業界人間ベム

広告会社の行く末 その1

13 years 2ヶ月 ago

 「時代が要請する新しいマーケティングコミュニケーションをどういうプロセスで開発するか」デジタルマーケティング時代に、旧態の広告会社が立ち至るテーマである。

 そもそも広告媒体枠を買ってもらうために行ってきた「広告クリエイティブ」なので、広告会社にとっては広告媒体枠(特にテレビの扱い)販売に繋がらない「コミュニケーション開発」に注力する道理はあまりない。
 ところが、時代は、広告(特にペイドメディア枠によるマーケティング活動)だけでは消費者主導のコミュニケ―ションに対応できない状況を生んでしまった。そうなると、15秒のCMや15段の新聞広告といった、決められた「広告フォーマット」の中をクリエイティブする作業(私はこれを「広告クリエイティブ」と呼んでいる。)だけでは立ち行かなくなった。広告クリエイティブだけでなく、戦略的PRアプローチの「情報クリエイティブ」や「ブランデッドコンテンツ」またはマーケティングコミュニケーションの一環としての「ユーザーサービス開発」が必要になってきた。

新しいマーケティングコミュニケーション開発の視座3.jpg

 戦略的PRのひとつのメソッドである「情報クリエイティブ」には、ファクトマーケティングをはじめ、アーンドメディアをソーシャルメディアだけでなく、既存メディアの情報開発力と情報発信力をソーシャルによる拡散力をテコに、消費者の「自分事化」の促進を仕掛けるコミュニケーション開発の発想が必要である。これにはそもそもPR会社がもつスキルをデジタル&ソーシャル対応に変革するところに新たなスキルが開発されるものだろう。

 また、広告フォーマットを離れて、コミュニケーションコンテンツを開発するブランデッドコンテンツ開発などでは、単に映像開発だけでなくゲーミフィケーションやARG発想が必要だろう。もちろんソーシャルメディアフレンドリーなコンテンツづくりだ。ここにはCM制作者の発想だけでなく、映画やテレビ制作、ゲーム開発者ほかの様々なコンテンツクリエーターやハイエンドなクリエイティブでないアマチュアの手による新発想を取り入れる必要がある。
 さらに、企業のマーケティングコミュニケーションにとって、開発すべきものは読みものや映像コンテンツだけでなく、Webサービスの開発、さらにビジネス開発の領域にまでに至っている。例えば「Nike Fuelband」はサービスであり、事業であるこの施策をNYのデジタルエージェンシーであるR/GAをパートナーに開発したところが注目すべき点と言える。

 こうなると、広告会社にある知見やコミュニケーション開発力は、それだけでは時代への対応力がなくなっている。優秀なクリエーターは今、おそらくクリエイティブ力をサービス開発や事業開発に向けているだろう。それができない、またはそうしたオファーが来ないクリエーターやプロデューサーしかいない広告会社は今後生き残れるかどうかでは極めて危険な状況と言っていいだろう。とうのも、新しい知見を得るには、そうした新しい仕事をゲットしなければならないからで、新しい仕事が来ない会社には、スキルが育つ可能性がないのだ。
 広告主にとっても、デジタルマーケティングをはじめとして、次世代型の仕事は、「どこに頼むか」ではなく、「誰に頼むか」になって久しい。
 
 従来、日本の広告会社、特に総合代理店を称する比較的大きな規模の広告会社はワンストップで様々な仕事をこなすことに優位性を持っていた。欧米はアバブ・ザ・ライン、ビロウ・ザ・ラインに基本担い手が分かれていたが、日本の総合代理店はブランディングコミュニケーションも販促イベントもすべてこなすところが「売り」でもあった。
 しかし、時代はあまりにもマーケティングに専門性の必要な新たな課題を突き付けてきた。営業のフロントがいて、後ろに専門スタッフがいるという体制で、いかに従来のワンストップを維持してきたとしても、そもそも社内に知見のない領域が急激に必要性を持ち始めたため、知見育成の時間がない。それもオウンドメディア領域やソーシャルメディア領域は実践する広告主企業の方がはるかに知見を得てしまっているという広告代理店にとって実に不都合な状況になってしまった訳だ。

 特に営業のフロントラインのデジタルやソーシャル対応力は目を覆いたくなるような状況で、いくらスタッフがデジタルに強いと主張してみたところで、営業に知見がないところに仕事がくる訳もなく、仕事が来ないのでいくら専門家がいるといってもスタッフはどんどんスポイルされていく。特にこの早いスピードで進んでいくデジタルマーケティングの世界で、半年も最先端の仕事に関わっていないとなると、すでに「使えるスタッフ」ではない。
 
 ここに至って改革が必要な広告会社の経営者には、大きな経営判断が求められている。もうぎりぎりのところまで来ていると言える。どうしたらよいのか・・・。

 その2につづく・・・。 

あまり詳細に書いてしまうとコンサルビジネスにならないような・・・。(笑)

 ~どうしてマス広告人だったベムがデジタルに足を踏み入れたか~

13 years 2ヶ月 ago

「デジタルマーケティングとアドテクノロジー」というタイトルで先日翔泳社MarkeZineのカンファレンスで講演をした。よく思うのは、最近のこの「デジタルマーケティング」というワードなんだが、・・・ということはデジタルでないアナログなマーケティングがあるということなんだろうが、マーケティングにデジタルもアナログもないような気もするが・・・。

代理店にいて、16年前に新会社を起案する時、社名にデジタルをつけた。扱うのがまさにデジタル広告だったからだ。その後、レップからエージェンシーサイドで新会社をつくる時は、インタラクティブを社名にした。その方が本質だと思ったからだ。インタラクティブとは、「インター・アクティブ」つまり「双方向性」ではなくて、「双作用性」のことだ。「双作用性」はもちろんほとんどがデジタルで実現しているが、TVはデジタルでもまだ「双作用性」ではない。そしてアナログでも双作用性は実現できる。

 僕にとって、「インタラクティブ」なキャンペーンが出来たのは、80年代後半で、ある飲料の商品開発及びそのローンチングキャンペーンでだ。まず瓶容器だったその飲料のラベルに電話番号を刷り込んで、テレホンサービスを実施した。女子小中高生向けブランドだったので、ソフトは「占い」やら「おまじない」やらだが、24時間のうち午後8時~9時だけは電話をかけてきた方が声を吹き込むことが出来るようにしておいた。その声、つまりユーザーが自ら話す身の回りの話を選んで、ラジオCM素材として「三宅裕司のヤングパラダイス」で流した。90秒のラジオCM素材は毎日違うものをつくるので、自転車操業で制作しなければいけなかったが、毎週有楽町のニッポン放送に立ち会いに行くのは楽しかった。CMのナレーションは当時「タッチ」の声優だった三ツ矢雄二さんで、「今日はどこどこの誰から・・」とユーザーの声が流れると、テレホンサービスの電話回線はほとんどパンク状態。都内のコンビニでは週販で1位になる店も出た。
 当時はまだ7割以上ダイヤル電話の時代。でもキャンペーンは「インタラクティブ」だった。このキャンペーンが終わったあと、電話設備会社の人とダイヤルでも自動音声応答装置をつくろうとした。ダイヤルを廻すと、番号によって独自の周波数が出る。オシロスコープにつなぐと測定できるこの周波数の波のグラフを積分して面積を出して数値化する。社会に出て始めて高校の数学が役に立った。
 余談だが、今はどうか知らないが当時、統計は数3で、文科系を目指すとほとんどの高校生が統計をやらないままになる。ビッグデータの時代だが、日本には統計数学の専門学科のある大学はひとつもないそうだ。(韓国には32あるとのこと)
 その後プッシュホン時代になって、本格的に電話による自動音声応答装置をキャンペーンツールにする際に、紹介されたのがハイパーネットだったのも何かの縁だったか。
 とはいえ、学生時代のバンド仲間との縁で、僕はインターネットを広告ビジネスにすることになる。伊藤穣一くんとの出会いも、学生の時からの親友である厚川欣也氏がデジタルガレージの創業メンバーだったからだ。
 若い人たちには、会社の仕事での人脈だけでなく広く個人的なネットワークを広げておくことを薦める。
 
 僕は大学時代にフォートランを使って多変量解析で言語と言語の距離と方向をプロットするということをやっていた。広告代理店に入社すると、その部署で当時「ソード」がクライアントだった。ソードの漢字PIPSを使ってテレビスポットの進行表を局別からエリア別スケジュール表にしたりしていた。マックはDTM用だったが、98は使わず、DOS/Vから入って、スライドショー機能のあるHarvard Graphicsというプレゼンソフトを使っていた。またパソコン通信をやらずにいきなりインターネットユーザーになった。始めたころはまだブラウザソフトがなく、ゴーファーやニューズグループというソフトを使っていた。僕の世代はおそらくネットの第一世代だ。インターネットをビジネスにした最初のかつ最も上の世代である。その意味では、本格的なネット世代への橋渡し役でもあり、広告業界にあっては、マス広告、マスマーケティングを徹底して15年やり、インターネット広告を立ち上がりから15年やってきた稀な経歴を生かして、次世代広告人の育成をライフワークとしたい。

