【レポート】Web担当者Forumミーティング 2017 Autumn

メール×デジタル広告で売上をのばす! CRM、次の一手

「多様なチャネルでリーチ拡大」の第一歩
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CRMとは、コミュニケーションを通じて顧客から長期的に選ばれる企業となることを目指す思想や取り組み。技術の発展によってそのコミュニケーションチャネルは多様になっている。とはいえ、いろいろなチャネルに手を出すには、予算も人手も時間も足りない。

古賀 裕人氏
シナジーマーケティング株式会社
東日本事業部 第二営業グループ
リーダー
古賀 裕人氏

ハードやリソースのハードルが低いのは、メールとデジタル広告の掛け合わせ

と言うシナジーマーケティングの古賀氏が「Web担当者Forum ミーティング2017秋」で、「メール×デジタル広告で売上をのばす!CRM、次の一手」と題して、その考え方と具体的な事例を紹介した。

既存顧客維持のコストは新規顧客獲得の1/5

売上は、顧客数×LTV(ユーザー1人あたりの売上)で計算できる。つまり、売上を増やす方法は、「顧客数を増やす」か「LTVをアップさせる」かの2択だ。下記のように、取り組みはそれぞれ2通りある。

  1. 顧客数を増やす
    • 新規顧客を獲得する
    • 既存顧客の中でアクティブなユーザーを増やす
  2. LTVをアップさせる
    • 購入単価を上げる
    • 購入頻度を上げる

新規と既存に分けると、売上を増やす方法は「新規顧客の獲得」「既存顧客の維持やLTV向上」の2通りとなる。

このうち、後者の「既存顧客の維持やLTV向上」を重視するのがCRMの取り組みだ。新規顧客獲得ももちろん重要だが、CRMが重要視されるようになった背景にあるのはCPAの高騰だろう。「1:5の法則」という言葉があるように、「既存顧客の維持にかかるコストは、新規顧客の獲得コストの5分の1」程度。効率を考えると、マーケティングにとってはCRMが重要になるのだ。

CPAの高騰

既存顧客維持やLTV向上が重要なことは、実際の数字でもわかる。古賀氏が担当するクライアント企業の数字で紹介しよう。

各企業によってアクティブユーザーの定義は異なるが、「過去一年間に1回でも購入があればアクティブユーザー」とする場合、アクティブユーザーの割合は、某健康食品のECサイトで34%、某コスメECサイトで17%しかない。お金をかけてせっかくつながったユーザーのうち、6~8割が離脱しているということだ。

これでは、穴のあいたバケツに水を注ぐようなもの。どれだけ水(新規ユーザー)を増やしても、バケツに水(アクティブユーザー)はたまっていかない。

できるところから始める「メール×デジタル広告」

ユーザーとのコミュニケーションを考えるうえで重要とされるのは、

  • (誰に)情報を届けたい人へ
  • (何を)最適なコンテンツを
  • (いつ)最適なタイミングに

の3つだった。しかし近年は生活の多様化やデバイスの変化によりコミュニケーションが細分化 / 複雑化している。このため、ユーザーに情報を届けるためにはさらに

  • (どのように)最適なチャネルで

という観点も重要になっている。

現在、CRMコミュニケーションのチャネルとしては、

  • メール
  • デジタル広告
  • LINE
  • アプリ

などがある。しかし、実際にはメールコミュニケーションのみにとどまっているケースが非常に多い。確かにメールは効果があるが、メルマガの受信を許可する人は30%程度で、開封率となるとそのさらに10%程度という調査もある(米MailerMailer調べ)。リーチを高めるためにはチャネルを増やすことが重要だ。しかしそうとわかっていても、ハードやリソースの不足で取り組めないという企業が少なくない。

多くの企業では、「いかにコストやリソースをかけずにメール以外のチャネルを増やすか」が課題になっている。それをクリアするのは「メール×デジタル広告」という取り組みだと、シナジーマーケティングは考えている。具体的には、CRMにデジタル広告を活用する。

CRMにデジタル広告を活用する

デジタル広告であればすでに実施している企業も多く、LINEやアプリに比べて低予算から始められる。ハード面やリソース面でのハードルが低いのだ。「メールとデジタル広告のかけ合わせは、メールアドレスがあればすぐにできることなので、まずここからやるのがお勧め」だと古賀氏はいう。

メールマーケティングを実施しているのであれば、当然メールアドレスを保有しているはずだ。Facebook / ヤフー / Twitterといった各メディアはメールアドレスを取り込むメニューを用意していて、セグメントを作ることができる。メールアドレスを元に広告用のセグメントの使い方は、次の3つだ。

  1. 顧客データへのダイレクトの配信
  2. 顧客データを除外した配信
  3. 顧客データを拡張した配信

メールを読んでいない人に広告を配信する

セッションでは、「1. 顧客データへのダイレクトの配信」を使った事例が紹介された。メールを読んでいない人に広告を配信することで、届けたいメッセージを確実に届けるという取り組みだ。

