オムニチャネル戦略の中心にあるべきモノとは? お客様サービス目線で実践する3社の取り組み
オムニチャネル戦略へと取り組み、成果を上げつつあるパルコ、アーバンリサーチ、メガネスーパーの3社が登壇したWeb広告研究会の9月月例セミナー。店舗とECの衝突は? アプリは必要なのか? など、第二部では、メガネスーパーの川添氏がモデレーターとなり、より具体的な施策や現場への導入手法について議論を交わした。
店舗スタッフがオムニチャネル戦略のキーになる
ディスカッションは、第一部で各社が話した取り組みに対する会場質問から始まった。
来場者:来店促進の施策としてクーポンやコインの成功例が示されていた。それ以外にどのようなことに取り組んだのか、失敗例も含めて紹介してほしい。
林氏:クーポンやポイントは取り組みやすい施策だが、消費者が利用に慣れてきて先細りし、効果がなくなってくる可能性もある。パルコは、実店舗では来店ポイントなどをやっていなかったので、Webで初めてやろうということになった。
しかし、本当に重要だと考えているのは、接客するスタッフの魅力やその人が発信する情報が起点になることであって、情報発信の主体をスタッフに委ねることが一番大事。それをより伝えやすくするためにスマートフォンアプリがある。
スマートフォンでは、ブラウザよりもアプリのほうが有効だと考えている。それによって、1人ひとりに役立つ情報をパーソナライズして送ることが、一番にやるべきことだと考えている。
坂本氏:我々も、ショップスタッフが一番のキーになると考えている。スタッフは毎日ブログを更新しているが、このブログは多くの人に見ていただいており、ブログのファンは来店したときにブログに載っていた商品を指名買いする。
また、オンラインの取り置きサービスを以前に作ったことがあるが、需要が高かったものの、取りに来られないお客様が多いという課題があった。サービスとしては良くても、スタッフの労力や在庫の問題で効率的ではないため、今後は取り置きではなく、取り寄せという形でサービスしていこうと考えている。
川添氏:メガネスーパーはクーポンの施策が多いが、前職のアパレルではクーポンを配信することはほとんどなく、新作の情報を提供することを徹底していた。
ブランドの場合は、欲しい商品がある人はクーポンがなくても購買すると考えている。そういったお客様はしっかりと見てくれているので、ECと店舗が同じ販売日でセールをやっているとわかってもらえれば、双方向で動いてくれる。クーポンでなくても、新作の商品を正しいタイミングで紹介するということも来店促進につながると思う。
メガネスーパーでは逆の考え方、つまり接客や検査に集中するためにご来店いただかないということにも取り組んでいて、コンタクトを一度購入された方へ、定期的にご自宅へ配送するコンタクト定期便など継続的に配送するような仕組みを作っている。
各社が描くオムニチャネル戦略の中心にあるべき要素
後半のディスカッションは、川添氏がテーマを提示し、それについて林氏と坂本氏が答える形で進められた。
リアルとデジタルの双方向での戦略について
川添氏:3社とも実店舗があり、デジタルを使うようになってきているが、オムニチャネルも店舗起点だと思われる。どのように取り組んでいるのか。
林氏:40年以上、店舗というリアルなプラットフォームをやってきたが、時代が変わり店頭サービスだけでは不十分となり、Webのプラットフォームを始めている。通常、小売店がオムニチャネルで店頭とWebをシームレスにつなぐときは、真ん中に商品があるが、パルコ自体は商品を持っていないため、テナントスタッフの接客を真ん中に置くべきだと考えた。
以前は、どうやって商品を増やすかということばかり考えていた。商品を増やすためにはテナントを増やす必要があるが、それも限界がある。
次に商品をたくさん持っているところと在庫連携させることを考えたが、このようなプレイヤーはすでにいて、パルコのビジネスではないと感じ、商品ではなく接客を真ん中に置くようにしている。
坂本氏:我々は、データやサービスがオムニチャネル戦略の真ん中にあると考えている。7~8年前までは、ECと実店舗は別々にやってきたが、ここ2~3年ですべてを統合しようとしたときに、お客様の好きな方法で「購入」「受取」「清算」が行えることが重要だと考えた。お客様に対してどのようなサービスを提供するのかという点から、統合とオムニチャネルが始まっている。
川添氏:店舗とデジタルを双方向でやっていくことに悩んでいる企業は多いと思うが、デジタルやテクノロジーをどこまで使うべきなのかは、自分も悩んでいる。
林氏:デジタルが強い分野とアナログが強い分野は、異なると考えている。わかりやすい例では、2016年7月にできた仙台のパルコでは、接客力が高いペッパーと自走式のナビーという2つのロボットを連携させて接客に活用している。ペッパーは動くことができないが、ペッパーにショップの場所を問い合わせたお客様をナビーがショップ店頭までご案内する。
ここまでは人でもできるが、ナビーは在庫チェック機能を持っており、接客しながら欠品・発注できる点が特徴となっている。ロボットやテクノロジーを活用するときには、人が得意なことと、機械が得意なことを分けて役割分担することが重要だと思う。
坂本氏:ロボットやAIについては、かなり勉強しています。アパレル企業としてはロボットに服を着せることができないのが少し残念です(笑)。
