私の本棚

今すぐ真似したい! 読書をビジネスに生かす5つのコツ

現在活躍されているマーケターやWeb担当者に読書体験を語っていただく本連載。第2回は、ビービットの宮坂祐さんに、ビジネスに直結する読書法を伺いました。

「私の本棚」の第2回は、ビービット 執行役員/エバンジェリストの宮坂祐さんに筆をとっていただきました。週に1冊は本を読んでいるという宮坂さんの読書法はビジネスに直結していて、今すぐ真似したくなるはず(編集部)。

ビービット 執行役員/エバンジェリストの宮坂祐さんと宮坂さんの本棚(読み終わった本は手元に残さないことが多いという宮坂氏。ここにあるのは、数少ない残された本か未読の本だ)

私の読書DNA

思い返せばずいぶんと恵まれた読書環境で育ったのだなと思います。幼少期からお小遣いはそれほど多くはなかったものの、本(漫画本除く、笑)だけはお小遣い枠とは別に自由に買ってくれる家庭でした。家にも大きな書棚があり、本は買い放題読み放題という感じだったように記憶しています。

読書の原体験は、祖母が送ってくれた、父たちが幼少期に読んでいた『世界少年少女文学全集』(創元社:刊)でした。小学校の低学年の頃から『アーサー王物語』や『三銃士』『海底二万海里』などの名作を、心をワクワクさせながらむさぼり読み、高学年になるとミヒャエル・エンデの『モモ』(岩波書店:刊)や『はてしない物語』(岩波書店:刊)なども好きになりました。

中学にあがると歴史小説にはまり、司馬遼太郎の小説はほぼすべて読み、吉川英治の『三国志』(講談社:刊)や『水滸伝』(講談社:刊)に心をときめかせ、高校に入ると今度は村上春樹にはまるというピュアな少年時代を過ごしていました(笑)。

そんなこんなで、自分にとって本を読むことは当たり前に日常に組み込まれたものになるに至ったし、そのような環境を用意してくれた両親には感謝しても感謝しきれません。

最近の読書スタイル

ここ数年は、いわゆる小説はほぼ読まなくなってしまい、ビジネスに役立つものを中心に年間50冊くらい読むようにしています。どうしても忙しいと読書が疎かになるのですが、週1ペースをKPIとして自分の活動指標に組み込むようにしたことで、近年はこのペースが維持できるようになりました。

自分の仕事柄や役割もあり、ジャンルとしては「戦略/ビジネスモデル」「最新動向/テクノロジー」「組織」「マーケティング」「デザイン/認知心理」「歴史/人文」「スキルアップ/自己啓発」を結果的にはバランスよく読んでいるようです。

2018年以降に読んだ本で良かったものの一例としては、以下があげられます。

  • 『シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法』(サリム・イスマイル 他:著 小林啓倫:訳 日経BP:刊)
  • 『プラットフォーム革命』(アレックス・モザド 他:著 藤原朝子:訳 英治出版:刊) 
  • 『両利きの経営』(チャールズ・A. オライリー/マイケル・L. タッシュマン 他:著 入山章栄 他:訳 東洋経済新報社:刊)
  • 『カスタマーサクセス』(ニック・メータ 他:著 バーチャレクス・コンサルティング:訳 英治出版:刊)  
  • 『おもてなし幻想』(マシュー・ディクソン/ニック・トーマン/リック・デリシ 他:著 神田昌典 他:監修 安藤貴子:訳 実業之日本社:刊)
  • 『1兆ドルコーチ』(エリック・シュミット 他:著 櫻井祐子:訳 ダイヤモンド社:刊)
  • 『THE CULTURE CODE 最強チームをつくる方法』(ダニエル・コイル:他 楠木建:監訳 桜田直美:訳 かんき出版:刊)
  • 『センスメイキング』(クリスチャン・マスビアウ:著 斎藤栄一郎:訳 プレジデント社:刊)
  • 『サピエンス全史(上・下)』(ユヴァル・ノア・ハラリ:著 柴田裕之:訳 河出書房新社:刊)
  • 『右脳思考』(内田和成:著 東洋経済新報社:刊)
  • 『Think CIVILITY シンク・シビリティ』(クリスティーン・ポラス:著 夏目大:訳 東洋経済新報社:刊)

どこで本に出会うかというと、最近はFacebookのタイムラインか知人との会話の中で紹介されたものが中心になってきました。幸いなことに、賢く勤勉でバリエーション豊かな専門性の高い友人が多いため、彼/彼女らから知る本だけでもう手一杯という感じです。購入はほぼアマゾン。恐るべしアマゾン! 幼少期とは違い、自分のお小遣いから書籍代を出さなければいけなくなった今なのに、心理障壁ゼロでポンポンと買ってしまう自分にビックリです。

あと、自分の場合はKindle(キンドル)ではなく紙の本を買っています。古い人間なのかどうしても紙の方が読みやすいように感じます。ただ、今の家には保管スペースがあまりなく、読み終わった本で保管重要度が低いと判断したものはブックオフに売ってしまいます。なので当コラムで期待される書棚の写真は残念ながらショボいです(笑)。

画像:本棚
宮坂さんの本棚

読書をビジネスに生かすコツとは?

