業界人間ベム

米国エージェンシーランキング この10年の変化

11 years 8ヶ月 ago

アドエイジ誌のエージェンシーランキング 2002年のランキングと2012年を比較してみる。

rank20022012.gif

少々文字が小さくて申し訳ないですが・・・。


この10年のランキングが激変なのが分かるだろう。
2002年は、広告業界の人間にとっては、お馴染みの顔ぶれが並んでいる。

しかし、2012年のそれは、業界人も聞いたことがないところばかりではないだろうか。

EpsillnやAcxiomはもともと広告業界の会社ではない。データマネージメント側からマーケティングサービスを行う企業がエージェンシーランキングに入っていてしかもトップ1、2なのである。
これには賛否があるかもしてないが、ここはアドエイジ誌の見識なのだと思う。

これを見ると、1位、2位、4位、6位、8位、9位、11位、12位、15位、17位、18位はデジタル系エージェンシーである。
また、10位、14位、19位は、PR系だが、SNS時代のPRなのでソーシャル系エージェンシーとでも云える。

2002年の15位までランキングに入っていたGreyやDDB、Ogilvy&Matherなどは2012年ランキングでは20位にも入ってこない。
これを日本のエージェンシーランキングと比較してみると、激変している感がある。

さて、ランキングもさることながら従来勢力のこの10年のグロスインカムの伸びに注目すると、JWTは89.1%、Leo Birnettが124.3%、MaCann Ericksonが142.3%、BBDOが215.5%、など決してシュリンクしたり、伸び悩んでいるトラディショナルエージェンシーばかりではないが、それをはるかに上回る勢いのデジタル系、データマネージメント系エージェンシーの台頭が著しいというのが印象である。

さて、日本の広告業界の次の10年はどうなるのだろうか。

32年前の入社式を思い出して・・・。

11 years 8ヶ月 ago

 ベムは82年の4月に新卒で旭通信社(現ADK)という広告代理店に入社した。
入社式のことは案外憶えている。当時の稲垣社長の訓示のくだりと、同期で一番歳を喰ってたやつの答辞だ。
 
 稲垣社長の訓示の中でよく憶えているのは、「清濁併せ呑む」というフレーズで、「えっ?広告代理店ってそんなに「濁」れ仕事があるんだ。」と思ったものだ。まあ入ってやってみると、それほどでもなかったが・・・。
同期の答辞は「広告業界の原、石毛となるべく頑張ります。」というやつで、時代を感じて今思い出すとちょっと笑える。(若い方には分からないかもしれないのだが、巨人の原監督と同世代。)
「笑っていいとも」が32年続いた番組を終了するが(番組開始は82年10月)、ほぼ同時期に社会に入った時にスタートした番組が終わるのも灌漑深い。(もっともこの番組、僕はほとんど観ることはないんだが・・・。)モンティパイソンのコーナーでの「4か国親善マージャン」以来のタモリファンとしてはとりあえず「タモリ倶楽部」さえ続いてくれればいい。

「原、石毛」はともかく、「広告業界」という言葉が、まだまだ明確な時代だったなと当時を思い出して感じる。
 今は、そしてこれからはもっとこの「業界」の「界」の部分が明確にならなくなる。「業際」という言葉があるが、この「際」についてよく考えてみることが大事になっていると思う。「業際」というフレーズを強調してくれたのは、僕のNYにいるパートナーだが、きっと米国でのエージェンシーランキングにランキングされるプレイヤーがトラディショナルなエージェンシー以外がほとんどである現実を体感しているからだろう。

アドエイジ誌の米国エージェンシーランキングで、僕らが良く知っているマッキャン・エリクソン、J・ウォルター・トンプソン、ヤング&ルビカム、レオ・バーネット、オグルビー、BBDO、サーチ&サーチなんていうエージェンシーが、どのあたりがご存じだろうか。
 米国内のランキングだと、BBDOが3位、レオ・バーネットが5位、マッキャンが7位、ヤング&ルビカムが13位、トンプソンが16位、オグルビーやサーチ&サーチは20位内に入ってこない。
そして、1位Epsilon、2位Acxiom、4位SapientNitro、6位DraftFCB、8位Rapp、9位DigitasLBiとデジタル系が並ぶ。

馴染みのない社名が上位を並んでいるエージェンシーランキングを見ると、(17位はIBM interactive)業界と業界の「際」から新たな価値が生まれているのが分かる。

いわゆる業界内での連携ではなく、別の業界とのオーバーラップする領域「業際」に価値を創ることを意識して、シェイクハンドする相手を選んだ方がよい。

分散するマーケティングデータを一元化する  ~DMPツールを導入する前にやるべきこと~

11 years 9ヶ月 ago

 DMPの導入はデータドリブンなマーケティングを実践するための必須条件となってきた。しかし、DMPツールを導入することがイコールDMPの導入実践ではない。
 ツールを入れても、データを分析し、それを打ち手に活用している事業者やパブリッシャーは意外なほど少ない。それは、そもそも何のためにデータを分析するのか、そのためにはどのようにデータを構造化しておくか、という大前提となるやるべきことをしていないからだ。
 一番重要なことはそこにある。
そして、今導入しているツールがありながら、データが分散化しているがために、DMP導入の前提を整備できていない企業が非常に多いのだ。

 例えば、アクセス解析ツールと3PASを導入しているほとんどの企業は、それぞれのデータが分散している。
 本格的なDMPを志向するなら、その前にアクセス解析と3PASに分散しているデータを統合することだ。その作業は必ずやっておくべきステップで、「分析環境の整備」という重要なステップである。

 詳細は、デジタルインテリジェンスにコンサルを依頼して欲しいがw、DMPツールは案外ただの箱なので、中身をどうするか(どんなデータをどう分析するためにどう構造化するか、またどうクレンジングするか)が重要なのは言うまでもない。

リタゲの精度向上

11 years 10ヶ月 ago

 DSPもまだまだリターゲティング利用が大半のようだが、リタゲがブランドを毀損する配信を多く行っているという議論はずいぶん前からある。
 確かに私も既に買ったものや、発注をかけたのに欠品のお知らせがきた商品が、バナーで追いかけてきてちょっと「イラっと」することもあったし、ずっと追っかけまわされてストーカーのように感じてしまうユーザーもいない訳ではないようだ。ただEC系広告主はブランドの毀損ということは目に見えないので、数字で目に見えるリタゲによる獲得を優先してしまうのだろう。

 リタゲという手法は、オーディエンスターゲティングではあるが、サイト訪問クッキーを十把ひと絡げに扱うと、幼稚または杜撰なレベルのリタゲになってしまう。日頃サイト訪問をセッションベースでしか管理していないのに、クッキーを追いかけるからそなるのであって、そもそもアクセス解析もクッキーなりIDなり、ユーザーベースで管理できていて初めてターゲティング配信手法としてのリタゲを本格活用できる。
 それはユーザーごとにどんなURLを踏んでいるか、どの程度滞在時間がある(GAで言えばユーザーのロイヤリティ)かなどによって、サイト訪問ユーザーを様々な基準で定義づけする作業をしておくべきだろう。まあ結構面倒なんだけど、やる価値は十二分にある。

 ところで、こんな内容のブログ記事を書いていたら、フリンジ81から、こういうサービスがリリースされた。
 http://www.fringe81.com/pressrelease/pressrelease20140206.html

 精度の低い、杜撰なリタゲをしている自覚がある広告主はトライしてみてはどうだろうか。詳細は今度じっくり訊いてみようと思うが、iTuneのGeniusみたいに、リタゲのGeniusみたいな感じかな?
 とにかくリタゲを、精度を上げて配信できるのは今タイムリーなサービスだと思う。かなりオートマティックにやってくれるとすると有難い。


 リコメンデーション機能がうまく作用すると、ネットのユーザーにもクッキーを使わせるベネフィットがある。コンテンツのリコメンドがあり、広告もその中の一部として認識されることが望ましい。
 匿名性を担保しても、データを吸い上げられる感覚に対してユーザーは敏感だ。しかし、ちゃんとした利便性とトレードオフされる認識があれば、ユーザーの納得が得られる。ネット上の広告はネットでサービスを提供するための立派なビジネスモデルである。本来「サービスは享受するが、広告は一切嫌だ」となると成立しなくなってしまう。広告を出す方もユーザーが便利だと感じたり、広告も貴重な情報だと感じられるように努力して、なんとかユーザーとの和解を得たい。

2014年 広告業界7つの予測

11 years 11ヶ月 ago

今年も恒例の業界予測です。

その1)ネット広告の効果指標に「認知、態度変容」が大きく浮上する年
     ~ネット動画広告の需要活発に・・・インベントリー開発が急がれる~


長くネット広告の効果指標はクリックであった。CPCやCPAが効果指標である。もちろんビュースルーによるコンバージョンへの寄与も測る時代になったとはいえ、リスティングのキーワード別の入札価格データを管理して、アトリビューション分析によりネット広告のリ・アロケーションをしている企業はまだまだ少ない。

それでも、ネット上にビジネスのゴールがある場合はいいが、リアルな販売チャネルが主力のブランドにとって、ネット広告の活用の効果指標を何にするのか、おおきな課題ではあった。
 その課題に、ネット広告による「認知・態度変容」の効果を、トラッキング調査をかけて調べることが定番化する流れを決定づける年になるだろう。
 そしておそらく今まで指標にしてきたクリックレートが、ほとんど効果と相関しないことが分かるだろう。

