① 大手広告代理店が買収される可能性大
2022年は広告代理店業界にとっては業績云々よりも、世間の厳しい目に晒された年になってしまいました。ベムの出身母体などは頭を取られてしまうという悲惨な事態になりました。はっきり言って別段悪いことをしている意識はあまりなかったでしょう。今までもやってきたことですから・・・。
さて、今年は大手広告代理店も買収されるかもしれません。では「買うに値する」ものとは何かというと、仕入先の口座です。メディア各社との取り扱い実績が買収する側にとっての価値です。
デジタルメディアだけでなく、マスメディア、プロモーションメディア全般を仕入れる機能が欲しいところというと、例えばアクセンチュアですね。
もちろん、買収価額が折り合うかどうかでしょうが、マーケティングコンサルにとって、すべてのエグゼキューション(メディアバイイングを含めて)が行えることが必要です。コンサル⇒プランニング⇒エグゼキューション⇒コンサルというループを回していくことがデジタル時代のマーケティングコンサルには必須条件だからです。
今年はその意味でもいいタイミングでしょう。
② エージェンシーとSIerの大型提携が成立?
電通は電通デジタルをフロントに出しつつDXコンサル(といっても戦略コンサルレベルではありません。もっと下流のマーケティングのデジタル化におけるコンサルです)を押し立てています。結果、電通はアクセンチュアとの競合も多くなっています。電通にとってこの分野では博報堂は競合ではありません。
デジタル時代になってクライアントは、問題解決のための課題設定すらできないところが多くなりました。プランニングは課題がしっかり設定されているからこそ提案できるのです。プランニング以前にコンサル(課題を設定してあげる)が必要になり、DXの掛け声に乗ってアクセンチュアもマーケティング領域に進出したのです。さて、このトレンドに博報堂はどう動くでしょうか。現状博報堂の国内のオペレーティングマージンは非常に高いのですが、無理にデジタルコンサルに参入することは短期的には利益率を押し下げます。とはいえ今後を考えるとどうでしょうか。
タイトルは「エージェンシーとSIerの提携が進む」でしたが、博報堂がSIerと組む発想は十分あります。これはマーケティングのDXコンサルというのと少し毛色が違います。ただDXコンサルの担い手の中心にいるアクセンチュアもまた相性が悪いわけではありません。
従来エージェンシーは面倒なプランニングを提供しつつもメディアで元が取れるので、このモデルで長年やってきた訳ですが、「広告」がマーケティング課題解決としての機能が落ちてきた今、何で元を取るかが問題です。
一方システムインテグレータは企業のバックエンドには対応できますが、営業、マーケ、広告販促のようなフロントエンドへの提案はほとんどできません。ですからエージェンシーとSIerが組んで、エージェンシーもシステム導入で元を取る手法もあります。SIerとリベニューシェアしてもメディアマージン程度にはなるでしょう。
③ WPPの再上陸、その成功の鍵は総合商社との提携か
日本の代理店業界に言えることは、外資エージェンシーの元気がないことです。まあ欧米でも元々広告代理店だった企業はデジタルに強い企業に押されてさえないのが実態です。
そんな中でADKに袖にされてから日本戦略を練り直していただろうWPPも今年は再上陸することを宣言しています。ただ単独で乗り込んでもほとんど何もできないでしょうし、代理店業界で組む相手もいません。もう同業で組んでも意味はないのです。ベムは総合商社との提携に活路を見出すことはできると思います。
④ AI広告クリエイティブ会社が本格始動
広告業界のAI活用はいきなりクリエイティブに来ます。
もちろん電博CAも研究はしているでしょう。(CAは少し違うアプローチでしょうが)今年はAIによるクリエイティブ開発を全面に押し出してくるクリエイティブファームが数社出て来ると思います。
2022年8月に登場したStable Diffusionはその可能性の大きさを感じさせました。当然ビジネスとして表現を生業にする広告業界がこれに指をくわえて観ているはずもなく、元気のよい会社が立ち上がるでしょう。
ベムは楽しみにしています。
⑤ Yutuberビジネスの終焉とコネクテッドTVに求められるコンテンツの見直し
ベムはコネクテッドTVに関しては独自に狭義の定義をしています。つまり大画面での視聴であってもそれはクオリティの高いプロの制作コンテンツであるということです。広告を挿入することを前提にすると視聴さえあればどんなコンテンツでもよいという訳にはいかないからです。
今後チューナーを内臓しないオンライン専用TVセットなども普及し、コネクテッドTVは急激な拡大をすると思います。AbemaTVのワールドカップ全試合配信はエポックメイキングな出来事として後から語られるでしょう。
そして子供の将来なりたい職業1位にまでなったYoutuberですが、コロナ以前に既に彼らの視聴回数はピークアウトしています。コロナでテレビ出演機会がなくなったテレビタレントが一気にYoutubeに参入したこともあるでしょうが、そもそも続く訳がないのです。何年も面白いコンテンツを供給し続ける個人や少数チームはほとんどいないのです。はっきり言ってYoutuberビジネスは終焉します。
そしてYoutubeを重要な広告露出先と考える大手広告主が増えるほど、そのコンテンツの質と広告挿入方法に疑問を持つようになるでしょう。Youtubeのコンテンツは玉石混交です。Youtubeでなければ得られない情報もあります。一方、視聴回数稼ぎだけを目的としたものも多く、ユーザーの取捨選択は進み、落ち着きを見せることになります。
同時にテレビ番組はずいぶん前から負のスパイラルに落ち込んでいます。視聴率が落ち、収入の基本の持ちGRPが落ちることで、制作予算が減り、コンテンツが面白くなくなり、また視聴率が落ちています。