タブレットを使った接客は、現場側のハードルも低いため、テクノロジー化の第一段階として導入している。ITやテクノロジーを使うことは検討しているが、現場で使うことで従来通りの接客ができなくなる可能性も考えていく必要があり、まだまだ課題は多い。
たとえば、台湾のショールームストアのように、店舗でお客様としっかりコミュニケーションしながら売り上げはWebでしっかり取れるという仕組みを、もっとわかりやすい形で展開できればいいと考えている。
現場スタッフの理解を得るためのアプローチ
川添氏:オムニチャネルは、顧客体験やサービスレベルを向上させるために取り組んでいくものだと考えている。一方で、オムニチャネルという言葉がキーワード化しており、データ統合やアプリ作成をしなければならないと考えられている。
坂本さんがおっしゃるように、テクノロジーを使うことで接客レベルが悪くなるのは本末転倒だが、どのような過程で「WEARABLE CLOTHING BY URBAN RESEARCH」(VR試着システム、詳細は第一部参照)などの新しい試みに至ったのだろうか。
坂本氏:社風として、自分が与えられた仕事をやる以外に、自由な発想を出しやすい会社だと思っている。毎週、さまざまな意見を話し合っていて、それらの中からWEARABLE CLOTHING BY URBAN RESEARCHといった発想が生まれてきている。
さまざまな部署からの立案があり、最終的に会社がまとめてプロジェクトにすることが比較的自由にできるので、速い動きになっているのだと思う。とはいえ、改修ばかりしてもコストがかかるだけなので、しっかりとビジネスとしてサービスを提供することを前提にして、プロジェクトを立ち上げている。
川添氏:パルコでは、接客は出店しているテナントに任せる形になると思うが、どのようにテナントを巻き込んでいるのだろうか。
林氏:カエルパルコのような仕組みを作っても、難しくては誰も使ってくれないので、簡単に登録・更新できることにこだわった。しかし、使いやすいツールを作っても、我々が押し付けたのでは使ってもらえないため、テナントスタッフでうまく使いこなしている事例をもとに動画を作成して紹介している。現場では、我々では考え付かないような発想で、SNSなどをうまく使って売上増に取り組んでいただいている。
川添氏:ECだけをやるなら、関わる人が少なく、自分たちの判断だけで意思決定しやすいが、実店舗がある場合は関わる人が多くなり、巻き込むことが難しく、やりたいことができなくなるという課題があると思う。実際にECやアプリで売れたデータなどを店舗にフィードバックする取り組みはあるのだろうか。
坂本氏:一番重要なのは、売れ筋データや需要予測だと考えている。時代のニーズに合っていない商品をすばやく察知したり、トレンドを含めた商材の需要がどれだけ必要なのか、店舗の需要がどれだけあるのかなど、我々がデータを出して、それに基づいて商品企画や商品追加をしている。ECの顧客の購買データも店舗と共有し、接客にも役立てている。データを基に商品開発して結果を出すことで、商品開発部も納得してくれるようになった。
川添氏:パルコでは、アプリにAIを入れるなど力を入れているが、小売にアプリが必要かという議論もある。アプリをダウンロードしてもらう労力を使うのであれば、LINEビジネスコネクトを使ったほうがいいという人もいるが、どのように取り組んでいるのだろうか。
林氏:アプリを作るうえで、テクノロジーの進化に追従していくのが大変だというのはあると思う。AIは、お客様が興味を持つコンテンツのレコメンデーションに活用している。ブログの情報をクリップしてくれた後に商品を買ってくれる可能性が高くなるという相関があるのだが、特定のブランドと他のブランドとの相関関係を人の手でプログラミングすると膨大な手間になるため、それらの相関関係をAIに学習させている。
またIoTは、ブランドの情報をクリップして、興味を持って来店したのに購買に至らなかった理由を探るため、パルコが提供するフリーWi-Fiを利用したお客様の店内での動線を統計データとして出し、分析に役立てている。アプリのプッシュ通知で、店内にいるお客様へのリアルタイムに通知などにも利用できる。
将来的には、統計データをもとに、こういうお客様が来店したということをスタッフに通知していきたい。たとえば、食事をした後のお客様の買い物の傾向がわかれば、スタッフの接客が変わる可能性がある。気温・降雨データなども買い物と相関があるはずだが、あまり分析できていない。これらのデータを組み合わせて分析すれば、これまで勘と経験で行っていた接客をデータに基づいて行えるようになり、スタッフの接客レベルが上がると考えている。
川添氏:お2人の話を聞いていると、これからも新しい事例がでてくると思う。来年、再来年と新しい事例がでてくると思うので期待したい。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「オムニチャネル戦略の中心にあるべきモノとは? お客様サービス目線で実践する3社の取り組み」2016年9月27日開催 月例セミナー 第2部(2016/11/29)
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