 私は14年前に「最新ネット広告ソリューション」という日本で初めてのネット広告に関する書籍を書いたが、その中ではクリック率は広告認知にも相関する指標であるとした。ネット黎明期のユーザー行動では、そう言えたかもしれないが、広告フォーマットも様々な今ではどうもクリックと認知・態度変容が相関するとは言い難い。
 

 ネット動画広告をTVと同じ指標で捉えると同時に、配分モデルをつくる。これが特にTVを大量に使うブランドにとって、効率的に認知をとるために、または認知をより購買行動に繋ぐ手立てのために検討されるだろう。

 米国では、ネット動画をTVと同じ効果指標で捉えているばかりか、その買い付け方もTVCM在庫と同じアップフロント(先付け)で行われ始めた。掲載面はプレミアムな枠を買うが、配信はオーディエンスごとになる。勿論日本が同じ状況という訳ではない。しかし、m1層などを中心にTV訴求が到達しにくいターゲットへの接触と、ネット動画広告で獲れる認知の購買行動への寄与を検証してみると、ネット広告のROIが高く評価される可能性もある。

 ネット動画広告に関しては、過去には何度も「今年は来る」と狼少年のように叫ばれてきたが、その効果を認知・態度変容とすることで、その評価は従来と違うだろう。
 多くのブランド認知を求める広告主がネット動画にシフトするが、インベントリーが少ない状況は否めない。優良メディアでありながら、クリックベースでしか評価されないが故にCPMが上がらず、大量のPVを有するサイトに圧倒されてきたメディアには、動画インベントリーを開発して広告収入を拡大するチャンスである。

 またテレビ局もコンテンツを動画DSPマーケットに出して収入拡大を狙う機会となるだろう。リアルタイム視聴が少なくなる中、1円にもならない録画視聴率を誇ってみても意味がない。動画コンテンツの供給が待たれる。

その2)データエクスチェンジが試される年
   
ビッグデータ、データサイエンティスト、DMPといったバズワードが踊った2013年だったが、2014年はトップランナーのDMP装備が完了し始める。と同時に、成果を出すべく本格的に「分析」が試されるだろう。
そうした中にあって、企業の1stPartyデータとメディアのいわゆる2ndPartyデータ、購買行動データなどの3rdPartyデータ、そして企業間で1stPartyデータ同志をエクスチェンジが初めて本格的に試されることになるだろう。とはいえまだまだエクスチェンジのための環境整備が出来ていない。相対(あいたい)で取引きされるところから始まる。
また有力なメディアがDMPを導入し、広告主にとって価値のある広告商品開発にも取り組むだろう。その場合、まずは特定の有力クライアントとの取組が優先される。

こうした流れの中で、オリジナルなオーディエンスデータを所有しない広告代理店の存在感が希薄になる怖れがある。エクスチェンジ市場はあくまでトレードオフが原則である。「場」に自分の持っている有用なデータを出して初めて参加できる。メディアと広告主企業が直接交換することが想定できる。代理店はデータマーケティングにどういう関与ができるかまさに経営課題になるだろう。ただまずはそういう状況を認識できなければ何も始まらないが・・・。

その3)ネイティブ広告とその配信プラットフォームが注目される年

 そもそも「ネイティブ広告とは」としっかり認識しないといけないが(参考のためご覧になるとよい。)・・・。

http://markezine.jp/article/detail/18231
 
 P&Gなどが米国で活用している「アウトブレイン」などの日本上陸も報道されているが、
http://business.nikkeibp.co.jp/article/nmgp/20131209/256883/
こうした仕組みを提供するプレイヤーが登場すると思われる。

 「ネイティブ広告」が認識され、注目を集めると同時に、こうした配信プラットフォームの活用法についても話題になることが多くなるだろう。活用するには企画力も必要だ。パフォーマンスの良いネイティブ広告を開発できる広告主は、顧客洞察や適切なコミュニケーション開発の「手練れ」と言える。
 


その4)アマゾンデータがリアルチャネル購買データ供給を刺激する年

  そんなに本格化しているようには見えないかもしれないが、アマゾンの購買データをマーケティング活用する企業が急激に増えるだろう。リアル店舗のPOSデータだけでなく、アマゾンでのセールスデータを目的変数として、重回帰分析によるメディアアロケーションを行う企業も現れる。メーカーもアマゾンデータによる商品開発に乗り出すなど、こうした動きが、リアルな店舗網をもつ流通企業を刺激すると思う。消費者の購買行動データを提供することに慎重な各社も、メーカーとeコマース企業のデータ連携を指を銜えて観ている訳にはいかなくなる。
これをきっかけとして、購買データ系の3rdPartyデータの流通が再来年以降に本格化するだろう。その発端をアマゾンがつくると見ている。
 
いずれにしても、保有するデータにおいて、グーグル、アマゾン、ヤフーの3社の優位は大きい。楽天がここ何年間参入を目指すも最後は各店舗保護によって踏み切れない間に、アマゾンに大きな水をあけられるだろう。
企業が欲しい3rdPartyデータは基本、購買行動系、ソーシャルメディア系、TV視聴データ系の3つである。リアル購買データのTポイントそしてBluekaiも日本参入を果たして、データ供給合戦にはなるのは必至。
 とはいえこれを活用して成果を出す企業には、自社のビジネスロジックを熟知し、分析官に、仮説と分析法を指示できるだけの知見を有する人材が必要だ。
 私は時々、これをジャック・バイアーとクロエ・オブライエンに例える。いかにクロエが優秀な分析官でも、ジャック・バイアーの指示がなければ成果は出せない。


その5)PDCAに耐えるネット動画広告クリエイティブ開発が芽吹く年

  従来日本のネット広告代理店が行っているクリエイティブとは「クリエイティブ」ではない。有り物の素材を借りてきて、レイアウトしているに過ぎない。原稿素材はつくっているが、クリエイティブしていないものだ。これを私は「クリエイティブ・アダプテーション」と呼んで、本質的なクリエイティブとは異質なものと考えている。
 
 ネット動画広告も長年「今年は来る、来る」と狼少年状態だった。その大きな理由のひとつは、こうしたものは「広告フォーマット」そのものに効果を依存するのではなく、その「広告フォーマット」の特性を生かした独自のクリエイティブが開発されなかったことだ。
 前述したように、効果指標に「認知・態度変容」が中心になってくると、クリエイティブに手を掛けることで、その効果に大きな違いが生じる。当然なのだが、最適化の最大の変数はクリエイティブである。
 
 ネット動画広告独自のクリエイティブをつくる広告主が、今年は一挙に増えるだろう。
プレロールにしても、最初の5秒でスキップされないように、また逆に5秒で達成するようにしたり、とにかくTVCMとは別の素材づくりに対する効果を期待する広告主が出てくる。
 その期待に対応すべく「インタラクティブ動画」など従来のバナーづくりとは一線を画したリッチなクリエイティブ開発スキルを標榜するプレイヤーも登場するだろう。
 こうしたプレイヤーとは、動画広告の視聴データ、認知・態度変容データでPDCA、つまりクリエイティブの改善作業を当然のように行うクリエーターたちということになる。
 それも、キャンペーン期間前から期間中にリアルタイムに効果データを計測して、PDCAを廻さなければ意味がない。改善を高速で行う文化、習慣を動画広告にも持ち込めるか、そのあたりが試金石となるだろう。


 TVCMでは認知はそれなりに取れる。しかし今の課題はTVCMで取る認知だけでは購買行動を促進しづらいことだ。パーチェスファネルの第二段階であるレリバンシー(つまり、このブランドは自分に関係するものだと認識すること=自分事化)の獲得をネット動画が担うかもしれない。特にブランドに複数のターゲットが設定されていて、それぞれに文脈の異なるメッセージがあるのであれば、ターゲティング配信できるネット動画でクリエイティブを差し替えてTVCMでは訴求できないところまでをコミュニケーションすることが有効であると考えられる。

 私は、そのうちTVCMは、DMPから顧客のインサイト(反応する文脈)を発見して、メッセージを開発し、ネット動画広告クリエイティブを配信した上で、TVCMをつくるというプロセスがあっていいと思う。

 


その6)プライベートDSPが本格始動する年

  DMPにプライベートDMPと呼ばれる仕組みがあることはご存じの方も多いだろう。このプライベートDMPを保有することになると、ここでセグメントしたターゲットに対して広告配信をかけて、その結果のパフォーマンスデータをDMPにフィードバックするには、必然的にプライベートDSPが必要となる。
 効果を得る変数は、もちろんオーディエンス(つまりクッキー)だけではない。掲載面は非常に重要な変数であり、配信タイミング、適正フリークエンシ―など、そして最も大きな変数である「クリエイティブ」を最適化しなければ意味がない。
 
 (入札運用型はオーディエンスを最適化するだけというような間違った見解も耳にするが決してそうではない。)

 こうした配信結果をDMPにフィードバックして、「リザルトラーニング」を行うには、DSP事業者のそれをただ単に使って配信するだけでは成立しない。掲載面の管理を含めたプライベートDSPが要る。
 ブランドを毀損しない、というよりブランド認知のためにより効果的な配信を行うには、当然最適な掲載面が必要であり、そのブランドにとっての最適な掲載面ネットワーク、つまりプライベートエクスチェンジが必要となる。
 