テレビ番組が面白くなくなって久しく、素人が面白かった時代もまた終焉しつつあります。これを埋めるものは何でしょうか。基本プロが制作する一定以上のクオリティが担保されなければならないでしょう。もちろん制作予算が必要です。
ひとつは、収入モデルが広告だけでないものです。
配信であるが故に放送法やBPOの呪縛から離れて、また双方向であるが故の、通販より範囲の広いお金のやり取りを含む収入モデルでしょう。もちろんそのコンテンツ配信で稼いで、別のコンテンツづくりにお金を使うことになるでしょう。
一方、ネットフリックスも広告入りの廉価版を始めました。今のところこれに移行する人は少なく、料金の再設定がされると思います。
いったん広告なしが売りだったネットフリックスが広告が入るものにするのは、そもそも広告入りのYoutubeに料金を払って広告なしのYoutubeプレミアムに移行する真逆にある訳です。ネットフリックスとしては巨額の制作費を投じていますから、広告が入るからタダという訳には行きません。あまり広告付きに移行していないのはネットフリックスの経営にとっては幸いなはずです。
ただネットフリックスのような良質なコンテンツに多少広告が入ることに私たちは慣れています。民放が長年培った視聴形態です。CM挿入時間が少なければ、やたらとCMの多いアメリカでは見直されるかもしれません。
日本でも最初はクオリティの高いCM素材に絞って優先し、挿入タイミングを間違わなければ馴染んでいくでしょう。CM機会としても最もプレミアムな枠となる可能性はあります。ベムもまだ視聴量は計算していませんが、まずは量より質のCM枠としてスタートするはずです。
⑥ テレビ番組視聴量は減り続けるが、今年はまだ売上維持、しかし・・・
テレビ番組の視聴率はまだまだ落ちるでしょう。視聴率を支えているのは高齢者です。ベムはテレビCMの到達量を表示回数(インプレッション数)で計算していますが、10歳以上のCM到達量の約45%が60歳以上の男女に当たっています。この世代の人口はまだ増えますが、既に団塊の世代が後期高齢者に突入しましたから、遠くない将来減少に転じます。
一方、CM到達量の55%を占める10~59歳の人口は、2022年に9歳の子供は103万人ですから、この人口が10歳~59歳に参入しても、59歳152万人が卒業するので、約50万人減ります。これはまだ10歳~59歳の1%未満ですが、団塊ジュニアが60歳になり始めると、CM到達量の55%を占める層の人口が急激に減ります。
ここまでは、人口つまりテレビを観る可能性のある最大値を母数として見ていますが、問題は放送によるテレビ番組離れの加速です。
なおかつテレビ放送はターゲット配信のようなことが出来ません。広く満遍なく当てるのが得意なテレビ放送では、これはベムの譬えですが「女子高生にリンゴを1個あげようとすると、お母さんに3つ、おばあさんに6つ、計10個のリンゴが要る」ことになります。
配信でターゲティングすれば、1個だけあればいいのですが、これはテレビが人口の少ない若年層の視聴率が低く、人口の多い構成層の視聴率に頼っているが故の現象です。ですから全体で観ると、ほとんどCMが当たらない人と何度も当たる人に二極化するのです。広告業界では、テレビスポットの結果をクライアントにレポートする時、平均フリークエンシーを出しますが、実はこの平均回数で当たっている人は極端に少ないのです。平均と聞くと正規分布していて、そこが一番多いと思うのですが、逆に平均が底になるのです。
最近になってようやく、テレビ局がコア視聴率と称して、13歳~49歳の個人視聴率を購買層として、ここの視聴率を上げようとしていますが、遅すぎます。また人口もテレビ視聴する人も減って母数が減っているのにいまだ「率」をどうのこうの言っている時点でアウトです。例えばこの20年で20代男女の人口は3分の2になっています。同じ個人視聴率でも絶対数では3分の2です。これでマーケティング指標になるでしょうか?
「テレビ放送視聴の絶対数低下」と「若年層への到達力がないこと」そして「ターゲティングができないこと」、この3点でテレビCMの相対的なパワーは落ち続けるでしょう。テレビCMはこれに対してCM枠を減らして、有限な価値を訴求して、単価を上げて維持するしかないでしょう。「質」をアピールする必要があるのです。
テレビ番組やネット動画、コネクテッドTVのコンテンツとCM枠を巡る変遷は2023年
をリスタート年として2030年までは外資(Netflix、Amazon Prime、Disney+、など)の攻勢を受けて激動することと思います。
そうした中でテレビ局は放送事業(広告事業)での売り上げを3分の2まで縮小することになるでしょう。
一方、広告主もテレビ到達力が落ちるのは「欲しいCM到達量を買えない」ということになります。何で補填するのか、コネクテッドTV枠がそれを補完できるほどになるのか、大きな問題です。デジタルを活用してみるのは、今はぎりぎりテレビで獲得できる到達量が、獲得出来なくなる時の予行演習でもあるのです。
⑦ SASがコネクテッドTV枠との統合プランニング&バイイングで活性化
SASがまだテレビ広告を大量に使う広告主に普及しないのは、パーコストが高いことと代理店マージンが少ないことですが、二番目はまあ置いておいて、広告主もパーコストを指標にしている時点でアウト!です。何度も言いますが人口が減って母数が減っているのに視聴率1%当たりのコストは意味がありません。まずは絶対値に指標を変換しないといけません。そのうえで1枠づつターゲット含有率や反応率(アクセスやコンバージョン)など効果ベースでコスト管理しないといけないのですが・・・。
さて今年で5年目を迎えるSASにはコネクテッドTV枠との統合プランニング&バイイングで開花するでしょう。
当然⑥の最後に書いたことでもSASがコネクテッドTV枠を同じ土俵で買い付けるプランニングとバイイングが本格的にスタートする理由です。