 今、出来れば現在ネット専業代理店で、インターネットに閉じたマーケティングをやっている若い広告人に、ブランディングコミュニケーション開発の知見やマス広告の仕組みやハンドリングをじっくり教えておきたい。川上で行われている「メディア戦略」や「表現戦略」「コミュニケーションコンセプト」はどう組み立てられるのか、CMクリエイティブはどうやって開発されるのか、またテレビスポットやマス広告のメディアプランニングはどう行われているかなどをインプットしておきたい。そういうことを理解し、出来れば実践をこなした上でデジタルマーケティングの担い手になることを薦めたい。ECやオンラインマーケティングもネットに閉じている訳ではない。ネットにしか接触していない消費者はいない。だからネットのマーケティングやコミュニケ―ションだけ分かってもほとんど意味をなさない。

 これからは、アトリビューションがキーワードになるだろう。アトリビューションは特にオンラインでコンバージョンパスが明確になる領域から始まるだろうが、それだけで終わるはずもない。当然マス広告やPR活動などを含めたトータルアトリビューション、(クロスチャネル評価)に行きつく。ネット広告という効果・効率をCPA評価で義務づけられてきたネット専業代理店のみなさんは、ラストクリックでだけのCPAが本当の指標でないことは十分理解しているはずである。そして、本当のROIを測定評価し最適化することを実践してみたいはずだと思う。その素地をつくるためにも、マス領域で行われている広告やPRの基礎知識(特に仕組み、取引の仕方や料金感覚)を持っていないと、シングルソースのサンプル評価でのROI分析設計も、重回帰分析をかけてモデリングする時の説明変数を理解することもままならないだろう。

 ある大手広告会社の元経営者がベムを称して、「突然変異」と呼んだが、新種ができる時は最初にミュータントが生まれないといけない。次世代の新種の広告人のために、僭越ながら自分に課されたと勝手に思っているお役目を果たしていきたいと思う。

「ネット広告は消費者にとって新たな情報との出会いを提供できるか」

13 years 2ヶ月 ago

 ネット広告業界の人なら、昨今、やたらとリタゲ流行りなのを認識している人は多いだろう。リスティング広告の隆盛は、広告を消費者の興味関心行動にカウンターで出すことが初めて出来て、そこに大きな価値を生んだからである。そして、この市場はまだまだ拡大基調にあるものの、一部の広告主では、何百万というキーワードを設定し、しかも上位掲載を確保しながらも、予算消化に至らないケースも増えている。
 そこで、リターゲティング広告とあいなる訳だが、ユーザーから見ると、あまりにも自分のWebブラウジングがリターゲティング広告ばかりになると、広告によって新しい情報に出会うチャンスを失っているという見方もできる。
 従来、AIDMAの入り口の認知は、広く多くのリーチをもってするものだった。ということはノンターゲティング的な広告が新規に認知を獲得するものという感覚があったと思う。

 しかし、2つのことで従来と異なる状況がある。ひとつは、「認知」は必ずしもペイドメディアである広告が独占的に担うものでもなくなっているということ。そして、新規の顧客獲得のための第一段階の「認知」訴求でもターゲティングされるべきものになっているということだ。
 
 リターゲティング広告とリタゲ拡張広告に、同等の効率(しかも即時効果)を求めてしまう広告主も多いだろうが、なにしろリタゲ拡張の配信対象はサイト訪問履歴のないユーザーだ。即、関心が顕在化して訪問者同様の行動を期待するのは無理がある。是非リタゲ拡張ターゲットの間接効果や時間を置いたコンバージョンパスを確認してみてもらいたい。

 というのも、直近の履歴ばかり追いかけることで、サイト訪問まではいかないレベルの多くの「興味」にインプレッション効果を発揮するチャンスを奪うと、ネット広告の効果は中長期で落ちていく気がする。そして、広告の大事な役目である新たな情報との出会いをつくることの機会拡大につながらなくなる。


 ネット広告のターゲティングはこれからが見せ場だ。精度の高いリタゲ拡張や3drパーティンデータによるオーディエンスターゲティングの活用は、ユーザーにとっては新たなブランド、新たな情報との出会いでありながら、それは極めて精度の高いターゲティングがされているということになるだろう。

 ベムは日本で最初にリタゲ拡張配信実験をした経験があるが、こうした仕組みは単にロジックとかアルゴリズムが良いだけでは結果は出せない。何度もチューニングしていくことが重要で、多くの事例、案件で学習したものが勝つ。

 広告主企業も自社サイト訪問者(サイト訪問者をすべて同じ評価としたり、セッションベースでだけ測るのではなく、履歴内容やパス解析で評価仕分ける)の分析から、どんなユーザーなら、まだ認知しなかったり、まだ興味関心をもっていなくても反応が期待できるユーザーなのかと見極めることについて、そのターゲティング手法とチューニングによって精度を磨くということに取り掛からないといけない。

 関心を顕在化したユーザー(購買行動を起こしたユーザー)を分析し、期待値の高い新規顧客(未認知者、未関心者)をターゲットする技術を早く手に入れることで、ユーザーに新たな情報との出会いの機会を奪わない、そういうネット広告に早くならなければいけない。

ネット広告「次に来る波」

13 years 3ヶ月 ago

 「枠」から「人」へ という広告にとって大きなパラダイムシフトについては書籍ほかでアピールしてきたが、この構造変換を実現するDSP/RTBに関しては、日本ではまだまだリタゲのためのツールにとどまっているきらいがある。

コンバージョンの直前流入だけ測定してみると、まだまだリスティングが最も効率的という企業は多いだろう。次にリタゲ、あるいはリコメンドリタゲのような少し拡張型とリターゲティング拡張・・・。米国のようなオーディエンスデータを活用しているところはまだまだ少ない。
 実はベムは日本で初めてリターゲティング拡張による配信実験を行った経験がある。拡張ロジックはあるリコメンドエンジンを使ったものだった。その経験からすると、リタケ拡張を効果のあるものにするには、拡張ロジックもさることながら、実際に配信しながらのチューニングが欠かせない。ひとつのアルゴリズムがすべてを解決するという訳にはいかない。その意味では実配信を多く経験し、チューニングで精度を上げる学習が必要である。(これは拡張以前のリタゲでも言える。)
 
 リタゲが多すぎると、せっかく関心をもってくれたユーザーにしつこく配信し過ぎて、ブランドを毀損するという議論もある。確かに杜撰な設計のリタゲ配信には、そういう恐れがある。しかし広告主の多くは、そうはいっても「それなりに獲得効率が良い」リタゲに効果が見込めるので、(しつこいと感じる人はそもそもコンバージョンしてくれないユーザーでは?)と考えると、刈り取れるところに手を打つのは当然かもしれない。検索による効果が頭打ちになっている広告主も多く。ディスプレイ広告に残されている効果の余地を探っている感じだ。
 しかし、おそらくサイト訪問履歴のあるクッキーという配信対象だけでは早晩その効果は枯渇することは目に見えている。マスも使ってサイトに大量誘導をかけられる企業(関心顕在化層へのリピート訪問、リテンションの余地がまだまだあるブランド)はいいが、枯渇が想定される企業は、自社ブランドにとってのリタゲ拡張の有効なロジックの学習と、もうひとつ来るべきサードパーティのオーディエンスデータ活用に向けて、勉強を始めた方がいい。
 というのも、サードパーティの出来あいのデータを使って、すぐ効果が出ると甘く考えない方がいいからだ。逆に言うと、自社のファーストパーティデータとサードパーティデータをぶつけてみて有効なオーディエンスデータを構築できる企業とそうでない企業の差は大きく開く。
 このあたりの個別ブランドにとって有効なオーディエンスデータ構築にはそれなりの難しさがある。そこは我々コンサルの腕の見せ所ではある。
 オーディエンスターゲティングの実力発揮は、ファーストパーティクッキーの最適化を経て、訪問履歴やコンバージョンユーザーの文脈や、近似性をどうチューニングして、すでに行動を起こしたユーザーのデータから、未来の顧客(新規顧客獲得)をターゲティングするかというテーマ領域に入っている。

Earned Mediaの再定義

13 years 3ヶ月 ago

 ベムが「トリプルメディアマーケティング」を出版したのが、2010年6月。POEメディアという概念に最初に触れたのが、2009年春で、「3つのメディア」という概念をWeb研のセミナーで講演したのが、2009年夏でした。
 そして最近ではこの3つのメディアは、4つだとか、5つとかに再定義されている。
例えば、5つに再定義するモデルは、Paid、Owned、Earned、Promoted、Sharedだそうで、Promoted Mediaとは、「インストリーム広告やソーシャル課金プロモーション」(これはPaid じゃないのかな?)だったり、Shared Mediaは「顧客とブランドの共創やコラボレーションのためのオープンプラットフォームやコミュニティ」だそうだ。(これは何か分かるような・・・)
 しかし、どうもアメリカってデジタルメディア市場だけでもやたらデカいので、デジタルマーケティング領域の人は、トラディシャナルなマス広告やブランドコミュニケーションには精通していないケースが結構あって、捉え方が意外に狭く感じることがある。この5つのメディアでも、Paid Mediaを「デジタル広告、バナー、アドワーズ、オーバーレイ」とか定義していて、「ネットだけかい!」と突っ込みたくもなる。