 米国のグローバル企業のように、プライベートDMPによるプライベートDSP運用をインハウスで行う日本企業はまだないが、どこまでをインハウスと呼ぶかは別にして、特定の広告主企業のためのDSPが試される。

 一方で、SSPも新たな局面を迎える年になるだろう。DMPを導入するメディア企業も増えると、広告商品開発をオーディエンスベースで行う流れができる。プレミアムな枠ものを含めてメディアの広告収入の最大化のために機能する本格的なSSPが参入してくるだろう。


その7)広告業界に起きる大変革と新たな外資参入の兆しの年

   実質的に、「電・博・ADK」という言葉は終わっている。電通はイージスの統合で、グローバル・メガ・エージェンシーとなった。一方、ADKには勢いがなくなっている。デジタル領域の成長が電博に比べて低く、総合力の差はさらに拡がってしまった感は否めない。博報堂から見ると、追いかけてくる会社が見当たらない。しかし電通も実ははるかかなた先に行ってしまった。3社はそれぞれ、同じレイヤーにはいない。電通にとってサービスをグローバル標準にすることが課題だ。国内対応での個々の勝ち負けにいちいち構うこともないほどだ。日本資本の企業のマーケティングにおけるグローバル化を進めるだろう。博報堂は国内では真っ向電通と勝負しているように見えるが、アジアに行けばADKの方が存在感があるくらいだ。偉大なる2位にはこの状況は「何も問題なく感じる」かもしれない。

 電通イージスのこのページを見ると、本当に国際化している。もしかすると、次の社長は日本人ではないのではないかと思うくらいだ。
http://www.dentsuaegisnetwork.com/en/teams/


 電通が日本独自の広告ビジネスモデルを堅持している間は、メガエージェンシーとはいえ、極めて大きな参入障壁があって市場を形成できなかった。基本的に今もそうである。
 しかし、電通のグローバルメガエージェンシー化は、日本市場も電通が敢えてグローバル化することにもなる。(もちろん日本の牙城も堅持するだろうが)この変化に、デジタル時代のデータマーケティングへのパラダイムシフトがあいまって、日本の市場にもついに大きな変革をもたらすことになるだろう。

 そもそも「グローバル」というテーマは、「デジタル」と表裏一体だ。デジタルを標榜する上において、「共通プラットフォーム」を管理する事から得られる効率性と、「データのスケール化」を目指す事でのパフォーマンス向上は、そのまま「地理的マーケットの拡大」、いや「地球全体をマーケットとする」事を目指す動機に直結する。


データマーケティングの時代に突入し、かつ入札モデルのバイイングがシェアを拡大するなか、従来の企画力と広告枠保有力の勝負だけではなく、新たなマーケティングの通貨としてのオーディエンスデータをいかに保有するかがテーマとなるだろう。またワンストップ型の顧客インターフェイスだけでは対応しづらい専門性の高い領域が拡がっている。総合力を標榜し、ワンストップ型を維持するか、専門性の高いエキスパート集団を集めるビスポーク型を目指すかの転機となる年だ。

そしてコンサルファームやSIerの領域からもせめぎ合うマーケティングコミュニケーション産業の様相を呈する環境で、外資メガエージェンシーもこれを日本市場再攻略のチャンスと見なすだろう。
 
 今年、日本市場に導入してくるであろう外資トレーディングデスクなどはそう簡単には成功しないと思うが、日本にないサービス(データマーケティングの高いコンサルスキルと独自かつ有効なオーディエンスデータ)を提供できれば、ポジションを獲得する可能性もある。

 この環境に、SIerコンサル系からアプローチしてくるテクノロジーエージェンシーも登場すると思われる。

 マーケティングテクノロジー提供プレイヤーを、従来エージェンシーが囲い込むのか、テクノロジープレイヤーが従来エージェンシーを取り込むのか・・・。


 2020年までにはほとんど決着するだろう大きな業界再編の兆候が見える年となるだろう。

Xaxisとホールディング会社WPPの戦略の視点 その2

11 years 11ヶ月 ago

昨日のエントリーの続き

レポートには、あるグローバルマーケターの「ノン・ワーキング・メディア」削減の話が入るが、この件はまた別途機会を設けて解説を加えたい。ここではWPPの戦略視点は「グローバルマーケター」の「グローバル指標」にある」ということ・・・。

で、続きは

「透明性」より「アービトラージ」

WPPは24/7ネットワークを自社に持ち、フェイスブック(FBX)やツイッターとグローバルパートナーシップを結ぶ事から始まり、

http://wpp.com/wpp/press/2013/jun/06/twitter-and-wpp-announce-global-strategic-partnership/

24/7の買収合戦の敵対相手だったマイクロソフトのアドネットワークとエクスクルーシブの提携を行うなど、(プレミアム)パブリッシャー側の取り込みは北米で250社に及び、世界で1000社12カ国のリーチを持つ(2013年12月時点) 。

ホールディング会社WPPの戦略会社としてのXaxisは、(プレミアム)パブリッシャーとダイレクトにつながっている事、をエッジ(売り)としている。SSPと呼ばれようが、アドエクスチェンジと呼ばれようが、グローバル(対応)スケールとプレミアムの高さを誇り、他のエクスチェンジやDSPでは買付け出来ないプレミアム枠(オーディエンス)を強調する。「プログラマティックにTier1プレミアムを買い付けるビジネス」であり、「RTBエクスチェンジで有象無象を販売する」のとは違う。自社ではトレーディングデスク、と呼ぶ事も避け、世界最大のDMP、オーディエンスプラットフォームと呼ぶ。24/7のConnectというシステムでパブリッシャーとの接続拡大を2012年から準備を行っていた(つまり合併作業は今に始まった事ではない)。アービトラージの買付けリスクを背負いながらのパブリッシャーとの交渉(advance inventory deals)は、小さな資本のDSP社、SSP社、アドエクスチェンジ社では到底できない「ワンストップ」の構造を作った。今後も買収をするならグローバルのSSP側の技術の強化が考えられよう。

Xaxis/WPPが目指すは、いわば、世界最大の「憧れの」DMPだ。グローバルマーケターのためのプラットフォームだ。誤解を恐れず言えば、ユニリーバ、フォード、キンバリークラーク級をターゲットにしている。Lesser氏は「仮に、世界最大のグローバル広告主の立場に立って考えてみた場合、オークションベース(RTB)で競合他社と枠取りを競ったり、無数の小さなプレーヤーと競ったり、そんなチマチマした世界を望むはずがない。資本とデータを最大駆使して、最も高品質のあつらえのインベントリーを買いたいはずだ。実際、パブリッシャー側は喜んでプレミアムを欲しがるグローバルプレーヤーにインベントリーを提供したいし、しかも先買いのコミットメントがあるとなると、なおさらだ。我々は高品質プレミアム枠を自社独自のデータと共に、限られた顧客にダイレクトに提供するのが役目だ」 

http://www.adexchanger.com/agencies/wpp-groups-xaxis-imbibes-247-media-gaining-a-sell-side-edge/


WPP内部のコンサルタントと、ディレクション

今回、満を持しての24/7とXaxisの統合の発表であったが、下記のWPP内のLLC会社Media Innovation Group(MIG)は閉じることになる、とLesser氏はコメントしている。冒頭で紹介したMIGだ。Lesser氏が24/7買収後にWPP内に設置した会社で、全テクノロジーを見渡してWPP内で横断的にテクノロジーコンサルテーションをする会社だった。WPP内では「ワンストップ」に見せる事に効果がある今回の発表だったが、WPP内部的にはXaxisはメディアの「グループM」の傘下で、24/7はグループMの外部と、別れていた。コンサルタントとしてMIGが間を繋いでいた形だった。ホールディング会社の中には、数ある機能とテクノロジーを結ぶ中立コンサル会社が必要で、この役目こそがCEO兼コンサルタントであるLesser氏だった。
Media Innovation Group
: Strategic consulting services, custom implementation of technology-driven marketing solution

http://www.wpp.com/wpp/companies/the-media-innovation-group-mig/

今回の発表は、地理的リーチをグループMスタッフの協力を得ながらXaxisに塗り替え、一方で旧仲間の24/7 Real Media側の調整をつけて、新生Xaxisブランドに統一できた、Lesser氏の大仕事が一区切りついた、という所が内情だろう。統合するための部署横断、地理的横断の努力、最新の技術の知識、リーダーシップを取ったLesser氏の勲章の記事、というのが私見だ。
いつもながら、「そうさせる」ディレクションをするマーチンソレル氏の迫力にも恐れ入る。

金額はすべて、1ドル=100円換算

Xaxisとホールディング会社WPPの戦略の視点

11 years 11ヶ月 ago

このブログでもWPPは24/7の買収あたりから変わってきたといえると書いた。僕が90年代に会ったダブルクリックのオコーナー氏と24/7ムーア氏は非常に対照的な人柄だった。ムーア氏は意外とよくいる「ノープロブレムおじさん」で、ケビン・オコーナーは物静かで自分の会社がすごいすごいとアピールする人ではなかった。しかし、24/7のナンバー2だったブライアン・レッサー氏は非常にキレ者だったように思う。

24/7がWPPに買収されていから、彼がWPP内でのデジタル戦略を担うことになり、WPPの方向も変わったと推察する。

今回は、Xaxisと24/7の合併(これは予定どおりでむしろずいぶん遅れた)に関して、DINY榮枝からのレポートを掲載する。少し長いので、2~3回に分けてエントリーする。


