オムニチャネル実践事例――パルコ、アーバンリサーチ、メガネスーパーの戦略・施策・導入ツール
オンラインからオフラインまで、デバイスやチャネルを問わず顧客との接点をもつオムニチャネル戦略。米国で広まり、日本でもたびたび耳にするテーマだが、日本企業の縦割りの体質が実現の壁になるとも言われている。Web広告研究会の9月月例セミナーは、「オムニチャネル実現に向けたユーザー体験の構築から社内調整のノウハウまで」と題し、パルコ、アーバンリサーチ、メガネスーパーの3社が取り組むオムニチャネル戦略の実態が紹介された。
24時間の接客で顧客満足度を高めれば売り上げにつながる――パルコ
1969年に東京・池袋でスタートしたパルコは現在、店舗というプラットフォームだけでなく、Web上で接客しやすいプラットフォームを作ることによって、24時間接客の機会を増やし、売り上げを伸ばそうとしているという。
パルコの売り上げは、BtoCの店舗売上(顧客の満足や共感の和)とBtoBのテナント売上(テナントスタッフの接客結果の和)の2つがあり、接客機会を増やして顧客満足度を高めることが、売上向上につながると林氏は説明する。
パルコでは、テクノロジーで接客を拡張することに取り組んでいる。
まず、2013年にショップごとのブログを開設し、テナント主体の情報発信を可能にしたことで、いつでも、どこでも、Web接客できる仕組みを設けた。
次に、商品を詳しく説明できるようにするため、テナントのECサイトと情報連携する「PARCO SHOW WINDOW」を立ち上げた。また、ブログで紹介した商品をWebで購入できるようにするだけでなく、店舗で確認・購入できるように取置予約することも可能とし、オムニチャネルプラットフォームとして「カエルパルコ」も開設した。
カエルパルコでは、場所や時間といった店舗の制約を超えた接客が可能となり、店舗以外の都道府県からの注文が約9割、営業時間外の注文が約4割になっている。
これらの施策を統合する形で、2015年3月からスタートさせたのがスマートフォンアプリ「POCKET PARCO」の提供だ。アプリのデータを活用することで、顧客分析やパーソナライズが可能となり、たとえば、「ブログで商品に興味を持った顧客の約3割が1か月以内に店舗で購入している」などのデータを取得できるという。
データ分析にはBIツールの「Tableau」を使い、可視化したデータをキャンペーン施策やエリアターゲティングプロモーションなどにも役立てている。また、ショップ別の接客サービス評価ができるように機能追加を行い、テナントスタッフの接客満足度を可視化して現場にフィードバックすることで、接客レベルの向上も図っているという。
デバイス開発にも取り組みお客様のニーズに合ったサービスを展開――アーバンリサーチ
アパレルのEC事業を約10年続けてきたアーバンリサーチでは、現在サイトのリニューアルとシステムの入れ替えを行っており、店舗とECの相互で商品の取り寄せができる機能や、食品、家具などの幅広い商品を展開できる機能を追加しようとしていると坂本氏は説明する。
また、アプリとの連携やデータ活用によるサービス展開も考えられており、サイトのリプレイスは2016年10月末、リニューアルは2017年春を予定しているという。
独自のデバイス開発も行っており、VR試着システム「WEARABLE CLOTHING BY URBAN RESEARCH」では、ECサイトと商品データを連携させることで、店頭のモニター上でバーチャル試着が体験できる。今後は、洋服の自動販売機をコンセプトとした開発に取り組み、将来の海外展開での強みとしていくことも計画されているという。
また、「UR STYLE」というアプリでは、各店舗でのコーディネート提案などを行っているが、チャット接客機能を追加することで顧客からの質問などにもすばやく対応できるようにしている。
2016年2月には、オンラインストアと連動して旬なアイテムを紹介する「TREND EXPRESS」を開設。検索ワードやさまざまなデータでトレンドを独自にピックアップし、店舗と同一のテーマを示すことで、ネットで見た顧客が来店するような仕組みにも取り組んでいる。
