[マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

テキストから動画へ移り変わる企業のオウンドメディア 成功のカギになるスキルとは?

マーケターコラム、今回はテレビ東京・明坂真太郎氏。企業が動画オウンドメディアを使ってコンテンツを発信するうえで、重要なことは何か?
テレビ東京 明坂真太郎氏

こんにちは、テレビ東京の明坂です。

ここ数年、多くの個人の方や企業が主にYouTube等の動画プラットフォームを用いて動画によるコンテンツ発信を行うようになりました。特にコロナ禍によるソーシャルディスタンス、リモートワークが推進される状況において、デジタル上での情報発信・コミュニケーションが重視されるようになり、勢いはさらに増しています。

今からおよそ5年前にブームとなった企業のオウンドメディアのコンテンツは、テキストと画像が主体でしたが、ここ数年で運営終了などが相次いでいて、ブーム的なトレンドは終焉したように思えます。その一方で、動画オウンドメディアは、これからの企業にとって欠かすことのできないマーケティング手段として、活用を検討すべきチャネルになりつつあります。

企業が動画オウンドメディアを使ってコンテンツを発信するうえで、重要なことは何であるか。今回はそういったテーマでお話しします。

企業によるオウンドメディアの歴史

はじめに軽くオウンドメディアの歴史を紐解きます(詳しい方はこのパートを読み飛ばして構いません)。

日本で「オウンドメディア」という言葉が登場したのは今から10年前の2010年ごろ、デジタルインテリジェンス社 横山隆治氏の著書『トリプルメディアマーケティング』によって紹介された概念が多くのマーケターに知られました。

「トリプルメディア」とは、世の中のメディアを、

  • 自らコントロール可能なメディア(オウンド)
  • お金によって面や露出をコントロールできるメディア(ペイド)
  • 信用や評判を獲得することを目的とした、直接コントロールできないメディア(アーンド)

の3つに分け、それぞれの切り口にて施策や分析を行うという考え方です。

2010年といえばApple社のiPhone4発売をはじめとするスマホの普及拡大、それにともなったTwitterやFacebook、Instagramといった、今ではSNSのリーダーとも言えるプラットフォームたちの急成長のきっかけとなった時期です。

オウンドメディアとともに語られることの多かったのがコンテンツマーケティングという手法です。下記グラフにあるとおり、「コンテンツマーケティング」という言葉自体はSEOに近い概念として、2010年以前から存在していました。

オウンドメディアとコンテンツマーケティングの検索量推移(赤:オウンドメディア、青:コンテンツマーケティング。出典:Googleトレンド)

しかし、2010年以降のオウンドメディアという言葉の普及とともに、自らが編集(コントロール)をし、顧客および将来の見込み顧客に対して役に立つ情報を提供していくことで、広告によるPushかつ瞬間的な刈り取り、いわば「狩猟」ではなく、長い期間でのリレーション構築と言える「農耕」に重きをおいていこうという考え方がコンテンツマーケティングとして普及していきました。

SNSによる企業公式アカウントもオウンドメディアの一つと言えるため、ちょうど技術的にも企業が情報発信できる環境が整えられてきたということも作用したと思います。

そうした流れを受けて、実際に企業によるオウンドメディアブームが起こるのは2013年ごろから。ぐるなびが運営する「みんなのごはん」やリクルートが運営する「リクナビNEXTジャーナル」など、多くの企業がオウンドメディアの運営を開始し、カスタマージャーニー上におけるあらゆる状態の顧客に対して、状態ごとに適したコンテンツをもってコミュニケーションを働きかけるようになりました。

直接コンバージョン誘導に必要なコンテンツだけでなく、顧客の状態ごとに興味喚起やより深い魅力を伝えるコンテンツなどでコミュニケーションしていく(出典:ミエルカ

なぜオウンドメディアはテキスト主体から動画主体へ移り変わるのか

前提として、動画のほうがテキストより優れている。という話ではありません。コンテンツの性質も集客チャネルも大きく違うため理想は目的に合わせて使い分けるべきです。ではなぜ動画メディアが増えてきたのでしょうか。私は以下の要因があると考えています。

