【IMJ NPSコンサルティングチーム】
松永 来美氏
NPSコンサルタント
Net Promoter(R) 認定資格者
玉井 由美子氏
NPSコンサルタント
Net Promoter(R) 認定資格者
【はじめに】Medallia社が主催する「Experience 2018」とは?
5月中旬にロサンゼルス・ロングビーチで開催されたMedallia社主催の「Experience 2018」カンファレンス。
Medallia社とはアメリカで「フォーチュン500」に名を連ねる上位企業や有名企業の多くをクライアントに持ち、顧客ロイヤルティマネジメントを支援している、いま注目を浴びている企業です。
そしてこのカンファレンスは、顧客ロイヤルティマネジメントに取り組む企業の責任者や担当者が世界中から集まってナレッジを共有したり、交流をするエキサイティングなイベントで、年に1度、4日間にわたって開催されています。
カンファレンスを通しての合言葉は「Win Through Customer Experience」。この言葉通り、数々のアメリカの有名企業関係者の講演からは、「顧客体験の改善にたゆまぬ努力を続け、顧客からもっともっと愛される企業になるのだ! そして市場の生き残り競争に打ち勝っていくのだ!」という、非常に熱い気概が感じられました。
アメリカの顧客ロイヤルティ先進企業に共通することは?
カスタマーロイヤルティ、カスタマーエクスペリエンス、カスタマーサクセス……日本でも同じようなトレンドワードのもと、顧客ロイヤルティ向上に取り組む企業が増えてきているのは事実です。しかし、日本ではまだまだ、その取り組みが「ある部署にのみ関係する特定業務」であり、関係者数名で細々と行っているケースを多く見かけます。関連部署以外の社員は、その取り組みを知らないことも少なくありません。
これに対して、アメリカの顧客ロイヤルティ先進企業では、取り組みのスケールが違います。私たちが毎日タイムカードを押すのと同じくらい当たり前のこととして、従業員全員が顧客の声を聴き、「NPS」(Net Promoter Score。顧客ロイヤルティを数値化した指標)を活用してアクション改善を行い、「顧客ロイヤルティの向上」に取り組んでいるのです。
カンファレンス冒頭の基調講演から見えた、こうした企業の取り組みに共通する3つの特徴を整理しました。
共通する3つの特徴
- 企業のトップレイヤーがロイヤルティ向上の推進者(責任者)となっていること
- 業務の重要項目のひとつとして「顧客ロイヤルティ向上への貢献」が組み込まれていること
- 従業員がロイヤルティ向上に取り組みやすい環境が整備されていること(例:社内文化の形成、ツール導入などによるシステム化)
これらの特徴からも、アメリカの顧客ロイヤルティ先進企業では、顧客ロイヤルティの向上を「企業ゴト」として捉えて取り組んでいる様子が分かると思います。
いまアメリカではサブスクリプション型のビジネスモデルへのシフトがどんどん加速しています。企業は顧客に継続的に選ばれ続けることで生き残っていける時代。「顧客体験を絶えず改善し、ロイヤルティを向上させて、顧客から好かれる」ことは、まさに「企業ゴト」―企業存続のための超重要経営課題なのです。
アメリカに追随して、日本でもこうしたビジネスモデルの変化、顧客との関係性の変化は確実に起こってきています。顧客に選ばれ続ける企業やサービスであるために、今後日本企業は何をしていくべきなのでしょうか?
NPSコンサルタントとして、日々多くの日本企業の顧客ロイヤルティへの取り組みを支援している私たちが改めて重要だと感じる点を、カンファレンスで印象に残った3つのフレーズとともに、お伝えしていきます。
印象に残った3つのフレーズ
“Competitors don’t put you out of business, your customers do.“
~仮にあなたの会社で「顧客の流出・離反が止まらない」という問題が起きていたとします。競合があなたの企業やブランドに何か悪さをしているのでしょうか? いいえ、違います。それは、あなたの顧客があなたの企業を選ばなくなったということなのです。~
基調講演中、スライドに大きく映し出されたこのフレーズは、改めて「顧客視点がいかに大切か」ということを考え直すきっかけとなりました。
「顧客が流出・離反しているようだ。競合に流れていると捉えて競合分析をいろいろしているが、核心的な理由が分からず的確な対処ができていない」。
IMJでもお客様からこのような相談を受けることがよくあります。この問題はズバリ、「自社の顧客をきちんと見ていない、顧客視点を持てていない」ことが原因で起きているのです。
その企業の商品・サービスを選ぶのも、選ばないのも「その企業の顧客」です。顧客がなぜそのような行動をとるのかについて、当事者である企業の視点で競合をどれだけ分析しても、残念ながら答えは見えてきません。顧客の視点に立って考えないとわからないのです。
顧客から選ばれ続けるためには、「顧客の視点に立って顧客体験を見直し、顧客が持つ課題を見つけて改善をしていく」ことが必須なのです。
「顧客視点」はときに、UberやAirbnb、メルカリといった顧客の行動自体をガラリと変えるサービスも生み出します。これらはすべて、顧客の真の欲求を捉え、顧客視点で「何が必要なのか」を考え直したことで生まれたサービスです。
