アイレップの渡辺氏が語る「AI時代のGoogle検索・音声検索に、SEO担当者が考えておくべきコト」
「Siri」「Amazon Echo」「Google Home」などの登場で、SEO担当者のあいだでも音声検索が気になっている人もいるだろう。「2020年には全検索の50%は音声検索になる」という予測もあるなか、音声検索になったら今までのSEOは全部無駄になるのだろうか。
検索環境はどのように変化し、SEOにどのような影響があるのか。アイレップの渡辺氏が、「Web担当者Forum ミーティング2017 秋」で「AI時代のGoogle検索・音声検索に、SEO担当者が考えておくべきコト」と題して解説した。
音声検索が増えている! SEOはどうすればいいのか?
渡辺氏はまず、次のような言葉を紹介した。
2020年までに、全検索の50%は音声に(comScore, 2017)
2020年に少なくとも検索の50%は音声と画像を通したものに(Andrew Ng, Baidu Chief Scientist, 2016)
83%の人が、音声検索でいつでも手軽に情報を探せるようになると思うと回答(Google, 2017)
音声検索では画面が必要ない。このため、「これまでやってきたSEOは無駄になるのではないか」「SEOは終わるのか」といった議論が出てくる。しかし、「SEOが終わる」という記事は2005年頃から毎年のように出ているが、実際にはまったく終わってはいない。
また、最近は「Googleを使わない」「ソーシャルの時代」といわれるが、実際にはクエリ数は何倍にも伸びている。テキストよりも手軽に検索できる音声検索が増えれば、さらに増加するだろう。つまり、検索から集客するというマーケティング施策自体は重要になると考えられる。
では、テキストから音声になることで、SEOは何が変わるのだろうか。
渡辺氏は、音声検索について解説する前に、まずは検索を理解するところから始める必要があるという。
SEOのEはExperienceのE
検索サービスの本質は、グーグル創業から20年近く変わっていない。基本的な機能は次の2つだ。
- 検索利用者の意図を理解する
- 適切な情報を検索結果に表示する
とはいえ、その実現は容易ではなく、グーグルは常に新たな検索技術を開発したり、アルゴリズムを進化させたりしてきている。この価値をWebマスター側から提供するよう試みるのがSEOなのだ。逆にいうと、そうした価値も提供しないのであれば、それはWebスパムだ。
SEOは「Search Engine Optimization」の頭文字だが、Eの部分は「エンジン」ではなく「エクスペリエンス」だという考え方が登場している。
昔は技術的な要素(リンクファーム、ドメイン分散、アンカーテキスト一致、フッターリンクの活用、タギング、リンク集への登録、Yahoo!カテゴリへの不正登録など)で語られることが多かったSEOだが、2015年頃からUXの要素の方が大きくなってきた。それに伴い、グーグルは次のような取り組みを行っている。
- 検索行動パターンの分析
2011~12年から機械学習を徐々に活用し、検索行動パターンからユーザー満足度やブランド浸透率が測定可能になった。
- ユーザーの行動変化を測定
モバイルシフトに伴いリンクを張る人が減り、リンクだけではWebサイトを評価できなくなった。リンクの性質が変化したため、ユーザーの行動変化(SNSなどで影響を受ける)を測定し、検索を通じてユーザーが到達するサイトのデータと組み合わせた評価が合理的になっている。
ポイントはサイト価値がユーザー行動から評価可能になったことだが、「ユーザー行動で評価するなら、その値を操作していいサイトに見せかければいいのではないか」と考える人もいるかもしれない。しかし、それは間違いだ。グーグルはハックできるような単純な指標ではなく、さまざまなデータを活用している。公表はされていないが、おそらく次の図のようなデータを使っているものと考えられる。
指標としては、次のようなものが考えられる。
- CTR
- 滞在時間 / 直帰
- 再訪問回数
- ブランド検索(指名検索)の推移
このうち「CTR」と「滞在時間 / 直帰」は操作できるが、「再訪問回数」と「ブランド検索(指名検索)の推移」は難しい。たとえば、滞在時間は文字数を無駄に増やしても数値を上げられる。しかし、訪問者が満足しなければ二度と訪問しないため、再訪問の指標を上げるには地道に良いサイトにするしかない。