さて、当コラムの読者の皆様が気になるのは、私が読書をどのようにビジネスに生かしているかだと思います。僭越ながら私が意識している5つのポイントを披露しようと思います。

Tips ① その時の課題意識に合う本を選ぶようにする

「必要は発明の母」「窮すれば通ず」とはよく言ったもので、やはりその時に困っていることや何かしらヒントが欲しいと思っているトピックに関する本が一番真剣に読めるものです。たとえば、クライアントや自社の組織変革に関するヒントが欲しいときは、組織系の本を1か月でまとめて数冊読むようにします。同時期に同じトピックスに関連する書籍を、その時解きたい課題を思い浮かべながら読み、同時に実際の業務でできることから実行していくと飛躍的に学びが進むように感じます。

Tips ② 使える部分はメモを残して自分にメールする

年齢とともに記憶力が低下してきたので、最近は大事な部分や活用できそうなフレーズ・データはテキストのメモを残し、自分にメールをするようにしています。【備忘】+書籍名という件名でメールを送るルールにしてあるので、後からすぐに検索して探し出せるようにしています。これは結構よくて、自分で見返すだけでなく、クライアントや同僚に情報共有をするときにもこのメモは便利に使えたりします。

Tips ③ 印象に残った内容は人に話すようにする

学習方法と平均学習定着率の関係を研究した「ラーニングピラミッド」という考え方をご存知でしょうか。講義を聴くだけだと5%だけ、本を読むだけだと10%しかその学びは記憶として定着しないのだそうです。一方で、同トピックスについてグループで討論をすると50%、教えると90%定着するそうです。

なので、私も読んだ内容はなるべく人に話すようにしています。「こんなおもしろい話を読んだよ」という感じで、ミーティングや会食の時に話したりSNSで投稿したりするのです。自分への定着度も圧倒的に上がるし、相手からも良い知見を提供したことにより感謝されるという副次効果もありお勧めです。

画像:ラーニングピラミッド
学習方法と平均学習定着率の関係を示す「ラーニングピラミッド」

Tips ④ ダメだと思ったら無理をせずに読むのをやめる

読み始めてみたものの、どうにも「おもしろくない」とか「読み進めるのが辛い」という書籍と出会ってしまうこともあります(10冊に1冊の割合ほどもありませんが)。そういう時は、私は迷わず読むのをやめるようにしています。時間は有限ですし、週に1冊は本を読むように自分に課しているので(笑)そんな本に関わっている余裕はありません。「相性が悪かった」、「縁が無かった」、「あるいは今は出会うタイミングではなかった」と思うようにして無理をせずに横に置きます。多読のコツはこのあたりにあるのかもしれません。

Tips ⑤ 「実践/即効」だけでなく「教養/素養」に役立つ本も読む

Tips ①と相反するように見えるかもしれませんが、短期的な課題解決のための書籍だけでなく、中長期的な血肉にするための書籍も意図的に一定の割合(4冊に1冊くらい)で読むようにしています。宗教・哲学・歴史関連や古典などです。

たとえば、昨年読んでよかったものとして『韓非子』(韓非:著 岩波書店:刊行)があげられます。組織系の課題にぶつかった時に現代の組織論系の書籍を読みましたが、『韓非子』が下敷きにあったことで理解の厚みが増したように感じます。

また、年齢と立場が上がるにつれ企業の経営層と向き合うことも増え、ベースの教養が乏しいと、より高次の議論に対応しきれない恐怖もあります。感覚的には教養の土台が広く強固になっていくにつれて「実践/即効」系の書籍の理解と吸収の速度が上がったと思います。私の好きな言葉に「累積経験」という言葉があるのですが、まさに日々に地道の積み重ねが大事だなと感じる今日この頃です。

現在の自分に影響を与えた本は?

