セガのSNS採用広報術 「この会社で働きたい」と感じる秀逸な投稿の数々
人材採用活動もSNSでする時代、と聞いてあなたはどう感じるだろうか。大手ゲームメーカーのセガでは、まさにX(旧Twitter)などのSNSを採用活動の場として活用しており、直近では新卒応募者が昨対比15%に増加したという。
「Web担当者Forum ミーティング 2024 秋」では、セガ広報部の副部長で、SNS運用歴13年の山田氏が登壇。Z世代の新卒やキャリア採用を目的としたSNS活用術を紹介した。
フォロワー約57万人! セガ公式SNS運用を13年にわたって担当
セガは国内屈指のゲーム開発・販売会社だ。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』『ぷよぷよ』『龍が如く』シリーズなどの家庭用ゲームソフトをはじめ、アミューズメント施設(ゲームセンター)向けの大型ゲーム機なども幅広く手がけている。
山田氏は1999年にセガへ入社。人事部を経て、2000年に秘書室配属となった。セガ公式のFacebookおよびTwitter(現X)が作られた2012年から、広報部でSNS運用に従事し、以来13年にわたってSNSを担当している。
現在、山田氏らの部門で運営しているSNSアカウントはX、Instagram、LinkedIn、Facebookの4つ。Threads、Blueskyについてはテスト運用の段階だ。なお、TikTokは別部門によって運用されており、フォロワー数は250万人にのぼる。
弊社のグループバリューは「創造は生命 × 積極進取」。感動体験を創造し続ける、というミッションを掲げ、SNSもこれらを軸に運営しています(山田氏)
本講演では、主にXの運用実績が紹介された。フォロワー数は2024年11月時点で約57万人。投稿内容はバラエティに富んでおり、セガのブランドロゴを揚げ菓子のチュロスで作ってみたり、テレビ番組でセガのゲーム機が登場した際に視聴者目線でツッコミを入れたりと、ユニークなポストが特徴だ。
就活生は“リアルな社風”をSNSでチェックしている?
セガ公式Xアカウントでは、このようにおもしろい・楽しい発信の一方で、将来的な人材採用につながる投稿も行っている。しかし、求職者向け情報サイトへの掲載などさまざまなアプローチがある中で、果たしてSNSは本当に有効なのだろうか。
山田氏によれば、セガでは「自社にカルチャーフィットする優秀な母集団の形成(をしたい)」を採用の課題としており、SNSでの採用活動についても人事部と何度もセッションを重ねたという。
結論として、SNSは採用広報に有効だと考えています。特に自社の社風や理念がリアルな事例で伝えられるのが大きなメリットです。デジタルネイティブ世代は、日常的にSNSで情報を集めています。(セガの内定承諾者のうち)8割が、新卒か中途入社かにかかわらず、セガのSNSやYouTube採用動画を見ていたという調査結果もあります(山田氏)
近年の就職希望者は、「自分らしく活躍できる職場で働きたい」と考えているケースが多い。その“活躍できる場かどうか”の見極めに、SNSを役立てているという。
(採用関連の)ホームページには、働きやすさのアピールだったり、先輩社員インタビューだったり、いわゆる美辞麗句が並んでいますが、「同じ内容ばかりでよくわからない」という方もいるでしょう。実情を判断するために、“リアルな社風”を企業SNSアカウントでチェックしているという声はよく聞かれます(山田氏)
また、SNSにはそれぞれ特徴があるが、中でもXは拡散性・即時性が高いと山田氏は指摘する。よってXへの投稿においては、臨場感のあるタイムリーな内容がフィットしやすいという。
実際のX投稿内容を紹介! 「服装」「#今日のセガ社員」など
ここからは、セガの公式Xアカウントが実際にどのような投稿をしているか、事例とともに紹介する。
福利厚生・社風・内定式
まず、働く環境や福利厚生についての投稿だ。セガではフレックスタイム勤務、副業OK、LGBT支援あり、面接時の髪型や服装は自由。昨年の内定式で“謎解き”を実施したことも紹介された。
内定式での謎解きは、グループワークでセガに関する謎を解いていくというものです。ゲーム会社なので相性もよく、ユニークかつ社風にマッチした投稿となりました(山田氏)
インターンシップ
学生向けの仕事体験プログラムは多くの企業で広がりを見せているが、その内容は各社で大きく異なる。セガでは、インターンの明確なイメージを持ってもらうために、具体的な様子を紹介している。
卒業を祝う黒板アート
卒業式シーズンに合わせ、卒業生全般に向けた黒板アートを作成。黒板アートクリエイターが人気キャラクターを描く過程を動画で公開したところ、多くの反応があった。
入社式キャラクターグリーティング・新入社員研修
4月1日の入社式では、着ぐるみキャラクターが新入社員を出迎えるサプライズイベントを実施。これは当日中に動画としてXで公開された。
また、新入社員研修では「ぷよぷよプログラミング」というプログラミング体験が行われた。システムエンジニア経験を持つプロゲーマーを講師として迎え、仲間同士で教え合いながら、楽しく受講する様子がSNSで紹介された。