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2013年12月3日にWPP傘下のXaxisと24/7を統合させるアナウンスがあった。

http://www.wpp.com/wpp/press/2013/dec/03/xaxis-and-247-media-to-merge/

日本でもWEB記事になって解説されているが

http://www.exchangewire.jp/2013/12/20/opinion-wpp/

少し違う目線で筆者なりの読み方を紹介したい。筆者(私)の視点は「マーケター側のグローバル・ダイレクトリーチの要求」「透明性の追求よりもプログラマティック・プレミアムの提供」そして、「WPPの戦略と内部事情」に注目した。

・Xaxis(ザクシス):WPP内のトレーディングデスクと(外部からは)位置づけされる、広告枠やオーディエンスデータを「買う」側=広告主側に提供する技術・サービス部門。
・24/7 Media:WPPが2007年に買収した、広告枠やオーディエンスデータを「売る」側=パブリッシャー側と多数繋がり、彼らの収益最適化を提供する技術プラットフォームを提供する会社。

そもそも、「24/7がXaxisと合併」と聞けば「え、まだ統合してなかったのだっけ?」が業界内の人の反応だったのではないか。2007年にマイクロソフトと競い合ってWPPが買収した24/7は、Xaxis設立前からのWPP・CEOマーチン・ソレル氏の基幹戦略であり、24/7買収後に設置したXaxisとの統合はニュースではなく、内部事情を「かっこ良く」アナウンスしたに過ぎない。戦略戦術的にも2007年から変化は無く、ホールディング会社レベルでの統合アナウンスは「体裁よく」なったという次元だ。

XaxisCEOのBrian Lesser氏は24/7出身で、WPPの24/7買収を機にWPP内でMIG(Media Information Group)を立ち上げ、その後Xaxisを立ち上げている。そのXaxisのニューヨーク本社オフィスは24/7のニューヨーク本社オフィスと同じ住所に位置する。卵か鶏かの議論で、649億円の24/7の大型買収時点で「Xaxis的な」構想があったからこその買収だ。今後同様のセルサイドとバイサイドを統合する、というアナウンスはPOG(ピュブリシス・オムニコム・グループ)でも発表されるのは時間の問題で、その時点で「セル&バイ両方持つことはどうよ」と考えてみても、少し間が悪いのであらかじめ。

地理的スケールリーチ獲得を優先

XaxisのLesser氏が2013年は世界中を飛び回っていた事を噂で聞いている。地理的な広がりを確保する事が今年の必須至急であった事は間違いない。


Xaxis01.gif


上記添付は6月4日のWPPデジタルの発表ファイル。下記はその半年後の24/7との合併記事だ。比べると、拠点数、扱い高とも急激に大きくなり、地理的に急拡大「させた」事がわかるだろう。


12月3日のWPPリリースより。
Xaxis currently runs over 450 billion impressions(半年前は300 billion) a year in 31 offices within 28markets across(同22) North America, Europe, Asia Pacific and Latin America. With over 500 employees(同300), 24/7 Media operates in 18 offices across these same regions. Combined the two companies will manage 2 trillion impressions annually across the world.


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WPPのバイサイドのリーチ確保は24/7買収時点から

フレネミー(フレンド+敵エネミー)のグーグル頼みでは中抜きの波に巻き込まれると確信したからこそ、WPPは独自技術にすべく24/7を買収した。上記自社発表の図では、「POGはグーグルに中抜きにされて、ペプシやP&Gにリーチされてしまいますよ」、と牽制している。

「透明性、は首を絞める」

よく出てくる表層的な議論に「セルサイドとバイサイドとを両方持つには、透明性をクリアにする必要がある」と、言い出す場合があるが、これは「分かってない」か、「嫉妬」のいずれかと思える。日本では古来から電博を筆頭とし、新聞・ラジオという「トラディショナルメディア」の時代から「媒体側と、クライアント側の両方の顔」を持つ事はお馴染みの構造だ。CCI、DACも既に「両方向」にサービスを提供している。むしろ日本の方が欧米でのアレルギーより「考え方が進んでいる」と言っても良いだろう。先仕入れの在庫リスクを負いつつ、媒体社と合意の価格で売る流れにおいて「透明性」という単語を簡単に使うのは適切ではない。世界最大のデジタルメディアを扱うグーグルは「両面」統合サービスの代表選手として成功している。

WPPは、アービトラージ(先仕入れによる、売却価格差を儲けとする取引)について、特に問題視しないとしている。Lesser氏は「何か課題があるとすると、それはパブリッシャー価値を傷つけるような価格で売却した場合か、あるいはマーケターが何を買ったのかわからない場合、のみ」と言い切り、「むしろ1本のプラットフォームでパブリッシャーとマーケターが直接繋がる(余分なミドルマンの排除)事で、得る物の方が多い」とする。実際、ホールディング会社4社比較でXaxisがダントツのスケールと売上高を誇り、他社の(Publicis、Omnicom、IPG)トレーディングデスクは透明性を強調するあまり、ぱっとしないのが実情ではないか。

透明性について補足すると、マーケター視点から見て、「自分が何を買っているのかが分かっている事」は重要だ。つまり、買ったインベントリーやオーディエンスに対し、その「原価」を知る事が重要なのではなく、自社基軸の価値(価格)をつけて管理する必要性は求められる。

その延長でマーケターが自社(管理)プラットフォームを作るトレンドが欧米では進んでいる。ベスト・イン・クラスのベンダー選びと、(データ)スケールの効く買付けシステムが組むためにはどうするのか。さらにアドテクベンダー側も投資家の売上高成長要求から、エージェンシーを飛ばしてマーケターへの直接侵攻も進んでいる。テクノロジーが可能性を広げたばかりに、マーケター側が「技術(スタック)をどう繋げれば良いか」に投資、時間が取られてしまうようになる。このギャップを突いたのがホールディング会社レベルでの「オールインワン(両つなぎ)」戦略だ。その横で、透明性を謳って、リスクの小さいビジネスをするエージェンシートレーディングデスクも存在する。。。。

これらは全てビジネスモデルの違いであり、各マーケターの事情、戦略により、それぞれフィットするパターンがある。このパターンの分析・見極めと、それぞれの長所を知る事がマーケター目線では必要だ。ほんの一例モデルが今回のXaxis/WPPであり、巨大グローバルクライアントを対象としたケースという点だ。雲の上の世界は、地上の価値観では議論ができない、そんな所だろう。ただし、上をみて成長するなら、部分的にも学べるトレンドが行間に隠れている。


後半につづく

広告代理店の営業機能再考

11 years 11ヶ月 ago

どんな業種でも「営業」という機能については、見直しが行われている。

大概は、「セールス型から顧客の課題解決型へ」みたいな話なのだが、存在価値そのものが問われている面もある。その意味で、広告会社の営業というのはどうなんだろうか。
証券会社の営業マンは96年~2010年までの15年間でほぼ半減してしまった。あれだけオンライン取引が活発になれば必然であろう。そう言った意味では、「手売り」しかなかった広告に、オンラインでの入札型広告市場が大きく広がってきた昨今、状況は証券業界と似ている。

 従来はマーケティングメディアはいわゆるペイドメディアしかなく、広告を打つことがほぼマーケティング活動という時代もあった。今までは広告メディアの情報をもっている広告代理店の情報優位は揺るがないし、メディアの広告枠を販売することにおいてはプロフェッショナルな代理店営業マンという存在だった。(昔僕も営業でしたがメディアプランはほとんど自分で作っていたしね。)

 ところが、企業のマーケティングメディアはペイドだけではなくなった。オウンドは当然広告主自身が開発運営するものだし、アーンドの中核になったソーシャルメディア対応も(これもツィッターの公式アカウントやフェイスブックページはオウンドメディアと言えるのだが)実施的に知見は広告主企業側にある。

 しかもペイドメディアもDSPをプライベートDMPでユーザーごとの評価分析を加えてセグメントしてターゲティング配信するような作業は、本質的に企業がインハウスで行うべきものになっている。(評価するための3PASしかり、マーケティングの根幹になるプライベートDMPしかり、企業自身がすべきもので、代理店に任せる性格のものではない。)
つまり、ペイドでさえ、「どこに掲載するかから誰に配信するか」というパラダイムシフトにあって、配信先を規定するデータは広告主企業の所有するものであったりする。

 (またオーディエンスデータがマーケティングの通貨になるような時代において、代理店はどんなオーディエンスデータを所有できるのだろうか。大手広告主はメディアと直接データエクスチェンジしてしまわないか・・・。)


 そうなると、メディア側の情報を保有することで成り立っていた広告代理店の広告主に対する情報優位は、あまり意味を持たなくなってくる。メディアを売ることにおいて、情報優位とスペシャリティを発揮していた広告代理店、特にその営業マンという存在は、(もちろんプロモーションの企画実施を仕切る役割など、機能すべきことはたくさんあるのだが、業務範囲が幅広くなればなるほど、そのプロフェショナル性は希薄になり、)ただただ連絡要員化してしまう。