 だから、そうなのかとも考えるが、そもそもアーンドメディアをソーシャルメディアだけに注目していることが多い。(5つのメディアの定義でも「Earned Media」は、「ブランドに関する会話、ユーザー生成コンテンツ)としていてマスメディアは念頭にない。)
 アーンドというワードはそもそもPRの世界では使われていた。媒体費を払わずに媒体費に相当する露出を確保するということで、当然、「パブリシティ」として取り上げてもらう新聞、雑誌、テレビ、ラジオでのことであった。

 しかるに、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌は、正確に言うと、純粋なペイドメディアではなく、ペイド&アーンドメディアである。(3つのメディアは企業にとってのマーケティングメディアとして3つに整理するのでこれでいいが、メディア側からすると自分はペイドメディアだけではないってなことになる。)
 
 こうした既存メディアで取り上げてもらうPR戦略上、記事というPRコンテンツをどうマネージメントするかは企業広報のお仕事であったが、今後はこうした一連のPRコンテンツとWebサイト内コンテンツの連携を進めないといけない。

 私は、広告以上にこうしたアーンドメディア施策が効果を発揮する場面はたくさんあると踏んでいる。その際に、一次情報を既存マスメディアにいかに発信してもらい、かつネットでの伝播をしやすくするか。またそうした記事コンテンツを踏んだユーザーがいかに一定のコンバージョンポイントまで達しているかをしっかり測定するマーケティングに期待している。戦略的PRによって「情報クリエイティブ」化を図り、純粋な記事として、または記事タイアップとして、そして企業Webサイトコンテンツとして、文脈の通った連携ができることが望ましい。
 ネット上のソーシャルメディアに注目するのはもちろんだが、UGCとともに既存メディアに発信してもらうコンテンツの仕掛けと、それをソーシャルで波及させるコツをつかむことが大事だろう。

ネットTVとルーフトップコンサート

13 years 3ヶ月 ago


 2004年ごろに40万円近くで買った37インチのプラズマTVを最近、買い換えた。42インチでなんと68800円。安くなったこともそうだが、ネット対応が前機種と違い、数段進んでいるので、本格的にネットTV生活にしてみた。そこでYoutubeやHULUをTVで観る習慣がついた。私にとって、Youtubeはここ何年かはiPadでベッドに寝転んで観るものだった。昔の洋楽ものを観ることが多く、昔完全にコピーできなかったギターのリフを「解説」してくれる動画が多いので参考にしている。特にピックを使わないで右手の指で弾くマーク・ノップラーやジェフ・ベックものは30数年ぶりに解明できたりして、ギター小僧の魂が再燃する。

 そして私にとって大きな変化となったのは、42インチに繋げて観るYoutubeが長尺になっていることだ。(とっくの昔にそうなっているのは分かっていたが)それを、改めて感じたのは、ビートルズの映画「Let it Be」の最後の屋上コンサートシーンが、フルバージョンで載っていることだ。昔は曲ごとに観ていたが、屋上に出てきて「Get Back」を演ってから、警察に止めるように圧力かかっても、踏ん張って最後もう一回「Get Back」してから帰るまで30分弱のフルバージョンだ。これを大画面で観ることにまた意味がある。


 想うに中学のころに、隣町の静岡まで(私は清水に住んでおりまして)姉と一緒に電車に乗って「Let it Be」のかかっている映画館に観に行った。この映像を観るのは実にたいへんだったけど、それだけの価値があった。年子の姉は、小学生の私にビートルズやデビッド・ボウイや、もろもろロックを教えてくれた人で、洋楽に対して早熟だったのはみんな姉のおかげでした。その姉がガンで亡くなって今年で9年経ち、こんな簡単にルーフトップコンサートが観たいときにいつでも観られる状況になったことに感慨を覚えて、小さな遺影の写真と一緒にこのフルバージョンを観た。「便利になったよね。」「あの頃は小遣い貯めて静岡まで観に行ったよね。」という会話があったように思えた。

 今や、こうした再生可能なコンテンツは正にオンデマンドで自在に享受できる。だから今どきの人はリアルタイムで聴いていないアーティストの楽曲が「いい」というが、私が「チャック・ベリーがいいよね。」と言っているようなものなので、ピンとこない。今のアーティストも昔のアーティストも同じ時間軸にあって評価するものは評価できる今の若い人たちはある意味幸せだよね。溢れるコンテンツに囲まれている。
一方で、コンテンツの価値は、ライブコンサートなど一回だけの体験型コンテンツになっている。この前、友人の佐藤達郎氏の講演で、アメリカのアーティストのアルバムセールスとコンサート収入の比率のグラフがあったが、イーグルスもボン・ジョビもマドンナもみな7割~8割以上がコンサート収入だ。うちの娘もこの夏はえらい回数ライブに行っている。

 ちなみに、「Let it Be」の最後のルーフトップコンサートシーンで印象的なのは、大音量でビルの屋上で始まったビートルズにみんな集まってくるところで、パイプをくわえた初老の紳士がはしごを上ってビルの屋上に上がって観に来るところが好きだ。
 このころは、ポールとジョージが露骨に仲悪いので、ジョンの曲はジョージはちゃんとギターでリードとるけど、ポールの曲はリズムギターでコードしか弾かないので、ジョンが一生懸命リードをとっている。そういえば、私は最初に組んだバンドで最初に演ったのが「ゲット・バック」で、ジョンのリードギターをコピーした。当時は本人よりうまく弾けてると思ってたが、今観るとこれまた味があって、あんなには行かない。「エピフォンはギブソンに買収されちゃったんだっけ?」とか思いながら、ネットTV生活は新しい次元に進んだ感を「ルーフトップコンサート」をYoutubeでフルバージョンを観るというエポックメイキングな時間でした。

デジタルマーケティング人材育成のひとつの方向性

13 years 3ヶ月 ago

 先日のDigital Marketing Tribe Nightでのパネルディスカッションに参加したのですが、活況で熱い夜でした。この日は特にサーチの分野で日々頑張っていらっしゃる皆さんも多く、アタラ杉原さんのサンフランシスコでのSESのレポートはたいへん興味深かったと思います。
 このレポートでより明確になったのが、リスティングだけ特化したスキルでも今後あまり価値を生まないこと、また逆にサーチのマーケティングが底の深い領域で、ここをしっかり身につけた者が幅を広げることに意味があることを再確認させてもらいました。

 マーケティングコミュニケーションに携わる我々は、いくつかのデジタルによる変革ポイントに直面すると考えます。

 そのうちのひとつは、テクノロジー(いわゆるアドテクノロジーだけでなく)を駆使することなしには考えられなくなったことで、実は実際に各種テクノロジーをオペレーションするスキルのなかから様々な知見やノウハウが生まれるということ。
 コンサルやプランニングとオペレーションはある意味不可分で、実務から生まれるナレッジが重要ということです。高速のPDCAサイクルでは「課題の発見」と「打ち手の提案」は日々のオペレーションから次々とアウトプットされるべきで、かしこまって1ヶ月かけてプレゼンするような性格のものではなくなっています。
 要は、中途半端なプランナーはあまり必要はなく、熟練したオペレーションと高度なコンサルがサイクルすればいいわけです。

 そしてビッグデータ時代のマーケターは、従来の「コレだ!」と「言い切り型」でコンセプトを打ち出すスタイルから、データの海からファインディングする「文脈発見型」になるでしょう。ビッグデータのマーケティングでは人間の頭脳で想像することをはるかに超えてくるので、プランナー、マーケターのひとりの能力や経験から、すべてを見通すことは無理なのです。
 そうすると、日々管理画面に向き合って、様々なテクノロジーの操作に長けて、自在にデータ抽出できるスキルが前提としてあってこそ、「意味」の読み出しが可能になると思われます。

 さて、そうした人材育成はまだどこも手がついていません。
 
 今回TATEITO社が実施するDSP/RTB研修のプログラムも、その一環として、特にリスティングオペレーション経験者が、そのオペレーションの幅を広げる第一弾になると思います。
 リスティングスキルにDSPの入札(トレーディングスキル)と3PASによってクッキーを統合して、コンバージョンパスを分析できるスキルを統合していくのが目的です。

 TATEITO社のデジタルマーケティング人材育成プログラム「マナビト」でのDSP/RTB講座は下記の要領となっています。

 http://tateito.co.jp/manabito-dsp/

 
 少数精鋭の育成プログラムです。

 ベムも講師として参加します。

Digital Marketing Tribe Night 開催

13 years 4ヶ月 ago

TATEITO社主催、デジタルインテリジェンス共催で、下記の

Digital Marketing Tribe Night が行われます。


日 時: 2012年8月23日(木)19:30〜22:30 ※19:00開場

会 場: ウルフギャング・バック・カフェ赤坂アークヒルズ店

     最寄駅:地下鉄六本木一丁目駅徒歩1分

若いデジタル広告、ネット広告業界のみなさん、是非いらしてください。

申し込みは下記からどうぞ

http://eventregist.com/e/DMTNight2012Summer

ネット広告業界をはじめとするデジタルマーケティングの業界も、これからまた大きな変革期に入りそうです。(まあ、同じビジネスモデルが3年しっかりもたないからたいへんです。)


