アウト、「許可なき覗き見(追跡)」を排除するために消費者にいくつかの権利を付与している。

日本で言えばタクシー広告でカメラによって男女などを見分けて広告素材を差し替えるなどの手法は、データはサーバーに送られていないとか、記録されないとかいう問題ではなく(そういうエクスキューズが書かれているが)カメラで乗車客を見定める行為そのものが「気持ち悪い」と感じられるのであればアウトの可能性大。

 カルフォルニアにつづいて各州(ニューヨーク州も)でも同様な法案が出てきていて、いずれもCCPAよりもずっと厳しい内容だ。あわててアメリカの商工会議所のような団体が、今のCCPAベースで連邦法を作ってくれと嘆願する署名まで出した。

 CCPA施行から日本にも来る大きな潮流として踏まえておきたいのは、これがリーガルの側面というよりも企業の「姿勢」や「振る舞い」の問題であることだ。「そもそも気持ちが悪いと思われるようなことはしない」「同意をとる行為も誠実に行う」・・・、個人情報の取り扱いに対する姿勢は、企業として環境・社会・経済のサステナビリティへの取り組みと同じレベルで問われるだろう。
 これは本質的に経営マターであり、現場や法務が法律やガイドラインにどう対応するかという次元の問題ではない。

 そしてこの潮流は2020年日本のネット広告業界を直撃するだろう。

公正取引委員会もクッキーや位置情報を使うことに関して問題を提起している。公取がこの問題に入ってきたということは、法的に個人情報保護法だけだったところに独占禁止法も加わったということだ。これは当然巨大プラットフォーマーをターゲットに公取がクッキーや位置情報使用に制限をかけようとしているのだが、結局IDと消費者にとって必要で欠かすことのできない、習慣(癖)になってしまっているサービスで囲い込んでいるプラットフォーマーはびくともせず、サードパーティの広告事業者やクッキーを使ってリターゲティング広告をしている普通の広告主がダメージを受けたり、制限をかけられる結果になるだろう。
 ツイッターも先日、一部ターゲティング広告を配信しない方針を打ち出している。ネット広告でクッキーを使ったターゲティング広告、スマホの位置情報を使ったターゲティング広告などは相当厳しくなる可能性がある。

 こうしたネット広告需要はかなりテレビ広告に返るようになるだろう。
しかし、ターゲティング広告需要なので、ほとんどターゲティングできない従来のスポット広告に戻るのではなく、ASSのようなデータで枠選定ができる買い付け手法に返っていくはずである。

 また、これらの市場は広告以外に転じる可能性が大きい。

 そもそも新たなマーケティングモデルに移行する流れも出来ると思う。DNVBのような対象が少なくてもブランドへの深い関与と信頼で、むしろ消費者側から濃いデータもトレードオフしてくれる「価値」の提供を前提とするサービスが試行されるだろう。

 単にクッキーや位置情報を使ったターゲティング広告がやりにくくなるという次元の問題ではなく、巨大プラットフォーマーとは違う消費者との繋がり方を考える時代となった。

 大したデータでもないのに「データを所有しているから、なにかマネタイズできないか」というような議論から早く脱却して本質論に向き合うべきである。
 
 企業にとって価値あるものはデータではなく顧客である。カスタマーエクスペリエンスの最適化のために、「顧客にとってより価値のあるサービスとは?」を考えるべきで、データはその手段に過ぎない。「データの活用」は目的ではない。


除外(exclusion)のターゲティングのすすめ

6 years 7ヶ月 ago



 ベムは学生のころからバンドを組んでいたが、今でも高校時代、大学時代のバンド仲間とは親友として付き合っている。社会人でのバンドは実に30年を超えて続いている。
長く続く秘訣は、各自がやりたい曲を主張しないということだが、それが成立しているのはバンドメンバーに「好きじゃないもの」が共通しているからだ。「好きなものはそれぞれだが、好きじゃない音楽は一緒」という不思議な共通性が長く続いた要因である。

 また、ベムが会社をつくるときしっかり定義(意識)したのは、やることを決めるというより、やらないことを決めることだ。やらないことを決めることの方が、やることを決めることより、有り様を決定づけることがある。
 