SEO担当者が長期的に向き合うべきは、グーグルではなくユーザーである。単純な指標には意味がないし、最適値は存在しない。なぜなら、クエリごとにCTRや滞在時間、直帰率は変わるからだ。たとえば、次のような検索クエリでは、滞在時間や直帰率の基準がそれぞれ違うことは想像に難くないだろう。
- 具体的な答えがある: 「$キャラクター名$ 誕生日」など、直接的な正解がわかればいいもの、複数の正解を求めてページを見に行くことはない
- アイデアを探す: 「彼女 誕生日プレゼント何がいい」など、検索者にとっての正解は存在せず、アイデア(候補)を求めて複数ページを見るもの
- 検索結果画面で解答がわかる: 天気など、検索結果画面のリンクをクリックせずとも知りたい情報がわかるもの
検索にはさまざまなタイプがあり、サイトの価値は滞在時間や直帰率だけでは判断できない。要するに、指標をハックしても意味がないのだ。サイトの知名度や信頼性は、ユーザーと向き合わなければ構築できない。SEOの基本的アプローチは、SEOのEは「体験=検索利用者」と捉えて、ユーザーのための優れたサービスを提供するしかない。
「良いサイトづくり」の3つのポイント
「検索クエリの意図を把握する」ことの大原則として、グーグルは「ユーザーが良いと思うサイト」を検索上位に表示できるように試みている。スパムサイトを排除するのは検索品質を良くするための取り組みの1つにすぎない。「良いサイトづくり」を目標にしていれば、アルゴリズムに振り回されることはない。考え方のポイントは、次の3点だ。
- ポイント 1 サイトのUXを定義する
- ポイント 2 検索意図は文脈で捉える
- ポイント 3 コンテンツはテキストに限らない
それぞれについて詳しく説明する。
ポイント 1 サイトのUXを定義する
自社サイトで訪問者が満足する状態を定義する。サイトの目的や業種業態によって必要な要素は違う。たとえば、旅行クチコミサイトでは、これから旅行を楽しもうとする人が訪問するのだから、旅行のワクワク感を高める要素、きれいな風景や料理の写真、観光スポットの情報や行き方などの情報が有効だろう。一方、証券取引サイトでは、ワクワクや写真の美しさよりも
- 取引画面が扱いやすい
- 取引に必要な情報が整然と網羅されている
- 専門用語が丁寧に解説してある
といった要素が有効だろう。
UX を良くするには、どのような状態が自社サイトの利用者にとってベストであるか定義することが前提になる。ここをスタート地点にすることで、SEO担当者が陥りがちなスパム的アプローチを排除するうえでも役に立つ。
たとえば近年、「SEOに有効なページあたりの文字数は○○○」「ページあたり写真やイラストは○点掲載すると良い」といった断片的な知識を、あたかも絶対的な公式かのように自社サイトに無理に当てはめようとするケースが見受けられる。しかし、仮にグーグルがそれを好んでも実際の利用者の体験が損なわれるのであれば中長期的にその手法は通用しないだろう。利用者を起点に検索とUXを常に考えるステップを取り入れることで、こうした過ちを正すことにもつながる。
次のようなデータも考えるうえで参考になる。
- 競合サイト(公式サイト、事業戦略など)
- 調査・統計情報
- オンライン / オフラインの各種情報(チラシ、雑誌、新聞広告、ニュースなど)
- 社内で保有している各種マーケティングデータ(他部署にデータがあるかも)
- Googleの検索結果画面 【取扱注意】
最後に示している「Googleの検索結果画面」とは、現在のGoogleで上位に表示されているページを分析して、それを参考にコンテンツを検討するという手法のことだ。この手法を使う人は日本では多いが、海外ではあまり耳にしない。なぜなら、検索結果の上位はあくまでアルゴリズムで計算された関連性のある情報にすぎず、必ずしもユーザーが求めている情報とは限らないからだ。
つまり、この手法が有効であるためには、グーグルの返す検索結果が常に検索ユーザーの意図をくみ取っていて、まさに正解を検索上位に並べている前提が成立しなければならない。けれども、みなさんの経験から、いつも大満足の回答を検索結果で返しているといえるだろうか?