その中で、将来に向けてスキルをどう磨いていくべきか。
正直、この業界で成長し、生涯収入を最大化するには、どんなキャリアステージのイメージを描いていけばいいのか、今はよく分からないという人も多いのではないかと思います。
デジタルマーケティングでは、新たなテクノロジーが次々と登場します。そうしたテクノロジーを駆使しようと思えば、操作画面に精通してオペレーションする人材が必要です。
しかしオペレーションをただの作業として、付加価値の低いものとしていては、業界が本当に欲しい人材は育たないのです。
オペレーションのなかから、データの意味を読み出す「分析官」、そして「打ち手」を提言する「コンサルタント」になるための知見を習得するチャンスがあり、また日頃オペレーションしているからこそ、そうしたスキルを獲得できるはずという考え方ができます。

もうひとつ、ネット専業や総合代理店でもネット広告部門にいる人たちは、広告主のメディア戦略の一番川下でしか作業をしていないことが多いので、そもそものメディア戦略、表現戦略というスタートの部分の理解がないまま、ネットの世界の部分最適を行っている状況なのです。

マーケティングコミュニケーションの全体像や、ほかのマス広告分野ではどんなプランニングが行われているかも知るべきでしょう。

自分たちのやっていることを俯瞰すること。そして、単体のテクノロジーオペレーションスキルをそれだけに終わらせずに、複合させることでより価値のあるスキルに向上させることなどから、価値あるスキルセットを持つ人として評価を得るためのプログラムを提供しようと思います。

当日、会場で是非お会いしましょう。

アトリビューションとリ・アロケーション

13 years 5ヶ月 ago

 この業界の人なら、「アトリビューション」というワードを聞いたことがあるだろうし、だいたい分かったつもりになっている方も多いだろう。しかし、これを「コンバージョンに至る広告を直前注入だけでなく、間接効果、アシスト効果も測定するもの」という認識であれば、一番肝心なところが分かっていないと言える。

 肝心なのは、配分の最適化を実際に行って、コスト削減する、ないしパフォーマンスを上げることころにある。実践して成果を出して初めて「アトリビューション」なのです。

 現状では、ディスプレイ広告、リスティング広告、自然検索によるコンバージョンパス分析が可能になった。
 さて、今後もっといくつかの方向に展開するであろうアトリビューションの進化の方向性を考えよう。
 
 ひとつは、マス広告を含めたアトリビューション分析である。
DSPを廻していると、TVスポットが入った瞬間、CTRがぐんと上がるのが分かる。テレビの効果があるのは当然分かっているが、どう測定するかは意外と難しい。
テレビという最強のプッシュメディアを使うと、ネット上にスパイクが起きる。これをうまく把握して、そこに二の矢を放って、テレビによって起きた波をより増幅させることができるといい。テレビで起こしたスパイクを放っておくのはもったいない。
 
 マス広告を含め、間接効果をどう評価するかは、商品カテゴリーやブランドごとに違いがある。そのためにもネット上のアトリビューションを分析し、情報への出会いからコンバージョンに至るカスタマージャーニーを見ておくことを、広告主の方々にはお薦めする。

 企業のマーケターに問われるのは、自分の担当するブランドにとって、ユーザーのブランド情報ファーストコンタクトから、何らかのアクションまでの、タイムラインをどう確認するかである。それはマーケティングの時間軸をどう最適に設定するかに繋がる。これでブランディング型訴求と刈り取り型の施策の配分や、メッセージ開発、シナリオ設計などが出来る。従来、経験的な感覚値でおこなっているこうした重要なマーケティングテーマもカスタマージャーニーを確認することが、かなり貢献するだろう。

 もうひとつのアトリビューションの進化の方向は、広告だけでなく、コンテンツも測定するということだ。コンテンツとはオウンドメディア内のコンテンツと、アーンドメディアにおける記事、PR記事である。
 記事を読んだユーザーに広告を当てた方が効果的であろうことは容易に想像はつく。ナーチャリングに相当するような「理解促進」を広告だけでなくPR手法も取り込んで行う方が良い結果を生む商品カテゴリーやブランドも多いはずだ。

 Hubspotなどはアドワーズを直接購入するような、どちらかというと中小規模の企業のインバウンドマーケティングに適しているが、プッシュとプルを最適化する大企業のマーケティングでは、(広告にも、PR戦略にも投資できる企業では)コンテンツのアトリビューションは重要なテーマのひとつになりそうだ。

 さて、アトリビューションを実践する上での課題も多い。
まずは、分析官がいないこと。
これは前回エントリーで書いたように、人材育成をやっていこうと思う。それしかない。

次に、コストを削減するための、あるいはパフォーマンスを上げるためのリアロケーションを実際に出来るかどうかである。
例えば、広告Aを削減して、その分広告Bを増やすとパフォーマンスが向上するという分析ができたとする。
組織を跨ぐとなると、予算削減されるAを担う部署が了承するかということになってしまう。また担当代理店が違うので、減らされる代理店の抵抗があるいうこともありうる。
その意味でも分析はサードパーティに任せたほうが理に適っている。

 「体温を計るだけでは病気は治らない。」
 
 これはレックス・ブリッグスの言

分析したら、その評価データに基づいた実際の再配分を行うことが重要である。
広告予算規模が大きい企業ほど、見直すことでのコスト削減や効果向上の成果が大きい。
10億使っていて、20%の最適化効果を得れば、同じパフォーマンス維持で2億のコスト削減が出来る。
もう広告メニューやサーチによるCPC、CPAだけを単純に並列させて「いい悪い」を言っている評価はナンセンスであることに早く気付こう。

「業界人間ベム」デジタルマーケティング人材育成に本腰を入れます。

13 years 5ヶ月 ago

 ベムは96年からネット広告に事業者として関わってきました。メディアレップといっても「何それ?」と言われたころからです。ちょうど電通さんが「日本の広告費」にインターネット広告を項目として区分したくれた年で、16億円でした。
 ネット広告の市場が拡大し、新聞を凌駕し、テレビに迫るまでになりました。今や米国ではデジタルエージェンシーの方が、トラディショナルなエージェンシーよりグロスインカム(粗利額)が大きいくらいなのです。

 この成長を支えたのは、パフォーマンスがはっきり把握できる広告として多くの広告主企業の方々が採用し、リピートしてくれたことと、地道な作業としてのPDCAを担ってくれたレップや代理店の現場のメンバーのおかげです。
 でも、プランニングや進行管理やリスティング入札などの業務で基盤を支えてくれている若い人たちに、次の展開として、どんなキャリアステージがあるとか、どんな価値のあるスキル習得が出来て、今後収入にどのくらい反映されていくかというイメージを、この業界が与えられていないように思います。
 地頭の良い、優秀な人材がかなり集まりました。研鑽も積んでいます。しかしもっとマーケティングコミュニケーションを俯瞰した思考を鍛えるべきで、またテクノロジーに対する知見を網羅する必要もあります。
 まず、目指してもらいたいスキルセットのひとつが「データテクノロジスト」です。これは従来の広告会社にはない重要な機能と役割です。そしてデータとテクノロジーに関わるからと言っても、広告コミュニケーションそのものの理解と全体を俯瞰できるようにならなければいけません。
 
 特に、リスティングのオペレーションを中心にやっている若い人たちに、まずはDSP入札と第三者配信サーバーの運用スキルを身につけて欲しいと思います。
 第三者配信サーバーのレポートで「アトリビューション分析」を、「枠」広告、DSP、リスティング、自然検索のすべてのネット流入の直接間接効果を分析評価することができる分析官(アナリスト)となり、次にアクセス解析やソーシャルモニタリングの使い手になることで、POEを網羅的に俯瞰することができるはずです。
 これからはオペレーションする人でないと、分析も難しいのです。従来のマーケターは経験的に仮説を立てて、それを検証するスタイルでした。しかしこれからのビッグデータ時代では人間の頭で想定することができない相関や文脈を発見する能力が主流になるでしょう。作業を他人に任せ、判断だけするという都合のよい職種は成立しづらいのです。ですから今オペレーションをしっかり実務で行っている人のなかにこそ、これからのアナリストやコンサルタントがでてくるはずです。

 DSPもトレーディングデスクのオペレーションの技ひとつでパフォーマンスは劇的に上がります。前回のエントリーで書いたように、DSPを「枠」と同じに捉えてはいけません。「枠」は「枠」そのものがPDCAの対象ですが、DSPはオペレーションの質がPDCAの対象なのです。私はトレーダーが成果を上げれば、成功報酬を得る仕組みがあっていいと思います。
 
 新たなスキルをもつ人材育成には、さらに、ネットに閉じた世界だけでなく、コミュニケーションを全体で理解することが重要です。ネット施策のプラン要請が来る以前の上流工程で、どんなコミュニケーション戦略が練られて、マス広告ではどんなプランニングがされているかも知る必要があります。ベムはよくレップの新人研修で、テレビスポットの作案をさせていました。おそらくはテレビの仕事はしないでしょうが、ネット広告以外のことを何も知らないよりは、ずっと良いのです。ネットの世界しか知らずに、ネット広告だけを部分最適しても、本当の価値を生み出すことはできないと思います。

