【エモーショナルな絶メシ、サイト全体リニューアルの近畿大学】「Webグランプリ」受賞サイト担当者が裏側を解説!フォーラムレポート後編
「個人商業を元気にしたい」という高崎市長の思いからスタートし、マスメディアでも取り上げられ13億円以上のPR効果を生み出した、エモーショナルなサイト「絶メシ」。
「広報戦略は褒められるけど、公式サイトは褒められたことがないね」という言葉に一念発起して劇的に改善した、6年連続志願者数日本一の近畿大学公式サイト。
これらのサイトを作り出した背景にはどんなストーリーがあり、Web担当者たちは何に苦労して進めたのだろうか。
Web広告研究会が2月26日(火)に開催した「Webグランプリフォーラム」では、第6回Webグランプリ 「企業グランプリ部門」を受賞した企業が、受賞サイトの目的や狙い、企画立案の経緯、公開後の結果と評価などについて明らかにした。
※Webグランプリ「企業グランプリ部門」は、企業Webサイトの担当者らが応募サイトを相互審査して選出する形式の賞。日本の企業Webサイトの健全な発展を目的とし、企業Webに携わる関係者の労と成果を表彰し讃える「Web関係者の、Web関係者による、Web関係者のための賞」として開催している。
グランプリを受賞したサイトについて、担当者がサイトにかけた思いや経緯、そして成果などを解説した2018年度のフォーラムから、後編では、プロモーションサイト賞 グランプリ受賞を受賞した高崎市「絶メシ」と、コーポレートサイト賞 グランプリ受賞を受賞した近畿大学公式サイトの裏側を、それぞれ紹介する。
■メディアで話題沸騰! 「絶メシ」が地域活性化に大きく貢献
絶やすな!絶品高崎グルメ「絶メシリスト」(高崎市)
●プロモーションサイト賞 グランプリ受賞
絶やすな! 絶品高崎グルメ「絶メシリスト」(高崎市)
https://zetsumeshi-takasaki.jp/
「絶メシリスト」は、群馬県高崎市の地方発信コンテンツだ。高崎市は人口37万人の地方都市で、大型商業施設ができるなど都市開発が進む一方で、昔ながらの個人飲食店や個人商店が商店街から姿を消していっている。この実情に課題を感じた 市長が「個人商業を元気にしたい」とプロモーションの競争入札を開催した。
そうした高崎市の思いがどのような経緯で「絶メシリスト」をうみ爆発的人気を得るまでになったかを、サイトを担当した株式会社博報堂ケトルの畑中翔太氏と村石健太郎氏が登壇して解説した。
「フィールドワークで高崎市に行った2年前の夏、ホルモン焼きの店で食事をしながら店主にお話を聞きました。最初はぶっきらぼうだったおじさんですが、だんだんに打ち解けていつの間にかテーブルの前に来ていろいろな話をしてくれました。
店を出る時に『また来ます』と声をかけたら、『次はやっていないかも』と、半分冗談・半分本気で言われました。
この会話がきっかけになって考えたのです。新聞やニュースでも『古くからある店が閉店をむかえるので惜しむ人たちが行列をつくる』という話題が取り上げられます。生活者もメディアも、なくなるという情報を知ると、その店の存在価値を見直して押しかける。ならば この行動をコンテンツにしようと生まれたのが、『絶メシリスト』です」(畑中氏)
「絶メシリスト」では、この先なくなってしまうかもしれない地元の古い飲食店、今すぐ食べにいくべき希少なお店を取材しコンテンツにした。ただし、リストに載せる条件はこだわった。
● 個人経営であること
● 昭和の空気感
● ネットにでてこない
● 後継者問題を抱えている
といった条件をクリアした飲食店のみ取り上げるという徹底ぶりだ。中には「看板なし」「メニューは2品」「営業は2時間半」という店舗もあったという。
「取材を続けてわかったのは、 店主本人から聞ける話が一番おもしろいということ。インターネットの話なので取材を依頼すると門前払いされることもありますが、食い下がって店主に話を聞いてみるとたくさん話してくれます。
だから、味の評価や料理の写真よりも、店主の個性や話す雰囲気が伝わるように、会話ベースの記事にしました。そうすることでお店の歴史や店主の魅力を軸にした濃い記事ができてディープなサイトになり、 滞在時間が平均4分を超えるサイトとなりました」(村石氏)
サイトの開設時に掲載していたのは15店舗だったが、現在は50店舗まで拡大している。
「自治体からの一方的な発信ではなく、絶メシを募集するなどして市民と一体となって成長し続けるコンテンツになりました。
さらに、味を守るために看板メニューのレシピを教えてもらうことをダメモトで交渉した結果、一部店舗に協力してもらえることになり、『門外不出をあっさり公開! 店主秘伝 絶メシレシピ』としてサイト内に掲載しています」(村石氏)
「絶メシリスト」は、高崎市の個人飲食店だけでなく、後継者不足による中小企業の廃業という日本全国が抱える社会問題と重ねられて捉えられている。結果、地方都市の取り組みとして連日のようにニュース番組で取り上げられた。
「全キー局で取り上げられ、 PR効果は13億円超え。ヤフトピには3回掲載、月20万PVのサイトとして全国からアクセスがあります。Instagramでも『#絶メシ』タグで食べ歩きをする人がいます。掲載店は平均売上20%増、地元民だけでなく観光客も訪れるようになりました」(畑中氏)
なお、後継者不足という本質的な課題に対して、後継者探しをサイト内で実施。すでに20件以上の応募があり、2店での後継者候補が決まったという。