ケース1 既存ユーザーへの購入促進事例――ダブルエー

ダブルエーはレディースシューズの製造・販売を行っている企業で、メールは売上貢献度の高いコミュニケーションチャネルだった。しかし、さらに売上を伸ばしたいということで、「夏セールの売上向上に向けた施策がやりたい」という相談があった。シナジーマーケティングが提案したのは、デジタル広告とメールの掛け合わせだ。

ダブルエーには、EC会員約6万件、店舗会員約15万件のデータがある。ただし、EC会員と店舗会員のデータが分かれていて、EC側から店舗会員に向けて自由にメール配信できないという現状があった。データを活用して広告を配信することならできるので、分断されたデータの利活用として、デジタル広告との掛け合わせを行った。

購買頻度を増やすための広告施策としては、各会員に対して「夏セール」を訴求し、次の効果を狙う。

  • EC会員には、ECでの再購入促進
  • 店舗会員には、ECへの送客

重要な4つのポイントにあてはめると、次のようになる。

  • (誰に)EC会員 / 店舗会員へ
  • (何を)セール情報を
  • (いつ)セール開始~終了まで
  • (どのように)メール&広告で

提案した広告メニューは、Facebookのコレクション広告だ。通常のディスプレイ広告とコレクション広告をA/Bテストしながら進めていった経緯は、シナジーマーケティングのブログに記事がある。最終的にはコレクション広告の方が効果が高かった。

Facebookコレクション広告を活用

施策の結果は、既存ユーザーの売上向上により、ECでの夏セールの売上は昨年比で160%を達成した。

また、施策の結果から仮説を作り出すことができることも評価された。

たとえば次の図のように、「本会員は、最終購買日から1年以内まではROASが高い」「ゲスト会員は半年以内だとROASが高い」など、細かく切ってデータを見ることができる。ここから、「非アクティブ化を防ぐタイミングは、会員種別でも異なっているのではないか」といった仮説をたてることができ、PDCAも回しやすいというわけだ。

顧客データを活用したデジタル広告のプラスαの価値

ケース2 非アクティブユーザーへの購入促進事例――ラロッシュポゼの場合

ラロッシュポゼは、シナジーマーケティングが2011年から支援を開始した、日本ロレアル株式会社の「皮膚科医が採用する敏感肌のためのスキンケアブランド」だ。「総会員数は伸びているがアクティブ会員数は伸びていない」ことが課題だった。事前の分析でわかった会員傾向は、次のとおりだった。

  • ほとんどの顧客は初回にUVケア商品を購入しており、購買力の強い商品になっている
  • 購入回数が多い顧客は、UVケア以外のスキンケア商品の購入が多い

そこで、次のように施策の方針をたてた。

  • 年に一度はUVケア商品を絶対に購入してもらう
  • その中でなるべく多くの人にUVケア以外のスキンケア商品を購入してもらう

それまでラロッシュポゼでは、メールもセグメントを切らない一斉配信がメインだった。そこでまずはメールをセグメントで切って、「非アクティブユーザーに対してメールで再購入を促進」という施策を行った。重要な4つのポイントにあてはめると、次のようになる。

  • (誰に)非アクティブユーザーへ
  • (何を)購入してほしい商品を
  • (いつ)需要が高まる時期に
  • (どのように)まずはメールで

実際のコンテンツは次の図のとおりだが、ポイントはUVケア以外の商品も載せている点だ。分析結果から導き出した「買ってもらいたい(=リピート率が上がりやすい)商品」を3点ほど載せている。加えて、休眠ユーザーはただメールを送っても購入に至らないだろうと考え、特別オファーをつけた。

アクティブ化を目指すメール施策

施策の結果、狙い通り非アクティブユーザーの購入を促せた。また、開封率もCVRも通常メールと同等のスコアだった。休眠状態の人にしぼったにもかかわらず通常と同じという点は評価されたが、さらに開封率を上げるために広告施策を行った。

顧客データを活用したデジタル広告施策

結果は狙い通りで、メールを読んでいない非アクティブユーザーの広告からの購入があった。さらに、アクティブ率は28%から30%に向上。2ポイントは小さい値と思われるかもしれないが、会員数も増加しているため売上としては大きな額になるという。

ケース3 コミュニケーション設計事例――沖縄ツーリストの場合

沖縄ツーリストは沖縄に本社がある旅行会社で、シナジーマーケティングは東京から沖縄に人を連れて行く部分でのCRM支援を行っている。CRM施策でコミュニケーションを設計するには、まず顧客データを分析して顧客を理解することが重要である。この事例では、分析結果をもとにしたコミュニケーション設計のプロセスを紹介する。