2016年春に開設した「UR BUYERS SELECT」では、コアな顧客に向けてバイヤーがセレクトした高感度なアイテムを紹介。UR表参道ヒルズ店のスタッフとのチャット機能を提供し、商品在庫も同店と一元化しているため、オンラインでも店舗でも同じような接客ができるという。今後は、このような取り組みを行う店舗の数を増やしていきたいと坂本氏は話す。
海外展開としては、2013年にECサイトへのアクセスが多い台湾に現地法人を設立し、EC専用のショールームストアをオープン。台湾向けのECサイトを開設することで売り上げの増加に成功した。将来的には、台湾からアジア全域のマーケティングを行い、市場拡大を目指すという。
5つのステップでオムニチャネル戦略を推進――メガネスーパー
メガネスーパーは8年間にわたり赤字が続いていたが2016年4月期に黒字を達成、V字回復するなか、価格競争をしないことで自社ECを伸ばして成長している最中だと川添氏は説明する。直近3年間でECの売り上げは2.7倍、営業利益は21倍に成長している。
オムニチャネル戦略は、店舗とWebを理解したチーム作りから始まり、自社ECの強化や店舗サービスとの同期、接客へのテクノロジー活用に取り組んでいる。
川添氏は、そのなかでもECの部分について説明していきたい話し、EC事業を成長させるためには、「販売手法」「在庫MD」「集客」の3つを軸に戦略を考えていくことが重要だと説明する。
現時点では、顧客体験という点でECよりも実店舗のほうが勝るという川添氏は、「デジタルだけでできることは限られている。ECと実店舗を差別化するのではなく、ECを実店舗に寄せていく必要がある」と話す。
単なる価格競争ではなく、施策でサービスレベル向上を行う必要があると川添氏は話し、メガネスーパーでは「メガネ無料試着サービス」「店舗の在庫表示」「コンタクト定期便」などのサービス拡充を図り、店舗やコンビニでの受取サービスなどの利便性も拡充してきたと説明した。
また、アンケート調査などによって、ブランドへの信頼感が高いといった強みを把握するほか、店舗とECを併用している顧客は少ないなどのデータを活用し、サービス設計に反映しているという。
Web接客ツールとしては、クーポン配信システムの「ZenClerk」を使い商品ページでクーポンを発行し、買い物カゴではWeb接客の「Flipdesk」を使って定期購買や試着をおすすめする。決済はGMO後払いやAmazonログイン&ペイメントを利用しているという。
また、Web接客ツール「VePanel」「VePrompt」「VeContact」で離脱防止なども行っており、これらのツールを導入してみて、一定の効果を得ていると説明する川添氏は、リスクが少ないならまず導入してテストすることが重要だと話す。今後さらに、カゴ落ち率を改善する「カートリカバリー」、パーソナル・マーケティングの「アール・エイト」の導入も計画されている。
集客では、これまで少なかったスマホ比率を上げることに注力し、ECのスマホ対応、LINE公式アカウントからのリンク、Web接客ツール導入などの施策でスマホからの流入比率を上げている。また、顧客動向ごとに4つのLINE公式アカウントを設けて積極的に活用している。
今後は、アイケアカンパニーとしてのオムニチャネルに取り組み、ECで売り上げを伸ばすことよりも、店舗の運用効率向上や接客の補完としてデジタルを使うことを考えていると川添氏は話す。
オムニチャネルの実現には、「評価と(効率化や収益増の)仕組みの両輪が必要だ」と続ける川添氏は、店舗スタッフが使いやすい仕組みを作り、ツールを使いこなすことで成果を上げることができると説明した。
Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「オムニチャネル実践事例――パルコ、アーバンリサーチ、メガネスーパーの戦略・施策・導入ツール」2016年9月27日開催 月例セミナー 第1部(2016/11/29)
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