「Webを見ない人に向けて書籍化もしました。またそれに合わせて関東ローカルのBS番組も制作されました。他の都道府県でもこの取り組みをしているところがありますし、市町村、鉄道、飲食業界、新聞・テレビの地方局からの問い合わせも多数あります。
街を盛り上げるという当初の目的を果たすために広げる方向で続けたいです」(畑中氏)
■広報だけでなくWebサイトでも評価を。大学のWebサイト全リニューアルの挑戦
近畿大学公式ウェブサイト(近畿大学)
● コーポレートサイト賞 グランプリ受賞
近畿大学公式ウェブサイト(近畿大学)
https://www.kindai.ac.jp/
近畿大学といえば、広報活動やブランディングにおいても象徴的な存在となっている近大マグロに目がいきがちだが、実は「近畿大学の強みは広報」だとも言われている。(『東洋経済』臨時増刊2018年5月号)。国際学部のポスターなどでも注目されているほか、プロデューサーにつんく♂をむかえた日本一派手な入学式など話題作りにもことかかない。
しかし大学サイトに限って言えば、こうした広報戦略に比べると強みを発揮しきれていなかったと、総務部広報室の加藤公代氏は言う。
「上司からも、『広報戦略はインパクトがあって、いろいろな大学からも褒められる。しかし、唯一褒められないのが公式サイトだ』と言われていました。Webサイトは、時代に即した形でリニューアルを繰り返していましたが、先進的なことができずに“いかにも大学”的なサイトでした」
そこで2016年夏から抜本的なリニューアルの検討を開始。クリエイティブなことを考えるには、大学の会議室よりも制作会社のおしゃれなオフィスのほうがいいと、1日こもって近大のサイトをどうすべきか議論した。
「リニューアル前の課題の1つが、トップページに情報を詰め込みすぎだったこと。新着情報が山ほどあり、右にはバナーが並んでいるため、どの情報が重要なのか一目ではわからない状態でした。その理由は、14ある学部と短大に加え、学生団体、研究所、広報などそれぞれが発信をしていたからです」(加藤氏)
「もう1つの課題は、14学部の情報が掲載されている学部サイトに関するものでした。学部によってデザインが異なり、統一感がなかったのです。受験生は複数の学部を併願することが多いのですが、学部によって設計が異なるので情報を探しにくく、使い勝手が悪かったのです」(加藤氏)
アクセス解析をすると、トップページを経由せずに、「法学部」「オープンキャンパス」などキーワード検索で(検索エンジンから)各ページにランディングしている割合が多いことがわかった。
「では大学のトップページはなんのためにあるのかを考えました。
参考になったのが当時の神戸市のサイトでした。神戸市のサイトでは、トップに神戸の写真があって検索窓がありました。トップページに来た人はサイト内検索で大量の情報のなかから自分が必要な情報にたどり着けます」(加藤氏)
そこで近畿大学でも、リニューアル後のサイトではトップページに検索窓を用意した。さらにその下に「人気のキーワード」や「見てほしいキーワード」を表示することで、訪問者が目的の情報や価値ある情報を探しやすくした。
「大学のサイトには、高校生、在学生、保護者、教職員、企業など、さまざまな人がそれぞれの目的で訪れます。どれか1つのセグメントにターゲットを絞るというわけにもいきませんので、検索とキーワードで対応しました」(加藤氏)
ニュース性の高いトピックや「入学式」「新歓」「学祭」といった季節のイベントのタイミングでは、この「POPULAR KEYWORDS」を担当者がタイミング良く切り替えるといったこともしているという。
サイトリニューアルでもう1つ力を入れたのが動画だ。
「トップページを経由しないのなら、トップページを見る意味を持たせるために、近畿大学のスケールがわかる動画をクオリティにこだわって作成しました。
ドローンが飛び立つシーンを逆再生して、空から人に接近するようなカットも入れて、動きのある動画を作ったところ、評判は上々。トップページを広報媒体として見てもらうという狙いは成功したと思います」(加藤氏)
そして、学部ごとに担当者がいて独自に設計していた学部と短大のWebサイトのデザインを統一した。ただ、担当者のモチベーションを削がないように、ある程度独自にできる部分も残すように配慮した。
他にも、力強さを伝えられる極太のWebフォントを利用したり、データの一元化によってWeb担当者が効率的に運用できるようにしたりといった改善などにもこだわったという。
「リニューアル後のトップページのPVは3割増加、PV全体も増加しています。Webサイトでも今回の受賞やグッドデザイン賞の受賞などがあり、目標を達成ができました。外部的な評価も上がっています」(加藤氏)
今後は、ショートバージョンの動画を用意したり、デザインを統一しきれていない部分に対応したり、よりわかりやすいサイトにしていくとのこと。加藤氏は「近畿大学としてWebサイトの運営にも注目されるようになりたい」と締めくくった。
2019年2月26日Webグランプリフォーラムレポート(1)
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Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:
「Webプロモからマスメディアでも大成功の「絶メシ」、巨大大学サイトの全体リニューアル――Webグランプリ受賞サイトの裏側」2019年2月26日Webグランプリフォーラムレポート(2)(2019/05/23)
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