私の本棚

「あの人はどんな本を読んでいるの?」ニューバランスのマーケター鈴木健氏がおススメする3冊

現在活躍されているマーケターやWeb担当者に読書体験を語ったいただく本連載。初回は、ニューバランス ジャパンの鈴木健さんに筆をとっていただきました。

「あのマーケターはどんな本を読んで、新しいアイデアを生み出しているのだろう?」そんなふうに思うこと、ありませんか? そこで、現在活躍されているWeb担当者やマーケターの本棚を見せていただき、読書体験を語っていただく連載を始めました。最初に執筆していただいたのは、ニューバランス ジャパン DTC&マーケティング ディレクターの鈴木健さんです。(編集部)

鈴木建さんの本棚
ニューバランス ジャパン DTC&マーケティング ディレクターの鈴木健さんと鈴木さんの本棚

私の読書体験① ビジネスに関する本は、新しいことを学びたいから読む

本を読む習慣は子供のころにはありませんでした。じっと座って本に集中するのはどちらかというと苦手だったほうです。自分にとって本とはもともと藤子・F・不二雄先生(あえて先生と呼ばせていただきます)の『ドラえもん』(小学館:刊)のような漫画本で、だいたいすぐに読み終わってしまう娯楽でした。

今でも漫画は読みますが、「本を読む」習慣がついたのは社会人になってからです。今は通勤時や乗り物に乗っている間に読むことが多いです。特に朝の通勤時の読書は頭がすっきりしているのでスッと入ってきますし、インスピレーションがわくことが多いので好きです。

今は広い意味でビジネスやマーケティングに関する本を読むことが多いですが、それは単に仕事のためというより、新しいことを学びたいからです。

これまで読んできたビジネスやマーケティングに関する本の例
  • 『ゾーンマネジメント』(ジェフリー・ムーア:著 栗原潔:訳 日経BP:刊)
  • 『ジョブ理論』(クレイトン・クリステンセン等:著 依田光江:訳 ハーパーコリンズ・ ジャパン:刊)
  • 『the four GAFA』(スコット・ギャロウェイ:著 渡会圭子:訳 東洋経済新報社:刊)
  • 『ソーシャル物理学』(アレックス・ペントランド:著 小林啓倫:訳 矢野和男:解説 草思社:刊)
  • 『ブランディングの科学』(バイロン・シャープ:著 加藤巧:監修 前平謙二:訳 朝日新聞出版:刊)
  • 『マーケティングとは「組織革命」である。』(森岡毅・著 日経BP:刊)

など

私の読書体験② リアルな事象を別の角度から見るため、哲学・思想書を読む

また考えごとをしたい時に読む本もあります。柄谷行人や東浩紀などの哲学や思想に関する本がそれです。最近読んだなかでは東浩紀の『ゲンロン0 観光客の哲学』(ゲンロン:刊)が非常におもしろかったです。

このような抽象的な思考の本を読むことは、ただの夢想ではなくて、リアルな事象を別の角度から見せてくれます。柄谷行人の本にはとても影響を受けましたが、それは後述します。

私の読書体験③ 新しい視点を得るため、あえて英語の本を読む

マーケティング関連の英語の本を読むことも多いです。違う言語で読むことで、ビジネスに関して、日本語とは違った新しい視点を提供してくれるためです。日本語での抽象的な思考は漢語なので、読むこと自体に非常に頭を使います。

しかし英語は、平易な言葉がそのまま抽象的な思考につながっているので、理解しやすいと感じます。たとえばカントの「悟性」という人間の理性の能力に関する用語がありますが、英語だと「understanding」です。英語のほうが抽象的な思考を平易な言葉で言い表すのに向いていますし、日本語のような慣れ親しんだ感覚を一度カッコに入れて理解することができるので都合がいいわけです。

カントの「悟性」という用語も英語だと平易で理解しやすい

ダニエル・カーネマンの『Fast&Slow(ファスト&スロー)』(早川書房:刊)では、直感や感情による素早い判断と、計算や抽象的思考など時間がかかる判断を分けて、それぞれシステム1、システム2と呼んでいますが、僕にとって日本語より英語のほうが、平易な言葉を使うことでシステム1の直感や感情を保持したまま、外国語として抽象的な思考につなげるシステム2を呼び起こすことができるわけです。

これまで読んできたマーケティング関連の英語の本の例
  • 『The Laws of Brand Storytelling』(Ekaterina Walter / Jessica Gioglio:著 McGraw-Hill Education:刊)
  • 『Jobs to Be Done』(Stephen Wunker等:著 Amacom Books:刊)
  • 『Edge Strategy』(Alan Lewis / Dan McKone:著 Harvard Business Review Press:刊)

など

最近読んだなかでは、行動科学についてMatthew Willcoxが書いた本『The Business of Choice』(Pearson FT Press:刊)や、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト:米国で行われる最先端技術のイベント)で講演したこともあるSafi Bahcallのイノベーションに関する本『Loonshots』(St. Martin's Press:刊)がおもしろかったです。