 今後はマス広告を含めたトータルなアトリビューション分析の時代になります。
 
 そもそも「広告」を含む「コミュニケーション」とは何かと、ブランドのコミュニケーション開発は、どういうプロセスで行われているかを理解し、実践することでしかコミュニケーション産業の一員として活躍することはできないと思います。
 データと向き合いながらも、消費者が購買に向かう文脈を発見できる優秀な人材を多く育成したいと思います。

 http://di-d.jp/DI_20120718.pdf
 関心のある方、是非お問い合わせください。

DSPは「広告メニュー」ではない。

13 years 6ヶ月 ago

 DSP(デマンドサイドプラットフォーム)に関しては、昨年から注目され、今年にはかなり多くの広告主がトライヤルしている。
 しかし広告主もそうだが、特に代理店の認識が従来のままで、どうもDSPの本質をしっかり理解して売っている感じがしない。
まず、DSPを「広告メニュー」のひとつとして売っているようだが、これがそもそも違う。従来、「広告メニュー」つまり「枠もの」は、常にPDCAの対象であり、終了した後に、CPCやCPAなどの特定のパフォーマンス評価をして、効率の良かったものを継続し、そうでないものは買わないというPDCAを回している。この考え方をそのままにDSPを「広告メニュー」のひとつとして持ち込むのはナンセンスである。DSPは「買い方」の選択肢であって、「広告メニュー」としての選択肢ではない。つまり、セルサイドがセットした「枠」で買うのか、1インプレッションごとをバイサイドの理屈で買う仕組みを利用するかという理解である。もちろん二者択一ではなく、双方をうまく使うということになる。
DSPは入札管理なので、効率は担保できる。問題は「欲しい効率でどこまで絶対量を獲得できるか」である。「枠もの」は「広告メニュー」を選択することがPDCAだが、DSPはDSPを使うか使わないかではなく、DSPの具体的な運用をどうするか(運用のPDCA)とDSPへのコスト配分をどうするかがPDCAの結果である。

 ただ実際に複数のDSPがあり、それぞれ思想が違い、ターゲティング手法も違う。どのDSPが、その商品カテゴリーやブランドに合っているかどうかはトライヤルして検証すべきだろうが、そのブランドに合ったDSPを決めたら、(ひとつではないかもしれない)「枠もの」同様に、使ってみたり、止めてみたりしてはほとんど意味がない。DSPではクッキーをマーキングしていって、最適化プログラムを回していくモデルが多いので、比較的長期間継続する方が効率は上がる。それでも落ちてきたら、クリエイティブなど「広告変数」に問題があるか、短期間に獲得の絶対量を求めすぎているということなので、クリエイティブや投下量(もしくはフリークエンシーのキャップ)をコントロールすべきなのである。

 広告主もさることながら、代理店の営業が、まだまだこの仕組みの本質をしっかりとは分かっていないようだ。
従来どおりにプランのひとつとして他の「広告メニュー」と同列で提案して、そもそも運用そのもので違いがでることへの理解がないまま、運用内容がブラックボックスでやって、うまく行かなくて、(うまく運用して結果を出すためには様々な要素があるので・・・)、結果が良くないというだけで、DSPという仕組みそのものを評価してしまっているようだ。

 DSPは、理屈から云うと、最も最適化が効く仕組みである。1インプレッションという最小単位で最適化するからである。

 最近ではアトリビューション分析を、第三者配信サーバーを利用して、最適化のための様々なデータを抽出することにも注目されている。しかしそれだけのデータを出しても、それによる改善手段が、「広告メニューA」は止めて、「広告メニューB」を残すということだけは、実に詮無い話だ。
アトリビューション分析の結果を「どういう配信対象にすべきか」に利用しない手はない。その際のDSPの優位性もしっかり考えておきたい。


 DSPは完全にバイイングサイドのための仕組みである。バイサイドの理屈と都合で「買う」システムである。一方「枠もの=広告メニュー」はセルサイドが括った商品である。もちろんセルサイドがメニュー化した商品の方が効率が良かったり、短期間での効果の絶対量が多かったりする。要はどちらかがいいかはなく、買い方の違いと理解して、両方をどのようにうまく取り入れて効率と効果の両方を最適に獲得するかということである。そのためにはDSPというバイサイドの仕組みをいかにバイイング側が理解し、自身のスキルをして取り込むかが重要だ。DSPを実際に運用することは、自身のブランドに反応するクッキーがネットの世界にどのように存在するかを知る手立てにもなる。
 「買いたいものだけ、買いたい価格で、買いたい量だけ」買い付けるという「入札モデル」にまだ馴染んでいない(この仕組みにマインドがついて行っていない)バイサイドの皆さんに、その本質と取り入れ方をご指南していきたいと思う。

「DSP/RTB オーディエンスターゲティング入門」
 

ロックバンドモデルのデジタルイノベーション

13 years 6ヶ月 ago

ブランドサミットでのアラン・シュルマン氏の「ジャズ演奏におけるグループモデルから学ぶブランドマーケティングイノベーション」にたいへん触発されました。
昔「ハイネケン・シティ・ライブ・ツアー」というイベントを担当した経験があり、長年続けたツアーの最後が今では懐かしい芝浦インクスティックでのマーカス・ミラーでした。同時期に来日していたマイルス・デイビスとデビッド・サンボーンがマーカスの公演を観に来ました。
私はロック少年でしたので、むしろジャズはジェフ・ベックの「ブロウ・バイ・ブロウ」がきっかけで、「リターン・トゥ・フォーエバー」とかいわゆるフージョン系を聴いたりしましたが、基本ジャズは仕事上での付き合いです。
 さて、先日の話を、中学2年でバンド組んで以来約40年ロックバンドの一員である自分自身が体感的に理解できるロックバンドモデルに置き換えてみたいと思います。
 ロックという音楽ジャンルに関しては、私なりの定義があって、そもそも白人(特にブリティッシュ)が極めて意識的にサウンドを作り上げたもので、リズム&ブルーズやロックンロールとは違います。ルーツがアフリカの人たちの生まれたときから身についているリズム感には到底かなわないことを悟った人が、人工的に創った音楽だと思います。なので、人生の機微を詠うだけでなく、より社会的な「メッセージ」を放つための道具になったのだと思います。ただ当然、ロックンロールやリズム&ブルーズをベースにはしているので、「ノリ」(ジャズだとスイング感)とかビート感によって、そのメッセージがよりドライブされるようになっているのです。
 ギター小僧だった私にはロックギターの「リフ」と呼ばれるフレーズをどれだけ自分の指に覚えさせるかがテーマでした。「リフ」というのはもちろんロックだけで使われるわけではありませんが、特にロック、そしてロックギターには一種の『音楽的アイディア』と捉えられます。語源は定かではありませんが、Rythum Figure「リズム原型」やRefrain「リフレイン」から来ているといわれています。
 コアアイディアである「リフ」を主にギターが奏でることが、ジャズとロックの違いでもあります。ただロックバンドのメンバーは全員それぞれの楽器で「リフ」に入魂すべく演奏するのです。ビート感ある「リズム」セクションによって担がれた音楽的アイディアである「リフ」。そしてこの「リフ」によって、言葉による主張である「メッセージ」がドライブして刺さってくるのがロックの真髄です。そしてそこにギターソロやドラムのおかずがあって聴いている者の満足感は最大化されます。rockbandmodel1.gif

 これをマーケティングプラットフォームに置き換えてみます。
マーケティングメディアをPOEに整理したのが、「トリプルメディア」ですが、誰とのリレーションを担当するのかという機能で整理すると、メディアリレーション、カスタマーリレーション、そして今は、ソーシャルリレーションの3つかと思います。そこにWebマネージメントないしWebサービス部門がクロスするイメージです。

 メディアリレーション機能には「広告」と「広報」、カスタマーリレーション機能には「CRM部署」「カスタマーセンター(お客様窓口)、そしてソーシャルリレーション機能には今後のカスタマーリレーションとパブリックリレーションの融合を見据えた統合部署とWebサイトとソーシャルメディアを統合して繋ぐ部署が相当します。これらの機能に対して各ブランド担当者(つまり個別ブランドの売上利益責任を負う担当者)がマトリックス型に関わることになります。(これが次世代型のマーケティング体制と考えます。)
 
 
 ブランドサミットでの私のプレゼンでは、広告とCRM、ソーシャルとWebサイトという軸に対して、それぞれがクッキーや会員ID、顧客ID、ソーシャルアカウント(ID)が紐づいていくこと。それに対応して、企業内のそれぞれの担当部署(宣伝部、CRM部署、Webサイト担当、広報、ブランド担当者など)がいかに回路を繋ぐかというテーマとしました。どうしたら繋がるか・・・。それはまたの機会にして(そこがコンサルとしての私のビジネスですが・・・)

 さて、メッセージという点では、ロックのメッセージもマーケティングメッセージも同じです。ただし、ただ歌詞を叫ぶだけでは伝わりません。リスナー(ないし観客)が「カッコイイ!」と感じる「リフ」に載せないといけない。
 そして「リフ」を最も「かっこよく」聴かせるためのリズムセクションのビートが必要です。
 