 さて、なんでこんな話をしたかというと、「好きじゃないことが共通」とか「やらないことを決める」とかと一緒で、ターゲティングの考え方に、「対象としない相手を決める」という除外(Exclusion)のターゲティング発想があり、これが結構重要な考え方になるということだ。

 ネット専業系がCPAに準拠した効率論での絞り込みに奔走してきた。一方で、ブランディング目的でしかもデジタルターゲティング活用するという領域が大きくなってきている。デジタルだから細かくターゲティングできるのだが、コンバージョンコストの効率を高めるための絞り込み発想を、ここに応用するのは間違い。
 
 そもそもデジタル広告は広告を配信していると同時に調査しているようなもので、ベムが昔から言っている「反応した人がターゲット」という考え方を実現する広告手法である。よくマーケティング領域のデータ活用を想定するときに、1stパーティ、2ndパーティ、3rdパーティデータともに、もうひとつ「広告配信結果データ」の活用が意外にされていないことに気づく。
 やたらとセグメントをかけてしまい、外したのか、外してないのか分からないのでは、デジタル配信している意味がない。
 見込み客を発見する魚群探知機である「デジタル広告配信」の機能を発揮させるためにも、まずはオールターゲットもあるかもしれないが、今時無駄打ちをお薦めするわけにもいかない。そのためにも、当てない対象を定義することは重要である。

 また、ネット専業系であれば「コンバージョンからの逆引き(拡張)発想」はあるかもしれないが、「買った人」からの拡張だけではだめで、買わなかった人に(なぜ買わなかったを突き止めて)メッセージする発想が必要だ。買った人だけをデータソースに拡張すると現状追認型でしかなく、新たな顧客獲得や、新たな顧客層を創造することはできない。
 いわゆるスモールマスを発見するにも、その各々のインサイト発見にもデジタルは機能するだろうが、そのためにもまだ見えていない対象者にも何かしらの情報を当てて、その反応をトラックすることが必要だろう。

 そのあたりが「除外のターゲティング」(対象としない人を定義する)ことをおススメする理由だ。


ベム

除外(exclusion)のターゲティングのすすめ

6 years 7ヶ月 ago

 ベムは学生のころからバンドを組んでいたが、今でも高校時代、大学時代のバンド仲間とは親友として付き合っている。社会人でのバンドは実に30年を超えて続いている。
長く続く秘訣は、各自がやりたい曲を主張しないということだが、それが成立しているのはバンドメンバーに「好きじゃないもの」が共通しているからだ。「好きなものはそれぞれだが、好きじゃない音楽は一緒」という不思議な共通性が長く続いた要因である。

 また、ベムが会社をつくるときしっかり定義(意識)したのは、やることを決めるというより、やらないことを決めることだ。やらないことを決めることの方が、やることを決めることより、有り様を決定づけることがある。
 
 さて、なんでこんな話をしたかというと、「好きじゃないことが共通」とか「やらないことを決める」とかと一緒で、ターゲティングの考え方に、「対象としない相手を決める」という除外(Exclusion)のターゲティング発想があり、これが結構重要な考え方になるということだ。

 ネット専業系がCPAに準拠した効率論での絞り込みに奔走してきた。一方で、ブランディング目的でしかもデジタルターゲティング活用するという領域が大きくなってきている。デジタルだから細かくターゲティングできるのだが、コンバージョンコストの効率を高めるための絞り込み発想を、ここに応用するのは間違い。
 
 そもそもデジタル広告は広告を配信していると同時に調査しているようなもので、ベムが昔から言っている「反応した人がターゲット」という考え方を実現する広告手法である。よくマーケティング領域のデータ活用を想定するときに、1stパーティ、2ndパーティ、3rdパーティデータともに、もうひとつ「広告配信結果データ」の活用が意外にされていないことに気づく。
 やたらとセグメントをかけてしまい、外したのか、外してないのか分からないのでは、デジタル配信している意味がない。
 見込み客を発見する魚群探知機である「デジタル広告配信」の機能を発揮させるためにも、まずはオールターゲットもあるかもしれないが、今時無駄打ちをお薦めするわけにもいかない。そのためにも、当てない対象を定義することは重要である。