影響を受けた本① 柄谷行人の『意味という病』

大学は文学部の英米文学専攻でしたが、好きだった本は、学生がよく読むような米作家のJ.D.サリンジャーや村上春樹くらいで、相変わらず本はあまり読みませんでした。本は大学の課題の研究や調べものをするために参照するものであって、読みふけることはなかったのです。

そんなときに「考えるために読む」という行為を教えてくれたのは柄谷行人の『意味という病』(講談社:刊)でした。たしか大学の生協の本屋で文庫を手に取ったのが最初だったと思います。

鈴木さんが影響を受けた本『意味という病』(柄谷行人:著 講談社:刊)

冒頭はシェイクスピアの「マクベス論」でしたが、それを読んだ衝撃はいまでも忘れられません。「彼自身の考えを伝えるためにマクベスを引き合いに出している」という主張を強く感じ、断定的で強い文体に引き込まれました。

「抽象的にものを考える」という態度を学んだのは彼の影響が大きかったです。柄谷行人の著作は今でも読んでいますし、何度か著者本人にもお会いしたことはありますが、新しい視点や思考を得るのに今でも役に立っています。

影響を受けた本② ジャック・トラウトとアル・ライズの『ポジショニング戦略』

もう1つは、ジャック・トラウトとアル・ライズの『ポジショニング戦略』(海と月社:刊)です。社会人になりたてのころ、広告代理店のビジネスを学ぶために先輩社員から本を何冊か渡されたのですが、仕事に関わる本はその当時、興味があまり持てませんでした。そのなかで唯一、おもしろいと思ったのが本書です。

当時、マーケティングやビジネスに関する本は過去のドキュメンタリーやケーススタディ、あるいは現実の内容を教科書的に網羅しているものであって、「考え」を学ぶものがないと思っていました。

そのなかで『ポジショニング』は、挑発的ですがシンプルな文体で、「マーケティングとは消費者のマインドの戦争だ」という業界の捉え方が新鮮で刺激的でした。実際にその後何年かたって、クライアント向けの企画書で、そのままトラウトのポジショニングの考えを取り入れたアイデアを提案したこともあるくらいです(その案は採用されてローンチのキャンペーンに使われました)。

このような本に出会ったことで、自分が惹かれる本の内容がだんだんと明確になってきました。新しい考えを生むようなインスピレーションを与えてくれる本が好きなのです。それはジャンルを問わず、時として漫画だったりビジネスに関する本だったりします。

現在は、『リ・ポジショニング戦略』(ジャック・トラウト、スティーブ・リブキン:著 翔泳社:刊)も刊行されている

おすすめの本 ポール・オースターの『鍵のかかった部屋』

最後におすすめする本をあげてほしいと編集部から要望がありましたが、僕はあまり本を読まなかったので、人にすすめる本をあげることは正直難しいです。Web担当者であろうが、マーケターであろうが、仕事に関わる本を読まない人もいるでしょうし、そういう人の本棚のリストに加える価値があるものは、すでにその人が持っているもののなかにあるかもしれません。

僕にとって、本を読むことの意味は3つあります。

  • 1つ目は漫画や小説のような娯楽のためで、読むこと自体が楽しみになっています。
  • 2つ目は必要な知識やノウハウを吸収するためです。
  • 3つ目は、読んでから自分の考えや行動が変わるようなインスピレーションを得るためです。

僕は特にこの3つ目が一番重要だと思っています。

だからその人にとってインスピレーションの源になるのであれば、本を読むのではなく、人に会って話を聞いてもいいし、街に出かけてもいいし、映画を観てもいいし、スポーツをしてもいいと思います。

インスピレーションはどんな活動をして得てもいいのですが、あえておすすめしたいことは「そこで感じて受けたことを文字に書くこと」です。「読む」という行為は、受け身ではありません。読むことを示すためには、言葉や形による表現が必要なのです。それは簡単なメモでも、絵でも、発言でも、ツイートでもいいかもしれません。とにかく形にする必要があります。そして、そのような形を要求するものを読んだり、体験したりすべきです。

その意味で一冊だけあげるとすると、小説ですがポール・オースターの『鍵のかかった部屋』(白水社:刊)をおすすめします。これはフィクションですが、ある意味古典的な自分探しのミステリー小説です。そしてこの本をすすめるのは、それについて感じたことを何かでアウトプットすることを読んだ人に強いるからです。その意味ではこの本は読むと気が滅入る部分も多いですので、読む際は覚悟してください(笑)。

鈴木さんのおすすめの本『鍵のかかった部屋』(ポール・オースター:著 白水社:刊)

読むというのは、書く、あるいは行動する、という行為と結びついているものです。僕にとってそれは柄谷行人の本であり、ジャック・トラウトの本でした。娯楽に値する本は多いですが、インスピレーションの元になる本に出会えることは、人生において少ないです。そのような本との出会いを皆さんにも探してほしいと思います。

それと学ぶこととは、蓄積することではなくて、ある時には過去の学んだことを吟味しなおし、それを一度棚卸ししたうえで、新しいことを学びなおすことが重要です。これも最近読んだ『Unlearn』(Barry O’Reilly:著 McGraw-Hill Education:刊)という本で自分も学んだことではあります。

鈴木さんの本棚
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