Web広告研究会セミナーレポート

ロボットと当たり前にコミュニケーションする生活がすぐ隣に、仙台パルコ&タカラトミーの実践

ロボットの開発者と導入側、それぞれの視点からコミュニケーションの可能性を議論
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

セミナーとボランティア活動を通じて、東北の今とこれからの復興を支援するWeb広告研究会の第11回東北セミボラが10月28日~29日に開催された。セミナーの第一部は「ロボットのコミュニケーションツールとしての可能性」をテーマに、パルコとタカラトミーが登壇。ワンパクの阿部淳也氏をモデレーターとして、ロボットが持つコミュニケーションの可能性を導入側と開発側の視点から議論した。

ちょっとした質問なら人よりもロボットが得意――仙台パルコ

モデレータ―
株式会社ワンパク/東日本大震災・被災地支援プロジェクトメンバー
阿部 淳也 氏
株式会社パルコ
林 直孝 氏

第一部の講演は、「あなたには身近な存在? 遠い存在? ロボットのコミュニケーションツールとしての可能性」と題して、実際にロボットを店舗接客に導入したパルコと、ロボット開発をするタカラトミーが事例を解説した。

まずパルコの林氏が、2016年7月に誕生した仙台パルコ2において、ロボットによる接客を1か月間試験導入した事例を披露した。なお、パルコのデジタル・オムニチャネル施策については、2016年9月月例セミナーでも詳しく紹介されている。

ロボット接客を行った理由について、「テクノロジーが進化して可能となるのは、何かを『拡張』すること。パルコは、テクノロジーを使って『接客の拡張』をどのように行うかを真剣に考えている」と林氏は話す。

仙台パルコの事例では、ペッパーとナビーという2台のロボットが活用された。パルコでは、他の店舗でペッパーを使った接客を行ってきたが、自走できないため店内を動いて案内できないことが課題だった。だが、林氏が2016年2月にシリコンバレーのホームセンターを訪問した際、接客をしている自走式ロボットのナビーを見たことが、2台のロボットを組み合わせて役割分担させるアイデアにつながったという。

2台のロボット、ペッパー(左)とナビー(右)が接客

1か月間ロボット接客を試した結果、期間中のインフォメーションカウンターの対面接客が1日あたり134件だったのに対し、ロボットは1日あたり403件の接客をこなしていたことから、「ロボットは人間よりも接客が得意かもしれない」と林氏は話す。

この結果について林氏は、「問い合わせを行う場合、人が相手のときとロボットが相手のときでは、質問する内容が異なると考えられる」と話し、尋ねにくいことや人に聞くほどでもないこと、インフォメーションカウンターでは対応できなかった相談事にも対応できたと分析する。

ロボットが当たり前の日常を提供していく――タカラトミー

株式会社タカラトミー
木村 貴幸 氏

タカラトミーの木村氏は、ロボット商品の企画・開発の背景を紹介した。

タカラトミーでは、30年前から音声認識機能を搭載したロボット「Omnibot(オムニボット)」を発売している。2014年にロボット開発を再始動し、現在は14種類のOmnibotシリーズを販売している。

Omnibotブランドの再始動の背景として木村氏は、現在の子供たちが幼少期からスマートフォンを扱えるデジタルネイティブ世代であることを示し、「3~5年後はロボネイティブな時代となり、生まれながらにしてロボットと普通に会話するようになることを目指して、きっかけを作りたい」と話す。

たとえば、NTTドコモと共同開発した「OHaNAS(オハナス)」は、スマートフォンを通じて会話サーバーと接続し、自然対話プラットフォームによって、ユーザーの発話意図を解釈して会話を成立させている。「手ごろな価格で高い技術を提供できるようになっている」ことが特徴であり、OHaNASをきっかけに家電や自動車などのさまざまなモノに応用することも木村氏は考えているという。

会話サーバーと接続して最新キーワードにも対応した会話を実現

OHaNASの購入者は64:36で男性が多く、40代以上が79%、50代が34%だという。また、使用者のうち小学生までの子供が28%なのに対して、40代以上が57%となっており、特に50代(22%)と60代以上(24%)の割合が高い。木村氏は、「50代はロボットを未来のモノだと感じて憧れが強い」と述べ、子育てが一段落した時点でロボットに強い興味を持ってくれていると説明する。

また、OHaNASはサーバーを利用しているため使用状況をリアルタイムに把握できる。これは、今までのおもちゃにはできないことであり、時間帯別の使用状況や顧客の嗜好を把握することで、新たなサービス開発に役立てていきたいと木村氏は話す。

企業とのコラボレーションもしており、店頭での商品説明やレシピなどのアイデア提案のほか、接客や店内の案内なども実施しているという。

「ロボットは、ペットや新しい家族ニーズとして支持されている」とする木村氏は、人との会話を促進する役割をロボットに担ってほしいと述べ、多様な商品シリーズで幅広い年齢層に提供していきたいと語った。

ロボットのトレンドが来る可能性

後半のトークセッションは、阿部氏の質問に林氏と木村氏が答える形で進行した。

最初の質問「ロボットに興味を持ったきっかけは?」に対して、両者ともアニメがきっかけだったと答えている。

また木村氏は、タカラトミーが2014年にロボット開発を再始動した理由について、デアゴスティーニの『週刊 ロビ』(2013年)大ヒットやペッパーの盛り上がりによって、ロボットのトレンドが来ると感じたという。