 また、ネット専業系であれば「コンバージョンからの逆引き(拡張)発想」はあるかもしれないが、「買った人」からの拡張だけではだめで、買わなかった人に(なぜ買わなかったを突き止めて)メッセージする発想が必要だ。買った人だけをデータソースに拡張すると現状追認型でしかなく、新たな顧客獲得や、新たな顧客層を創造することはできない。
 いわゆるスモールマスを発見するにも、その各々のインサイト発見にもデジタルは機能するだろうが、そのためにもまだ見えていない対象者にも何かしらの情報を当てて、その反応をトラックすることが必要だろう。

 そのあたりが「除外のターゲティング」(対象としない人を定義する)ことをおススメする理由だ。

ミドルファネルをめぐる攻防 ~上から降りるか、下から押し上げるか~

6 years 7ヶ月 ago

 この1~3月期は、いわゆるネット専業系が苦戦している。一方電博のネットメディアは堅調のようだ。(特に博報堂は好調のようだ)
 今回はこの傾向を分析してみる。

従来、マスメディア宣伝部とマス広告主でもネット広告を買い付けるダイレクトマーケティング部門は二分されていて、ネット専業系は後者にと棲み分けていたところもあった。しかし、ブランディング目的でのデジタル広告市場も大きく伸長するばかりでなく、テレビ×デジタルの統合戦略がやっと本格的になってきた。
 ブランディング広告とはいえ、「売り」に繋がっているかは厳しく問われるのは当然だ。テレビ広告がそれだけでは「売り」をつくる力が落ちているという議論は、ずいぶんされてきたと思う。デジタル連携がその答えになるかどうかを今試していない広告主はかなり遅れていると言わざるを得ない。

 ベムの理論は、ユーザーの文脈でコミュニケーションが成立している「デジタル」とブランドの文脈でプッシュされる「テレビ」とを役割を分担し、双方の接触を促すことで「売り」に繋がる力を創出しようというものだ。ユーザー文脈でコミュニケーションするデジタルにはブランドを「自分事化」させること、テレビはそのブランドが「社会事化」しているというパーセプションを与えることである。
テレビCMの一番のディスアドバンテージは、メッセージを特化するとネガティブな反応を起こす人にも当たってしまうこと、逆にデジタルターゲティングのアドバンテージは「当てたい人に当てられる」ことよりむしろ「当てたくない人には当てずに済む」ことである。ということは特化したコミュニケーション、つまりその人の文脈に合ったメッセージを受け入れるだろう対象者にだけデジタルで配信し分け、一方テレビCMでは「テレビでもやっているブランド(皆が周知しているブランド)であるということに意味がある。テレビでもやっていることが購買行動の背中を押すことになる。従来の「テレビで認知させ、ネットで刈り取る」のではなく、「デジタルで素地をつくって、テレビで刈り取る」のである。


 さて、主題に戻ろう。1~3月期にネット専業が苦戦して、レガシー代理店が健闘したのは、ブランディングコミュニケーションの中核を担っているテレビCMクリエイティブをおさえている電博が、テレビ×デジタル統合戦略のなかでデジタル広告の受注も果たしているのではないかと思う。
 一方、ネット専業は、いわゆるCPA需要に若干頭打ち感が出てきたことと、ブランド広告主のテレビ×デジタルに対してメッセージ開発で電博の遅れをとっているがために、この領域での受注に至っていないのかもしれない。

 これは、ベムも以前ブログに書いたが、ミドルファネルをめぐる攻防が始まったことを意味する。その初戦は、空爆のテレビ広告クリエイティブを担っているレガシー代理店が、そこからミドルファネルに降りてきてデジタル扱いも手に入れることで勝利しているというところか・・・。

 たしかにこちらの方が初戦では有利だろう。比較的楽に落とし込める。


middle.gif


しかし、このままずっとこの優位が続くかは少し議論だ。

 最終的に購買した、あるいは他ブランドを選んだ、その理由に迫れるのは、購買時点に近いポイントでのデータを持つ者であり、そこから押し上げる「ミドルファネルにおけるターゲット文脈ごとのメッセージ開発」が非常に重要になるだろう。
 また、買った人のシェアではじめて認知する人のパーセプションフローを設計して開発するメッセージなど「デジタル領域を起点とする強み」もある。

 ファネルの上から降りるか、下から押し上げるか・・・

 押し上げる方が、力が要るだろうが、下から逆引きする、「買う理由」から迫るミドルファネルのコミュニケーション開発とデジタル配信設計が本当の勝負所になる。

 ここに「エージェンシーの本丸のデジタル化」が絡むだろう。

 面白くなってきた。

 いくつかの秘策はある。 ネット専業も頑張れ! 