社員の服装
服装の自由度を気にする新入社員は多い。そこで、ランチタイムに社員食堂へ集まってきた従業員にSNS運用担当メンバーが交渉し、その場で撮った写真をXに投稿した。
また、セガは採用面接時・勤務時ともに服装は自由だが、「本当にスーツじゃなくていいの?」と不安に思う人も多い。そこで、実際に採用された社員に協力してもらい、「普段の勤務時の服装」と「かつての面接時の服装」の写真を2日に分けて撮影した。
社内の様子:社員によるディナーショーなど
さらに、親睦目的の社内イベントとして、歌の上手い社員によるディナーショーを社員食堂で開催。その他、社員食堂のキャラクターコラボメニュー、まぐろの解体ショー、デコレーションされた会議室なども、Xでの投稿対象だ。
“セガ社員のセガ社員によるセガ社員のためのディナーショー”と銘打って開催し、動画を撮ってXで発信しました。業界他社のサウンドクリエイターの方からは「今から転職していいですか?」という嬉しい反応もありました(笑)(山田氏)
ハッシュタグ「#今日のセガ社員」
最後に、山田氏お気に入りの企画である「#今日のセガ社員」。セガ関連グッズに身を包んだ社員を見かけたら、写真を撮ってXにハッシュタグ付きで投稿している。社員の顔は写さないことが多いが、メディア露出の多い一部の開発者や経営陣については、その限りでない。
普段の勤務時からセガグッズを身に付けている社員は、会社に対するロイヤルティの高さが自然に表れていると思います(社員に愛されている会社なのだと)お客様にアピールする上で、非常に効果的だと考えています(山田氏)
技術力の発信や社会問題へのステートメントにも注力
人や職場にフォーカスした投稿だけでなく、ゲームの開発力をアピールする投稿も採用広報につながっている。たとえば、人間の動きをトレースしてゲームに収録する「モーションキャプチャー」や、懐かしのアーケードゲームの技術など。さらに、誰もが知る自動車教習所向けシミュレーターに、ドライブゲームの技術が応用されたことも紹介した。
一方で、ウクライナでの紛争に際しては、発生から間もない段階で、人道支援に対する寄附についてのステートメントを出している。
グローバルで活躍したいという学生さんも多い中で、こうした支援をしっかりと行っていることを示すことは、安心感にもつながります。ユニークな投稿だけではなく、硬軟織り交ぜた発信を行いながら、注目を集めていくことが重要です(山田氏)
2024年卒の人気企業ランキングでは文系11位・理系6位を獲得
セガは2024年卒大学生対象の「就職企業人気ランキング」(マイナビ、日本経済新聞社の共同調査)において、文系総合で11位、理系総合で6位を獲得した。山田氏は「もちろんこれはSNSだけの成果ではありません。人事部を中心に、採用説明会などを丁寧に行った結果です」と語る。
ただ、企業を知って興味を持ち、情報を収集する段階になって、SNSが効果的に作用した面はあるかと思います。やりがいや労働条件で最初に企業を絞り込んだ後に、クチコミや会社の雰囲気などをチェックする傾向にあるようです。最近だと(就職活動生の)親御さんがSNSをチェックしている印象もあります(山田氏)
山田氏がSNSでの採用広報のポイントとして強調したのが以下の3つだ。
- ホームページだけでは伝わらないリアルさを伝える
- 飾らない様子を見せて、「楽しそうだね」という感想を引き出す
- 嘘や過剰な表現を避ける
こうした投稿を重ねることで、シェアや好意的なクチコミにもつながっていく。SNS上での嘘や過剰な表現については、特に注意を呼びかけた。
SNSはガラス張りであって、どれだけ飾り立てた投稿をしても、クチコミによってすぐに本当の姿が浮き彫りになってしまいます。誠実な投稿を心がけ、単発の花火に頼るのではなく、長期的に信頼を築いていくことが重要です(山田氏)
世間の反応を予測して「伝わる」投稿を組み立てる
講演の終盤には、セガが別途運営しているブログとSNSの連携について、実例を交えて紹介した。「伝える」投稿と「伝わる」投稿の違いとは、一体なんなのだろうか。
「SEGA TECH Blog(セガ技術ブログ)」とは、ゲーム開発に関わる専門知識を解説するWebサイトのことだ。「技術のセガ」というプレゼンスを向上させることを目的に、社内開発者自ら記事を執筆している。外部から優秀な人材を呼び込むリクルートの役割もあるという。
山田氏は、「このブログの『基礎線形代数講座』のPV数を増やそうとしたら、皆さんならどう紹介しますか?」と呼びかけた。内容は優れていても、タイトルからしていかにも難解そうな記事だ。単に言葉の定義を説明するだけでは、思うような反応は得られないだろう。
多くのユーザーは、スマホを片手で持って、スライドしながら素早く投稿を見ていきます。「難しそうだな」と思われたら、すぐに他の投稿に埋もれてしまうでしょう。そこで、「何を伝えたいか」をよく考える必要があります(山田氏)
- 知りたかったけど知らないこと
- 役に立つこと、へー!と思うこと
- ゲーム業界ってどんな感じ?