私の本業は顧客体験(UX)のコンサルティングなのですが、UXの理解を深めるうえで避けて通れないのが「Jobs to Be Done(顧客の片づけたい用事)」というクレイトン・クリステンセンが提唱した考え方です。

ベストセラー『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン:著 玉田俊平太:監修 伊豆原弓:訳 翔泳社:刊)の続編として2003年に発売された『イノベーションへの解』(クレイトン・クリステンセン 他:著 玉田俊平太:監修 櫻井祐子:訳 翔泳社:刊)は私にとって前作を超える衝撃の内容でした。

顧客が「置かれた状況」が引き起こす「片づけたい用事」を捉えよ、という考え方とミルクシェイクの事例は、ある意味自分の仕事観に大きく影響を与えたと思います。

ミルクシェイクの事例

ミルクシェイクの事例を簡単に紹介すると、米国のファーストフードチェーンのシェイク売上向上プロジェクトが、従来型のマーケティング手法ではうまくいかなかったため顧客の「状況」と「ジョブ」を捉えるアプローチへと転換し、大成功をするというお話です。

まず「状況」と「ジョブ」を捉えるために、店舗で顧客を朝から晩まで観察します。すると、シェイクが購入される大きな状況は2つあることが見えてきました。

状況 ① 朝のお客様

1つ目は朝のお客様です。朝、シェイクを買っていく人は、スーツ姿の人や作業着姿の人、年齢も性別もバラバラなのですが、共通しているのは車で店に乗り付けてシェイクだけを買うことです。さらに購入した人の車に同乗して観察をしたところ、興味深いことが見えてきました。全員通勤途中にシェイクを買って目的地に到着するまでの30~40分の間シェイクをチビチビと口の中で転がしながらゆっくり飲んでいたのです。

朝シェイクを買う顧客の「片づけたい用事(=ジョブ)」は何か。

朝食代わりとして腹持ちがよく、運転しながらも手が汚れないものというのに加えて「通勤の退屈を紛らわせたい」が本音なのだろうと。そこで朝のドライバー向けの新商品として、粘性が高く、長時間溶けずに口の中で転がして楽しめるタイプのシェイクを開発したところ大当たりをするのです。

状況 ② 夕方のお客様

2つ目は夕方のお客様です。夕方、シェイクを買っていく人は、小さいお子さんを連れた親がほとんど。その日良いことが何かあったのか、ご褒美で子供にシェイクを買い与えて店内で飲んでいるのです。親の心象風景としては「たまには優しく子供に甘いワタシ」を味わおうと思っていたようです。

しかしシェイクのサイズは、子供にとっては大きく飲みにくいため、いつまでたっても飲み干せず、しびれを切らした親は怒って帰っているのです。

夕方の子連れの親の「片づけたい用事(=ジョブ)」は何か。

子供向けのスモールサイズでシェイクの粘性を低く(朝とは逆!)してサラっと飲めるタイプの商品開発をしてこちらもヒットします。

この朝と夕方の顧客の状況の対比と、それに合わせた打ち手の鮮やかさが心に深く刻まれました。私がUXの世界にハマるきっかけとなったといっても過言ではないと思います。「Jobs to Be Done」の考え方を再度整理して2017年に『ジョブ理論』(クレイトン・クリステンセン 他:著  依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ ジャパン:刊)という書籍が刊行されました。事例も豊富でお勧めの書籍です。

画像:ジョブ理論
宮坂さんおすすめの『ジョブ理論』(Clayton M. Christensen 他:著 ハーパーコリンズ・ジャパン:刊)

マーケターの皆様にぜひおススメしたい本は?

最後に、今マーケターの皆様におススメをしたい本をご紹介します。良著はたくさんあるのですが、あえて私のビービットにおける同僚の藤井保文が執筆した『アフターデジタル』(藤井保文/尾原和啓:著 日経BP:刊)をおススメさせてください。2019年の3月に発売され6万部近く売れたデジタルトランスフォーメーション界隈で大変注目をされている本です。

隣国の中国で起きているデジタルを活用した顧客体験重視のビジネスモデルの転換について、そのメカニズムを、事例を交えてわかりやすく解説をしている大変良い内容です。「中国は規制も緩いし参考にならない」と言うなかれ。競争優位の源泉が「プロダクトから体験」へとシフトしている世界的な潮流の先端事例が中国にある、といっても過言ではありません。決して中国を礼賛したいわけではなく、真摯に学びとれる要素が中国にはあると信じています。

モノ中心のマーケティングから、いかに顧客との関係を構築する体験中心のマーケティングへと移行できるか。デジタルマーケティングに携わる私たちも考え方とアプローチ方法をアップデートさせていく必要があると考えています。その一助になる書籍だと思います。

ビービットの同僚・藤井保文さんが執筆『アフターデジタル』(藤井保文/尾原和啓:著 日経BP:刊)
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