ミドルファネルをめぐる攻防 ~上から降りるか、下から押し上げるか~

6 years 7ヶ月 ago

 この1~3月期は、いわゆるネット専業系が苦戦している。一方電博のネットメディアは堅調のようだ。(特に博報堂は好調のようだ)
 今回はこの傾向を分析してみる。

従来、マスメディア宣伝部とマス広告主でもネット広告を買い付けるダイレクトマーケティング部門は二分されていて、ネット専業系は後者にと棲み分けていたところもあった。しかし、ブランディング目的でのデジタル広告市場も大きく伸長するばかりでなく、テレビ×デジタルの統合戦略がやっと本格的になってきた。
 ブランディング広告とはいえ、「売り」に繋がっているかは厳しく問われるのは当然だ。テレビ広告がそれだけでは「売り」をつくる力が落ちているという議論は、ずいぶんされてきたと思う。デジタル連携がその答えになるかどうかを今試していない広告主はかなり遅れていると言わざるを得ない。

 ベムの理論は、ユーザーの文脈でコミュニケーションが成立している「デジタル」とブランドの文脈でプッシュされる「テレビ」とを役割を分担し、双方の接触を促すことで「売り」に繋がる力を創出しようというものだ。ユーザー文脈でコミュニケーションするデジタルにはブランドを「自分事化」させること、テレビはそのブランドが「社会事化」しているというパーセプションを与えることである。
テレビCMの一番のディスアドバンテージは、メッセージを特化するとネガティブな反応を起こす人にも当たってしまうこと、逆にデジタルターゲティングのアドバンテージは「当てたい人に当てられる」ことよりむしろ「当てたくない人には当てずに済む」ことである。ということは特化したコミュニケーション、つまりその人の文脈に合ったメッセージを受け入れるだろう対象者にだけデジタルで配信し分け、一方テレビCMでは「テレビでもやっているブランド(皆が周知しているブランド)であるということに意味がある。テレビでもやっていることが購買行動の背中を押すことになる。従来の「テレビで認知させ、ネットで刈り取る」のではなく、「デジタルで素地をつくって、テレビで刈り取る」のである。


 さて、主題に戻ろう。1~3月期にネット専業が苦戦して、レガシー代理店が健闘したのは、ブランディングコミュニケーションの中核を担っているテレビCMクリエイティブをおさえている電博が、テレビ×デジタル統合戦略のなかでデジタル広告の受注も果たしているのではないかと思う。
 一方、ネット専業は、いわゆるCPA需要に若干頭打ち感が出てきたことと、ブランド広告主のテレビ×デジタルに対してメッセージ開発で電博の遅れをとっているがために、この領域での受注に至っていないのかもしれない。

 これは、ベムも以前ブログに書いたが、ミドルファネルをめぐる攻防が始まったことを意味する。その初戦は、空爆のテレビ広告クリエイティブを担っているレガシー代理店が、そこからミドルファネルに降りてきてデジタル扱いも手に入れることで勝利しているというところか・・・。

 たしかにこちらの方が初戦では有利だろう。比較的楽に落とし込める。





しかし、このままずっとこの優位が続くかは少し議論だ。

 最終的に購買した、あるいは他ブランドを選んだ、その理由に迫れるのは、購買時点に近いポイントでのデータを持つ者であり、そこから押し上げる「ミドルファネルにおけるターゲット文脈ごとのメッセージ開発」が非常に重要になるだろう。
 また、買った人のシェアではじめて認知する人のパーセプションフローを設計して開発するメッセージなど「デジタル領域を起点とする強み」もある。

 ファネルの上から降りるか、下から押し上げるか・・・

 押し上げる方が、力が要るだろうが、下から逆引きする、「買う理由」から迫るミドルファネルのコミュニケーション開発とデジタル配信設計が本当の勝負所になる。

 ここに「エージェンシーの本丸のデジタル化」が絡むだろう。

 面白くなってきた。

 いくつかの秘策はある。 ネット専業も頑張れ! 


ベム
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1 時間 47 分 ago
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