  • スマートフォンの高性能化と回線の高速化によって、日常のあらゆるシーンにて動画を視聴することが容易になった
  • YouTubeやTikTokといった動画主体SNSの一般化や、Twitter、Instagramなどでも動画の提供者が増え、多くの人が常に動画に触れるようになった
  • SNSの普及とともに、検索を行う場所が検索エンジンから各種SNSに分散した

それを踏まえコンテンツの提供者側の視点で言うと、

  • すでに多くの情報で溢れたテキストコンテンツという戦場から、動画という新たな戦場の重要度が増した
  • 検索エンジンだけでなくあらゆるメディアでリーチをしなければならなくなった

という、つまりは今が環境の過渡期であるということです。マーケティングにおいては、常に消費者の変化に対応してマーケティング手法を変化・適応させて行く必要があります。コロナ禍による巣ごもり需要によって、テレビやYouTubeといった動画コンテンツの視聴数が拡大したことからも、今後さらに動画コンテンツの需要は高まると思います。

過去の経験がけっこう活かせる? 動画オウンドメディアを成功させるために必要な考え方とは

大層なテーマの見出しですが、最初に私の考えを述べます。主に企業によるYouTubeチャンネルなどの動画オウンドメディアが成功するポイントは、今までのオウンドメディアと実はかなり近いと考えています。具体的に言うと、次の3つです。

  1. 運営目的に対して投資対効果が見合わないと継続できない。継続するための事業メリットをロジックで説明できること
  2. 将来の見込み顧客の興味や困りごとを洞察し、読者(視聴者)へ価値あるコンテンツを生み出し続けること
  3. 一朝一夕に成果は出ない。粘り強い運用と、日々の分析→改善を行うこと

テキスト+画像コンテンツと違い、動画コンテンツには撮影機材や編集ソフトウェアなどにかなりの額の初期投資が必要です。また制作外注にかかるコストもテキスト原稿より多くかかりがちです。それゆえに、目的をファジーなまま運営を開始したり、ターゲットのニーズを具体的が捉えきれなかったりすると、瞬時に継続性がない過去のオウンドメディアと同じ結末を辿るでしょう。

前述のとおりメディアは一日にしてなりません。農耕的であるからこそサステナブルな仕組みと、着実な運用が求められます。昔はよく「SEO施策を行うときは最低3ヵ月は運用継続しないと正しく評価できません」と事業責任者に説明したものですが、同じような時間軸で育てていく必要があります。

そして、そういった困難なポイントを乗り越えてこそ、テキストメディアだけではリーチし得なかった新たな層へのアプローチであったり、テキストより豊富な表現力で急激に顧客との距離を縮めたりと言った、新たな価値を得ることができます。

また見込み顧客の興味や困りごと、つまりはニーズを調査・分析する手段は、今までのコンテンツマーケティングにおけるプロセスをそのまま転用可能です。

まだまだ高いとは言え、撮影機材や編集ソフトウェアも過去に比べると価格も下がり、参入障壁が下がっています。デジタルチャネルによる顧客とのコミュニケーションがより重要視されている今こそ、あらためてオウンドメディアやSEOといったコンテンツマーケティングの経験を活用し、オウンド動画メディアに注力をしていくのがよいタイミングであると思います。

プラットフォームの特性を押さえることから始める

さて、過去の知見を活用できるチャンスですよと述べましたが、現在の環境を踏まえ、押さえておくべきポイントが2点あると考えます。

1点目はプラットフォームの仕組みへの対応です。

旧来のオウンドメディアは自社ドメインのWebサイトを持ち、集客方法はSEO、メールマガジン等によるPush、ときにはコンテンツシンジケーションといったチャネルを利用することが主でした。それが今では、YouTubeやTwitterなどSNSのプラットフォーム上にアカウントを持ち、コンテンツを配信することが効率的かつ効果的になっています。

(YouTubeを例に話しますが)そうなるとプラットフォームの仕組み上、「チャンネル登録」という明確な中間ゴールがあることや、検索流入だけでなく関連動画やレコメンドの仕組みからも新規視聴者が得られるといった要素を確実に考慮する必要があります。