 そして、もっともその存在を危うくする現象は、広告主側担当者のプロ化である。

 広告主が素人である時は、代理店営業はワンストップ機能を発揮して、バックヤードにいる専門スタッフを連れていけばよかった。

 しかし、特にデジタル領域での広告主側のプロ化は、ネットに関してはアマチュアの営業マンにとって、その存在を徹底的に問われるものとなった。
日本におけるネット専業代理店の市場とは、総合代理店がネット広告市場を軽視し、従来営業マンによるワンストップ体制でこれに臨んだことで専業に持って行かれた市場である。

 欧米ではブランド側にスペシャリストがいる。日本でも、オウンドメディアを開発運用する方がたを中心にスペシャリストがどんどん育成された。
 彼らから見ると、代理店の営業マンは、その場で何も回答できない、逆に間に入っているからこそ業務が的確にかつスピーディに進行しない原因になってしまった。
 
 問題は、今後もこうした総合代理店の営業のワンストップ体制が機能するのかという点だ。僕は某代理店にいるころ、顧客とのインターフェイス機能の専門性による水平拡大を主張したことがある。

 「総合力と専門性」、この課題を現状の代理店の営業体制で機能させるのは既に無理がある。広告マーケティングサービスの領域拡大は今後も続くだろうし、むしろ違う人種を求めている。

 もうひとつの課題は、セールス力という考え方だ。
売るものが、セルサイドの論理で作られたものであり、これをプロダクトアウト的にプッシュセールスするのであれば、営業の機能はセールス力だし、売る人のマンパワーが要る。
しかし、セルサイドの売り物を売るのではなく、バイサイドの買い物を設計し、用意する場合、必要な機能はセールスなのか。
 既にセールス力は営業の最も重要な機能ではないのではないのか。


 今でも、「人が足りない。人が足りない。」と言っている代理店の営業がいっぱいいるだろう。しかし、これは「今、自分たちは機能していないので、機能する人が足りない」と自ら言っているに過ぎない。

総合代理店のマーケ(ストプラ)は今何をやっているのか。

12 years ago

 ある代理店のDMP担当者が、「DSPの時にはデジタルメディア部署の人間しか反応しなかったが、DMPには感度のいい営業やマーケ(ストプラ)が反応している。」と話してくれた。しかし、実際、データマーケティングの大きなうねりに対して、代理店のマーケは自らのスキルをどう変革させようとしているか、その動きが見えない。

 代理店のマーケは、昔はその存在感を発揮した。しかし、まともな企業側のマーケティング担当には太刀打ちできるものでもなく、また本当に優秀なクリエーターにはあまり必要とされない。その多くはクリエイティブの前段の理屈の代書屋になっているのではないだろうか。もちろん非常に優秀なストプラも僕はたくさん知っている。しかし、非常な優秀な彼らは、もうほとんど出来上がってしまっている人たちでもある。残念だが、「昔からのやり方」においてとても優秀なのである。
 
 完成された優秀な代理店のマーケは、どうもDMPを使いこなすスキルを今から取り込むことが難しいのだろうか。私の感覚では、その能力はあるが、その気がないのだ。確立したスキルをわざわざ壊してまで、次世代対応に臨むほど切迫していない。ただ若手はどうなんだろう。若手は自発的にデジタルデータに向き合う意欲はあるのか。師匠が変革しないのなら、自分もしないのか。
 今までは、自らのスキルの変革に挑む人は、大手代理店を離れる。個人でやっていける人が変革できる人となる。
 今後もそうなのか、大手代理店の中でも変革できるのか。
会社も個人の資質に任せてばかりいる時期ではなくなったかもしれない。

戦略コンサルのデジタルエージェンシー取り込みの波再び

12 years 1ヶ月 ago

11月の上旬は日本からの訪問者で大忙しのデジタルインテリジェンスNY代表榮枝からのレポート


デロイトコンサルティングが、シアトルの50人規模の
デジタルエージェンシーを買収した記事がアドエイジで取り上げられた。
http://adage.com/article/agency-news/deloitte-digital-acquires-digital-agency-banyan-branch/244848/

エージェンシーから見た、「コンサル脅威論」は
出ては収まり、出ては収まりしつつも、
長期的には着実に成長している。

リンクの記事では、デロイトコンサルティングはAdage集計データで
「USデジタル(扱い)エージェンシー・ランキング」で24位と
紹介されている。粗利110億円(1ドル=100円)2012年

この大きさは、、デジタル売上総利益では
AKQA(22)の直ぐ下、JWT(25)、VML(26)、Possible(35)(以上WPP)より上、
というランク。

ワールドワイドのランキングに置き換えると
東急エージェンシー(36位)と、ほぼ同じ(38位)だ。

アクセンチュアも
アクセンチュア・インタラクティブとして、
イギリスのFJORDというエージェンシーを買収して。
P&G、BMW等の担当扱いを取っている。
今年5月のAdage記事
http://adage.com/article/agency-news/agencies-accenture-s-invading-turf-big-time/241338/

コンサルの王道、IBMインタラクティブにおいては、グローバル13位、
これはADK(16)より、差をつけて上だ。

コンサルタントの方が、どうも風上にあるようで、
コンサル会社が風下のデジタルエージェンシーを吸収する、
という形での侵食が見受けられるが、
逆にエージェンシー側が「コンサルタント」領域に入るケースは
見受けられない。

WPPがFabricというコンサル系ユニットを立ち上げたり、
PublicisがRazorfishにその役目を期待したり、の
風のうわさ程度が現状だ。

「クリエイティブがマーケティングのドライバー。
データはそのインフラに過ぎない」という理論は、納得できる。

ところが(経営)データは、やはり「データ・ドリブン」な企業が
結局上位に伸びているのを示しているように思える。

エージェンシー経営には、コンサルティング会社同様、
「データに対する、経営センス」は避けられない。

ハウスエージェンシーの新たな役割と存在意義

12 years 1ヶ月 ago

 リスティング広告やDSPによるディスプレイ広告を、ブランドごとにAE代理店に発注していると、同じ会社内でキーワードやクッキーを競争入札して買い上げてしまうという何とも間抜けな現象を起こす。したがって、入札運用型広告はブランド横断的な買い付けをしなければならない。

 
 米国では大企業を中心に、DMPや入札運用型広告のインハウス化が進んでいる。
インハウスと言っても、導入にはエージェンシーからコンサルが入ったり、オペレーションのサポートが入る。
 グローバルエージェンシーのすごいところは、グループ内のメディアエージェンシーのビジネスを破壊するようなコンサルをやっているところだ。日本ではなかなか考えられないが、まあ海外のメガエージェンシーではメディアのマージンというビジネスモデルは既にマイナーだから、将来を見据えてのことだろう。

 それはともかく、欧米には日本のようなハウスエージェンシーはあまりないようだ。
 
 しかし、ここに来て前述したように、ブランド横断的に入札運用型広告を担当するには、完全にクライアントを代理する立場のハウスエージェンシーということになる。

 逆に言うと、ハウスエージェンシーがこの機能を果たせないとするなら、そもそも存在意味はない。
 生き残る最後のチャンスは、プライベートDMPや3PASの運営及び入札運用型広告のオペレーションを一手に担って、欧米のようなインハウスDMP/DSP機能を果たすことだ。

 日本企業は社内に横断的組織をつくることが下手だ。新たな機能は、どこの部門の傘下にいれるかで綱引きが起こり、うまくいかないことが多い。そのためには社内の各組織と完全に等距離となるように機能分社することのほうが早い場合がある。
 
 その意味で、新たなハウスエージェンシー設立議論は起きてきても不思議ではない。
どういうスキルと人材、組織を集合させてつくるべきか、また既存のハウスエージェンシーのサバイバル戦略については、そして、そもそも旧態の広告代理店の革新のための経営コンサルにおいては、おそらくベムに最も知見があると思う。ご相談あれ。w

『スタック』とは

12 years 1ヶ月 ago

 スタックとは、有効なテクノロジーやスキルを集めて機能するように編成することと言えるだろう。ベストインクラス(各領域のエキスパートを集めて最高のチームを編成すること)とほぼ同義ないしこれを含む広義の概念と言える。「マーケターズ・スタック」とか「テクノロジー・スタック」と言われる。

 マーケター企業にとって、マーケティングテクノロジーを導入する場合、ひとつのツールで完結するということは滅多にない。逆に、今時、スクラッチでつくるというのもナンセンスだ。
 よって、様々なテクノロジーから最適なものを集めて、構成する(積み上げるイメージ)ことが求められる。また、そうしたツール選択、構成を指南するコンサルティングサービスが必要になっている。
 
 また導入期になくても、機能拡張期には採用導入しなければいけないもの、また逆に役目を終わるものもある。こうした進化を前提にスタート時点を構成する必要もあり、プロのコンサルはマル必だろう。


※ スタック Stack,
山、積み重ね、集積。コンピューター用語では一時保管記憶装置。
アドテクのLUMAスケープに登場する各カテゴリーのベンダーが山のように存在し、そこから抽出して組み合わせてマーケティングに活用している状態や、組み合わせ方法をスタック(状態)と称する。日々、この組み合わせは進化するし、入れ替えから新規採用までを構築、採用するスキルが求められている。

ビスポーク・エージェンシー

12 years 2ヶ月 ago

NYからのレポート

WPPが編成したFordアカウント用のTeam DetroitのようなBest-in-classをホールディング内外で集めてチームを組む、という広告企業のフォーメーショントレンドが自動車会社担当にはあるようだ。予算も大きい事もある。