課題は、2011年以降、沖縄への観光客は増加する一方、沖縄ツーリストの利用者数は減少している点だ。広告による新規獲得に取り組んできたが、それだけで売上を伸ばし続けることに限界を感じていた。そこで、3つのステップでCRMプロジェクトを推進した。

3ステップでCRMプロジェクトを推進

ステップ1:分析で状況の把握と顧客理解

分析による現状把握では、次のようなことがわかった。

  • 顧客全体のリピート率は約13%
  • リピート顧客からの売上は全体の25%
  • リピート顧客の多くは1~2年のスパンで沖縄旅行へ行っている
  • 予約タイミングは出発日の3ヶ月以内が90%以上を占める

ステップ1の分析をまとめると、次のようになる。

ステップ1分析まとめ
  1. リピート顧客(=優良顧客)の売り上げ貢献は大きい。
    → リピート顧客を奪われず、かつ増やしていくための施策をうつ:メールと広告でアプローチ

  2. 初回旅行から2回目旅行までのスパンを見ると、1年以内のリピートがキモになることがわかる。

  3. 予約自体は、出発日の1ヶ月~3ヶ月前を目処に行われてる傾向が強い。
    → 最適なタイミングで施策をうつ:広告のタイミング

既存顧客のLTV(リピート率)を上げるための4つのポイントは次のようになる。

  • (誰に)既存顧客へ
  • (何を)沖縄の情報を
  • (いつ)次の沖縄旅行に向けて
  • (どのように)メール&広告で

ステップ2:メールマーケティングの開始

メールアドレスはわかっているし、メールはリーチできる顧客数が多い。分析結果から浮かび上がった顧客のぺルソナをもとにコンテンツを作成した。具体的には、「他社ではなく沖縄ツーリストを選ぶのは沖縄旅行のプロフェッショナルである認識してくれているから」だという考えから、商品訴求ではなく読んで楽しめるコンテンツ作りをしている。

ステップ3:メール×広告施策の取り組み

もちろん販売促進も必要なので、その部分はデジタル広告を使う。最終旅行日から9~12か月のユーザーを抽出し、本島か離島かの目的地別にセグメントを分けてコンテンツを出し分けている。このユーザー抽出は、「そろそろ予約するタイミング」というものだ。

最も旅行の申し込み数が増えるタイミングで広告露出

その結果、メールに関しては次のようになった。

  • 平均ユニーク開封率:15%~20%
  • 平均ユニーククリック率:3%~6%
  • CV(予約)も毎月数十件、受注

広告は、通常ディスプレイ広告(新規顧客獲得施策)と比較して次のようになった。

  • CV数:約5倍
  • CPA:約8分の1

新規獲得の集客方法そのものの改善

シナジーマーケティングは、新規顧客獲得の支援もしている。最後は、集客方法そのものの改善に取り組んで成果をあげた事例だ。

ケース4 「優良顧客」獲得事例――ニッピコラーゲン化粧品の場合

ニッピコラーゲン化粧品は、コラーゲンにおける日本のパイオニア。まずは少量のサンプルを購入してもらい、その後本商品の購入への引き上げを狙うのがビジネスの流れだ。LPやメールを使ったアップセル施策を実施しているが、あまり効果が出ていないというのが課題だった。

当初はステップメールの改善をしたいとの相談を受けたが、ステップメールの取り組みに問題はなかった。そこで、そもそもサンプル請求で獲得している人が間違っているのではないかという仮説のもと、継続して利用してくれる「優良顧客」を獲得することが重要という方針をたてた。4つのポイントでは下記のとおりだ。

  • (誰に)優良顧客になりそうな人
  • (何を)サンプルのご案内
  • (いつ)初回アプローチ時点
  • (どのように)広告

この事例では、セグメントの使い方のうち「2.顧客データを除外した配信」「3. 顧客データを拡張した配信」を活用している。具体的には、次の2つの軸で配信対象を拡張した。

  • 新規優良顧客を獲得するための広告施策として、優良顧客を定義(2回以上購入)し、優良顧客とWeb上の行動が似ている人に配信を拡張

  • さまざまな会社のサンプルをもらってまわる「サンプルハンター」対策として、サンプルハンターおよびその拡張リストを配信対象から除外

優良顧客拡張リストの質を落とさないために

結果として、CPAは30%悪化したものの、サンプル購入者→本商品購入への引き上げ率が200%以上向上した。優良と予想される人にしぼったのでCPAは当然下がるが、CPOは半分近くなり利益は大きく改善している。

まとめ

最後に古賀氏は、ここまでの話を次のようにまとめた。

  • 今後「最適のチャネル」を意識することが重要になる
  • メール以外にもさまざまなチャネルを使いながらリーチすることが重要だが……
  • まずはメールとデジタル広告の掛け合わせがトライしやすい

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