誰かが定義したマーケティングスキルから脱する考え方
株式会社エイチームフィナジーの稲垣昌輝(@Gackey_seo)です。
最近、社内の後輩や同僚、社外の人などとお話しをしていると、リモートワークによるコミュニケーション不足をきっかけに、「マーケターとして目指す姿」を見失っている人が増加しているように感じています。
私も、マーケターとしてどのようなキャリアを歩み、最終的にどうありたいか、すごく長い間悩んでいたため、「マーケターとして目指す姿」を見失う気持ちには大いに共感できる部分があります。
一橋ビジネススクール教授の楠木建氏は、「すぐ使えるものは、すぐに使えなくなる」と仰っています。マーケターも同様で、すぐに使えるマーケティングスキルだけを追い続けていると、「マーケターとして目指す姿」を見失います。
今回のコラムでは、可能なかぎり長く、太く、センスのあるマーケターとして活躍するために何をすべきか、どう考えるべきかのヒントを発信したいと思います。
「すぐに役立つスキル」ばかりに注目が集まる理由
2020年12月12日に開催された弊社の新卒向け採用イベント「A-LIVE!ぜんぶエイチームの合同企業説明祭!」で、私はマーケティング職についての説明を担当しました。
事前にこちらで複数の質問項目を用意し、就活生が聞きたい質問の番号をコメントしてもらう形式をとったところ、スキルにまつわる質問に関心が集中しました。
就活生がすぐに役立つスキルを身につけ、即戦力になりたいと考えるのは非常に大事なことですが、スキルを重要視しすぎるのも良くない傾向です。
ビジネスやマーケティング界隈では、スキルを一覧表にした「スキルマップ」がよく活用されています。しかしここで定義されているスキルは、「評価のしやすさ」といった人材育成・人事評価の観点から定義された基準であり、本当に現場で役に立つスキルであるとは限りません。
特にマーケティングスキルは、1つ1つのスキル自体が直接的に成果に貢献するものではなく、現状を把握したり、少し先の未来を予測したりするための補助的な手段です。
スキルマップにあるような「誰かが定義したスキル」をすべて身につけても、良いマーケターにはなれるわけではありません。
センスのあるマーケターとして長く活躍するためには、個々のスキルよりも、もっとマーケティングの原動力となるような部分に着目することをおすすめしたいと思っています。マーケターにとっては、いかに変化の起点を作り、行動し続け、現状をいい結果へと導いていくかが大切だからです。
「定義されたマーケティングスキル」で競争するその他大勢
マーケティング手法を身につけるにあたっては、王道というものはありません。
あるマーケティング手法を一定レベルまで学び終えると、学ぶ対象を他のスキル/知識に広げ、マーケティングの幅を広げることを目標とするマーケターは意外と多いのではないでしょうか。ほとんどの人が他の人と同じような選択をし、結果的に競争に時間を使います。
また、マーケティング手法をひととおり学んで、最終的にはCMOを目指しているという流れは、よく耳にします。
マーケティングスキルやマーケティング手法は、どこまで極めても手段に過ぎません。それらの獲得に時間を費やすよりも、コトに向き合い、物事を前進させたり、社会や顧客体験をさらに良くしたりするために必要な行動や知識に目を向け、「何を、なぜ、どうしたいのか?」の問いに対する答えの状態に足りないものを補っていく必要があります。
このコトに向かう思考がなければ、自らの不足感から脱することができず、結果的に競争率が上がる「誰かが定義したスキル」を追い求め続けることになります。
もっとコトに向かえるマーケター割合が増加すれば、未来にとって良いことにスキルを活かすマーケターが増加し、人に害を与えるプロジェクトやデメリットの多いサービスをむやみにマーケティングする人とスキルで競う無駄な競争が減少する可能性があります。
「誰かが定義したスキル」追求の副作用
「誰かが定義したスキル」を追い求めることの副作用は、3点あります。
- 枠を超えられない受け身な思考の定着
- 短期的なスパンでスキルや方向性のアップデートが必要
- ヒトとの競争を生み、正体不明の不足感が残り続ける
与えられた地図をもとに自分の未来を決めるため、次回も次々回も地図を与えてもらわないとなかなか決められない「受け身の思考」が定着します(本人は与えてもらっている感覚はないかもしれませんが)。
また、社会状況やIT技術の進歩によって必要なスキルは都度変化します。そのたびに身に付けるべきスキルが変わるため、短期的なスパンでの見直しが必要になります。コロナにより変化したものに注目するのではなく、過去から現在まで変化していない不変的なものは何かを考えてみてもいいかもしれません。
3つ目、コトに向き合って仕事ができていない場合、大体がヒトに向いてしまいます。これは消費者理解といった良い意味ではなく、社内の同僚や先輩・後輩などへの無駄な「内的競争心」が原因で人間関係のトラブルに発展するような悪い意味を指しています。過去にそうした事例をいくつも見てきました。
スキルは使わないと衰えますし、時代の変化とともに必要なスキルは変化するため、スキルを追い続けるかぎり、半永久的に不足感をもって過ごすことになります。不足感を原動力として学び続けられるという長所もありますが、「誰かが定義したスキル」の穴を埋めていくように学習計画を立てることには、私は否定的です。
「誰かが定義したマーケティングスキル」から脱する考え方
スキルマップのような「定義されたスキル」から脱するためには、「なぜ、何を、どうしたいか」という、ある意味自分本位の考え方をベースにするべきだと思っています。
他者と比較して自分の優劣やポジションを考えるのではなく、自分の人生における使命感や人間としての欲に目を向ければ、マーケターとして、自分が何をどれぐらい磨くべきか、自ずと見えてくると思います。
そうすることで、自然と誰かが定義したスキルに縛られず「マーケターとして目指す姿」を見失うことなく、長期的に追うことができるのではないかと私は信じています。
また、いくら頭が良くスキルが豊富なマーケターがいたとしても、そのマーケターからインプットする価値があるかを見極めるために「何のために何をしているヒトなのか?」を深掘り、マーケティングスキルをどう活かしているのかを知ってからインプット対象にする必要があると思っています。
最後に、有名な2名の言葉を紹介して、筆をおきたいと思います。
未来は過去の延長線上にある(経営学者ピーター・ドラッカー)
現在・未来はすべて、過去の出来事が基盤となって表れた現象です。現在も過去から見た未来であり、つまり、未来を知りたければ過去を学ぶ、歴史を学ぶことが近道だということです。
潮が引いたとき、初めて誰が裸で泳いでいたかわかる(著名投資家ウォーレン・バフェット)
マーケティング手法が乱立し、はやりの波がおさまってきたとき、本質的で欠かせない不変的なセンスを身に付けていなかった人がわかる、と解釈できます。
「歴史を振り返り、本質的に変化していないもの」を知ることで、はやりのスキルに勝る不変的な武器を手に入れられるきっかけになると思っています。
それでは、2021年も何卒よろしくお願い申し上げます。
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