(自社が競合だと思っている)競合他社の分析をどれだけ綿密に行ったとしても、こうしたサービスを生み出すアイデアを得ることは難しいでしょう。
“Activate all Employees.“
~すべての従業員を(顧客ロイヤルティ向上に向けて)アクティベートせよ~
カンファレンスに登壇した有名企業の多くが、「従業員を愛し、大切にし、従業員ロイヤルティをあげていく」ことの大切さを語り、その取り組みを事例として話していました。
これは、顧客に選ばれ続ける企業やサービスであるために、決して置き去りにすることができない重要な課題です。しかし日本企業では後回しにしたり、忘れられがちになっていることも事実です。
考えてみてください。
「顧客の視点から彼らの体験を見直し、彼らの課題を見つけて改善をしていく」。
これを実際に行うのは誰でしょうか? それは従業員です。
顧客ロイヤルティ向上の取り組みの成功は、実際のところ、実行の主役である従業員が、この「企業ゴト」を「自分ゴト」として捉え、重要性を理解し、どれだけ真剣に意欲的に取り組むかに左右されます。
私たちが企業から日頃受けるご相談でも、従業員ロイヤルティをあげることで顧客ロイヤルティもあがるというこの関係性に気づかず、両者が全く別のものとして捉えられ、分断した全く別のプロジェクトでそれぞれのロイヤルティを上げようとしているケースが多々見られます。
当たり前のことですが、従業員は「人間」です。自社に対して愛情や好感を持ち、自社の理念に純粋に共感し、顧客に選ばれ続ける企業であってほしいと思うからこそ、「自分の仕事を通じて顧客を喜ばせ、顧客から愛される企業にするために頑張るぞ!」という思いを持つことができるようになり、ロイヤルティUPにつながる企画力や実行力を存分に発揮できるのです。
皆さまの会社は従業員に愛されていますか? 愛されるための努力をしているでしょうか? そしてお客様に愛される努力ができるよう、従業員をモチベートしているでしょうか?
今回のカンファレンスを通じて、顧客に選ばれ続ける企業やサービスになるためには、顧客視点を持つことに加えて、自らの従業員に目を向けることが非常に大切だと強く気付かされました。
“AI & ML(Machine Learning)”
~人工知能と機械学習によるアクション精度の向上~
昨今、あらゆる業界でAI&機械学習技術の活用が話題となっていますが、顧客ロイヤルティの分野も例外ではありません。Medallia社のツールには優れたAI技術が搭載されていて、ロイヤルティ向上につながるアクションの実行はもちろん、Salesforceや企業が保有するデータベース、SNS等と連携した膨大なビッグデータからロイヤルティに影響する要因の解析を行い、自らアクションの精度を上げていけるようになっています。
カンファレンスでは、こんなシーンを想定して紹介されていました。
例えば旅先でレンタカーを借りていたとします。飛行機を降りると、レンタカーの予約情報(何時にどんな車種の車を予約しているか等)がFacebookチャットを通じてスマホに届きます。チャットを通じて、カウンターで行う手続き(保険加入プランの変更等)、もろもろのことが行えるのです。その際に「他に何かリクエストはありますか?」と聞かれて、そういえばカーナビを予約し忘れていたことに気づきリクエストします。そうしてレンタカーをピックアップしにいくと、きちんとリクエストのカーナビが装備された状態で、待ち時間も少なくスムーズに車を受け取ることができました。
このレンタカーショップとの一連のやりとりが終わったあと、顧客はMedallia社から今回のレンタカーショップの顧客対応やサービス全般についての簡単なアンケートを受け取ります。それに対して顧客が回答すると、各トランザクションについての新鮮なNPSデータとやり取りの履歴がデータベースに蓄積され、AIがこのデータを解析して、結果を学習することで、さらにロイヤルティ向上に導く応対へとその質が上がっていく仕組みです。
この連載<NPSのトリセツ>の#2でお伝えしたように、ロイヤルティを向上させるアクションには、不満やクレーム対応等のマイナスをゼロにする類いのものと、期待以上の感動を提供することでゼロからプラスにする類いのものと2種類が存在します。
前者のマイナスをゼロにする類いのアクションは、基本的なオペレーションに課題があるケースが多く、まずはここからAI技術の導入による改善がなされていくのではないでしょうか。
顧客に選ばれ続ける企業やサービスであるためには、時代の波に乗り遅れないよう、こうした最新技術の活用にもアンテナを立てておく必要があります。AI技術活用が進むにつれ、アクションの質は軒並み底上げされていき、顧客ロイヤルティの向上に強く影響を与えるようになるでしょう。そして私たちも含め人間ならではの価値提供について真剣に議論しなければいけない日が、そう遠くない将来に必ず来るはずです。
まとめ
いかがでしたでしょうか? アメリカの顧客ロイヤルティ先進企業の3つの特徴、そしてカンファレンスで印象に残った3つのフレーズを、今一度、皆様が現在取り組んでいらっしゃる事と照らし合わせてみてください。
今回わたしたちが肌で感じ、持ち帰ってきたカンファレンスのキーエッセンスとその考察が、これからの皆さまの顧客ロイヤルティ向上への取り組みに参考になれば幸いです。
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