一方の林氏は、ロボットの活用は2015年3月に福岡パルコでペッパーを使い始めたのが最初だと話す。最初は遠巻きに見られていたが、いくつかの店舗でペッパーを活用していくなかで、次第に距離が縮まってきたと説明する。

人とロボットがコミュニケーションする日常が近づく

2つ目の質問は、「なぜ人とのコミュニケーションにロボットが必要なのか」というものだ。

林氏は、シリコンバレーでロボットが当たり前のように接客するのを見て、売り場でロボットが接客するハードルが下がっていることを感じたという。ロボット接客には話題性を獲得する意図もあるが、いち早く取り組む必要があると考え、まずやってみることで接客を拡張する可能性を模索したかったという。

木村氏は、家族のコミュニケーションをサポートするロボットの役割について、昔は兄弟や祖父母など、多くの家族が同居していたが、現在は核家族化が進み話す機会が少なくなっており、ペットを飼う人も多くなっていると指摘。同社のアンケートでも癒しを求めてロボットを購入している人が多いと話す。

技術が進歩してロボットが提供しやすくなり、ロボットと過ごしたくなるようなライフスタイルが整ってきていると木村氏は説明する。そのためタカラトミーでは、より親しみが持てるロボットの形やデザイン、声などを研究しているという。

コミュニケーションロボットが普及する可能性

3つ目の質問は、「コミュニケーション領域のロボットは一般的になり得るか?」というものだ。

林氏は、前述のように時間が経てば慣れて親近感を持ってくれると話し、仙台パルコ2では、当初はナビーよりペッパーのほうが親近感を持たれていたが、後半にはナビーの認知も上がり利用者が慣れてきたと話す。

木村氏は、ペッパーなどはまだまだ高額でサイズも大きく、企業活用がまだメインだが、タカラトミーではリーズナブルで最初にロボットに触れるきっかけとなる製品を提供したいと話す。スマートフォンの普及によって、音声認識技術が進歩し、小型化されたリチウムイオン電池を利用できるようになったことも、小型で手軽なコミュニケーションロボットが家庭に入る環境を整えており、今後はもっと普及するチャンスがあると木村氏は説明する。

続いて阿部氏は、「規制やガイドラインについてどのように考えているか」を聞く。林氏は、シリコンバレーではナビーが完全に単独で店内を自走していたが、仙台パルコ2の試験期間中はナビーに案内役として人を付けるようにしていたと説明する。

ナビーは人とぶつからないように制御されているため、万が一の場合を考えての対応だったが、米国では仮にロボットが人と接触するようなことにもある程度寛容なのではないかと林氏は話し、技術が進んだとき、文化の違いで日本の現場に入りづらいかもしれないとも語る。

木村氏は、ロボットが起こした事故はこれから考えていかなければならないことだと話す。一方、そのような可能性を真剣に議論するようになったくらい技術が進歩し、夢が広がる楽しみもあるとした。

ロボットは社会に必要なのか

4つ目の質問は、「ロボットは社会にとって必要か?」というものだ。

ロボットやAIに仕事が奪われることが話題を呼んでいることについて聞かれると、林氏は仕事がロボットに奪われるのではなく、役割が変わっていくのではないかと答える。

たとえば、ショップの名前や日々変わる商品を説明するのは、データベースに接続するロボットの得意分野だが、人間に対応してほしいというニーズも残るはずだ。人間がやらなくていい仕事が増えるだけで、人間はもっと別の仕事に注力できるはずだと林氏は説明する。

また、ナビーは店内を案内しながら陳列棚の商品が欠品していないかを確認するなど在庫管理も同時にできるが、これは人間には難しいと感じたと話す。人間とロボットが役割分担することで、商品在庫管理業務を気にせず接客に専念することが可能になり、接客レベルが向上できるのではないかと林氏は話す。

木村氏は、ロボットに取って代わられる職業があったとしても、ロボットのメンテナンスなどの新たな職業が生まれるはずだと話す。ロボットにしかできないこともあれば、人間にしかできないこともある。

人とロボットの未来に向けたチャレンジ

ロボット接客の実践者、ロボットコミュニケーションの開発者、双方の視点から未来のコミュニケーションの可能性が語られた同セッション。最後は、林氏と木村氏が今後のチャレンジについて次のように語った。

林氏:店頭でもっと良い接客をしてもらうために、人がやらなくていい仕事は機械やロボットに任せていこうと考えている。ナビーなどのロボットは今後、多くの機能が搭載され、在庫管理など様々な仕事を任せられると思う。それらをロボットに任せることで、スタッフが「お客様のために笑顔で接客する」という本来の仕事に注力できる環境を作っていきたい。

木村氏:ロボットが普及してきたといっても、実際にロボットに触れた人はまだまだ少ないと思う。ロボットと触れ合うきっかけの入り口を提供したいと考えており、多くの人がロボットに触れ、家庭に1台ロボットがあるような未来で、人と人の会話が生まれるきっかけを作っていきたい。また、新しい技術を少しずつ取り入れて、未来を感じられるような商品を作っていきたい。

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「ロボットと当たり前にコミュニケーションする生活がすぐ隣に、仙台パルコ&タカラトミーの実践」2016年10月28日開催 第11回東北セミナーレポート 第1部(2016/12/02)

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