このようなチーム作りを『ビスポーク・エージェンシー』と呼ぶ。混成チームとでも言いますかね。


NissanがOmnicomと共同で、Nissan Unitedというフォーメーションを発表しました。TBWAとOMD(メディア)、インターブランド、等が中心なのだが、Hakuhodoの名前も記事中に見える。

http://adage.com/article/agency-news/nissan-latest-carmaker-set-a-bespoke-agency/244525/

他の例として、並べてみると、

Team Detroit/WPP: Ford

Hudson Rouge/WPP: Lincoln (って、フォードですよね)

Team Mazda/WPP: Mazda

Commonwealth: General Motors' Chevrolet

これはホールディングも横断。

 Omnicom’s Goodby, Silverstein & Partners, San Francisco, and Interpublic’s McCann Erickson Worldwide, N.Y)

Rogue/IPG: Cadillac (Hill Holliday, Lowe and Campbell-Ewald)

Innocean: Hyundai (In-house)

ルノーはPublicisのグローバルクライアントだが、ニッサン側は、合併したPOG(Publicis Omnicom Group)は
『Best-in-Classが集まるので、歓迎』とコメントしている。

アトリビューションは財務用語

12 years 2ヶ月 ago

 NYで9/16に行われたプログラマティックI/O とその翌週のADWEEKは、新しいバズワードをいくつか生んだ。

 プログラマティック・アップフロント
 マーケターズ・スタック(スタックについては別途ブログ書きます・)
 などと伴に注目を集めた「アトリビューションは財務用語」

 元フォレスターのコンサルであるオコーナー女史が発信したのだが、実際にIntuiteという財務システムのインテグレータが、この概念を持ち込んで自社の「財務システム」をアピールしているようだ。

 アトリビューションといえば今のところ広告投資しかもネット広告投資の配分の最適化という範囲の話になってしまうが、広告だけでなく事業全体の財務諸表つまりPLの改善にアトリビューションという概念を持ち込んでいる。
 
 日本の企業の場合、多くの経営者はマーケティングというと広告販促という範囲で意識している。またどちらかというと広告部門はコストセンターで、予算化された費用を「まあ効率的に使え」ということになる。
営業、開発、生産、労務ほか事業全体からすれば、いくら使うと売上げ/利益がどこまで拡大できるかという投資発想より、コストとして現状の効果を維持しながらいくらまで縮小できるかに神経が行っている。
 
 データマーケティングというのは、究極的に財務諸表に結果が反映されないと意味がない。そのためには、人・モノ・カネの最適配分が事業全体の成績表にどう反映されるかをデータをもって評価し判断することになるだろう。

 日本では、ROIという財務用語がやっとマーケティング用語になるかならないかだ。逆にアトリビューションが財務用語になるかというとまだ道のりは長い。
 マーケティングのフロントライン(CMO)と情報システム(CTO)が文化の違いを乗り越えて融合しようという話に、CFOまで顔を出す話だからだが、これをトータルに判断できるCEOがいたら、それは強力な企業になるだろう。

プログラマティック・アップフロント

12 years 2ヶ月 ago

またまたNYからのレポート(Sakaeda Report)

先日(9/17)のNYでのProgrammatic I/O からも面白いテーマが続々と・・・。

そしてこのエントリーでは日本時間の明日AOLが発表する「プログラマティック・アップフロント」のお話。

「プログラマティック・アップフロント」という新語が去年から使われるようになり、今年は9月23日から開かれるアドウィークでAOLがプログラマティック・アップフロントに参入する記者発表を行う。

http://www.aolnetworks.com/blog/its-time-programmatic-explode-creativity
(AOLの事前発表 2013/7/23)

「アップフロント」とは米国のテレビ広告業界の用語で、毎年9月から始まる新番組に合わせ、前予約買いを6月に行う「販売イベント」の事。あるいは日本風に言い換えると「タイム枠予約販売」だろうか。アメリカの昨年のテレビ広告費はおよそ6.4兆円($64billion )で、この予算がプログラマティック(=デジタル)予算にシフトされる事が、マーケティング業界最大の構造変化と言われている。現に先日ニューヨークで行われたプログラマティックI/Oイベントでの「オオトリ」の最後のセッションでも、「TV広告費のビデオシフト」が大きなトピックであった。

先駆者はGoogle&Youtube。昨年以来、百億円単位の投資で「チャンネル」「オリジナルコンテンツ」を開発し、一部大手マーケター(ユニリーバ、トヨタ、GM等)に数十億円単位のパッケージをエクスクルーシブ権をつけて販売していた。Adageの資料によると、ある音楽パッケージは62億円という。(単位は1ドル=100円)
http://adage.com/article/digital/youtube-drops-price-upfront-packages-lure-tv-dollars/241137/
(Adage 2013/4/26)

今年は昨年の策から改良が進み「1億円単位」のパッケージに分解され、大手は口数多く買えて、中堅は手軽に買えるよう融通を効かせ、エクスクルーシブ権も解除し、より広範囲に広がるように考えられた。(エクスクルーシブは、同じ広告が何度もくどい程流れてしまった教訓もあった)

アップフロントならぬ(デジタルの)「“New“フロント」イベントが下記のチームで組織され(Google、Yahoo!、 AOL、Microsoft、Huluと、デジタルビデオ大手勢ぞろい)、今年は1.8兆円分がコミットされた。これは6.4兆円の「テレビダラー」からすると、相当大きなポーションであることがわかろう。WPPのマーティン・ソレルは「Googleはすでにテレビ予算の最大享受者になりつつあり、(Fox局を持つ)ニューズコーポレーションを抜く事になるだろう」とコメントしている。グーグルには1万2千人の「営業」がテレビ予算獲得に動いている。

programmatic01.gif “New”Front(プログラマティック・アップフロント)のメンバー(=売り手側)

New Frontの上記プレーヤーに登場しない、影の強敵はNetflixである。すでにNetflixはビジネスの立ち位置を「映画とテレビ局番組配信のNetflix」という他人コンテンツ単位の配信屋から、「映画と(オリジナル)番組シリーズのネットワーク」と変更し、オリジナルコンテンツのネットワークという位置付けにしている。「コンテンツはテレビ局有利」などというのは、もう今や昔の世界に進行しつつある。

Programmatic02.gif

Youtubeも米国でアクセス人気のWIGS, Nerdist, Vice, Machinima Prime, Jay-Z's Life & Times(以上チャンネル名 例は下のリンク)等のオリジナルコンテンツを開発し販売をしている。Youtubeのセールストップは「昨年は100チャンネルを作ることに目線が行った。しかし今年のフォーカスはチャンネルの販売そのものよりも、いかに有効なオーディエンスを作っていくかに特化する」と言っている。パブリッシャーやネットワークの売り物は(コンテンツに伴う)オーディエンス(データ)を開発する事、がここでも証明されている。

Machinima Primeチャンネルサイト
http://www.youtube.com/user/MachinimaPrime

例えばYoutubeは、アメリカ広告主協会がとりもつAlliance for Family Entertainment(AFE)という広告主のアライアンス(ユニリーバ、ウォールマート、サブウエイを含み、全米広告予算の37%を占める団体)と契約成立させ、ファミリーフレンドリーな番組32チャンネルをパッケージで販売成立させた。

Google・Youtubeのテレビ予算獲得の決め手文句は、テレビ視聴のヘビーユーザーを除く、「テレビを時々見だけのライトユーザー」へのリーチ・コストを効率化させること。アメリカのテレビ視聴者層はヘビーユーザーで固定しており、このユーザーへのリーチは強いのだが、時々の視聴者にリーチとフリークエンシーを稼ぐには多大なコストがかかる事で知られている。Googleは、「Extra Reach Tool」という商品で、ラップトップやタブレットを通じた視聴者に向けてテレビ予算のシフトを狙っている。

さて、冒頭のAOLに話を戻す。

打倒GOOGLE、アドテクの仕組みに、あの「アップフロント」概念を持ち込む
http://adage.com/article/digital/aol-launch-upfront-programmatic-ad-buying/243278/
(Adage 2013/7/24)

AOLがプログラマティックの世界にジャンプイン
http://www.adweek.com/news/advertising-branding/aol-launch-programmatic-upfront-during-advertising-week-151392
(Adweek 2013/7/24)

今月Adap.tvを買収したAOLはRazorfishのグローバルCEOをAOL NetworksのCEOとして迎え入れたとこで(aQuantive時代から、Razorfishに繋がってる人物、優秀なテックチームがいる)、GoogleやAdobeと対等に競える程の優れたチームを作れる可能性がある。

テック・スタック(スタック、もキーワード。アドテクを束ねてる状態をスタック、と呼ぶ)がまるでピザを細かいスライスに切ってしまうように、パブリッシャーに入ってくるはずの予算を、途中で細切れにして食べてしまっている。
これをAOLは「アドテク税」と呼んでいる。
http://www.adexchanger.com/online-advertising/aol-announces-programmatic-upfront/

(AdExchanger 2013/7/24)
Programmatic03.gif

例えば、広告主の予算1ドルに対し、

広告主:1ドル支払い
DSP:15%ー20% 取り分
データスタック:20-40% 取り分
SSP:15-20% 取り分
パブリッシャーに落ちる残高=45セントから25セント という構図だ。