 その意味で、マーケティングメッセージ(歌詞)をつくるのはブランド担当者です。

そして「リフ」つまりコアアイディアにあたるものをつくるのは、従来広告代理店にほとんど投げていましたが、キャンペーンモデルでのマーケティング施策には限界があります。オウンドメディア、ソーシャルメディアでも展開するマーケティングプラットフォーム型施策にシフトするとなると、主に広告代理店とインターフェイスしてきた「広告宣伝」だけでなく、「広報」「Webサイト制作」もちろん当事者であるブランド担当も対象です。また今後はCRMから新規顧客獲得のための対象者やインサイトを発見することも可能なので、CRM部署の参画も非常に有効です。いずれにしても現状のどの部門がやるということではなく、メディアリレーション、ソーシャルリレーション、カスタマーリレーションの3部門からとブランド担当の4者がチームを組むことが必要です。
 そのためにも、出来るだけ顧客および未来の顧客を把握することが重要なので、①広告とCRMを繋ぐ、②Webサイトとソーシャルメディアを繋ぐ、③WebサイトとCRMを繋ぐ、④広告とソーシャルメディアを繋ぐ、⑤CRMとソーシャルメディアを繋ぐ、⑥広告とWebサイトを繋ぐ、という回路接続によって、「顧客の発見」、「将来の顧客の発見」、「顧客の文脈の発見」、「顧客インサイトの発見」、「ゴールデンパスの発見」、「KPIの発見」を社内共有情報のなかで把握すべきなのです。
 
そしてリズムセクションにあたるのが、プラットフォームを運営するメンバーです。最適なテンポで、かつメリハリを利かすのがポイントでしょう。運用の上手下手でパフォーマンスが大きく違うのは言うまでもありません。
 プラットフォーマーはパフォーマーでもあります。
 リズムセクションはバンドの中でも最も息が合っていなければなりません。ドラムとベースは、企業内セクションでいえばWebマネージメント部門と広告・広報部門です。ちょっと言い換えるとテクノロジー部門とマーケティング部門という感じでしょうか。いずれにしても従来ないセクションを新たにプラットフォーム運営部門として最初は横断プロジェクトとしてスタートするイメージです。そして従来交わることがなかったテクノロジーとマーケティングが最も息のあったベースとドラムになることが最大のポイントでしょう。rockbandmodel2.gif
ロックのメッセージ = マーケティングメッセージ
リフ = コアアイディア
リズムセクション = プラットフォーム運営 

 ただ、歌詞(メッセージ)をつくる人がボーカリストになるかどうかは別の問題です。ギタリストがつくってもいいわけです。ギターのリフも必ずしもギタリストでなければつくれない訳ではありません。バンドのいいところはいっしょに活動していることでお互いの良さを理解し合い、長所を引き出すことができることです。
 
 というような話を今、レッド・ツェッペリンを聴きながら書いています。ロック界最高のドラマー、ジョン・ボーナムと3大ギタリストのひとりであるジミー・ペイジ、そしてロックボーカリストとしても3本の指に入るロバート・プラント、しかしこのバンドはジョンジーこと、ジョン・ポール・ジョーンズが支えていたかもしれません。
 彼の音楽性の広さと深さが、尖がった3人を融合させ、最高のバンドに仕上げたように思います。
 いちばん融合すべきそれぞれの領域に精通した企業内のジョン・ポール・ジョーンズは誰になるでしょうか。その人が次世代の企業マーケティングのプロデューサーかもしれません。

KPIのKPI

13 years 7ヶ月 ago

 少し前のエントリーで「KPI」について書いたが、ネット上にゴールがないリアルな販売チャネルをもつ企業にとって、KPIの設定は難しい。というのも、コンバージョンといえるユーザーアクションは設定できるものの、流入量とコンバージョン量があまりに差があると、最適化のための施策チューニングがうまくいかない場合が多いと思われる。KGIと相関のあるKPIは設定できるが、そのKPIだけでは広告を含む流入の最適化が難しいということである。

 つまり、広告で数百万のUBに到達させていて、その1%を直接、間接効果でWebサイト誘導できたとして、その中からコンバージョン率が1%とすると、広告接触者の0.01%がやっとコンバージョンすることになる。これもネットでの販売ではないのだから、例えば自動車会社で言えば、カタログ請求や試乗予約申し込みということになる。
 このコンバージョンを照準に広告投下方法(ターゲティングほかの)に対して直接チューニングをかけることは、もちろん出来ない話ではないが、目盛が大きすぎて微妙な調整が利かない感じが否めない。

 そのために、第1KPIを最適化するための、大きな相関性をもつ第2KPI(当然量的に第1KPIより多いアクションを獲得できる指標)を設定できるといい。KPIのKPIをつくって、そこで流入の最適化をチューニングするほうがやりやすいのではないかと思う。

 あるいは、商品カテゴリーによっては、消費者(将来の顧客)に対するナーチャリング(育成)活動が必要なものが多い。その商品、ブランドを「自分と関係があるもの」と感じてもらうこと、そしてその商品ブランドそのものの理解を促すこと、この2段階が必要で、消費者にそれぞれにある文脈ごとに、商品ブランドとの接点を用意することが求められる。

 そのためにも広告だけでなく、コンテンツも含んだアトリビューション評価をする必要がある。マス広告、ネット広告(ディスプレイ広告、リスティング広告)自然検索、を含むすべての流入と、Webサイト内のコンテンツや施策を経てのコンバージョン(第1KPI)を総合的に観測評価して、ネット上のKPIそして最終ゴールの最適化を求めることが理想だ。
 次回のエントリーでは、マス広告を含むトータルアトリビューションについて書いてみる。

『DSP/RTB オーディエンスターゲティング入門』

13 years 7ヶ月 ago
dsp_rtb.JPG


DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)とRTB(リアルタイム・ビッディング)そしてオーディエンスターゲティングというネット広告の全く新しいバイイングシステムとそのターゲティング手法について解説する本を出版しました。

目 次

第 1 章 広告配信の進化と DSP/RTB の登場
Chapter 1-1 進化した広告配信
Chapter 1-2 DSP/RTB の基本的な仕組み
Chapter 1-3 DSP/RTB/SSP の取引形態
Chapter 1-4 トレーディングデスクの業務
Chapter 1-5 DMP の役割
Chapter 1-6 アドエクスチェンジというビジネス
Chapter 1-7 「枠」から「人」へのパラダイムシフト

第 2 章 オーディエンスターゲティングの基礎知識
Chapter 2-1 内部データと外部データンプレッションを判断するためのデータ
Chapter 2-2 リターゲティング拡張で配信先を広げる
Chapter 2-3 ネットの行動とリアル行動の統合
Chapter 2-4 人の連想ではできないデータから読み取るターゲテティング

第 3 章 自動最適化のプロセス
Chapter 3-1 レスポンス(反応)を最適化する
Chapter 3-2 反応からターゲットを探す
Chapter 3-3 予測モデル
Chapter 3-4 フリークエンシーとロードバケット

第 4 章 DSP を活用したデジタルマーケティング戦略
Chapter 4-1 リスティング広告依存からの脱却
Chapter 4-2 3STEP パーチェスファネルの構築
Chapter 4-3 並列のメディアプランから直列のコミュニケーションプランへ
Chapter 4-4 インプレッションを計測する
Chapter 4-5 CV までのフェーズをブレイクダウンする
Chapter 4-6 サイトのシナリオと評価軸を構築する
Chapter 4-7 コンシューマーディシジョンポイントを発見する
Chapter 4-8 フェーズごとのメッセージ・クリエイティブ設計
Chapter 4-9 リスティングやメールなど他施策と統合する

第 5 章 DSP/RTB が切り拓くデジタルマーケティングの未来形
Chapter 5-1 世界中のインプレッションにアクセスできる時代
Chapter 5-2 EC のグローバル化で世界中にキャンペーン
Chapter 5-3 スマートフォン DSP と 4 スクリーン
Chapter 5-4 マスマーケティング企業のための DSP 活用
Chapter 5-5 トリプルメディアマーケティング時代の DSP 活用
Chapter 5-6 デジタル CMO が活躍する時代

第 6 章 プレイヤーの動向
Chapter 6-1 フリークアウト「FreakOut」
Chapter 6-2 プラットフォーム・ワン「MarketOneRTB」
Chapter 6-3 Platform ID「Xrost」
Chapter 6-4 マイクロアド「MicroAd BLADE」
Chapter 6-5 海外のプレイヤーの状況

補稿 日本のネット広告の歩み

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CRMから新規顧客獲得としての広告を考える。

13 years 7ヶ月 ago

 DSPを広告バイイングの新手法として研究すると、顧客化したユーザーを分析して、顧客になってくれそうなユーザーに広告を配信するという考え方ができる。(しかも可能性の高い見込み客には入札価格を上げて必ずゲットするとか・・・)
 実はベムはおそらく日本で初めていわゆる「リターゲティング拡張」の実験をした張本人である。あるリコメンドエンジンによる「クッキーとクッキーの繋がり(グラフ)」に企業サイト訪問者のクッキーを持ち込んで、サイト訪問者と「似ている」人(クッキー)を配信先とする手法である。リターゲティング広告がパフォーマンス効率は良いが、効果の絶対量が獲れないという欠点を補うものだ。
 この手法の考え方は、サイト訪問を果たした(ないし何らかのコンバージョンに至った)ユーザー情報をベースに新たな顧客獲得のための「広告」を打つという考え方である。