また、検索結果に出てきたページの内容に合わせて、単に競合と同じレベルに合わせるにすぎない。しかし必要なのは競合との差別化である。さらにいえば、あらゆるコンテンツが必ずしも検索を前提に成立するものではないのだから、検索を前提とすることは間違った結論を招く可能性もある。
アイデアをひねり出すための材料として検索結果画面を分析することは良いことだが、依存しすぎることは避けるべきだろう。
ポイント 2 検索意図は文脈で捉える
時間の流れに沿って、次の3点をセットで考える必要がある。
- 検索をしようとする瞬間はどのような場面なのか
- キーワードを入力してページにアクセスしたときに、ユーザーが要求する水準はどこまでか
- そのコンテンツを見終わったら次に何をしたいのか
また、検索は一度で終わらず繰り返すケースも多い。何か知りたいことがあって検索し、Webにたどり着いて新しい情報を得る。すると、別の疑問が生じて検索するというように、ユーザーは検索とWebでの情報摂取を繰り返していくものだ。流れがあるはずなので、特定のキーワードで来訪してページの情報を取得した後、その次に行動しそうなことは何だろうと考えることが重要だ。
小手先の手法で無理やりサイトにとどまらせようとせず、根本的な工夫をしなければならない。たとえば、次のように考えるといいだろう。
- 同時に興味を持つコンテンツがありそうなら、関連リンクなどの形式でコンテンツ提示
- またいつか訪問してほしいなら、TwitterやFacebook公式サイトの紹介へ誘導など
- 定番サイトとしてブランドを認識してほしいなら、そのジャンルの専門性がわかるレイアウト
これらを考えるためには、次のようなツールが参考となる。
- Googleキーワードツール
- Googleトレンド
- ウェブ解析
- Ubersuggest
- Google Search Consoleの検索アナリティクス
- ユーザーが質問を投稿するサイト(Q&A、掲示板など)
- 広告データ
- 広告プラットフォーマーが発行するユーザーインサイト関連の情報
- 統計・調査
- 不平不満 / クレーム情報
ただし、キーワードツールや自動入力のデータには、次のような注意点もある。
【注意点 1】 「ユーザーにとっての価値」も考慮する
検索量(検索ボリューム)が多いところからコンテンツをつくる企業が多いが、検索量は必ずしもビジネスにとっての価値を表していない。ユーザーの「要求度」と「数量」は別だからだ。
たとえば、「空港マップ」というキーワードの検索数は、グーグルのキーワードデータでは少ない。しかし、ある航空会社では、普段あまり国際線に乗らない人が多く海外旅行に行く3月と8月に「空港マップ」の検索が増える。
この航空会社は、「空港マップ」の検索ニーズに応えるアクションを後回しにすべきではない。ゲートがわからず迷っているユーザーが、地図を探しているからだ。
このように、「検索数」と「利用シーンにおける重要度」は、必ずしも一致しない。
【注意点 2】 何でも検索されるとは限らない
家のリフォーム検討や家具選びなど、提案されたらうれしいもの、たくさんの写真のなかから気に入ったものを選んでいくジャンルがある。これらは自分が本当に欲しいものが顕在化していなかったり言語化されていないため検索は行われない。同様にB2Bの商材にも検索ボリュームが絶対的に少ないためにデータが取得できないことがある。
【注意点 3】 オートコンプリートをうのみにしない
オートコンプリートには、次のように検索エンジンごとに「クセ」がある。
- ヤフー: 実際にユーザーが入力した言葉に近い(=スパムも多い)