たとえばチャンネル登録についてですが、チャンネルに対して購読の意思を持ってもらうためには、チャンネルのコンセプトがターゲットに対して伝わりやすければ伝わりやすいほど優位です。

コンセプトがブレてしまうのはもちろんNG。もっと言うと、たとえば別ターゲットに向けた複数テーマが同居したチャンネルの場合、一つのテーマは他方のテーマを求めている視聴者にとってノイズとなりえます。

フォロワーのエンゲージメント率をコンスタントに高く維持することが、関連動画や検索での露出増加につながります。そのためには、専門雑誌のようにチャンネルのターゲットを絞り込んで、価値をシャープにすることを心がける必要があると言えるでしょう。

たとえばテレビ東京では、スポーツ全般と個々の競技ではYouTubeのチャンネルを分けて運営しています。

Googleは2014年ごろから動画のマーケティングに対して「HHH戦略」を提唱しています。HHHは「Hero」「Hub」「Help(2014年時点ではHygiene)」の頭文字で、それぞれの性質を持ったコンテンツを提供しましょうということです。簡単に説明すると以下のとおり。

  • Hero:多くの人を刺激し、興味をそそるもの
  • Hub:コンテンツ提供者と視聴者の距離を近づけるもの
  • Help:視聴者が持つニーズ(知りたい、見たい)を解決するもの

いわゆるHelpコンテンツはSEOで意識するような解説やHowToのことですが、それだけでは検索流入の獲得は行えても、そこからフォローを経ての継続的なコンテンツ視聴や、検索をしていない視聴者を呼び込むことはできず、顕在化した検索ニーズ以上の獲得は行えません。

新規視聴者の獲得と既存視聴者の継続を実現するためには、前述したように関連動画やレコメンドといったアルゴリズムを活用するための興味喚起コンテンツ(Hero)や、初めて流入してきた視聴者により深く魅力を知ってもらい、継続して視聴しようと思ってもらえるコンテンツ(Hub)のバランスを取っていくことが必要であると思います。

また、旧来の一方通行のメディアではなくSNSである点を活かし、コメントや評価など双方向のコミュニケーションを活用することも重要です。

“見られ方”を意識して、動画ならではの表現を最適化する

過去の知見を活用するために押さえるべきポイントの2点目は、動画ならではの表現に気を配ることです。

動画はテキストよりも多くの情報量を受動的に得られるという強みがあります。その一方で拾い読みなどが難しいため、用意された構成で用意された尺だけ情報取得に時間を要するという性質もあります。つまり、テキストで簡潔にまとめられる情報においては、目的の情報に到達するにも取得するにもテキストより効率が悪いということです。

視聴者側もそれを肌で理解しているため、検索クエリもサジェストなどを見るとGoogle検索とYouTube検索では割と違いがあります。

下の画像は「確定申告」のサジェストです。YouTubeでは「締め切り」や「必要書類」などの基本的な情報よりも、よりピンポイントで、深い情報を求めているクエリが多い傾向があります。

「確定申告」のサジェスト(出典:Google、YouTube)

テキストにはテキストの強み、動画には動画の強みがあります。動画で情報収集をする視聴者が求める情報を、動画という表現方法の性質も踏まえた上で、企画をしたり、構成を作ったりしたいところです。

ただのコンテンツ横展開ではなく、それぞれの強み弱みを補完することによって多くの顧客に対して価値を提供する

ことテレビという業界にいる私の立場から見ると、「決まった時間に、決まった尺で、決まった頻度(主に週1回)、一方通行」というテレビの性質に対して、それらをすべて取り払ってしまえるWeb上での動画コンテンツは、見事にテレビを補完している存在になりえます。ゆえに、顧客のロイヤリティを向上させる手段として、ビジネスに活用するメリットが大いにあると考えています。

この記事を読んでいる読者の皆さんもさまざまな業界で活躍されていることと思いますが、今回の内容が動画オウンドメディアをビジネスにうまく活用するための一助になれば幸いです。

次回のコラムテーマについては現在検討中なのですが、これに付いて聞きたい! というご要望あれば、ぜひお気軽に私のTwitterアカウントへリプライをいただければ幸いです。

それでは。

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