 広告をパーチェスファネルの下から遡っていけると、ファネルの上からつくっていくプロセスではできないことがかなりある。
 従来の「認知」からスタートするコミュニケーション開発では、広告を送り手(広告主とクリエイティブ開発のプロとしての広告会社)だけで作り上げる。ターゲットも想定してはいるが、そのコミュニケーションが、ターゲットが反応するものになっているか、つまり誰が反応したかは最後まで分からない。
 その結果、「認知」を主な目的とするマス広告と、ある程度関心が顕在化した後の購買意向を後押しするネット広告やWebサイトとの連動性がほとんどない状況になっている。
 いわばプッシュの接点とプルの接点の接合が出来ていないのが現状のマーケティングコミュニケーションと云える。
 
 しかし、顧客化したユーザー、ないし見込み客としてクッキーで認識できるユーザーからの逆引きで、新規顧客のターゲットとその「認知のあり方」を設計することができると一連のコミュニケーション活動は紐づいてくる。

 そのためにも「顧客とは誰か」を十分知る必要がある。この何年も広告業界では「消費者インサイト」とか「顧客インサイト」というワードが頻繁に使われるようになった。情報爆発で広告が効きづらい環境にあって、「消費者の琴線に触れるコミュニケーションを」ということなのだろうが、そもそも「顧客が誰か」が分かっていないのに、「顧客インサイト」もない。
 実際の顧客のプロファイルを理解することから、そのインサイトを探ることが可能になるのではないか。その「顧客と将来の顧客」の行動パターンをリアルとネット上で捕捉することはマーケティングの進化の大きな要素のひとつである。
ビッグデータを本当に駆使できるマーケターはそう多くはないだろう。マスマーケティング型のファネルの上層から思考する人と、ダイレクトマーケティングで刈り取り部分しか評価してことがない人が、完全に分離しているからだ。ビッグデータから顧客や見込み顧客の行動の相関を発見して、効果的なコミュニケーションの再設計ができるのは、コミュニケーション開発プロセスを理解、経験した人でないとそううまくできない。しかしデータをじっくり渡り合うスキルは既存のそういう人たちにはできない。データの大海原に浸るのが平気な人も仮説というストーリづくりがないと「意味のある」データは抽出できない。「ビッグデータ」を声高に言う人たちは当然IT系に多いのだが、おそらくマーケティングコミュニケーションの実践経験の乏しい彼らには「意味の読み取り」は難しいだろう。その意味で「ビッグデータ」を駆使できるスキルと人材を育成しなければならない。
 
 ただ、そうした人材をどうつくるかだが、私はブランドコミュニケーション開発とかイベントプランナーのような顧客の体験プランニングをしたことがある人材に、デジタル/ソーシャルの勉強を徹底してやってもらう。当然、ネット広告やWebサイトプロデュースの経験もSEMを含めしっかり実践してもらい、ログ解析データをしっかり読み取る訓練もしてもらう。ユーザー行動をセッションベースではなくクッキーベースでしっかり見定めるスキルを養い、「顧客と将来の顧客」の発見を実践し、ターゲットを実証する。そこから実証したターゲットが最も反応するメッセージ開発をするという一連の作業を理解し、プロデュースできるスキルである。
 自分でもこう書いていて無理難題を言っている感じは否めない。しかしシステムやツールばかりが先行し、それを使いこなす人材があまりにいない現実に対しては、難しいなどと言っていないで、「育成」という行動を起こすことである。それしかない。

 DSPで日々の広告配信運用をしていると、TVスポットが入った時のCTRほかの効果が上がることを実感する。TVのパワーを最大限刈り取るには、TVで起きたプル(情報取得意向)を上手に手繰り寄せることが必要だ。それをしないと「もったいない」のだ。
 一方で、テレビを使うようなキャンペーン期間単位でしか、興味関心の刈り取りをしないのももったいない。「ビデオムービー」という検索ワードの検索数の年間推移を見ているとほとんど常時変わらない。しかし、広告キャンペーンは卒業入学シーズンと運動会シーズンの年2回ほどのチャンスである。ユーザー側には結婚式やお誕生日会のような通年の需要チャンスがある。入札モデルのDSPではわざと広告の需要期を外して「指し値」で買い付けるという戦略もある。「枠」を買ってキャンペーンを仕立てる従来の手法では、あまり考えつかないかもしれないが、入札出来高制の広告バイイングの特徴をうまく使いこなすことも考慮されたい。

企業マーケターに問う「あなたのブランドにとってKPIとは何ですか?」

13 years 7ヶ月 ago

 KPIつまり「キー・パフォーマンス・インジケーター」。この言葉がそこらじゅうで聞こえるようになって久しい。ほぼ「鉄板」のキーワードになった。
 そもそもKPIの定義とは何か。
 
 以下、@IT情報マネージメントから引用する。
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 経営戦略では、まず命題となる「目標」を定め、次にその目標を具体的に実現するための「手段」を策定し、その手段がきちんと遂行されているかどうかを定量的に測定する「指標」を決める。この目標を「戦略目標」、手段を「CSF(主要成功要因)」、指標を「KGI(重要目標達成指標)」、「KPI」と呼ぶ。
 KGIがプロセスの目標(ゴール)として達成したか否かを定量的に表すものであるのに対し、KPIはプロセスの実施状況を計測するために、実行の度合い(パフォーマンス)を定量的に示すものである。KGI達成に向かってプロセスが適切に実施されているかどうかを中間的に計測するのが、KPIだといえる。
 一般的に利用されるKGIとしては「売上高」「利益率」「成約件数」などがあるが、これに対して「引き合い案件数」「顧客訪問回数」「歩留まり率」「解約件数」などがKPIとなり、これを日次・週次など一定期間ごとに実績数値を計測し、プロセスの進ちょくを管理する。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------引用終わり。

KPIをネット上に設定把握するとする。
オンラインマーケティング、特にEC展開を徹底して行っている企業は、購買行動つまりKGIとなる指標があるため、ほぼ目標(売上)をKPIにもしている。というかKGIはあるがKPIを設定していないともいえる。その結果、刈り取りコストばかりに目が行って、コスト効率を追求するあまり縮小均衡する。新たにブランドを認知するユーザー、新たに興味をもつユーザーを獲得する施策とそれを測るKPIを持たないままだと、結局刈り取りコストは上がる一方ということにもなる。
 「購買行動に至るプロセスには何があって、マーケティングの時間軸をどの程度に設定した時の全体最適は各プロセスをどう最適することで得られるか」を、PDCAを通じて指標を確立することができるかがこれからのマーケターが求められる最大のテーマである。
 
 さて、この話をネット上で商品を販売することのないマスマーケティング企業の場合に視点を移す。
 この場合、ネット上には基本KGIはない。KGIと相関する指標としてのKPIをネット上に設計することになる。
 ところが、この相関を発見するという作業が難しい。基本、いろんな施策にトライして実証するしかない。しかし、ECと違ってマスマーケティング企業のWebサイトコンテンツは、基本マスキャンペーンの素材をWebに再構成したものに過ぎない場合は多い。オンラインに施策がないといえるかもしれない。Webへの訪問数、滞在時間、コンテンツインタラクションなど量と質の両方で、指標をとってKGIとの相関を見出さないといけないが、マスキャンペーン展開のコンテンツをWebに上げただけでは、KPIが測れるコンテンツ、もしくは施策にはならないケースは多いだろう。
 
 この場合、KPIは施策とコインの裏表となる。「こういう施策を実行して始めて、こういうKPIを測定できる。」という話と「こういうKPIを測定するには、こういう施策を実行しなくては取れない」ということになる。その上でそのブランドのネット上のKPIを確立する必要がある。
  それには、ブランド担当者が個別ブランドだけのトライヤルで知見化するにはかなり限界がある。大企業であれば複数のブランド間でKPI設定やその評価知見を共有することが求められる。
 ところが、日本の場合まだまだデジタルマーケティング施策は各ブランドのプロモーション施策の一部をデジタルでトライする程度のものであるため、知見は各ブランド担当に蛸壺的に貯まって全社に共有されない。
 このためにもデジタルCMOのようなブランド横断的な存在が必要である。「マスマーケティング企業のネット上のKPI確立のために、全社で知見を共有する。」これが、重要な課題となる。
 デジタルCMOの存在目的は、KPIの確立やそのメジャメント手法の標準化にあるようにも思う。

ブラウザベースのマーケティング

13 years 9ヶ月 ago

 何年か前に、サイト内行動ターゲティングというソリューションを紹介されたとき、ずっと昔からアドサーバーと付き合ってきた私としては、「これはアドサーバーでできるよね。」と思ったことがある。別にアドサーバーと言っても広告画像しか配信できないわけではないし、タグさえ貼れば企業サイト内でも配信できる。むしろ広告もサイト内コンテンツも、どんな人に何を見せるかという点では、同じソリューションと捉えたほうがいい。
 