- グーグル: ユーザーの検索データだけでなくWebのデータも使い、類似クエリを推定(=実際にはユーザーが検索しない言葉が出てくることがある)
オートコンプリートはユーザーの傾向を探るツールとして有用だが、参考程度にとどめてうのみにしないことが大切だ。
ポイント 3 コンテンツはテキストに限らない
日本ではコンテンツというとテキストを考えるが、画像や動画の方が情報が伝わりやすい場合もある。たとえば、「ネコを獣医に診せた方が良いとき(兆候)」というコンテンツの場合は箇条書きのチェックリストの方がユーザーの反応がいいが、「病院嫌いのネコを動物病院にストレスなく連れて行く方法」というコンテンツは動画の方が良かったという英国の事例がある。
日本ではSEOをテキストで考えるが、米国はユーザーが求めるフォーマットを考えるところから始めるので、そもそもWebではなくInstagramやFacebookを選ぶということもある。
音声検索で「人の検索」がどのように変わるのか
ここで渡辺氏は、最初に触れていた音声検索に話を戻す。
冒頭に「全検索の50%は音声に」という言葉を紹介した。「そこまでではないにしろ、現在世界的に20%程度なので30%程度にはなるだろう」と、渡辺氏は言う。スマートスピーカーが発売されて話題になっているが、海外で関心が高いのは、そこに搭載されているAIが他のデバイスに搭載されたときを考えているからだ。
まわりに音声が利用できる環境ができれば、ユーザーは必然的に使うようになる。音声ですむことは、実は多いのだ。懐疑的な人もいるだろうが、マーケティング担当者なら、実際に普及するかどうかはともかく普及したらどうなるだろうと考えておくことは大切だ。
音声検索には、次のような特徴がある。
- 単語ではなく、自然文・会話調 (Natural Language)
自然文・会話調で質問してくるので、クエリも超ロングテールになる。
⇒意図と文脈が相対的により重要に - 画面を見る必要なし(かも)
会話だけで目的のタスクが完了できる(Uberでタクシーを呼ぶ、ピザを注文する、Amazonで購入などのアクション)
⇒コンバージョンに近いユーザーはGoogleが押さえる - AIが提示する回答は1つ (AI gives us only one answer for a query)
検索結果画面には10サイト分の項目が出るが、音声で同じように答えられても記憶できない。このため将来的には、会話のキャッチボールをしながら目的を果たすことが前提となるだろう。
⇒「ファーストアンサーになること」が重要
イメージとしては、次の図のようなものだ。
SEOがなくなるわけではないが、情報の探し方は検索というよりは会話になる。現在の技術では対話と呼ぶには程遠いが、将来的には会話でやりとりしながら条件にあった情報が提案されるようになっていくだろう。ユーザーの要求を満たす情報を、音声を通じて提示することが重要だ。将来の音声検索に備えて、若い人たちの使い方を観察したり、音声対話で利用者とやりとりする姿をイメージしておく必要があるかもしれない。また、技術的には、次のようなことに取り組んでおくといい。
- 自然文の傾向を学ぶ
- フィーチャースニペットの理解
- とりあえず音声応答アプリをつくってみる
最後に渡辺氏は、セッションのポイントを次のようにまとめた。
- 「ユーザーの満足度」を軸にSEOを進めていく
- 「UX」「ユーザー体験」「満足度」を定義する
- ユーザーの感情、気持ち、状態をよく考える
- グーグルが提供するデータに踊らされない、依存しすぎない
- 音声検索は、全力で投資するほどではないが、無視できる存在でもない
ソーシャルもやってます!