- 入社後も成長できる?
- 数学の未来について
- 数学に関するおもしろい取り組み
一方で、採用広報やSNS担当、会社が伝えたいことは、以下の通りだ。
- セガは技術力がある
- セガは技術交流がある
- 採用に応募してほしい
- セガはユニークな会社
- セガは新人に親切な会社
このように、属性ごとに異なるインサイトを把握しながら、「世間が知りたいこと」と「会社が伝えたいこと」のギャップを埋めていく必要がある。「世間の反応を予測し、逆算して投稿内容を組み立てることが大事」と山田氏は助言する。こうして導き出されたのが以下の投稿だ。
サインコサインタンジェント、虚数i…いつ使うんだと思ったあなた。実は数学は、ゲーム業界を根から支える重要な役割を担っているんです。
— セガ公式アカウント🦔 (@SEGA_OFFICIAL) June 15, 2021
今日は、セガ社内勉強会用の数学資料150頁超(!)を無料公開。#セガ技術ブログ クォータニオンとは?基礎線形代数講座 #segatechblog https://t.co/OEHDwlJ9Vz pic.twitter.com/eBUG2YJwH1
多くのSNSでは、テキストの1行目が最も重要だとされている。冒頭にキャッチーな言葉を入れたり、「あるある」と感じてもらえるような“共感ワード”を含めたりするとよい。ここでは「サインコサインタンジェント」という馴染みのあるフレーズを置き、添付画像には数学記号を多用した複雑な図表を用いて、ギャップを演出している。
結果としてこの投稿は、約3日間で1.9万RT、3.2万いいね、53万エンゲージを獲得。621万インプレッションに対し、17万のリンク誘導という大きな反響を得た。なお、関連する投稿は全部で3つあり、最後のポストではエンジニアに対する採用アピールを行っている。
拡散はSNSだけに留まらなかった。各社のWeb媒体でニュースになったほか、数学者の雑誌コラムにも取り上げられ、NHKの高校数学講座でも(社名は伏せられ)紹介されたという。
ロングタームで誠実な投稿を続け、信頼関係を構築しよう
山田氏ら広報担当者は、ゲーム開発技術の専門家ではない。畑違いの分野について、SNSで発信する際に最も重要なのは、「リスペクトをもって最大限理解をすること」そして「噛み砕いて誰にでもわかりやすく伝えること」だという。
技術者の方に話を聞くときは、事前にできる限り勉強してから臨みます。そして、彼らの話をそのまま投稿するのではなく、SNS担当者が投稿することに意味があるように仲介し、誰にでもわかりやすく伝えることを意識しています(山田氏)
こうした真摯な対応は、社内での長期的な信頼にもつながる。「また山田さんにお願いしたい」「このネタはSNSに向くんじゃないか」と相談されるような関係性を構築していくことが重要だ。
結果として、セガの直近の新卒採用活動では、応募者が前年比で15%増加。特に開発職の応募が増えたという。
最後に山田氏は、「SNSを通じた発信は、自社の社風がリアルな事例で伝わりやすいため、これらに共感しカルチャーフィットする学生の母集団の形成に効果的です」と話す。「嘘や誇張は避け、誠実な投稿を続けることで、長期的に信用を得るべきだ」と語り、講演を締めくくった。
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