 ディスプレイ広告のアトリビューションについては、いろいろ議論されるようになった。12~3年前からポストインプレッションを熱く語ってきた私には、やっとここまで来たかという思いがある。ただ、広告の間接効果も含めての評価は、それはそれでいいのだが、評価で終わっていてはあまり意味がない。
 
 クッキーごとに広告を配信しているということは、マーケティングサイドの論理で、ユーザーの閲覧ページを最適化しているわけだ。ユーザーにとってはたまたま閲覧したページに広告画像が配信されるが、マーケターはそのユーザーをターゲティングしている。そうした「枠」から「人」へのクッキーベースのマーケティングソリューションを展開しているのがDSPや3PASだとして、どうして流入後のサイト内は動的に生成されないのだろうか。ひとつのクッキーの一連の閲覧行動を広告接触からサイト流入後、またセッションも単一のセッションで捉えるのではなく、複数セッションを通じて1ユーザーの行動を把握して、サイト内コンテンツも最適化するという発想が欲しい。
 ユーザーごとに動的に表現するということでは、リッチメディア広告フォーマットを企業サイト内でもっと活用してみてはどうかと昔から考えている。広告としてではなく、コンテンツとして。
 
 前のエントリーに書いたが、大企業になると広告で流入を買う担当とサイトを制作管理する担当は組織も違うケースがほとんどだ。
 企業サイトも基本トップページとツリー構造になっている、つまり固定的(スタティックな)ページで構成されている。しかしそろそろユーザークッキーごとに動的生成する方が最適化はぐんと進むと思う。
 広告配信を「人」に当てるのであれば、サイト流入後もクッキーごとに最適化したほうがいい。そのためにも顧客にはどんな文脈があるのかをしっかり見定めて、複数のシナリオが書けないといけない。
 
 2006年に「究極のターゲティング」という本を書いたが、そのなかで標榜した「ブラウザベースマーケティング」はデータベースマーケティングの進化型として、インターネットテクノロジーによって可能なCRM手法として、顧客化以前をも管理するマーケティングとなると思う。

URL、セッションベースではなく、クッキーベースで見るマーケティングへ

13 years 9ヶ月 ago

「CRM的なデータ管理をベースにして、広告を含むコミュニケーション開発をする」という「CRM拡張」みたいな発想があると考える。
 
あるコンバージョンに至った顧客行動を遡り、行動データの類似性とコミュニケーション接点の近接性をもとに、認知からレリバンシー醸成のコミュニケーション開発をするという考え方である。顧客or見込み客のプルの接点を解析して、プッシュの接点を設計する行為と言っていい。
 
 おそらく日本で初めてリターゲティング拡張による広告配信実験をした経験からすると、プッシュのコミュニケーション対象をプルの接点から抽出するというのは、プリミティブとはいえ、購買行動に近いところでのデータを起点に上流を構成する仕組みの一環であると思う。もちろん配信対象を抽出するだけでなく、そのメッセージをユーザー文脈ごとにいかに生成するかを試みないといけない。

 顧客化したユーザーをシングルソースで、認知から購買までをトレースすると、マーケティング活動の何が効いていて、何が効いていないかが把握できる。そのサンプルが代表性を持っていれば拡大推計することでマーケティング施策の最適化が果たせる。
 
 その視点で重要なのは、測定基準である。今はサイト測定をURLベースまたはセッションベースで測っている。例えば、セッションごとで導線を把握しているが、同じユーザーの別セッションは別のセッションとして理解しているので、ユーザーは常に「いちげんさん」扱いになっている。これはCRMではない。
 あるサイト内コンテンツを閲覧して、そのセッションでは直帰しても、別のセッションでは期待されるコンバージョンに至ったとして、それをどう理解しているか。またリターゲティング広告を打つとしてどんな文脈でメッセージするのか。そうしたことがしっかり整理されているケースはまだ少ないのではないか。
 
 また、広告やSEMとサイト制作は、広告主企業の担当セクションもそれらの作業をアウトソースする先も別々なので、シンクロしていない。広告で流入を促進する側は、ランディングページというが、サイトを制作管理する側からすると、そこはエントリーページである。サイトの内と外が別々に管理されるのでは意味がない。ユーザーにとっては一連の行動であって、それを一連の行動として把握しないのであればマーケティングにはならない。

 上記の話は、オウンドメディアとペイドメディアの境目で起きていることだが、オウンドメディアとソーシャルメディア連携でも同じようなことは起きている。フェースブックページやツイッターアカウントなどは一生懸命やるわりには、本体サイトにはろくにソーシャルプラグインが設けられていない。
 
 こうした現象が起きていることのひとつの原因は、日本の企業マーケターの適応能力にある。適応能力がないのではない。むしろ現場はあり過ぎるのだ。しかし経営が適応不全に近いので、そのギャップが、部分最適を促進する結果をより招く。トリプルメディアすべてを全体最適するためには、組織の上位レイヤーの人間がその仕組みを理解して、いかに全体最適が図れるかを模索しなといけない。
 昔はどう繋がるのか全く分からない時代だったのだから、部分最適で良かった。しかし今は顧客行動を連続的に把握できる。できるのに部分最適のままにしておくのは経営の責任である。こうした経営判断と組織およびスキルの融合がある企業とそうでない企業はおそろしく差がつく。組織横断的に知見共有を進めようとする企業文化のある会社はこれから非常に強い。今までリードしていたようでも属人的なスキルに頼っていた企業は、こうした会社に一気に抜かれていくことになるだろう。

~「枠」から「人」へ~ のもうひとつの視点

13 years 9ヶ月 ago

2月はブログをさぼってしまった・・・。

ということで、「DSP/RTB オーディエンスターゲティング」の書籍 の中の原稿の一部になる一文を掲載してみます。

 

オーディエンスデータやDSPでリアルタイムにクッキーを選別して買い付ける手法は、かなり周知されてきた感もある。しかしこのパラダイムシフトの一番大きな変化は、単にターゲティング技術の問題ではなく、まさに「DSP」のDSつまりデマンドサイドということにある。
 デマンドサイド=バイイングサイドの論理で広告が配信できるということは実は大きな構造変化だ。
 従来、すべての広告はいわゆる「枠」ものであり、「枠」とかネット広告でいうところの「広告メニュー」というものは、当然セルサイドがつくったものである。バイサイドは基本セルサイドがつくったフォーマットやユニットで買わざるを得ない。既製品の服を買って着ないといけないのだ。

 一方DSPという考え方では、1日だけ大量出稿したいとか、逆にずっと継続的に特定クッキーにだけ複数のクリエイティブを一定の順番で見せようとか、既存の「広告メニュー」では対応できないこと(できにくいこと)ができる。買う側の都合にいくらでも合わせることができるとうのがポイントだ。
 また受給状況という要素を別にすれば、基本クッキーを選ぶターゲティングそのもので単価が上がることはない。外部オーディエンスデータを購入するにはコストかかるが、内部データの利用の範囲では、メディア側のデータを使わないので特段単価があがる構造にはない。やりかた次第でターゲティングした広告でも掲載面を安く買うことはいくらでもできる。

 またターゲティングという考え方も、従来はメディアを選ぶためのものだったと言ってもいい。何故、ターゲットセグメントの性年齢区分を例えば男女20~34歳にしないといけないかというと、そうでないとTVの個人視聴率で到達量を確認できないからである。また雑誌の読者層をターゲットプロフィールに重ねることもあるが、これだけ雑誌が売れなくなると、そもそもこうしたターゲッティングに意味があるのかということになる。
 従量制のTVスポットにしても、欲しいところだけ買えるわけではない。ご存知のようにプライムタイムに1本引くには早朝深夜に何本かいっしょに買わないといけない。悪い言い方をすれば、売る側の論理でできている「抱き合わせ販売」である。(メディア会社にクロスメディアといわれるとおよそこの感覚になる。)
 こうしたことは長い間「当たり前」で疑問を持たない広告主もまだたくさんいるであろうが、既製品を選ぶだけの時代は、少なくともネット広告、モバイル広告においては終わるように思う。しかし買う側にとっても習い性で既製品を選ぶことしかしてきていないと、いざ「買う側の論理でバイイングしなさい」といわれてもどうしていいか分からないという事態になることが多いだろう。
 DSP/RTBやオーディエンスターゲティングでは、広告配信先のデータベースを広告主自身が管理するという時代が来る。そうなると、ターゲティングの発想はどのメディア、どのビークル、どの掲載面を選ぶかを前提にしたそれではなく、どんな行動をした人をターゲットとするかという行動ベースであり、またそれらの相関から見える「行動の兆し」である。

 しっかりした仮説、シナリオをもってデータの大海原からモーゼの十戒のごとく道筋を発見できるかたいへん興味深いマーケティングの時代になったといえる。

 広告を買う側の論理でしっかりしたプランニングができるかどうか、ここは広告主企業のマーケターがターゲットプロフィールの再構築を含め、広告を買う側の論理が十分発揮できるスキルを獲得できるかどうかにかかっている。ますます広告主が自社内でこういうスキルを持つ、持たないで、競合他社との差が生まれる。「枠」を売りたい広告代理店任せにしておくと競合と大きな「差」をつけられかねないことをよく肝に銘じておいたほうがよろしいかと思う。元代理店の経験からいいますと・・・。

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2 時間 37 分 ago
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