AOLの提案は、技術的に新しい事が始まるのではなく、モバイル、ディスプレー、ビデオ、すべてを1プラットフォームで買って下さいというグーグル対抗策。AOL Networks は傘下に Adap.tvの他、Marketplace(SSP)や、
AdLern Open Platform(DSP)や、ADTECH(クロススクリーン、アドサーバー)Advertisiing.com(アドネットワーク)
などを束ねた、さながらミニGoogleだ。
http://www.aolnetworks.com/
(AOL Networks サイト)

この9月のタイミングの発表は、Q4予算を囲い込む事を狙っているとされる。ブラックフライデー予算と言ってもよい、ここぞのタイミングで年末投下調節する大きな「浮かせてある」予算だ。今年年末にかけて、どのような結果になっているか。プログラマティックトレンドのテレビ予算侵攻は、日本ではどのアライアンスが先手を打つか。

ニューヨーク榮枝洋文

アドテック東京2013で発信したかったこと ~まとめ~

12 years 2ヶ月 ago

その1) パブリッシャーは、オーディエンスデータによるコンテンツのマーケティングを志向すべし

  公式セッションでは、パネリストのみなさんに「オーディエンスデータはマーケティングの通貨足り得るか」という質問をぶつけてみた。マーケター側にとって、メディアのオーディエンスをどうマーケティングの対象者として評価するかは、プライベートDMPで、1stPartyデータをメディアオーディエンスデータと紐付けることで実現する可能性が見えてきた。
 これからは、DSP/RTBだけでなく、枠ものもオーディエンスで評価される。マス広告にしても、例えばTV視聴動向調査を組み込んだオーディエンスデータが当然のように世の中に出てくる。ペイドを買う側は、配信対象の評価を精緻なデータ(今までのような男で20~34なんていうあまりにざっくりしたターゲット区分ではなく・・・)で行えるので、商品によっては、「この配信対象にはノンターゲットの単価の100倍、200倍かけていい。」ということが平気で起こってくる。
 こうしたオーディエンスデータによるマーケティングは、パブリッシャー側のコンテンツ開発に非常に大きな影響を与える。うかうかしているとマーケター側が各々のメディアのオーディエンスをどんどん評価してくる。(この流れじゃ止められない。)先んじて受け入れないと、メディア自身は従来どおり経験と勘でコンテンツ開発しているが、マーケターはしっかりデータを抑えているということになりかねない。これはメディアにしたら脅威だろう。
 ちょうど、17日にニューヨークで行われた「プログラマティックI/O」というイベントでもメディアサイドがパネリストになったセッションで、下記のような議論がなされた。(デジタルインテリジェンスNYからの速報です。)

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 ~パブリッシャーは「コンテンツ開発」起点から、「ターゲット・ディストリビューション」起点の発想を~
  「良いコンテンツをつくれば売れる」という妄信は捨てて、どこの、どんな人に、いつ、何を(どんなコンテンツを)ディストリビューションするといいのか、という事をデータで詳らかにして、逆算でコンテンツをつくる事は今後常識となるだろう。
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ビジネスモデルが広告だから、広告のバイサイドの志向に敏感になるのは当然だが、広告収入を最大化するためにオーディエンスデータでコンテンツ開発するということではなく、そもそも「いいオーディエンスを獲得する」ことはメディア/パブリッシャーにとって矜持であるはず。
 オーディエンスデータでマーケティングすることは、広告のバイサイド、パブリッシャー双方にとってコインの裏表である。

その2)DMP導入で得られることは基本2つ。「『打ち手』の最適化」と「顧客の洞察」。まずは「打ち手」の最適化から入り、「洞察」を極めろ。


  「カスタマージャーニー」という新たな顧客洞察のための情報を得るチャンスが出てきた。私は、DMPは当然、今お金をたくさん使っている「施策」の最適化のためから導入するものだと思うが、究極は顧客と将来の顧客を「洞察する」ためだと言い切りたい。
 従来の「消費者インサイト」はマーケターや代理店のストプラが基本消費者の意識調査から仮説立てして「言い切り型」で行ってきた。しかし、設定したターゲットそのものも実証されないし、開発したコミュニケーションに本当にターゲットは反応したかも定かではないまま、次回キャンペーンへ・・・という具合であった。

 しかし、DMPによるカスタマージャーニー分析は、顧客化したユーザーを、広告接触や流入前検索行動だけでなく、登録情報や意識調査データ、購買行動データ、ソーシャルメディアのデータなどで情報をリッチ化して「洞察する」ことが出来そうだ。意識調査では現れない行動データと、行動データだけでは分からない意識変容過程などを統合すると、顧客化の文脈が可視化できる可能性がある。
 これからは、こうしたデータから「文脈発見型」のマーケターの時代だと思う。
ここ10年くらい代理店が一生懸命バズワードにしてきた「消費者インサイト」。しかし、本当の「インサイト」を見つけ出す作業は、プライベートDMPによってマーケター自身が自分で行う時代である。(そもそも昔から自身でやるものである。)


その3)「クリエイティブアダプテーション」から「本当のクリエイティブ」へ

 「アトリビューション」や「リ・アロケーション」がバズワードだった昨年から、たしかに「DMP」や「データマーケティング」、「データサイエンティスト」が旬になっている感があった。
 アトリビューションでメディアが最適化され、ネットのブランディング効果もしっかり評価され、オーディエンスデータで配信対象も最適化されると、最後に残された、そして最も大きな最適化の変数は、「クリエイティブ」である。

 NYのプログラマティックI/Oでも、「クリエイティブアダプテーション」というワードで出ていたそうだ。
 今、ネット広告で行われているクリエイティブの最適化作業は「クリエイティブアダプテーション」(既存の表現素材のなかの組み合わせでアダプテーションを見ているだけ)であって、本当のクリエイティブではない。

 前述のカスタマージャーニーによる洞察から、しっかりしたコミュニケーション開発がなされるべきで、かつ各々の文脈によるクラスターごとの最適なメッセージ開発と配信が行われるべきである。
 そのためには、トラディショナルな広告のクリエーターの力がどうしても必要だ。
私は、総合広告会社のクリエーターがもっとアドテックに足を運んで欲しい。

 データで縛られることを怖がらないで、またデータでPDCAを廻すことも苦にしないで出来るクリエータに変身して、デジタルマーケティングにどんどん参入して欲しい。再三言っているのだが、「デジタルマーケティング」とは、「デジタルな施策で得られるデータ(ファインディングス)によって、マス、リアルを含むマーケティング全体を最適化する試み」である。マス領域の人の手を借りない「デジタルマーケティング」などない。

 えらく昔だが、私は資生堂宣伝部のコピーライターだった小野田隆雄さんが独立された後にお仕事をされていただいたことがある。本当に力のあるクリエーターはやっぱり違うなと思ったのは、小野田さんは僕に「横山くん、いろいろ調査とかで、表現コンセプトは条件づけされてるんでしょ?いろんな条件づけをして僕を縛ってよ。」と言われたことだ。マスでひとつのコピーに収斂させてしまうクリエイティブと、これからはかなり違うかもしれないが、事前に持っているネタでクリエイティブするのではなく、データから見える顧客の文脈に合わせたコミュニケーションを発想できるクリエーターこそ本当に優勝なクリエーターなのは今も昔も変わらない。

 実はまだまだ発信したかったことはあるが、今日のところはここまで・・・

公式セッション、プライベートセッションと合わせて5つのセッション及び、バンドのセッションも(久しぶりに博報堂ケトル木村健太郎氏とも音を出せて)充実したアドテックでした。みなさま有難うございました。

Xaxisの大きな一歩

12 years 3ヶ月 ago

このエントリーは、デジタルインテリジェンスNYからの注目記事レポートです。(Sakaeda Report)

Hulu, ABC Testing Programmatic Video Ad Selling GroupM's Xaxis rolls out TV-style buying offering

http://www.adweek.com/videowatch/hulu-abc-testing-programmatic-video-ad-selling-152275

Xaxis(&GroupM)が水面下で動いていた
HuluとABC局とViacom(MTV等を持つ)の枠売りを
Programmaticで卸せるディールを発表し、
テストに入りました。Ad-exchangeからは入札できないクローズドの
プレミアム枠です。

AOLがAdap.tvを$405millionで買収したことで、
騒ぎの大きくなったビデオ(テレビ)コンテンツですが、
Adap.tvがボットを使った不良枠をさばいている噂が絶えず、
Xaxisは着々と、優良枠に絞って交渉をしていたのでしょう。

HuluやForbesが頑なにアドネットワーク/エクスチェンジと
取引しないのはニュースになってましたが、Xaxisが交渉ホールドしてた、
と予想されます。

エクスクルーシブの、この予算枠は、大きい。

マーケター側の名前は出てきませんが、
ケロッグ、キンバリークラークなど、予想されますね(名前は公表されてません)。

プラットフォームパートナーは、
VideorogyとTubeMogulと出てます。

・エクスクルーシブ、というのはつかの間で、
 次第に他のATDも同じ釜に参入してくる。
・他のATDが、他のネットワーク局とのディールを発表する

などが次の展開でしょうか

広告業界世界再編、次のアクション

12 years 3ヶ月 ago

業界を驚かせた「オムニコム×ピュブリシス」合併劇。
先日は「さて、マーティン・ソレルはどう動くか」と書いたが、当然動くのはWPPだけではない。電通もIPGもWPPに呑みこまれるよりは、お互いが合流する方が可能性がある、という記事が出ている。
 
Further Consolidation A 'Near Certainty,' Wall Street's Wieser Suggests Dentsu May Be Next
 http://www.mediapost.com/publications/article/208585/further-consolidation-a-near-certainty-wall-str.html#axzz2eEJwj3Z4


くしくも、2020年のオリンピックが東京開催で決まった。いかに裏で電通さんが頑張っただろうか。(電通さん、えらい!良くやってくれました。)ということで、いろんな意味で日本企業はエンカレッジされたと思う。そういう意味では、電通さん自身も、より積極的な(強気な)戦略に出る可能性がある。私も、どうせなら主導権を日本企業にもってもらって次の再編に挑んで欲しい。
 
 この記事の要約は以下のポイント。

次のビッグムーブメントがあるとするなら、電通がIPGとだろう、ということだ。理由は5つ。
・海外比率を高めたい、という強い動機とムーブメント
・Tim Andreがやりたがる
・Havasとでは、フランス国の占有率高さが大きすぎ(Aegisと)
・IPGもWPPとひっつくより、戦略的だ
・TimはFinancial Timesにも、コメントをコボしている

広告主がオウンドメディアやデジタル/ソーシャルコンテンツの企画提案を要請する場合

12 years 3ヶ月 ago

 結論から言うと、テレビCMのコンペのように、キャンペーン毎に何社も何社も代理店に声をかけて、比較的短期間にコンペさせるのは考え物だ。良い提案を受けられない可能性が高い。

 まずこの領域にはそれぞれエキスパートはいるが、数が少ない。大手代理店に依頼しても、その先ではみな同じ所に声がかかることが非常に多い。それでは代理店の存在意味がない。代理店に頼むなら代理店の社内チームを指名しないといけない。もちろん代理店が連れてくる外部プレイヤーには直接オファーすべきだ。

 だいたい代理店に頼むと、営業がエキスパートとアサインするために奔走するのだが、それまでに時間をえらく使う。オリエンからプレゼンまで1カ月あるとして、3週間をアサインに費やすことも稀ではない。結局プランニングには実質時間がなくてロクなプランにならない。直接頼んでフルにプランニングに時間をかけてもらった方がいい。
 ただ、一様に代理店がだめと言っている訳ではない。エグゼキューションがしっかりしていて、実施ベースのリアリティのあるアイディアをしっかり持ってくることが多く、そこをちゃんと評価しないといけない。デジタルコンテンツは、アイディアだけで評価してはいけない。但し、前述したように代理店内のスタッフを指名することだ。

そういう意味では、デジタルコンテンツ領域では、実施力も含めて、ブランドはパートナーをしっかり選んで契約し、中長期でじっくりブランド側を理解してもらい、「あうん」の呼吸で仕事が進むようにしなければならない。

 なぜかをもう一度整理すると・・・。

① この世界のエキスパートは数少ない。競合プレゼンばかりでは良いプランニングを買うことは出来ないし、パートナーになって貰えない。
② クリエイティブやコンテンツもPDCAを廻すことになるので、中長期のパートナー化は必須である。
③ マスメディア枠のバイイングを前提としていないので、代理店のようにサービスでソフト提供は受けられない。アイディアはちゃんと買うこと。

いずれにしても、従来のマス広告キャンペーンのプランニングを買うこととは質的に違うので、従来のワンストップの代理店モデルは対応できないと考えるべきだ。AE制度が徹底したはずの欧米でも、デジタルなどの専門性の高い領域が増えたことで多数の会社に依頼するようになっている。なぜそうしているか。
デジタルに疎い代理店の営業を挟んで仕事を頼むことは、もうそれだけで良質なプランを買うことは無理だと考えないといけない。

 また、多数の会社に競合プレゼンテ―ションをさせればいい提案を受けられると考えるのはナンセンスである。提案までにしっかり時間をかけてもらうようにすることも鉄則だ。
 クライアントは選んでいるつもりかもしれないが、一方で本当のエキスパートには選ばれているということも忘れてはいけない。代理店ではないエキスパートに提案を募る場合は、ちゃんとプレゼン費用を払うことだ。常日頃多額のメディア扱いを発注している代理店と、まだ何も仕事を依頼していないエキスパートをいっしょにしてはいけない。

 本当に力のあるプレイヤーをパートナーとするには、それなりのやり方がある。欧米にはパートナーと選定するためのコンサルがいて、ほとんど彼らを使う。
 いいパートナーと契約するためには、それなりの知見や情報が必要なのだ。

さて、マーティン・ソレルはどう動くか

12 years 4ヶ月 ago

 オムニコムとピュブリシスの経営統合を受けて、注目されているのが、WPPがどう動くかである。マーティン・ソレル氏のことだから、そのまま黙って観ている訳はないというのが大方の見方である。

 ピュブリシスオムニコムの大連合に対する対抗策というと、基本選択肢は2つであろう。
そうです。IPGと連合するか、電通と連合するかになる。
 WPPにとって、グローバル展開のなかで、最も手のついていない、かつ独特の商慣習とメディア支配で、いかんともしがたい日本市場(世界3位の広告マーケット)をどうするかを基準に考えると、WPPは電通と組むメリットは確かに大きい。しかしこれは電通さん側から見て、どれだけのメリットがあるかというと、あえて呑みこまれてハッピーになる感じはないだろう。個人的にも、日本資本が頑張って欲しいし、イージスを統合した決断の末、WPPに呑みこまれる選択があるようには思えない。

 もうひとつの側面は、ピュブリシスオムニコムが、米国市場でWPPの2.35倍に膨らんだことに、どう対抗するかだ。
 おそらく米国連邦取引委員会では、今回の合併を審査するだろうし、そう簡単に承認される話ではない。
 当然、世界最大の広告市場アメリカで、ここまで引き離されることをマーティンが容認するかというと、なかなか看過しづらいだろう。
 そうなると、IPGがターゲットだが、こちらも相手があることでもあり、簡単ではないはずだが、あまり勢いのないIPGがどう考えるか・・・。

 それにしても、今回のピュブリシスオムニコムに関していうと、ずいぶん双方のお爺さん経営者同士の、ちょっと世代感でいうと、昔の人たちの合意であるという感じが否めない。
 マーティン・ソレル氏もそろそろ70に手の届く年齢ではあるが、彼らよりはるかに次世代マーケティングコミュニケーションを理解しているものと思われるし、デジタルに関しても相当勉強していて、理解している。当然デジタルを理解している若い人材を積極登用し、そばに置いている。元24/7のNo.2をWPPのデジタル戦略担当に置いているし、そのあたりは抜かりない。そういう意味では、デジタルでWPPに対抗できていたメガエージェンシーはピュブリシスであったので、トップはお爺さん同士でも、デジタル戦略において、むしろ旧オムニコム側のメリットは大きい。
ここで面白いのは、ATD(エージェンシー・トレーディング・デスク)が戦略的に囲い込もうとしているデータであり、僕もATD/DMPでいうと、スケール感ではWPPのXaxisしか残らないだろうと思っていたので、今回の巨大エージェンシー統合の裏には、データ囲い込み戦争があることには間違いない。

お爺さん同士の発表では、あさはかにも、「データの統合により消費者データがGoogleに対抗できる」てなことを、「言ってしまった」感がある。アメリカ当局、それを参考にするフランス当局がこれからどう判断するかは、注目か・・・。
Adageのチーフエディターが「データの統合、ってあからさまに言ってはいかんでしょ」と言ってる。
http://adage.com/article/viewpoint-editorial/publicis-omnicom-s-data-play-wrong-approach/243480/

エージェンシー側から見ると、インハウスDMPという広告主によるデータ主導権奪取に危機感をもっているに違いない。
 いかに大企業であっても、個別にDMPをつくるよりも、DSPによる広告配信のデータを最適化するには、ATDを使った方が、データが大きい分、より最適化が効くということにしたいのだろう。
 しかし、インハウスDMPの流れは、XaxisやピュブリシスオムニコムのATD統合を受けても揺るがないだろう。何故かというと、DMPは広告を最適化するだけのものではないからだ。
 そこでITサービス事業者との激突が起こるだろう。彼らもマーケティングのフロントに進出しようとしてくる。彼らは、広告は自分の領域ではないので、DMPを広告の最適化などというマーケティング全体から見れば一部でしかない行為ではないと主張してくるだろう。実際、広告の最適化だけより、商品開発、流通、生産、労務などを最適化する方がはるかにPLへのインパクトが大きい。データサイエンティストを全面に押し出して、マーケティングの領域に進行するだろう。マーティンは逆にWPPはCMOからCIOの領域にも進出するんだと檄をとばしているが、エージェンシーがCIOの領域に踏み込むのはそんな簡単ではない。そもそもWPPからすればお客様であるIBMさんがIBMインタラクティブでどんどん成長していることをどう思っているんだろうか・・・。

 さて、面白くなってきた。
 僕は広告業界同士の連合という企てを96年にしてみたが、今はエージェンシー同士が手を組む意味はほとんどない。シュリンクする市場の弱者どうしはお互いになんのメリットもないだろう。淘汰されるべきは淘汰される。
 様々な業界が再編されてきたなか、いまだに手つかずの放送業界にぶら下がって、自身も変革の波から逃げ続けてきた広告業界も、業態変革を突き付けられる。おそらく今いる従業員の8割は使い物にならない業態になることを認識して手が打てる経営者がいるエージェンシーだけが生き残る。

確認済み
2 時間 53 分 ago
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